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一、場の次第と云事
場のくらいを見わくる所、場において日をおふと云事有。日うしろになしてかまゆる也。若所により日をうしろにする事ならざる時は、右のわきへ日をなすやうにすべし。座敷にてもあかりをうしろ、右脇となす事同前也。夜るにても敵のみゆる所にては、火をうしろにおい、あかりを右脇する事同前と心得てかまゆべきもの也。
敵をみおろすといひて、少も高き所にかまゆるやうに心得べし。座敷にては上座を高き所とおもふべし。
扠戦になりて、敵を追廻す事、我左の方へ追まはす心、難所を敵のうしろにさせ、いづれにても難所へ追掛る事所肝要也。難所にて、敵に場を見せずといひて、敵に顔をふらせず、油断なくせりつむる心也。座敷にても敷居鴨居戸障子禄など、亦は脇にかまいの有所、いづれも場の徳を用て、場のかちを得ると云心専にして、能々吟味し鍛練有べきもの也。
「概要」火の巻は、勝負や合戦を火に見立て、火の巻といい、実戦のかけひきを説いています。まず、戦闘の位置取りについて具体的に著しています。敵と向かい合う時、原則として太陽を背にする。座敷きでも、明かりを背にすること。敵よりも高い位置で構えること。また、敵にはそのような好条件を与えるななどを教えています。
「応用解釈」ビジネスにおいての現実的な場所取りということは、例えば交渉時に役職やカ関係により誰がどこに座るかは成否につながる重要な問題です。商談の席、会議場での席、酒宴の席、また結婚式の席順で悩んだ経験はどなたにもおありと思います。これは、今年の要注意事項と考えましょう。さらに、ビジネスでは現実的な場所ではなく、むしろ立場と考えるほうが応用しやすいでしょう。商談相手を敵と見なすことはご容赦願いますが、交渉時は常に有利な状態を保つことがいかに大事かを知りましょう。それは行動だけでなく論理の上でも、こちらが油断することなく相手の油断に切り込めれば、事は有利に運ぶものです。常日頃から心掛けておきましょう。 |
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兵法、他流の道を知事、他の兵法の流々を書付、風の巻として、此巻に顕す所也。
他流の道をしらずしては、我一流の道たしかにわきまへがたし。他の兵法を尋見るに、大きなる太刀をとって、つよき事を専にして其わざをなすながれあり。域は小太刀といひて、短き太刀を以て道を勤るながれもあり。域は太刀かず多くたくみ、太刀の溝をもつておもてといひ、奥として道をつたゆる流もあり。
是皆実の道にあらざる事、此巻の奥に、たしかに書顕し、善悪理非をしらさる也。我一流の道理各別の義也。他の流々、芸にわたつて身すぎの為にして、色をかざり、花をさかせ、うり物にこしらへたるによつて、実の道にあらざる事歟。亦世の中の兵法、剣術ばかりにちいさく見たてて、太刀を振習、身をきかせて、手のかかる所を以て、かつ事をわきまへたるものか。いづれもたしかなる道にあらず。他流の不足成所、一々此書に書顕す也。能々吟味して二刀一流の利をわきまゆべきもの也。
「概要」風の巻は、他流を批判することで武蔵の二天一流の考えを一層明確にしています。他流の批判とは、実質をもたず形骸化された流派への批判です。徳川幕府の安泰安寧の世を迎え、確かに各流が実戦から遠のいていたのでした。実戦型で兵法の真の道を求めるニ天一流からすれば、華やかな技巧で飾りたて兵法の道からはずれた流派は言語道断というわけです。
「応用解釈」武蔵の二天一流には、結果オーライはありません。偶然の勝利はなく、勝利は常に必然です。ビジネスは生き物ですから現実問題として偶然の勝利はあるでしょう。しかし、偶然の勝利を狙っていくのはもちろん邪道です。必然の勝利のために、わたしたちは実質を重んじ、実力を身につけることに奮励努力しましょう。他への批判がただの批判で終わらないために。他を批判するには批判する自分に真のカが必要です。ひとのふり見て、わがふり直す。ビジネスで勝利を掴むには、他社の失敗から学んで自社のカにしてしまうガッツもまた必要です。
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二刀一流の兵法の道、空の巻として書顕す事。空と云心は、物毎のな所、しれざる事を空と見たつる也。
勿論空はなきなり。ある所をしりてなき所をしる。是則空也。
世の中において、あしく見れば、物をわきまへざる所を空と見る所、実の空にはあらず。皆まよふ心なり。此兵法の道においても、武士として道をおこなふに、士の法をしらざる所、空にはあらずして、色々まよひありて、せんかたなき所を空と云なれども、是実の空にはあらざる也。
武士は兵法の道をたしかに覚へ、其外武芸を能つとめ、武士のおこなふ道、少もくらからず、心のまよふ所なく、朝々時々におこたらず、心意二つの心をみがき、観見ニッの眼をとぎ、少もくもりなく、まよひの雲の晴たる所こそ、実の空としるべき也。
実の道をしらざる間は、仏法によらず、世法によらず、おのれはたしかなる道とおもひ、よき事とおもヘども、心の直通よりして、世の大かねにあわせて見る時は、其身の心のひいき、其目其目のひずみによって、実の道にはそむく物也。其心をしつて、直なる所を本とし、実の心を道として、兵法を広くおこなひ、ただしく明らかに、大きなる所をおもひとつて、空を道とし、道を空と見る所也。
「概要」空の巻は、徹底した合理と実利の追求から武蔵が到達した、心の空という境地を説き著しています。空とは、物事がない状態をいいます。ある状態を熟知することで、ない状態を知る。その、ない状態の部分が空なのです。兵法の道においても、武士でありながら武士の道をわきまえぬ者が多いが、それは単なる迷いであって空ではない。武士として兵法の道を会得し、武芸を身につけ、教養を積み、智恵と気力をみがき、判断力と注意力を養い、迷いをぬぐい去った状態を空といいます。
「応用解釈」空の巻は、五輪書の統括であり、ビジネスにおいても勝利の哲学の究極となります。ビジネスの基本から応用、そのノウハウを徹底して追求して辿り着く境地です。考えられること、目の前にあること、つまりあるという状態のすべてを熟知したあげくに知る境地、心の状態こそが到達すべきところなのです。人間としての最大限の修練を積んでこそ、人智を越えた空の境地に至るように、ビジネスマンとして最大の努力を尽くしてこそ、想像を越える成功を実現するものであると心に刻み、精進を重ねましょう。空という心には悪はなく、善のみが存在するといいますが、それは、空に至れば失敗はなく、あるのは成功のみといえるのです。新しい年が磐石の成功の年となりますよう、ご祈念申し上げます。
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