高野 耕一

コピーライター
クリエイティブ・ディレクター
株式会社アドベンチャーズ
代表取締役会長

1942年、東京生まれ
国学院大学卒業
空手道和道会四段

国際カレンダー展グランプリ
ニューヨークADC賞入賞
全国雑誌広告大賞金賞
日経広告賞
京都新聞広告賞金賞
ACC賞
その他

(商品開発)
逆回転腕時計「サザンクロス」

(出版)
「15秒の達人」「風の教室」

現在エッセイを連載中。





遠藤周作先生が著された「古今百馬鹿」に登場するのは、奇人であったり変人であったりするのだが、けして馬鹿ではない。世の中、馬鹿とアホの絡み合いと言いますが、馬鹿にも、「いい馬鹿と悪い馬鹿」がある。ヘミングウェイは、パリ時代に著したいくつもの小説で、あきらかにモデルと想定できる友人を登場させ、彼らの反感を買いパリに居られなくなってキーウエストに移住したとも言われている。僕も東京に居られなくなるのを覚悟すれば、友人の中に多くの奇人変人を見い出し、紹介をはばからない。まあ、馬鹿は書きません。悪い馬鹿は、ね。歓迎すべき「いい馬鹿」は登場します。悪い馬鹿は、自分が馬鹿だという意識がないから人間がつまらない。いい馬鹿は、鋭く世の中を皮肉くるユーモアがあり僕らを愉快にさせる。だから、いい馬鹿は、実は馬鹿じゃない。例えば、こんなのがいる。友人に空手の有段者がいる。Tと言う名だ。Tは試合前になってもいっこうに練習をする様子もない。心配した後輩が「先輩、練習しなくていいんですか?」と尋ねると「馬鹿、熊が練習するか!!」と怒鳴る。なるほど、後輩は首をかしげながら納得。試合当日、Tは一回戦でボロ負けを喫し、かの後輩に言った。「あっちの熊は練習しやがったな!!」。テニス仲間に調子のいいのがいる。痛快な男だ。名をFと言う。ある時、試合に行くために仲間4人とタクシーに乗る。目的地に到着。「料金はいくら?」Fが言い「みんな割りかんね。
え?1500円?じゃ1人300円ね!!」と言う。おう、とばかりに僕らが300円づつ払おうとする。と、タクシーの運転手がおずおずと言う。「旦那、割りかんの中に私も入ってませんか?」。世田谷の日体大の近くに寺があります。この住職のN和尚がテニス仲間。ある年、仲間たちでクリスマス・パーティーをやろうということになり、会場をどこにする?となった。「和尚んとこの本堂の裏のクラブハウス、あれ借りられないか?」誰かが言う。N和尚、面白い男でスノーモービルのチームの監督なんかしたりしてるものだから、本堂の裏にクラブハウスとガレージを持っている。「お、いいよいいよ」と和尚、実に気のいい男。仮装パーティとなり、男たちはバニーガールの格好をしたり、赤いハイヒールでマリリン・モンローなんかになり、やれ赤ワインだシャンパンだ、と奥さん連中もハメをはずして大騒ぎ。乾杯乾杯とくり返すうちにふと思う。なんで真言宗の寺でキリスト誕生の乾杯を僕らはしているのだ。仏様は仰天していた。奇人変人が僕の人生を豊かにしてくれる。

高野 耕一
takano@adventures.co.jp