渋谷で個展をやった。漢字の個展だが、ただ漢字を並べたってポンと辞書を置くようなもので、面白くも何ともない。そこで、こんな漢字を創って並べた。

 

 これ、何と読みます?「女へん」にすれば読めますね。私、コピーライターですから、常々漢字の完成度の高さには、ただただ感服していました。見れば見るほど、書けば書くほど、その意味の深さ、形にマイッタナの一言であります。つけ入るスキがない。そう思っておりましたが、ある時ふとつけ入る瞬間が、ひらめきました。
 女と男じゃ、女がえらい。えらいという言い方が正しいかどうかは別として、もともと人間はすべて女であり、そこから染色体がどうのこうのして男になるそうで、こりゃ生物学上かなわんなとも思うし、女性には子孫を産む能力がある。
 これはもう男はお手上げです。だから一生懸命働いたり、場合によっては戦場なんかにも出かけて、なんとかつじつま合わせをしとります。なのに近年、やれセクハラだ、やれ差別だと、女性たちの男への攻撃が強まっている。

 そこで漢字辞書をひっぱり出し、漢字での世界での女と男の力学を調べた。驚きました。ア然としました。部首の中に「男へん」がないのです。つまり「男変」の漢字は一つもない。そういうことです。「女へん」は200字くらいあります。ひとつくらいないのか。「嬲」という漢字があるじゃないか、と思ったのですが「嫐」は載っていました。とすると「嬲」はどうしたんだ。個展で楽しいイラストを描いてくれた佐川能智くんが「日本で創られた国字というものがあるらしいですよ」とひそかに教えてくれた。よし、わかった。こうなりゃこっちにも意地がある。「女へん」を全部「男へん」に変えて漢字を創ってやろう。象形文字ならぬ「たかの式性形文字」だ。これで男の復権をかけようなどと大仰なことではなく、まあ溜飲を下げるか程度でやりました。

 個展では読み方と意味をいっしょに添えていました。みなさん、それぞれどう思うかな?ということを楽しみに。面白い。そう言う者もいれば、くだらないわ、とワインをがぶがぶ飲む者もいた。これTシャツにしようよ、と悪ノリする者、オレ沖縄のゲイバーに持っていく、とはしゃぐ者。みなさんにそこそこ楽しんでもらいました。ま、女が強かろうが、男が弱かろうと、楽しければいいか。

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 *「たかの式性形文字」の詳細が載っています

高野 耕一
takano@adventures.co.jp