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■連載コラムNo.117 ■2024年8月16日 金曜日 10時8分38秒

ダイヤモンドの最も顕著な特性はその硬度です

ダイヤモンドは、その美しさ、希少性、そして象徴的な意味合いから、古代から現代まで多くの人々を魅了してきました。ダイヤモンドの魅力を理解するためには、その物理的特性、歴史的背景、文化的象徴、そして現代の技術的進歩に目を向ける必要があります。
ダイヤモンドの最も顕著な特性はその硬度です。モース硬度計で最高の10を示し、自然界で最も硬い物質として知られています。 この硬度は、宝石としての耐久性を保証し、 日常的な使用でも傷つきにくいという利点があります。また、ダイヤモンドは高い屈折率 と分散性を持ち、光を美しく反射して煌めきを放ちます。これが「ファイア」と呼ばれる虹色の輝きを生み出し、ダイヤモンドが他の宝石にはない独特の美しさを持つ理由です。

 ダイヤモンドは古代インドで初めて発見され、その後、世界各地で採掘されるようになりました。古代インドでは、ダイヤモンドは神聖な力を持つと信じられ、護符や宗教儀式に使用されました。中世ヨーロッパ においても、ダイヤモンドは王侯貴族の権力と富の象徴として珍重されました。特に、ローマ教皇クレメンス7世が贈ったダイヤモンドの指輪は、婚約指輪の伝統を 広めるきっかけとなりました。

 ダイヤモンドは長い間、永遠の愛や純潔、富と権力の象徴とされてきました。20 世紀に入るとデビアスの「A Diamond is Forever」キャンペーンにより、ダイヤモ ンドは婚約指輪の象徴として広まりました。このキャンペーンは、ダイヤモンドが永遠に変わらない愛を象徴するという強力なメッセージを世界中に広め、ダイヤモンドの魅力を一層高めました。

 現代の技術進歩により、ダイヤモンドの魅力はさらに多様化しています。ラボグロウンダイヤモンドは、天然ダイヤモンドと同じ化学的・物理的特性を持ち、環境に優しく、かつ比較的手頃な価格で提供されるようになりました。また、ダイヤモンドのカット技術も進化し、多様な形状やデザインが可能となり、個々の好みやスタイルに合わせた選択ができます。

 近年、エシカルな消費が注目される中で、 ダイヤモンド業界も持続可能性に配慮した 取り組みを進めています。キンバリープロセ スは、紛争ダイヤモンドの取引を防ぐための 国際的な取り組みとして知られていますが、 これに加えて、ラボグロウンダイヤモンドや リサイクルダイヤモンドの普及も進んでいま す。これにより、消費者は環境や社会に配慮 した選択をすることができるようになり、ダイヤモンドの新たな魅力が生まれています。

 ダイヤモンドの魅力は、その物理的な美しさと耐久性、歴史的な価値、文化的な象徴、そして現代の技術とエシカルな選択肢により、多層的に形成されています。これらの要素が組み合わさることで、ダイヤモンドはただの宝石以上の存在となり、人々の心に深く訴えかける魅力を持っています。 ダイヤモンドを選ぶ際には、その背後にある歴史や文化、技術的進歩を理解し、自分自身の価値観やスタイルに合った一品を見つけることが大切です。

 さて、今回は何か変だと思われた方もいらっしゃるでしょうか。上記は全て「ダイヤモ ンドの魅力を1000文字以内で説明して」と AIに頼んで書いてもらったものです。現在の AIの精度は目を見張るものがあります。上記の文章も一切の破綻がなく、人間的な情緒のある文章であり、もしかしたら一部のジュエリー販売員よりも詳しく適切にダイヤモンドの魅力を伝えられているかもしれません。

 ジュエリーやダイヤモンドは情緒的価値商品と言われ、その接客や販売は高度な接客スキルが必要だと言われています。しかし、 このようにAIが人間味溢れる言葉を紡ぎ、適切に商品の魅力を伝えられる場合、ジュエ リー販売はどう変わっていくでしょうか。
 現在、多くの業界でAIによる接客、デジタル上での体験が増えつつあります。様々な分野でデジタル体験をした消費者は徐々にその体験に慣れつつあります。店頭に限らず、Webサイト上での体験など、人々の購買体験はより洗練されたデジタ ル体験へと変化してきています。新車の購入にコンフィギュレーターを使用するのも、もはや一般的です。

 ジュエリーの販売も変化を避けては通れません。商品を店頭に並べて接客していれば良い時代は過ぎ去ろうとしています。デジタルの利点とアナログの利点を融合させ、 現在の、そして今後の消費者により良い体 験と差別化を提供する必要があります。

 AIが人間のジュエリー販売に取って代わる、という話ではありません。AIを含めた技術が今後より発展する時代において、販売を補い洗練させる手段として、その活用を積極的に検討することが今後のジュエリー業界の視点にとって重要になってくると思います。

ご意見ご相談は、私のメールアドレス (takuyaito@126.com)宛に直接頂けますと幸いです。

■連載コラムNo.115 ■2024年5月31日 金曜日 11時17分11秒

注目のイマーシブ体験から考える

 私の上海の友人がイマーシブ体験施設を経営しており、私も何度か体験させてもらいました。日本では今年3月に東京のヴィーナスフォート跡地にイマーシブ・フォート東京が開業するなど、イマーシブ体験への関心が高まりつつありますが、中国の都市部では以前からイマーシブ体験は人気のあるエンターテインメントです。

 イマーシブとは「没入」のことです。私の友人の施設は「リアルストーリー・ゲーム」 と称しており、様々なテーマ、物語の中に入り自分自身が登場人物となってストーリーを進めていきます。精緻に作られたセット、魅力的で演技力に優れたNPC(施 設側の演者)、緻密な演出によってリアル 感のある非日常の世界に没入できるエンターテインメントです。傍観型のイマーシブエンターテインメントとは異なり、自分の行動や選択によって展開が変化するため、自分自身がその世界の一部となれるのが人気の理由です。

 コンテンツは誰もが知っている映画やゲームをテーマにしたものや、中世ヨーロッパのRPGのようなもの、廃病院が舞台のものなどバラエティに富んでおり、さまざまな舞台に入って非日常の時間を楽しむことができます。チーム対抗型や協力型のコンテンツもあるので、企業のチームビルディングとして活用されるケースも少なくないとのことです。

先日、日系商業施設ディベロッパーの方をその施設に案内し、実際に体験して頂きました。「以前から興味があったけど体験する機会がなく」とのことでしたが、実際に体験していただいた後はクオリティの高さと没入感に衝撃を受け「こんなにクオリティが高いとは思わなかった、人々がハマる理由がよくわかる。日本で展開しても大評判になるだろう。」と仰っていました。  日本でも中国でもそうですが、多くの商業施設にとって物販が厳しくなってきてい るのは大きな課題となっています。中国では淘宝(タオバオ)をはじめとしたネットショッピングが発達しており、淘宝で買えないものはないというほどの状況です。 フードデリバリーも発達しており、何時でもどこでも好きな店の料理を配達してもら うことが可能です。夜中に北京ダックを配達してもらうことも可能です。

 日本においてもAmazonや楽天、Uber Eatsなどの普及によってショッピングモールで買い物をするよりネットで済ませる人が増えてきており、この傾向はコロナによって一気に加速しました。日本の商業施設では以前は人気のあるショップを揃えることが人を集める方法でしたが、現在では体験型のテナントの誘致を大きく重視しています。モノ売りではなくコト売りというのは以前から言われていましたが、この 「コト」の比重が以前に増して大きくなっており、さらにクオリティも求められているという状況です。そのため日本でも多くの商業施設では体験型の施設、エンターテインメントやスポーツなどの誘致に力を入れています。  ジュエリーの販売というのは基本的にはモノ売りです。お客様がお店に訪れ、 ジュエリーを買っていかれるという極めてシンプルな物販ですが、一方でお客様がジュエリーショップに訪れるのは「非日常」です。コンビニで飲料を買ったりユニクロで下着を買ったりするのと、ジュエリーショップに訪れてジュエリーを購入するのは全く異なる「体験」です。そのため、多くのお客様はジュエリーショップに非日常的な体験を求めています。お客様はジュエリーショップに足を運び、ジュエリーを購入するという体験自体を楽しみながら、または緊張感という非日常を感じながら、そのプロセスと体験を含めて総合的な価値を感じて商品を購入されます。

 しかし、ジュエリーショップではお客様に特別な体験を提供するための工夫や配慮、接客ができているでしょうか?ジュエリーショップが品揃えや価格にばかり気を取られ購買体験に配慮ができていなければ、つまり消費者がジュエリーショップに求めているものとジュエリーショップが提供しているものに乖離があれば、消費者は徐々に品揃えがより豊富で価格比較も容易で便利なECへ移行していく可能性があります。ジュエリーの販売はエンターテインメントだというと言い過ぎかもしれませんが、少なくともお客様に特別な体験を提供する場所である必要があります。

 品揃えや適正な価格の商品を提供することは大切かもしれませんが、ジュエリーはお客様の情緒的な価値観と満足感を満たすものです。商品の明確で分かりやすい説明と共に、商品のバックグラウンドやストーリーを情緒的にお客様にプレゼンテーションすることが今後、より一層求められてきます。お客様への購買体験の提供は空間であったり接客だったり、またデジタルを含めたプレゼンテーションのためのツールなどいろいろな方法があります。商業施設ですらお客様への体験の提供を重視している今、元々非日常を提供すべ きジュエリーの販売は、よりお客様の購買体験を重視し、記憶に残る体験になるよう、より工夫する必要があるでしょう。ご意見ご相談は、私のメールアドレス (takuyaito@126.com)宛に直接頂けると幸いです。
■日本企業の撤退から学ぶべきこと ■2024年4月30日 火曜日 13時58分38秒

天然ダイヤモンドには資産価値があると言われます。最近ではラボグロウンダイヤモンドの登場によって、ラボグロウンに勝る天然ダイヤモンドのメリットとして特にこの資産価値がクローズアップされる傾向にあります。  

事実、天然資源で流通量に限界があり、経年劣化がなく、急激な価格の変動がない天然ダイヤモンドは優れたハードアセットの一つです。しかし、すべてのダイヤモンドが資産価値として優れているわけではありません。一方で、天然ダイヤモンドにはすべて資産性があるかのようなイメージが先行してしまっているのは非常に危険な状況と言えます。

「資産性」の定義とは、収益、また価値を保持できることが高い確率で期待できるものです。天然ダイヤモンドの場合、希少性の非常に高い1点で1000万円を超えるようなダイヤモンド、天然アーガイルピンクなど特別なもの、又は海外のダイヤモンド業者から卸価格で直接購入したダイヤモンドなどで、尚且つそれらが流動性の高いサイズとグレードである場合に限られます。  

一般的に、店頭で販売されているダイヤモンドの再販価格は購入金額の3割前後になります。「資産」として有価証券を勧められて購入して、売却時に3割になったら普通の人は激怒すると思いますが、それと同じようなものを平気で「資産価値です」と言いながら販売できるのがダイヤモンドの謎です。確かに1ctを超えるグレードの良いダイヤモンドは売却すれば数十万円になるので「資産」だと主張する人もいますが、それでも売却損のレベルから考えると「資産性」を謳って販売する商品ではありません

一方、金(ゴールド)もハードアッセットして人 気があります。ダイヤモンドと金はその性質において資産性が全く異なります。金には価値が一 定というメリットがあります。つまり、量に対する 価値が決まっているということです。これは例えば毎月5gずつ金を購入して一年で60gの金が 貯まったとしたら、当たり前ですがそれは60g相 当の金の価値になるということです。一方で、 0.5ctのダイヤモンドを毎月購入して12ピースで合計6ctsのダイヤモンドになったとしても、それは1ピース6ctsのダイヤモンドの価値にはなりま せん。逆に1ピース6ctsのダイヤモンドの3cts 分だけを現金化するということも不可能です。また、金は相場が決まっているので多少の誤差はあってもどこでもほぼ決まった価格で現金化できるのに対して、ダイヤモンドは買取価格に大きな差があることも資産としては扱いづらいものになります。  

「ダイヤモンドには資産性がある」と説明し販売しておきながら、購入した消費者が数日後、 数ヶ月後、数年後にそのお店に訪れて買取をお願いしても「うちでは買い取れないので、どこか買取屋に自分で持って行ってください」と答えるしかないのも無責任で矛盾しています。

中国では純金ジュエリーの人気が高いですが、 店頭商品は重量と相場で販売されており、同じ店で(または別の店でも)いつでも相場で買い取ってもらうことができます。販売価格と買取価格には 25%ほどのスプレッドが設定されていますが、相場が上昇すれば購入額を上回る買取も可能です。この相場とスプレッドは基本どのブランドでもほぼ同じに設定されているため、金の資産としての信頼性をより高めています。そのため純金ジュエリーは資産価値として認知されていますが、ダイヤモンドま たは他の宝石は一般的にはそうではありません。  

ダイヤモンドには資産価値がありますが、それは非常に限定的であり、宝飾店で販売されるダイヤモンドに関しては当てはまりません。一部の希少なダイヤモンドには資産価値があるが、一般的に販売されている多くのダイヤモンドに関しては購入金額の半額以下の幾らかの金額で換金でき、ダイヤモンドは劣化しないのでその価値がゼロになることはない。というのが妥当な説明だと思います

もう一つ謎なことは、ダイヤモンドの換金性を謳う以上日本には大きな買取市場、つまり二次流通市場があるにも関わらず、「中古ダイヤモンド」「リサイクルダイヤモンド」を謳って販売する店は相対的に非常に少ないという事です。海外に輸出される二次流通ダイヤモンドも多くありますが、相当数は日本国内で流通していると推測され、その一方で国内でそれらが中古ダイヤモンドとして販売されている事をほとんど確認できないのです。  

また、小売店が仕入れているダイヤモンドの価格がインドなどの生産地から直接輸入する相場よりも低い場合が珍しくないことを考慮すると、それらのダイヤモンドがどこに辿り着いているのかを推測できます。前述の通りダイヤモンドは劣化しないので、中古ダイヤモンドでも新品のダイヤモンドでも品質の差はなく、新たに鑑定をとってしまえばそれは新品のダイヤモンドと区別がつかないばかりか、流通の過程で完全に判別不明になる可能性があります。

海外に比べ、国内の鑑定機関に持ち込まれるダイヤモンドはしつこい汚れがついているものが非常に多いためクリーニングに非常に手間と時間がかかるという鑑定機関からの話からもこの推測が裏付けられます。  

店頭では恐らくそうだと認識せずに、そのようなダイヤモンドを、場合によっては婚約記念品として販売している可能性があります。多くの人はダイヤモンドの換金性について認識しながら、その出口がどこかを想像していないようです。片方では 「当店では婚約指輪に相応しい、紛争や人権侵害に関与しないものを提供します!」と言いながら、 その一方でそれが「どこかの誰かが不倫して離婚した末に二束三文で売却したダイヤモンドが流れ 着いたもの」かもしれない可能性には一切言及しないのはなぜでしょうか。紛争ダイヤモンドは社会問題になっているけど、中古ダイヤモンドはまだ社会問題になっていないからでしょうか?  

ジュエリーは元々一般消費者にとって特に品質や価格がわかりづらい商品です。ダイヤモンドなどの宝石は特にそうです。そうであればこそ、販売側は販売する商品が何であるかを正確に把握し、正確な事実に基づく説明をすることが今、強く求められているのです。ジュエリーに限らず透明性がかつてなく強く求められている世の中で、本当に正しい販売がジュエリー業界の発展に繋がるはずです。少なくとも、今売れているからそれでいいという考え方では業界を発展させることはできません。
■2024年4月30日 火曜日 13時57分53秒

日本企業の撤退から学ぶべきこと

天然ダイヤモンドには資産価値があると言われます。最近ではラボグロウンダイヤモンドの登場によって、ラボグロウンに勝る天然ダイヤモンドのメリットとして特にこの資産価値がクローズアップされる傾向にあります。  

事実、天然資源で流通量に限界があり、経年劣化がなく、急激な価格の変動がない天然ダイヤモンドは優れたハードアセットの一つです。しかし、すべてのダイヤモンドが資産価値として優れているわけではありません。一方で、天然ダイヤモンドにはすべて資産性があるかのようなイメージが先行してしまっているのは非常に危険な状況と言えます。

「資産性」の定義とは、収益、また価値を保持できることが高い確率で期待できるものです。天然ダイヤモンドの場合、希少性の非常に高い1点で1000万円を超えるようなダイヤモンド、天然アーガイルピンクなど特別なもの、又は海外のダイヤモンド業者から卸価格で直接購入したダイヤモンドなどで、尚且つそれらが流動性の高いサイズとグレードである場合に限られます。  

一般的に、店頭で販売されているダイヤモンドの再販価格は購入金額の3割前後になります。「資産」として有価証券を勧められて購入して、売却時に3割になったら普通の人は激怒すると思いますが、それと同じようなものを平気で「資産価値です」と言いながら販売できるのがダイヤモンドの謎です。確かに1ctを超えるグレードの良いダイヤモンドは売却すれば数十万円になるので「資産」だと主張する人もいますが、それでも売却損のレベルから考えると「資産性」を謳って販売する商品ではありません

一方、金(ゴールド)もハードアッセットして人 気があります。ダイヤモンドと金はその性質において資産性が全く異なります。金には価値が一 定というメリットがあります。つまり、量に対する 価値が決まっているということです。これは例えば毎月5gずつ金を購入して一年で60gの金が 貯まったとしたら、当たり前ですがそれは60g相 当の金の価値になるということです。一方で、 0.5ctのダイヤモンドを毎月購入して12ピースで合計6ctsのダイヤモンドになったとしても、それは1ピース6ctsのダイヤモンドの価値にはなりま せん。逆に1ピース6ctsのダイヤモンドの3cts 分だけを現金化するということも不可能です。また、金は相場が決まっているので多少の誤差はあってもどこでもほぼ決まった価格で現金化できるのに対して、ダイヤモンドは買取価格に大きな差があることも資産としては扱いづらいものになります。  

「ダイヤモンドには資産性がある」と説明し販売しておきながら、購入した消費者が数日後、 数ヶ月後、数年後にそのお店に訪れて買取をお願いしても「うちでは買い取れないので、どこか買取屋に自分で持って行ってください」と答えるしかないのも無責任で矛盾しています。

中国では純金ジュエリーの人気が高いですが、 店頭商品は重量と相場で販売されており、同じ店で(または別の店でも)いつでも相場で買い取ってもらうことができます。販売価格と買取価格には 25%ほどのスプレッドが設定されていますが、相場が上昇すれば購入額を上回る買取も可能です。この相場とスプレッドは基本どのブランドでもほぼ同じに設定されているため、金の資産としての信頼性をより高めています。そのため純金ジュエリーは資産価値として認知されていますが、ダイヤモンドま たは他の宝石は一般的にはそうではありません。  

ダイヤモンドには資産価値がありますが、それは非常に限定的であり、宝飾店で販売されるダイヤモンドに関しては当てはまりません。一部の希少なダイヤモンドには資産価値があるが、一般的に販売されている多くのダイヤモンドに関しては購入金額の半額以下の幾らかの金額で換金でき、ダイヤモンドは劣化しないのでその価値がゼロになることはない。というのが妥当な説明だと思います

もう一つ謎なことは、ダイヤモンドの換金性を謳う以上日本には大きな買取市場、つまり二次流通市場があるにも関わらず、「中古ダイヤモンド」「リサイクルダイヤモンド」を謳って販売する店は相対的に非常に少ないという事です。海外に輸出される二次流通ダイヤモンドも多くありますが、相当数は日本国内で流通していると推測され、その一方で国内でそれらが中古ダイヤモンドとして販売されている事をほとんど確認できないのです。  

また、小売店が仕入れているダイヤモンドの価格がインドなどの生産地から直接輸入する相場よりも低い場合が珍しくないことを考慮すると、それらのダイヤモンドがどこに辿り着いているのかを推測できます。前述の通りダイヤモンドは劣化しないので、中古ダイヤモンドでも新品のダイヤモンドでも品質の差はなく、新たに鑑定をとってしまえばそれは新品のダイヤモンドと区別がつかないばかりか、流通の過程で完全に判別不明になる可能性があります。

海外に比べ、国内の鑑定機関に持ち込まれるダイヤモンドはしつこい汚れがついているものが非常に多いためクリーニングに非常に手間と時間がかかるという鑑定機関からの話からもこの推測が裏付けられます。  

店頭では恐らくそうだと認識せずに、そのようなダイヤモンドを、場合によっては婚約記念品として販売している可能性があります。多くの人はダイヤモンドの換金性について認識しながら、その出口がどこかを想像していないようです。片方では 「当店では婚約指輪に相応しい、紛争や人権侵害に関与しないものを提供します!」と言いながら、 その一方でそれが「どこかの誰かが不倫して離婚した末に二束三文で売却したダイヤモンドが流れ 着いたもの」かもしれない可能性には一切言及しないのはなぜでしょうか。紛争ダイヤモンドは社会問題になっているけど、中古ダイヤモンドはまだ社会問題になっていないからでしょうか?  

ジュエリーは元々一般消費者にとって特に品質や価格がわかりづらい商品です。ダイヤモンドなどの宝石は特にそうです。そうであればこそ、販売側は販売する商品が何であるかを正確に把握し、正確な事実に基づく説明をすることが今、強く求められているのです。ジュエリーに限らず透明性がかつてなく強く求められている世の中で、本当に正しい販売がジュエリー業界の発展に繋がるはずです。少なくとも、今売れているからそれでいいという考え方では業界を発展させることはできません。
■連載コラムNo.112 ■2024年2月29日 木曜日 10時38分39秒

消費者の有益なビジネスを考慮すべき

 ラボグロウンダイヤモンドに関して、先月興味深いニュースが報じられました。フランス政府が「ラボグロウン」、「ラボラトリーグロウン」またはそれに類する用語の使用を禁止し、「合成ダイヤモンド」のみを唯一のフランス国内での呼称にしたとのことです。

 実はこの法令は元々20年以上前の2002年に発令されたもので、この法令では「物理的、化学的性質、結晶構造が本質的に同一な天然石のものに対応する」石に対して使える修飾子として「合成」のみを挙げています。この当時少なくとも市場にはラボグロウンダイヤモンドは存在していませんでした。2022年にはラボグロウンダイヤモンドの販売企業が当局にこの修正を求めましたが、2023年10月、当局はルールを維持することを決定しています。

 アメリカとフランスではこの問題に対する姿勢が対照的です。「合成ダイヤモンド」 という名称が、キュービックジルコニアなど本質的にダイヤモンドではない類似石と混合するなど消費者の誤解を招くとして、2018年に米国連邦取引委員会はラボグロウンダイヤモンドに使用する推奨用 語のリストから「合成」を削除しています。

 興味深いのは、世界中のほとんどのラボグロウンダイヤモンドを扱う企業は 「ラボグロウンダイヤモンド」の名称を使用しているということです。Vraiなどのアメリカの企業はもとより、デビアスの運営するLIGHTBOX、また渦中のフランスのブランドであるフレッド、プラダでさえもラボグロウンダイヤモンドの名称を使用しています(プラダはWebサイトで、フレッドはInstagramでそれぞれ、“diamants cultivésen laboratoire“ theblue la b-grown diamond”の表記を確認できます)。

 加えて、アメリカを拠点とするGIAや GCAL、フランスの隣国ベルギーを拠点とするIGI、HRDなど多くの鑑定機関では鑑定書への記載を「Laboratory Grown Diamond」としています。

 この名称に関するスタンスは、その名称を使用する人々、企業がその商品をどのポジションに捉えているかということを明らかに表しています。「合成」という修飾子はしばしば偽物のようなネガティブなイメージを持ちます。「合成皮革」や 「合成繊維」などのように、「天然と異なる『似せた別の』物質」に使用されることも一般的で、実際キュービックジルコニアやモアサナイト、場合によってはクリスタルなどを「合成ダイヤモンド」と表記して販売するケースも、以前よりは少なくなりましたが、今でもネットなどで確認することができます。また「合成写真」のように、異なるものを組み合わせたフェイクというイメージもあるでしょう。

 このような前提の中で、自身が販売するラボグロウンダイヤモンドに積極的に「合成」の名称を使用したいと考える人々、企業は非常に稀だと考えられます。また、それを購入した消費者自身も、それを合成ダイヤモンドと呼ぶことは望まないでしょう。 それ故、天然ダイヤモンド鉱山企業のデビアスですら、自社のブランドでは「ラボグロウン」の名称を使用しているのです。

 つまり、ラボグロウンダイヤモンドに対して積極的に「合成」の名称を使用させようとする圧力は、基本的にラボグロウンダイヤモンドを否定したい業界内の人々によるものでしょう。タクシー業界団体がライドシェアを執拗に「白タク」と呼ぶ動機に似ています。今回フランス当局は、業界団体を含む40人ほどにアンケートを取ったと発表していますが、恐らくその中にはほとんどラボグロウンダイヤモンド取扱企業は含まれていなかったでしょう。

 しかし、他方のイメージ操作をしたからといって別の商品の価値が自動的に上がるわけではありません。ライドシェアを白タクと呼んでもタクシーの価値が上がるわけではないのです。

それが明らかに間違った名称であったり、別の物質を示す名称であったりするのではない限り、どの名称を使用するかは市場が決定することです。例えば業界内では 10金を使用したものや、また鳥の羽などを使用した製品に「ジュエリー」の名称が使用できるのかという議論があることを知っていますが、この議論はナンセンスです。最も重要なことは、消費者に対して正しい情報を開示すること、啓蒙することです。用語の厳密な定義を業界内で話し合うことが市場の発展と因果関係があるとは思えません。その商品が何で作られているのか、その素材は何であるのかを消費者が正しく理解することの方がはるかに業界と消費者にとって有益です。その上で、それぞれの商品の魅力を引き出し、消費者にとって有益なビジネスを発展させるのが本来やるべ きことだと思いますが、いかがでしょうか。  ご意見は、私のメールアドレス(takuya ito@126.com)宛に直接頂けますと幸いです。
■連載コラムNo.111 ■2024年2月1日 木曜日 15時55分31秒

知識のアップデートは必須

先月は東京ビッグサイトで国際宝飾展が開催されましたが、私も3年ぶりに出展し、沢山の方々とお話しさせていただきました。自社ブースでの対応に追われて会場を見て回る時間があまりありませんでしたが、今回は新規の出展社も多くいたようです。  

コロナ禍などによる中国市場の低迷を受け、一部のインドのダイヤモンド業社は新たな市場開拓として日本をターゲットとし、今回の国際宝飾展へ出展していたようです。また、インドや中国からのラボグロウンダイヤモンド業社の出展もコロナ前と比べても増えており、その多くは初出展だったようです。

 私も今回、天然ダイヤモンドのブースに加えてラボグロウンダイヤモンドのブースを出させていただきましたが、来場者の反応はコロナ前と比較して明らかに異なるものでした。コロナ前に出展した時は価格のチェックや批判など、興味本位で見に来られる方が多かったのに対し、今回は比較的真剣なビジネスとして捉えて来られている方が多かったように感じました。実際にラボグロウンダイヤモンドを取り扱いされている企業やブランドの方も多くおられ、前向きな話が多くできたことが印象的でした。

 一方で、ジュエリー業界の方々と一般消費者の認識の違いが大きく感じられた展示会でもありました。特に最終日の土曜日などは 一般の方の来場も(非公式ではありますが)多く見られ、ラボグロウンダイヤモンドを興味を持って見ていかれる方も多くいらっしゃい ました。その多くの方々はラボグロウンダイヤモンドが何かをよく理解しており、メリット、デメリットを理解した上でご購入していかれました。中には、ラウンドとエメラルドカットのエタニティリングをどちらにしようか迷って、この価格ならと両方買っていかれる方もおられ、「ラボグロウンダイヤモンドすごくいいです!」とご満悦の様子でした。その一方、ジュエリー業界の業者の方や小売店の方の中には、ラボグロウンダイヤモンドが何かを知らない、見たこともないという方が多くおられたようです。ショーケースを覗き込んでいる方に「こちらはラボグロウンダイヤモンドです」とお声掛けしたところ「ラボグロウン?なんですかそれ?」と返されたことも一度や二度ではありませんでした。正直少し衝撃的ではありましたが、一般消費者の認識や知識と業界の方々の乖離があるということは基本的にはあまり健全な状態ではないと思います.

 業界の中にはラボグロウンダイヤモンドに関して引き続き慎重な姿勢の方が多くいらっしゃいますが、ラボグロウンダイヤモンドは決して天然ダイヤモンドの安価な下位互換的な製品ではありません。(そう捉えている方は多いと思いますが)

 例えば今回私が展示会のために用意したのは1石のダイヤモンドをレーザーで削り出してアルファベットの形に加工したものです。AからZまで全てのアルファベットを揃えることができ、またブランドが展開しやすいように文字に関わらず(文字によって重量差がありますが)一律の価格を設定しています。これを天然ダイヤモンドでやろうと思えば技術的にはできなくはないですが、歩留まりが悪すぎて高価になりすぎる、安定的に生産できない、文字によってまた原石の品質によって価格を大きく変えざるを得ないなどの制約が発生し、実質的に商業展開することはほぼ不可能です。 CVDの場合同じサイズの正方形の原石から文字の形に切り出すためコストは一律にでき、また安定的な生産が可能です。

 またカラーダイヤモンドに関しても、天然では高価すぎて使用できないような色のダイヤモンドが、店頭で販売できるレベルの 価格で取り扱えるというところも魅力になっており、これも今回の展示会で多くの方の関心を集めたアイテムになりました。 店頭で天然ダイヤモンドと併売しても店内での競合が起こりづらい、また天然とラボグロウンを明確に見た目で区別できるというのも魅力のようです。(実際、フレッドなどはブルーのラボグロウンダイヤモンドのみを展開しています)カラーダイヤモンドに関してはラボグロウンでも色の起因に様々な種類があり、また生産者によって色味のクオリティに差があることから、信頼できる業者から仕入れる必要があるという点には注意が必要ですが、これも、ただ天然より安いダイヤモンドという以上の価値を消費者に提供する新たなアイテムになり得ます。

ラボグロウンダイヤモンドの価格に関して言えば、ここ3年で大きく低下しており1ctサイズのものに関して言えば小売価格でも20万円を切ることが現実的なレベルにまで達しました。これは、今までダイヤモンドジュエリーの購入に価格的な現実感を持てなかったため購入意欲がなかった一部の消費者の意欲を喚起しており、新しい購入層が開拓されるということが既に日本でも実際に起こっています。

 我々が販売しているのは最新のスマホでもタブレットでもなく、昔から変わらず貴金属と宝石を使用したジュエリーですが、その内容や市場は常に変化しています。これは天然ダイヤモンド、ラボグロウンダイヤモンド両方に言えることです。自分が何を扱うかということと、情報や知識をアップデートするということは別問題です。市場が変化している以上、業界にいる我々は常に知識をアップデートしていく必要があります。
 ご相談や質問は、私のメールアドレス (takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。

■連載コラムNo.110 ■2023年12月23日 土曜日 11時24分44秒

消費者目線で新たなダイヤモンド業界を

新年おめでとうございます。今年2024 年の干支は甲辰(きのえたつ)で、これには 「変革」「新しいことを始めて成長する」という意味合いがあるようです。2024年がジュエリー業界の皆さんにとって変革と挑戦の一年になりますよう願っております。  
2023年は私にとってはコロナ禍からの脱却を大きく実感した1年でした。日本でも報じられていた通り、2022年の上海はロックダウンとそれに続く厳しい行動規制があり、ほぼ2日に一回PCR検査を受ける必要があるという異常事態でした。しかし2023年頭には行動規制が全て撤廃、 水際対策も急激に緩和され国際間の渡航も非常に容易になりました。日本との行き来も容易になり、ビジネス的に可能性が広がった事を感じた1年でもありました。

2023年の春、日本に戻ったのは実に2年半ぶりでしたが、久しぶりの東京は改めて非常に洗練された都市だと感じました。上海はエネルギーを感じる大都市ですが、東京は成熟し洗練されていて整然とした大都市に見えます。これは景観だけでなく、企業やお店、そこに行き交う人々などが醸し出す全ての雰囲気においてです。外国の方が日本に初めて訪れて驚くのはこの「整備された」様子だと言いますが、その感覚を少し理解できた気持ちになりました。  

しかし、社会が成熟し洗練されると、徐々に寛容性と客観性を失っていく可能性があります。これも久しぶりに日本に帰って改めて気づいたことです。日本は他国に比べ早い段階で成熟し、そのため不足のない社会になりました。衛生的な水にいつでもアクセスできますし、正確な交通機関、偽物の心配のないお金を使い続けてきました。レストランでは安全で美味しい食事が非常に安く提供され、国内であればどこでもこの恩恵を受けることができます。まさに、足りた社会です。

しかし一度成熟し、その状態に慣れてしまうと今度は変化を極端に嫌うようになります。現在何も困っていないから、もしくは困っていると感じないからです。その結果、 何か新しい変化が起きようとすると拒絶反応を示したり、企業が商品やサービスを少しでも値上げしようとする際には「お詫び」の告知をしたりする事態になるというわけです。ライドシェアが導入されようとすると「100%の安全性を保証しろ」と言い、キャッシュレスが進むと「セキュリティに問題はないのか」「高齢者が困るじゃないか」とネガティブな、そして変化しない理由を必死に探すようになります。  

会社が成熟すると変化できない、意思決定できないという大企業病に似たようなもので、これは状態が安定していれば問題ありませんが、一度変化の中に入ると機能不全を起こしてしまいます。世の中が変化していく中でその企業が変化に乗り遅れたら、相対的に衰退していくことになります。 2023年、日本人のパスポート保有率は 17%まで低下しました。日本にいれば何も困らないと感じると思いますが、変化している他国に行くと物価の高さに驚き、日本とは違うインフラが浸透していることに驚くと思います。つまり、多くの人が困らないと感じているのは、知らないからです。こと上海に関していうと、発展途上の田舎だと思っている 日本人もいまだ結構多いのには驚きます。

ライドシェアの話題に戻ると「ライドシェアなんて導入されたらUberが儲かるだけで、外資にお金を持っていかれるだけだ」という意見が散見されます。確かにその通りかもしれませんが、何もライドシェアはUber の独占技術ではありません。事実中国では国産ライドシェアアプリの滴滴が市場シェアを獲っています。日本では「安心安全なタクシーがあって困らない」(と感じていた)ため、また規制されていたため国内の企業がアプリとサービスを開発してこなかっただけです。その間に海外のプラットフォーマーはアプリを開発し市場に投入し、問題に直面しながらも経験値を積みアップデートを重ねて大きな優位性を確保してきました。  

これはどの業界にも言えることです。既存のビジネスに満足し、変化を拒絶していると、ある日突然外資企業に市場を持っていかれる可能性があります。流通と情報技術の発達はビジネスのルールを大きく変化させました。数年前まではあまり考えられなかった、個人でのブランドの立ち上げ、小売企業の海外サプライヤーからの直接買付、これらは全て流通と技術の発達が実現させていることです。技術は世界を小さくし、可能性を広げると同時に、例えば私のようなダイヤモンド輸入卸業者に対しても大きな変革を迫っています。変化を受け入れ新しい価値を創造しないと難しい時代に突入しているのです。

今年から日本はロシア産ダイヤモンドの輸入禁止措置に踏み切りました。本原稿執筆時点では1ctアップのみが適用となるとの情報ですが、特にロシア産のダイヤモンドは1ct未満のポインターに適した原石が多いため、経済制裁という目的のためには適用範囲が拡大される可能性もあります。一方ラボグロウンダイヤモンドのコストは今まで興味を示さなかった消費者へも訴求できるレベルまで下がり、また今月開催される国際宝飾展では海外サプライヤーも多数出展することから、今年また市場が拡大していく可能性があります。望むと望まざるとに関わらず状況は変化し続けます。  

変化に逆らうことは難しいですが、もしかしたら新しいものを排除し続けることもある程度の期間は可能かもしれません。しかし世界が変化し続けている中、そのリスクは大きいと言わざるを得ません。かつて日本は、スマートフォンが世界で普及しだす中、「おサイフケータイ」を理由にガラケーを作り続けました。その結果、今では国産の携帯電話はほぼ淘汰されてしまっています。世界のジュエリー市場では日々様々な 変化と革新が起こっています。日本のジュエリー業界、そして企業が世界で戦えるよう、2024年は「変革」と「挑戦」の年になることを、心から願い、お役に立てるよう引き続き努力させていただきます。  ご相談や質問は、私のメールアドレス (takuyaito@126.com)宛に直接ごご連絡いただけると幸いです。
■■連載コラム No,108 ■2023年10月31日 火曜日 11時17分25秒

「知恵の実」を食べるということ

最近日本ではライドシェアについての議論が盛り上がっているようです。ライドシェアとは一般ドライバーが自分の車両を使用してお客様を乗車させるサービスです。日本の現行法では規制の対象となっていますが、これを(部分的にまたは条件付きで)解禁させようという動きに対して賛否両論大きな議論が起きています。一般利用者の観点から人々は解禁に賛成なのかと思いきや、ネットニュースのコメント欄やXなどを見てみると、意外と否定的なコメントが多いことに驚きました。  
私が現在拠点にしている上海はもちろん、アメリカ、ロシア、シンガポールなど私がここ数年で訪れた国のほとんどでライドシェアが導入されています。上海では滴滴(DiDi)と呼ばれるサービスが大きなシェアを持っています。利用は簡単で、まずアプリはアリペイ などの決済サービスと紐付けられます。つまりこの時点で本人認証と支払いの確約ができることになります。その後乗車位置と降車位置を入力し、タクシーか一般車かなど車の種類を選択すると、経路と時間と料金が表示されるので、問題なければタップして呼ぶだけです。迎えに来る車のナンバーから車種まですぐに表示されますし、ドライバーの氏名も確認できます。もちろんドライバーも身分証による本人認証が完了しています。目的地に着いたら自動的に決済されるので、財布を出す必要もなく車から降りれば終了です。

世の中がライドシェアの解禁に反対する理由の中には納得できるものもあるかもしれませんが、私は利用者の観点からの説得力のあるひとつの結論を言うことができます。それは「人々が日常的にライドシェアを使用している上海で、ライドシェアサービスが無かった過去の状態に戻りたいと思っ ている人はいない。」ということです。少なくとも私は会ったことがありません。  
その空気感を知っている立場からすると、日本は少し異常に見えてしまいます。ある交通業界団体が配布している資料のタイトルを見た時などは、『危険な白タクライドシェア』と大きな見出しが掲げられていて、白タク、危険という文字を冒頭に持ってくることで明らかな印象操作をしていると感じました。

既得権益の問題以外での一般人の反対意見を見ると、「女性は知らない男の車に乗るのか?」「事件の温床になる、強盗、性犯罪が起こる」「他人に自分の家が知られるのが怖い」などが列挙されていました。何を言っているのか分かりませんが、みんな思考停止してしまっているのでしょうか。タクシードライバーは全員無害な聖人君子で、一般ドライバーはみんな痴漢だとでも思っているんでしょうか。  

ライドシェアの利用件数が膨大な中国でも、全体で見ればトラブルは極めてごく一部です。この一部を取り上げて「ライドシェア(だけ)は危険(でタクシーは安全)」というのは無理のある主張です。そもそもライドシェアでは事前に料金がわかり、予定のルートから外れたらすぐにアプリでわかるようになっています。また自分が今どのナンバーの車に乗ってどのルートを走っているのかを簡単に家族や友人にリアルタイムでシェアすることが可能です。もちろんドライバーは本人認証されており、利用後も、いつ誰の車で、どこからどこまでいくらで移動したかアプリの履歴でわかるようになっています。

むしろこれに慣れると、目的地に着くまで料金のわからない、遠回りされても気づきにくい、何時に着くのかわからない、いちいちメモしないと車とドライ バーが誰かわからない、忘れ物してもすぐドライバーに電話できない、支払いでカードが使えなかったり万札を出すと舌打ちされたりするようなタクシーに乗るのがストレスで仕方なくなります。

この議論を目の当たりにした時に、ある意味成熟しているが故の日本市場の許容性の低さと、革新よりも変化しない安定を望む傾向に気づきました。安全性と利便性のバランスは冷静に考えれば理解できるはずですが、変化に対しての思考が停止しているような気がします。しかし、そのような中、アメリカの一部や中国の都市部では既にライドシェアの次のステップ、AIによる無人タクシーが商用化されています。この問題は必ずいずれ日本にも訪れます。ライドシェアの問題は今後の交通問題の中の通過点でしかなく、今この問題を整理しない限り、今後5年後10年後に日本はさらに世界の他都市から見て不便な国になっていく可能性があります.

100年以上続く日本タクシー業界の歴史でライドシェアは間違いなく一番大きなディスラプションでしょう。ジュエリー業界も現在大きなディスラプションに直面しています。ラボグロウンダイヤモンドとそれを取り巻くテクノロジーです。一部の人々はいまだに、ほ ぼ日本でしか使われていない『合成ダイヤモンド』という名称をある意味意図的に使用して、消費者の印象操作をしようと試みています。またラボグロウンダイヤモンドのネガティブな部分を強調することによって排除を試みています。(これに関してはラボグロウン ダイヤモンドを販売する業者が天然ダイヤモンドのネガティブな部分を強調しているためという反論もあるかもしれません。)しかしこれすら、長い目で見れば革新の通過点の一つでしかない可能性もあります。  

天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドは対立構造で販売するべきではなく、最終的な判断は消費者の手に委ねられるべきです。ライドシェアも同様です。ほとんどの日本人はライドシェアを利用する機会も与えられず、憶測で批判をするしかありません。ライドシェアを利用した後に、タクシーを積極的に利用したければ利用すればいいだけの話です(実際、ライドシェアアプリでは、ライドシェアと法人タクシーを自分で選択できます)。消費者に選択する権利を与えず批判を繰り返すことが建設的な議論だとは思えません。天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドには異なる価値があり消費者はそれを選択できる自由があるべきです。

先月、PRADAがラボグロウンダイヤモンドのジュエリーコレクションを発表しました。PRADAのラボグロウンダイヤモンドの採用は天然ダイヤモンドへのアンチテーゼではありません。PRADAの発表によるとその動機は「ラボグロウンダイヤモンドの可能性を見出 すこと」だと言います。ラボグロウンダイヤモンドの生産コントロール安定性はPRADAに「PRADA CUT」という特別なダイヤモンド開発の能力を与えました。PRADAはジュエリーブランドではないですが、一般消費者へのインパクトは決して小さくはないでしょう。  

今後、ラボグロウンダイヤモンドはより特化した領域での価値を見出されると考えられます。つまり、天然ダイヤモンドの安価な代替品ではなく、ラボグロウンダイヤモンドだから実現できる価値を打ち出した商品群が増えていくと考えられます。

ちなみに先日、業界でお世話になっているある方と話していた際に「ラボグロウンダイヤモンドは業界にとって旧約聖書の禁断の実だ」というような冗談が出ましたが、ある意味ぴったりな表現かもしれません。というのも「禁断の実」は「知恵の実」とも言い、これを食べることによって知恵を得ることができるとされています。ラボグロウンダイヤモンドはある意味ジュエリー業界の「禁断の実」かもしれません。手にすることが躊躇されるものの、それを取り扱うことによって今までとは違う次元の知見を手に入れることができます。ラボグロウンダイヤモンドはダイヤモンド全般の知識がないと決して扱えない商品だからです。  

売り手として何かを取り扱うときに、その商品についての知識を学ぶということは、ラボグロウンダイヤモンドに限らず販売側の最低限の責任であり、消費者に対して真摯に向き合い敬意を表すことです。ライドシェアにせよラボグロウンダイヤモンドにせよ、まずは消費者の理解が必要であり、その先に事業のそして業界の発展があるからです。

ご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接連絡いただければ幸いです。

■■連載コラム No,108 ■2023年10月31日 火曜日 11時13分42秒

「知恵の実」を食べるということ

最近日本ではライドシェアについての議論が盛り上がっているようです。ライドシェアとは一般ドライバーが自分の車両を使用してお客様を乗車させるサービスです。日本の現行法では規制の対象となっていますが、これを(部分的にまたは条件付きで)解禁させようという動きに対して賛否両論大きな議論が起きています。一般利用者の観点から人々は解禁に賛成なのかと思いきや、ネットニュースのコメント欄やXなどを見てみると、意外と否定的なコメントが多いことに驚きました。  
私が現在拠点にしている上海はもちろん、アメリカ、ロシア、シンガポールなど私がここ数年で訪れた国のほとんどでライドシェアが導入されています。上海では滴滴(DiDi)と呼ばれるサービスが大きなシェアを持っています。利用は簡単で、まずアプリはアリペイ などの決済サービスと紐付けられます。つまりこの時点で本人認証と支払いの確約ができることになります。その後乗車位置と降車位置を入力し、タクシーか一般車かなど車の種類を選択すると、経路と時間と料金が表示されるので、問題なければタップして呼ぶだけです。迎えに来る車のナンバーから車種まですぐに表示されますし、ドライバーの氏名も確認できます。もちろんドライバーも身分証による本人認証が完了しています。目的地に着いたら自動的に決済されるので、財布を出す必要もなく車から降りれば終了です。

世の中がライドシェアの解禁に反対する理由の中には納得できるものもあるかもしれませんが、私は利用者の観点からの説得力のあるひとつの結論を言うことができます。それは「人々が日常的にライドシェアを使用している上海で、ライドシェアサービスが無かった過去の状態に戻りたいと思っ ている人はいない。」ということです。少なくとも私は会ったことがありません。  
その空気感を知っている立場からすると、日本は少し異常に見えてしまいます。ある交通業界団体が配布している資料のタイトルを見た時などは、『危険な白タクライドシェア』と大きな見出しが掲げられていて、白タク、危険という文字を冒頭に持ってくることで明らかな印象操作をしていると感じました。

既得権益の問題以外での一般人の反対意見を見ると、「女性は知らない男の車に乗るのか?」「事件の温床になる、強盗、性犯罪が起こる」「他人に自分の家が知られるのが怖い」などが列挙されていました。何を言っているのか分かりませんが、みんな思考停止してしまっているのでしょうか。タクシードライバーは全員無害な聖人君子で、一般ドライバーはみんな痴漢だとでも思っているんでしょうか。  

ライドシェアの利用件数が膨大な中国でも、全体で見ればトラブルは極めてごく一部です。この一部を取り上げて「ライドシェア(だけ)は危険(でタクシーは安全)」というのは無理のある主張です。そもそもライドシェアでは事前に料金がわかり、予定のルートから外れたらすぐにアプリでわかるようになっています。また自分が今どのナンバーの車に乗ってどのルートを走っているのかを簡単に家族や友人にリアルタイムでシェアすることが可能です。もちろんドライバーは本人認証されており、利用後も、いつ誰の車で、どこからどこまでいくらで移動したかアプリの履歴でわかるようになっています。

むしろこれに慣れると、目的地に着くまで料金のわからない、遠回りされても気づきにくい、何時に着くのかわからない、いちいちメモしないと車とドライ バーが誰かわからない、忘れ物してもすぐドライバーに電話できない、支払いでカードが使えなかったり万札を出すと舌打ちされたりするようなタクシーに乗るのがストレスで仕方なくなります。

この議論を目の当たりにした時に、ある意味成熟しているが故の日本市場の許容性の低さと、革新よりも変化しない安定を望む傾向に気づきました。安全性と利便性のバランスは冷静に考えれば理解できるはずですが、変化に対しての思考が停止しているような気がします。しかし、そのような中、アメリカの一部や中国の都市部では既にライドシェアの次のステップ、AIによる無人タクシーが商用化されています。この問題は必ずいずれ日本にも訪れます。ライドシェアの問題は今後の交通問題の中の通過点でしかなく、今この問題を整理しない限り、今後5年後10年後に日本はさらに世界の他都市から見て不便な国になっていく可能性があります.

100年以上続く日本タクシー業界の歴史でライドシェアは間違いなく一番大きなディスラプションでしょう。ジュエリー業界も現在大きなディスラプションに直面しています。ラボグロウンダイヤモンドとそれを取り巻くテクノロジーです。一部の人々はいまだに、ほ ぼ日本でしか使われていない『合成ダイヤモンド』という名称をある意味意図的に使用して、消費者の印象操作をしようと試みています。またラボグロウンダイヤモンドのネガティブな部分を強調することによって排除を試みています。(これに関してはラボグロウン ダイヤモンドを販売する業者が天然ダイヤモンドのネガティブな部分を強調しているためという反論もあるかもしれません。)しかしこれすら、長い目で見れば革新の通過点の一つでしかない可能性もあります。  

天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドは対立構造で販売するべきではなく、最終的な判断は消費者の手に委ねられるべきです。ライドシェアも同様です。ほとんどの日本人はライドシェアを利用する機会も与えられず、憶測で批判をするしかありません。ライドシェアを利用した後に、タクシーを積極的に利用したければ利用すればいいだけの話です(実際、ライドシェアアプリでは、ライドシェアと法人タクシーを自分で選択できます)。消費者に選択する権利を与えず批判を繰り返すことが建設的な議論だとは思えません。天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドには異なる価値があり消費者はそれを選択できる自由があるべきです。

先月、PRADAがラボグロウンダイヤモンドのジュエリーコレクションを発表しました。PRADAのラボグロウンダイヤモンドの採用は天然ダイヤモンドへのアンチテーゼではありません。PRADAの発表によるとその動機は「ラボグロウンダイヤモンドの可能性を見出 すこと」だと言います。ラボグロウンダイヤモンドの生産コントロール安定性はPRADAに「PRADA CUT」という特別なダイヤモンド開発の能力を与えました。PRADAはジュエリーブランドではないですが、一般消費者へのインパクトは決して小さくはないでしょう。  

今後、ラボグロウンダイヤモンドはより特化した領域での価値を見出されると考えられます。つまり、天然ダイヤモンドの安価な代替品ではなく、ラボグロウンダイヤモンドだから実現できる価値を打ち出した商品群が増えていくと考えられます。

ちなみに先日、業界でお世話になっているある方と話していた際に「ラボグロウンダイヤモンドは業界にとって旧約聖書の禁断の実だ」というような冗談が出ましたが、ある意味ぴったりな表現かもしれません。というのも「禁断の実」は「知恵の実」とも言い、これを食べることによって知恵を得ることができるとされています。ラボグロウンダイヤモンドはある意味ジュエリー業界の「禁断の実」かもしれません。手にすることが躊躇されるものの、それを取り扱うことによって今までとは違う次元の知見を手に入れることができます。ラボグロウンダイヤモンドはダイヤモンド全般の知識がないと決して扱えない商品だからです。  

売り手として何かを取り扱うときに、その商品についての知識を学ぶということは、ラボグロウンダイヤモンドに限らず販売側の最低限の責任であり、消費者に対して真摯に向き合い敬意を表すことです。ライドシェアにせよラボグロウンダイヤモンドにせよ、まずは消費者の理解が必要であり、その先に事業のそして業界の発展があるからです。

ご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接連絡いただければ幸いです。

■連載コラム No,106 ■2023年8月31日 木曜日 15時59分14秒

「異なる方向性の価値」から考えるべきこと

ラボグロウンダイヤモンドが市場に出始めた頃よく言われたことの一つに、いずれ天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの市場は分岐し、それぞれ異なるマーケットを形成するというものがありました。  

しかしそれから5年以上経った現在、その分岐はまだ起きていないように見えます。米国でのブライダルジュエリーにおけるラボグロウンダイヤモンドのシェアは25%を超えた という調査データも記憶に新しいですが、現在では天然とラボグロウンの販売比率は半々になっていると多くの米国の小売店が証言しています。米国だけではなく中国でもラボグロウンダイヤモンドのジュエリーの販売は増加しており、上海でも「通りすがりの店を覗いて見たら、ラボグロウンダイヤモンドの専門店だった」ということがよくあります。

このような状況の中で、ラボグロウンダイヤモンドがダイヤモンドジュエリー市場全体の規模を拡大していると考えることもできますが、同時に一部では天然ダイヤモンドの市場を侵食していると言えるでしょう。ラボグロウンダイヤモンドの価格は現在では十分にコストダウンされ、5年前の4〜5分の 1の水準にまでなっています。これは天然ダイヤモンドとの価格差として10分の1程の価格になっていることを意味しています。

デビアスが運営するラボグロウンダイヤモンドブランド、LIGHTBOXは今年6月からブライダルジュエリーの展開をスタートしました。これは2018年のブランド発表当初にデビアスが述べていた「ラボグロウンダイヤモンドは(カジュアルなもので)人生の節目の記念のためのものではない」という説明を否定するもので、市場が分岐するという予測に逆行する方向性です。これはつまり、ラボグロウンダイヤモンドのブライダルジュエリー市場が無視できないサイズになってきたことを表しています。

天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドが「物質的に同一」である限り、その市場を完全に分岐させることは不可能です。ただし、消費者はその双方に異なる価値を見出します。中立的な立場で消費者に天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドを紹介した場合、消費者は天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドに異なる価値を見出し、どちらかを購入します。  

その意味では、天然ダイヤモンドとラボグ ロウンダイヤモンドは「異なる方向性の価 値」を訴求することにより、全く異なる消費 者層をターゲットとしながら同じ市場で共 存することが可能であり、それが現実的な 方向性になります。

実際、天然ダイヤモンドの競合品はラボグロ ウンダイヤモンドだけではありません。消費者 は数年ごとに10万から20万するスマート フォンを買い替えなくてはなりませんし、限られた予算の中で旅行、ブランド品、時計などと比較してジュエリーを購入しているのです。ラボグロウンダイヤモンドがなくなれば自社の天然ダイヤモンドの売上が増えるわけではありません。天然ダイヤモンドの魅力をどこまで引き出し、それを消費者に伝えられるかが天然ダイヤモンドの販売にかかっており、それが実現できるのであればその部分で天然ダイヤモンド独自の市場を形成できるはずです。

ラボグロウンダイヤモンドも同様です。現 在ラボグロウンダイヤモンドの生産量は増え続けており、価格は十分に下がり、市場への投入も増加し、コモディティ化しています。ラボグロウンダイヤモンドの品質が均一化し、それ自体が珍しいものではなくなってくるにつれて、厳しい価格競争に身を投じる必要が出てきます。これは天然ダイヤモンドでも同様ですが、海外の生産者へのアクセスが比較的容易になってくると4Cという基準で管理された商品は基本的に価格競争へと発展していきます。そのため、ラボグロウンダイヤモンドにおいても今後、価格を超えた差別化は非常になってくるはずです。  

例えば、ラボグロウンダイヤモンドの最大の魅力の一つは、価格ですが、これは単に天然ダイヤモンドに比べて安いという以上のメリットを打ち出すことができます。例えば日本では多くの消費者は58面のダイヤモンドを好みますが、これは「58面がスタンダード」だからです。一般の消費者にとって、一生に何度も購入できるわけではない天然ダイヤモンドであれば「間違いないもの」を買いたいと思うのは自然なことです。

しかし、十分に価格の下がったラボグロウンダイヤモンドであれば、そこまで頻繁に購入しないにしても「ちょっと冒険」できるわけです。これは販売側、消費者側双方にとって言えることです。ファンシーシェイプはもちろんですが、例えば天然ダイヤモンドでは企画しにくいカスタムカット(多面体)のダイヤモンドなどもラボグロウンダイヤモンドでは展開しやすくなるでしょう。また、ラボグロウンではそれ以 外にも第三者認定のカーボンニュートラルなど天然にはない魅力も打ち出せるでしょう。

つまり今後のダイヤモンド市場は、「天然の魅力を打ち出したダイヤモンドジュエリー」 「天然とラボグロウンが混在した価格競争カテゴリー」「ラボグロウンの特徴を活かした ジュエリー」という3カテゴリーが形成されると考えられます。そしてこの最初と最後の カテゴリーは競合することはないでしょう。

今後ダイヤモンドジュエリーはよりそれぞれの価値を明確にする必要がありますが、それ は最終的に消費者にとってはメリットとなることです。そしてそれがジュエリー業界全体の拡大へつながっていくと期待しています。

ご相談や質問は、私のメールアドレス (takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡 頂けますと幸いです。
■連載コラム No105 ■2023年7月31日 月曜日 13時12分10秒

中国では明確なリセールバリュー

今回は少し話題を変え、中国のジュエ リー市場について話をしたいと思います。中国市場はパンデミックから回復しつつ あり宝飾品の売り上げも増加傾向にありますが、現在特に回復しているのは金製品カテゴリーです。
 上海のデパートやショッピングモールなどに行くとジュエリー売り場は日本のデパートなどと比べるとかなり面積が大きく、その多くの部分を「周生生」「周大福」「周大生」「六福珠宝」「周六福」「老�祥」 などの金製品ブランドが占めています。周大福などは同じショッピングモールでも複数フロアに店舗があったり、別ブランド(周大福傳承など)で系列店が隣同士に出店したりしていることも珍しくありません。

 日本では金製品というとK18、ヨーロッ パなどではK14が主流ですが、中国市場で売れる金製品は「足金」と呼ばれる純金が主流です。元々中国では出産、結婚、長寿のお祝いなどに金製品を買う習慣がありますが、どちらかというと中高年女性が購入するものというイメージがありました。これが近年では金製品を購入する若者が急増しています。金製品を販売する店舗もモダンな内装のものが増えてきており、ショーケースを覗き込んだり、手に取って商品を見たりしている若い年代の人々も多く見かけます。現在、金販売店での消費者グループのうち25-35歳の男女が7割以上を占めているとの調査報告もあります。これには2つの要因があると考えられます。 一つは元々年配向けのデザインが多かっ た金製品が、洗練されてオシャレなものが増えてきたということです。実際に店頭を見ても、惹かれるようなデザインが数多く並んでおり、加えて純金特有の手にしたときのズッシリとした重厚感と相まって非常に所有欲をそそられるものが多くあります。
 もう一つの理由は、金の価値は下がらないという消費者理念があることから、消費の満足感を得られながら資産として持つことができるということです。特にここ最近の金相場の上昇はこの傾向に拍車をかけています。金製品を扱うジュエリーショップに入ると、商品タグが特殊な表記になっているのに気づきます。通常タグには販売価格が記載されていますが、このような店舗では「グラム」と「加工費」が記載されています。店舗の壁面には「今日の金価格」が表示されており、「グラム×金価格+加工費」がその商品の購入価格になるというわけです。ですので、購入価格は日によって多少変動することになります。 また購入と買取でスプレッドがありますが、消費者はそれぞれの店舗で金を買い取ってもらうこともできます。
 また中国では2021年頃から1グラムほ どの金の粒を購入することがブームになっています。毎月1グラムずつ粒を買っては小瓶に入れて貯めておき、ある程度貯まったら大きい金の塊と交換したり、金のジュエリーにしたり、または換金したりする若者が増えてきています。いずれにしても金は価値の維持できるハードカレンシーだという側面が金ブームを支える大きな理由になっています。
 一方でダイヤモンド製品に関しては完全に自分の心や相手の心を喜ばせるために購入するという棲み分けがされており、ダイヤモンドを資産価値として捉えている消費者はほとんどいません。とはいえ中国は今や世界第二位のダイヤモンド消費国です。中国の若者は婚約時にはダイヤモンドのジュエリーを送りますし、自分用にダイヤモンドジュエリーを購入する消費者も 多く存在します。中国市場では資産価値と してのジュエリーと純粋に美しさを楽しむ ためのジュエリーが明確に差別化されて おり、それぞれの市場を形成しています。 またこの辺りの要因が、中国市場でラボグロウンダイヤモンドが受け入れられやすい 理由になっている可能性は大いにありま す。(ちなみに現在の中国市場でのラボグ ロウンダイヤモンドのシェアは12~13% ほどと言われており、大多数の支持を得て いるわけではないものの市場規模が日本 の10倍以上あることを考慮すると、日本の総市場を超えることになります。)

 日本のジュエリー店ではこの辺りの棲み分けが非常に曖昧で、消費者にとってジュエリーの資産価値が非常にわかりにくくなっていると思います。一部の店舗ではジュエリーには資産価値があるように 説明するかもしれませんが、その明確なリセールバリューを販売時には説明することはありません。消費者が数年後に買取屋に持ち込んで、そのリセールバリューの意味を知ることになります。一方で中国での金製品のリセールバリューは購入時から明確です。この価格透明性が中国市場での金製品の好調を支えています。

 この仕組みを日本でそのまま導入できるわけではないでしょうが、消費者が求めている価値は決して同一ではなくシチュエーションや目的によって変化することを理解することで、より適切で満足度の高い提案が可能になるでしょう。少なくとも、今の時代に中国市場の若者に金製品が売れているのは、単に文化や好みの違いで片付けられるものではないと思います。
 ご相談や質問は、私のメールアドレス (takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。

■連載コラムNo.104 ■2023年7月1日 土曜日 9時44分24秒

「倫理的」ダイヤモンドの需要

 先月(6月)の初めにラスベガスでJCKショーが開催されました。奇しくもその直前にアメリカは渡航者へのワクチン接種証明書提出義務を廃止、ESTAの申請だけというコロナ前と全く同じ条件でアメリカへの入国が可能になった初のショーでもありました。

今回のJCKショーはジュエリー業界全体の傾向とアメリカ市場の動向を反映させるものでした。5月にGCALの買収を完了させたSarine社は早速“GCAL by Sarine”のブランドでメイン会場入り口にブースを設置、カラーとクラリティのAI鑑定マシンを展示、デモンストレーションし、ダイヤモンド鑑定の新時代をアピールしました。

 今回展示されたクラリティAIグレーディングマシンは精度改良を重ねた第二世代となっており、ダイヤモンド表面の汚れと内包物を見分けるための表面自動検査、内包物の詳細な位置を特定するための深度キャプチャー、一方向だけではなく多方向からの検査など、極めて高い検査精度を実現していました。人間の鑑定による誤差などのリスクを排除すると共に、操作による誤測定を回避するためのチェックも組み込まれていることは、今後の同社の『eグレーディング』(工場などの生産現場で鑑定を完結させる技術)への姿勢が見て取れます。

 SarineのAIグレーディングをいち早く導入している米国のRDI DIAMONDSに話を聞くことができましたが、特に若い世代を中心に「人工知能によるダイヤモンド鑑定」の信頼性が高く、導入している小売店や消費者から非常に良いフィードバックを受け取っている、この傾向は今後加速するだろうとのことでした。

 またJCKショーに限らず近年のジュエリーショーで大きく注目されているのはトレーサビリティです。デビアスは今回のJCK ショーで、自社のトレーサビリティブロックチェーンであるTracrを(当初は自社のダイヤモンドのみに利用可能なシステムとしていましたが)業界全体に対して公開しました。

また多くのダイヤモンドサプライヤーは原産地証明プログラムを展開しており、特に米国 のブランドではそのようなダイヤモンドを採用している企業が多く見られます。  Sarine社のトレーサビリティプログラムを含む、テクノロジーによる原産地証明が強く求められる背景には一年を経過しまだ収束を見せないロシアウクライナ戦争への懸念と、それに伴うキンバリープロセスに対しての不信感があります。ロシアがダイヤモンド生産大国であることはよく知られており、その生産量は(戦前は)世界供給量の3割以上を占めていました。しかしロシアの鉱山企業であるアルロサは大部分を国が所有しており、アルロサのダイヤモンド収益が戦争に利用されているという懸念から、多くの欧米企業ではロシア産ダイヤモンドをボイコットしています。

 一方で、キンバリープロセスでは紛争ダイヤモンドを「正統的な、かつ国際的に承認された政府に反対する勢力の制圧下にある地域で産出し、これら政府に対する軍事行動向け資金として利用されるダイヤモンド」と定義しています。つまり、ロシア産ダイヤモンドはキンバリープロセスの定義に当てはめれば紛争ダイヤモンドには該当せず、合法的に流通が可能ということです。

 しかし多くの欧米のジュエリー小売店では戦争の資金源になる可能性のあるダイヤモンドを排除したいと考えており、そのためにキンバリープロセスではないダイヤモンドの「倫理的」保証を必要としています。そのために多くのトレーサビリティプログラムが必要とされており、それが今回のJCKにも色濃く反映されていたと考えられます。また日本が加盟するG7でもこれを課題と見ており、 今後ダイヤモンド輸入に原産地保証を求められることが考えられます。

 このような「倫理的」ダイヤモンドの需要はラボグロウンダイヤモンド業界にとっても 例外ではなく、元々「倫理的」価値を全面に出していたラボグロウンダイヤモンドの業者も、大手を中心に第三者機関によるサスティナビリティ認証を取得しています。今回の JCKショーでもブースにその第三者認定マークを掲げているサプライヤーが多く見られ、今後増えていくものと考えられます。

 これらが示していることは、今後ダイヤモンドのブランディングは、より商流の上流で 決定されてくるということです。原産地証明は鉱山での原石からスタートしますし、サス ティナビリティの証明には生産プロセス全体の確認が必要になります。カーボンニュートラルのラボグロウンダイヤモンドに関しても、それがダイヤモンドの原石成長の段階から関連していると考えると、素材としてのダイヤモンドの差別化とブランディングは上流に委ねられていると言えます。

 かつてダイヤモンドジュエリーのブランディングは商流の下流、消費者との接点である小売店側に委ねられているものが多く、それが証拠に現在ハイジュエリーとして有名なブランドも小売としての屋号がブランドになったものも少なくありません。

 今後もジュエリーメーカーや小売店側でのブランディングの重要性は高いですが、サスティナブルなど素材への注目が集まっている現代において、どのような上流とパートナーを組むか、どのようなプログラムを組むかがよりブランディングの重要なポイントになってきています。ジュエリー業界のルールチェンジが起こりつつある中、それを捉えて時代にあったブランディングをすることの重要性が高くなっているのです。具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■■ 連載コラムNo.102 ■2023年5月1日 月曜日 14時12分10秒

進化するか 退化するか

 先月、米国の著名なダイヤモンド市場アナリストであるエダン・ゴラン氏が「ラボグロウンダイヤモンドの市場シェアが過半数を超えるのはいつか?」という衝撃的なタイトルのレポートを発表しました。同氏はそれを「起こるかどうかではなく、い つ起こるかの問題だ」と述べました。
 
その根拠はシンプルに、天然ダイヤモンドは有限資源のため時間経過と共に供給量は減少し、一方でラボグロウンダイヤモンドの原料はほぼ無限であるため、この逆転はいずれ必ず起こるというものです。ただし、ラボグロウンダイヤモンドの販売が増加しているのは天然ダイヤモンドの供給量の制限によるものではなく、その逆転は想像よりも早く起こると言います。

 世界市場を正確に分析することは難しいため、同氏は米国市場をリサーチしています。細かい分析や傾向はこの時計美術宝飾新聞のWeb版であるW&J Today-Onlineで見ることができますが、データを要約すると「価格ベースでラボグロウンダイヤモンドの市場シェアは22.9%」「数量ベースでは46.6%」「数量ベースでは今年5月頃に過半数を突破すると予測される」「婚約指輪のシェアは17.3%」「但し2ctアップなど大きいサイズでは既にラボグロウンダイヤモンドの販売数が50%に達している」というものでした。

 大きなサイズで特にラボグロウンダイヤモンドがシェアを伸ばしているというのは、ラボグロウンダイヤモンドビジネスをしている人間にとっては非常に納得のいくものです。サイズが大きくなればなるほど、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの価格差が顕著になるためです。

 例えば2ctのファンシーシェイプであれば天然ダイヤモンドの場合、一般的な日本の小売店であれば350万〜400万円ほど、またはそれ以上の小売価格になるでしょう。これがラボグロウンダイヤモンドであれば20万円台前半で販売することが可能です。もちろんIGIなどの鑑定書がついたものです。言わずもがなですが、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドは化学的に同一の物質です。

 「消費者がより少ない予算で大きいものを購入し、また同じ予算でさらに大きいものを購入できるとしたら、それは消費者にとって歓迎すべきことだ。」と同氏は述べていますが、実際にそれが米国市場で起こっています。そして上海など中国市場でも同様の傾向が出始めています。稀に「こんなのはアメリカ限定だろう、日本人は大粒のダイヤモンドを好まない。」などと言う人もいますが、むしろ世界第一位と二位の消費市場であるアメリカと中国で起こっていることが日本で起こらないと思える根拠を示してほしいと思います。実際、宝飾業界の皆さんの知らないところで、日本でもラボグロウンダイヤモンドは売れてきています。

 また大手ブランドがラボグロウンダイヤモンドを取り扱わないことを『反ラボグロウン』の根拠としている人も多いですが、これも時間の問題かもしれません。先月カルティエのシリル・ヴィニュロンCEOはメディアに対して次のように語っています。

 「注目しているのは、アメリカのワシントン州にあるメーカー。100%水力発電でエネルギーを賄っており、良質なラボグロウンダイヤモンドを作っている。ただ、規模はまだまだ小さい。カルティエが求める量を生産できるようになるのは、かなり先のことだろう。スケールアップには、創業段階とは違うテクノロジーが必要だ。今後の動向に注目している。」
 
これはDIAMOND FOUNDRY社の事を示していると思われますが、ハイブランドですらラボグロウンダイヤモンドを視野に入れ始めているということです。

 重要なことは、ラボグロウンダイヤモンドという数年前には存在しなかったものが現在は市場に存在し、それが一定数の支持を得つつあるということを認めることです。その上で天然ダイヤモンドの魅力を最大限に生かすためにはどうすればいいのか、ラボグロウンダイヤモンドを自社のビジネスに組み込む方法があるかなど検討することは沢山あるでしょう。ラボグロウンダイヤモンドを否定していたら自社の天然ダイヤモンドが自動的に売れるようになるわけではないのです。

 私がいつもお伝えしたいことは「環境が変化する中で、自身が変化しないことは相対的に退化になる」ということです。20年前から変化せず今でもガラケーを使い続けていたら、本人は退化しているつもりがなくてもそれは周りから見たら間違いなく退化でしょう。  

具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■■連載コラムNo.101 ■2023年4月3日 月曜日 22時1分41秒

世界は「最低基準」、日本は?

 先月、約3年ぶりとなる香港ジュエリー ショーが開催されました。パンデミック中の香 港ショーは入境制限が厳しく、実質ローカルショーのようになっていたため、国際展示会としての再開は実質コロナ後初となりました。

 中国本土のゼロコロナ政策の終了に伴い中国本土および香港の入境規制がほぼ撤廃され、多くの中国人バイヤーが今回の香港ショーに訪れました。私も上海から香港へ移動しましたが、飛行機の搭乗から香港への入境まで、コロナ前のようにスムーズで快適な移動でした。

 奇しくも香港ショーの初日は香港政府によるマスク着用義務の撤廃と重なり、それがより一層コロナ禍からの脱却ムードを高めていました。通常は2会場で実施する展示会を湾仔側のみの1会場で実施していた関係もあるでしょうが、会場は予想以上の混雑で、香港ショーが完全に戻ってきたとの感情を抱くには十分な光景でした。今回は HKTDCによるeバッヂが導入され、スマホだけで会場に入退場できるようになった点も、3年間の進歩を感じさせました。

 今回の展示会では多くの中国人バイヤーが訪れたことが注目されましたが、中国人バイヤーの事前期待価格と市場価格のギャップがあり、会場の混雑に対して実際の取引はやや少なかったとの声もあります.

 一方で、出展ブースの様子は3年前とかなりの変化があったように感じました。主に「責 任ある調達」と「ラボグロウンダイヤモンド」 ついてです。香港ショーに定期的に訪れている方はご存知だと思いますが、3年またはそれより以前の香港ショーではこの2つはあまり目立ったカテゴリーではなかったはずです。

 今回の香港ショーは、ロシアウクライナ戦争の開始からちょうど一年のタイミングで開催されました。G7及びEUはロシア産のダイヤモンドに対してより厳しい制裁を課すことを検討しており、また企業やブランドレベルでも独自のダイヤモンド仕入れ基準を設けることが増えてきています。この一年、ダイヤモンド業界はトレーサビリティを前例のない速度で進歩させてきています。

 今回の香港ショーにおいても、以前とは比べ物にならないほど「責任ある調達」を打ち出す企業が増えていました。中にはVRゴーグルを用いて自社の生産管理体制をバーチャ ルツアーしてくれたブースまであります。今後、いずれかでの形でのトレーサビリティ又 は原産地証明は「付加価値」ではなく「最低基準」となる可能性があります。事実、日本も加盟するG7では、ポリッシュダイヤモンドに対しての非ロシア原産証明を輸入企業に要 求する方向で調整をしているとの情報もあり、今後原産地証明は天然ダイヤモンド業界にとってスタンダードになる可能性があります。今後、天然ダイヤモンドの価値は品質と価 格を超えた部分がポイントになるでしょう。

もう一つの変化は、ラボグロウンダイヤモンドです。コロナ以前の香港ショーでのラボ グロウンダイヤモンドの出展企業は非常に限られていました。以前は数社が、しかも奥の方で隠されるように出展していましたが、今回の香港ショーでは以前に比べ非常に大きな スペースをラボグロウンダイヤモンドが占めており、また展示会場でも目立つエリアに設 置されていました。また、それ以外の別エリアでラボグロウンダイヤモンドのジュエリーブランドの出展がいくつか目立ちましたし、ジュエリーOEMを引き受けるジュエリー工場の多くは、クライアントの要望によってラボグロウンダイヤモンドをセッテングしているというところが多くありました。そして何より、サイトホルダーなどの大手の天然ダイヤモンドルース業者のブースでも、展示こそしていないもののラボグロウンダイヤモンドの供給ができるという企業が多く見受けられました。

 一方で、カラット単価が3億円近いような天然ピンクダイヤモンドなど、価値の高い希 少性の高いダイヤモンドも展示されており、ダイヤモンドビジネスの多様性がより広がってきていると感じます。

 ダイヤモンド業界の展示会というと以前までは品揃えと価格での売り込みがほとんどでしたが、コロナ禍を経て世界のダイヤモンド業界は大きく変化していると感じます。 現在多くの出展者は「サスティナブル」「トレーサビリティ」「エシカル」「テクノロジー」を語っているのです。

 元々香港ショーでの日本人ビジターはあまり多くないですが、今回、以前と比べても日本人ビジターの数はかなり少ない印象を受けました。コロナ禍を経て、日本のダイヤモンド業界のガラパゴス化は進んでいるような印象を受けます。日本ではダイヤモンド原産地証明プログラムの採用は多くはないどころか、その話題も非常に少ないでしょう。また日本の業界がラボグロウンダイヤモンドに対して消極的なだけでなく、鑑定書発行の禁止など独自の対策をしているため、冷ややかな見方をしている人も多いと思います。

 どの商品を取り扱うかは企業やブランドの自由ですが、世界がどこに向かっているのかは実際に触れてみないとわからないことが多いと思います。ダイヤモンド業界はグローバルで繋がっており、海外のトレンドは必ず日本国内のビジネスに影響を与えます。消費者の価値観ですら、世界中で同じ SNSプラットフォームを使っている時代に世界標準化されていくのです。

 コロナ禍を経て、世界中のダイヤモンド業界は確実に変化、進化しています。もし自身のビジネスがコロナ前と変わっていないと感じたら、何かを変えるべきかもしれません。  具体的なご相談や質問は、私のメールア ドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■■ 連載コラム No100 ■2023年2月27日 月曜日 16時48分11秒

消費者心理を深めアドバンテージを

今回は少し、中国・上海の状況について 話をさせていただこうと思います。

 現在、世界中のダイヤモンド業界にとって中国市場の回復状況は注目の対象になっています。昨年のパンデミックによって落ち込んだ中国市場の回復状況は世界のダイヤモンド需要と原石価格に影響を与える可能性が大きいためです。

 約3年間に渡って中国は厳格なコロナ 規制を実施してきました。それは水際対策に留まらず、厳格な行動制限、昨年の上海では2ヶ月以上に及ぶ完全ロックダウンにまで及びました。その後も実質的に2日に 1度のPCR検査、陽性者は強制的に隔離施設に収容するなどの措置を実施していましたが、2022年末に突如全ての規制を解除、ゼロコロナからウィズコロナへと一瞬で方向転換しました。

 その直後から感染が爆発、年末年始の上海では9割以上の人が感染したと見られています。しかし春節までにほぼ回復し、春節での経済活動は通常通り、ショッピングモールはどこも多くの人で賑わう様子が見られましたし、ハイブランドのブティックにはどこも長蛇の列ができました。そして春節明け、ダイヤモンド取引は急速に回復し、過去10年間で最も忙しい時期になったと話すダイヤモンド業者もいました。

 小売市場としてここ最近顕著に感じるのはラボグロウンダイヤモンドの台頭です。先日、南京西路という繁華街の一等地にある老舗日系百貨店である伊勢丹を訪れました。時間があったので宝飾売場を見ていると、SDE(上海ダイヤモンド取引所)のロゴのあるコーナーに目が止まりました。ちなみにSDEのメンバーは信頼できるダイヤモンド業者として一般の(ダイヤモンドを探している)消費者にも認知されており、SDEに直接ダイヤモンドを買いにくる消費者も少なくありません。

その伊勢丹のコーナーで特に大粒のルースを並べているケースがあり、何気なく見ていると販売員が「こちらは全てラボグロウンダイヤモンドになります」と説明してくれました。全てGIA付きのラボグロウンダイヤモンドです。実際、SDEにはラボグロウンダイヤモンドを輸入また販売している企業がいくつもあります。

 また伊勢丹にはショッピングモールのように独立した小売店が並んでいるフロアもありますが、そこにもダイヤモンドジュエリー専門店があったので試しに入ってみると、それもラボグロウンダイヤモンドでした。そのショップではIGI鑑定付とNGTC 鑑定付のものを揃えていました(NGTCは国営の鑑定機関で、ラボグロウンダイヤモンドの鑑定書も発行しています)。

 ちなみにどちらも、私はただ通りすがりに見ただけで、どちらもラボグロウンダイヤモンドを扱っているとは知りませんでした。

 現在、上海では百貨店やショッピングモールであってもラボグロウンダイヤモンドの実店舗が多く存在します。試しに「大衆点評(食べログのようなもの、飲食店だけでなく、物販、サービス、ホテル、企業など全ての情報の口コミが掲載される)」で調べてみても、上海内に数多くのラボグロウンダイヤモンド専門店、取扱店があることが確認できます。上海では、ラボグロウンダイヤモンドは消費者への浸透が急速に進んでおり、既に「新しいダイヤモンド」ではなく、消費者にとって「普通の選択肢のうちの一つ」になりつつあるのです。

 また、ラボグロウンダイヤモンドの取引サイズが大きくなってきているのも最近の中国市場の傾向です。私は中国企業と海外サプライヤーのラボグロウン取引仲介もしていますが、昨年の中国市場からの主なデマンドが1ct前後であったのに比べ、今年、特に春節明けからはサイズが大幅にアップ、3 -5ctの需要が急増しています。これは大サイズのラボグロウンダイヤモンドの価格が魅力的なレベルまで下がっていることに起因するでしょうが、大粒のラボグロウンダイヤモンドのメリットに多くのジュエリー企業と消費者が注目しているということだと考えています。例えば直近の中国企業からの注文、5ct F VS1エメラルドカットは、天然ダイヤモンドの場合、上代で安くても3千万円は超えてくるはずです。ラボグロウンダイヤモンドであればどんな価格が実現できるのか、ここでは公表しませんが、このサイズになってくると価格差は1/2はもちろん、1/10なんて遥かに超えてきます。

 一方、日本でラボグロウンダイヤモンドを取り扱う『既存ジュエリー企業』からの需要は未だに「メレ」「ノングレード0.2ct」の辺りです。しかし、異業種からの参入や個人でのブランド立ち上げの相談を受けると、みなさん「メレや小粒は興味ない、やるなら大粒を扱いたい」と仰います。この辺りのギャップ、消費者に近い目線の方のほうがラボグロウンダイヤモンドのアドバンテージを正しく理解されているのだなと感じます。天然ダイヤモンドの代替品ではなく、ラボグロウンダイヤモンドはその独自の魅力で新しい市場を切り開いています。既存のジュエリー企業が販売しなくとも、異業種や海外ブランドなどが市場に出てきます。 今後、その特性やアドバンテージ、消費者の理解を深めることが業界全体にとって必要になるでしょう。

 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。

■■連載コラム No,99 ■2023年2月1日 水曜日 13時47分55秒

AI 鑑定による消費者信頼とは

先月ちょうどIJTの会期中、世界中のダイヤモンド業界が注目するニュースが発表されました。イスラエルを拠点とするダイヤモンドテクノロジー企業である Sarine社が、アメリカ・ニューヨークを拠点とするダイヤモンド鑑定機関であるGCALを買収(過半数の株式の取得合意)するというものです。

Sarine社はダイヤモンド業界トップのテクノロジー企業として、今まで世界中の鑑定機関にダイヤモンドのカット鑑定に関する技術を提供し続けてきました。 GIAやHRDをはじめとする世界中のダイヤモンド鑑定機関はSarineによってカット鑑定の信頼性を支えられていると言っても過言ではありません。近年ではAIによるカラーとクラリティの自動鑑定技術を開発、自社の鑑定機関を立ち上げイスラエルとインドにて展開していましたが、 今回GCALを買収することによって SarineのAI鑑定技術がGCALに導入されることになります。

GCALは日本では知名度が低いかもしれませんが、世界的には高い信頼性と特別なサービスで知られているトップ鑑定機関です。天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンド両方の鑑定書を発行しており、一部の商品は日本でも流通しています。GCALが他の多くの鑑定機関と比べて特別であると言われているのは、ダイヤモンドグレードレポートではなく、ダイヤモンドグレード保証書を発行している点です。通常、鑑定機関では鑑定書に免責を設けており、記載されたグレードによってクライアントが損害を被ってもそれを補償しません。しかしGCALでは記載されたグレードを保証しており、もしグレー ドの誤りが発生した場合はそのグレードの差額を補償することになっています.
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GCALがこの特別なサービスを提供できている理由は主に2つあります。一つは同社が高い鑑定能力を有しており、厳しい基準を設けていることです。もう 一つは、NYの1拠点だけでサービスを提供しているため、支社によるグレードの差異が発生しないためです。これは言い換えると、一般的に拠点が多くなると いうことは支店間でのグレード差異の発 生リスクが高くなるということです.

今回、SarineはAIの導入によってこのGCALのサービスをさらに強化すると考えられています。AI鑑定の強みは、世界中どこであっても安定した同じ鑑定結果を提供できることです。AI鑑定をGCAL に導入することにより、今まで1拠点だった同社が保証サービスを維持したまま複数拠点で事業を展開できるようになる可能性があります..

世界的に信頼性の高い鑑定機関であるGCALがAIグレーディングを導入することにより、今年はAIグレーディングが広く採用され、また認知されていくことが予想されます。昨年には大手メゾンのブシュロンがSarine LabによるAIグレーディングを採用しましたが、今後AI技術の導入はダイヤモンド鑑定の分野においても信頼性と同じ意味を持っていくことになるでしょう.
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ダイヤモンド業界にとってグレードの誤差や低い再現性、支店間によるグレードの差異の存在は暗黙の了解のようなものでした。鑑定する支店によってグレードに傾向があると言われており、自分の望むグレードが出やすい支店にわざわざダイヤモンドを送って鑑定を依頼する業者も存在しています。一方でこのような状況はダイヤモンド業界の消費者信頼に影響を与える可能性が大きいでしょう。

今後AI鑑定が普及することにより、そのような誤差が生じにくくなりダイヤモンド業界の信頼性を担保すると共に、小売店や消費者を保護するものとなります。ダイヤモンド鑑定は消費者にとって は非常に分かりづらいものの一つですが、今後AIによる鑑定を採用した店頭では「このダイヤモンドはAIによって鑑定されています」とお客様に説明することができます。どのような細かい説明よりも、AIによる鑑定と一言説明した方が現代の消費者にとって信頼のイメージがつくことは想像に難くありません.
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ダイヤモンド鑑定機関も世界的に大きな変革の時期を迎えています。AGSのダイヤモンド鑑定はGIAに昨年統合され、またIGIの株式の80%は現在の所有者である上海のFosun Groupが売却の意向を示しています.

それ自体は炭素の結晶であるダイヤモンドも、それを取り巻く業界と技術は日々変化しており、また進歩を遂げています。ダイヤモンドに携わる我々は、責任を持って商品を消費者に提供するという観点から、ダイヤモンドがどのように流通しまた評価されているのかを常に把握している必要があるでしょう。「第三者鑑定機関で鑑定しているから安心です」で済む時代はとっくに過去になっているのです。

具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に 直接ご連絡頂けますと幸いです.
■■連載コラム No、97 ■2022年11月30日 水曜日 14時37分47秒

価格帯ではなく 「価格差」と「倫理性」の違いPart..2

 ラボグロウンダイヤモンドが市場に登場し始めてから既に5年以上経過しており、米国では当初の市場予測と異なる消費傾向が結果として見られています。当初、ラボグロウンダイヤモンドは消費者の予算を「削減」するために選択されると考えられていました。例えば、天然ダイヤモンドを購入するために20万円の予算を設定していた消費者が、ラボグロウンダイヤモンドを選択することによって10万円予算を削減できる、というような事です。しかし、米国における5年以上の小売結果として、消費者はそれよりもむしろ予算を削減せずにダイヤモンドを「アップグレード」する傾向が圧倒的に多いことがわかってきました。例えば 1ctの天然ダイヤモンドを購入しようとしていた消費者が、同じ予算で2ctsのラボグロウンダイヤモンドを購入できるという具合です。

 そのため米国市場では非常にラボグロウンダイヤモンドが好調で、小売業者も意欲的です。そのような米国、また中国市場に比べても、日本はラボグロウンダイヤモンド市場の盛り上がりが今ひとつだと感じています。その理由には、この供給側の認識と需要側の期待の乖離があると思います。実際、日本でラボグロウンダイヤモンドを扱っているブランドのECサイトを見ると、ほとんどがメレで構成された「低価格帯」の商品だと思います。もちろんアメリカにも中国にもメレを使用した低価格帯商品はありますが、大粒ダイヤモンドを使用したジュエリーも非常に豊富です。

 日本の消費者はジュエリーに対する好みが違うと主張する人がいるかもしれません。しかし私の見解では、日本の消費者が「小粒の高品質ダイヤモンド」を好むのは、業界がそう仕向けたからです。DNAの問題でもなければ、控えめな民族性のせいでも、小柄な体格のせいでもありません。 0.3ctと1.0ctのダイヤモンドを目の前に見せ、好きな方を選んでいいと言われて0.3ctを選ぶ女性がどのくらいの割合いると思いますか?

また、消費者はラボグロウンダイヤモンドに多くの予算を設定しないはずだという考え方も間違いです。私は自分で実際にラボグロウンダイヤモンドジュエリーのECサイトを運営しています。ルー スの取り扱いサイズは0.8ctからですが、ほとんどのお客様は1ct以上を選択し、売上の中心価格帯は(枠と合わせて)40万円ほどになります。しかし、同じような商品を天然ダイヤモンドで手に入れようとすると消費者は100万円以上を支払わ なくてはならないことを知っていますので、彼らにとっては極めて合理的な選択になっています。

 信頼性の高い米国の市場調査会社の報告によると、2022年には米国市場でエンゲージメントリング販売に占めるラボグロウンダイヤモンド製品のシェアが10%に達したようです。ラボグロウンダイヤモンドはあくまで自分用のジュエリーとして好まれ、婚約指輪の需要は少ないと当初は誰もが思っていましたが、ここにも認識と事実の乖離があります。多くの消費者は、自分のためであれ誰かのためであれ、その瞬間を祝うためのダイヤモンドを購入する予算を最大化するために、ラボグロウンダイヤモンドを選択し始めています。そのため、前述のシグネット・ジュエラーズが保有する別のジュエリーブランドであるZalesではウエディングドレス企業と提携し、大粒のラボグロウンダイヤモンド・エンゲージメントリングコレクションを発売しました。

 整理すると、ラボグロウンダイヤモンドの消費者層には2種類あることになります。一つは、自分の倫理的価値観を示す手段として商品を選択する消費者で、多くの場合商品の価格帯が高く、天然 ダイヤモンドとの価格差が小さくても購入動機に影響しません。もう一つは(こちらが圧倒的多数ですが)予算を最大化するためにラボグロウンダイヤモンドを購入する消費者です。こちらは価格帯よりも天然ダイヤモンドとの価格差に注目します。

 もちろん私は、メレサイズのラボグロウンダイヤモンドを使用したジュエリーやブランドにも価値があると思います。日本にも非常に強いこだわりと信念を持って立ち上げられたラボグロウンダイヤモンドブランドが多数存在し、メレサイズのダイヤモンドを使用した美しいジュエリーコレクションを展開しています。こだわり抜いた素材とデザイン、そして美しいストーリーで多くの消費者に新しい価値と選択肢を提示し、受け入れられています。

 私がお伝えしたいのは、『ラボグロウンダイヤモンド=安価=低単価=メレサイズ』といったような短絡的思考で商品開発をするのは危険だということです。メレサイズを使用するのであれば、より熟考されたブランドストーリーと、安定的なメレの供給を受けるプログラムが必要になってきます。

 一方、1ctアップのダイヤモンドはラボグロウンダイヤモンドの価格的優位性を圧倒的に打ち出しやすいカテゴリーになります。『ラボグロウンダイヤモンドは天然ダイヤモンドの半額』という過去の「キャッチコピー」のイメージで今も考えている方が多いかもしれませんが、現在1ctアップで あればラボグロウンダイヤモンドの相場は天然ダイヤモンドの1/8ほどです。また、1ctアップを使用した製品であれば、プラチナやK18を使用しても、また工賃などを加味しても天然ダイヤモンドとの価格的メリットが十分に表現できます。また、 ファンシーシェイプの1ctアップであれば更に単価を下げることができます。1ct D VS1の製品を20万円台の上代で販売することも可能です。

 日本で今後、米国のようにラボグロウン市場が発展するとしたら、それにはカテゴリーの多様性が不可欠だと感じています。もちろんメレサイズのダイヤモンドを使用した低価格商品もエントリーラインとして必要ですし、倫理性を強調したコレクションもそのような価値観を求める消費者にとってキーになるでしょう。しかしその上で、ラボグロウンダイヤモンドを扱うブランド自体が「低価格帯商品」という先入観から脱却し、自由な発想で製品展開を広げていくことが必要になります。そうすることで、消費者の需要に合致したものを展開することができようになります。

ボグロウンダイヤモンドに関しては冷ややかな姿勢の方が多いように感じ、米国や中国の業界の方々との温度差に驚くことがあります。中には「試したけど思うように売れなかった」という方もいますが、恐らく多くの人は日本でラボグロウンダイヤモンドの市場が発展しないと感じているのかもしれません。しかし、米国や中国で発展し続けているカテゴリーが日本でだけ発展しない道理がありません。一方日本で発展が遅れているは、ジュエリー業界がラボグロウンダイヤモンドを正しく理解していないことが原因だと思っています。

 米国や中国でどのようなブランドがどのような商品をどのような価格帯で販売しており、どのような消費者に受け入れられているのか、どのシェイプ、サイズ、グレードの商品の価格と安定供給性に優位性があるのか、どのようなプログラムがあるのか、日本のジュエリー業界で熟知している方は恐らく少ないと思います。

 私自身、色々な生産者と話し、販売している方の話を聞き、実際に販売してみることで分かったことが多くあります。ですから、まずは試しにでも、 1ctアップのラボグロウンダイヤモンドを何か、ファンシーシェイプでも仕入れてみる、販売してみる(大したコストにはなりませんし、売り切れるはずです)、その上で展開を考えてみることから始めてみることを、お勧めしたいと思います。
 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス (takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■■ 連載コラム No.96 ■2022年11月1日 火曜日 20時14分43秒

価格帯でなく「価格差」と「倫理性」の違いPart.1

 先月、ジュエリー業界のニュースの中で、特に 私の注意を引いたトピックが2つありました。

 一つは「天然ダイヤモンドが含まれる可能性が ある」と注意書きされたラボグロウンダイヤモンドのピアスがECに掲載されているというものです。このピアスは、世界最大のダイヤモンドジュエリー小売企業、シグネット・ジュエラーズが展開するブランド、Kay JewelersのECサイトに掲載されたものです。この注意書きは、特定のピアスに使用され ているメレサイズのラボグロウンダイヤモンドの供給が安定しない為、代替品として天然ダイヤモンドを使用する可能性があるという意味です。(現在はこの商品はラインナップから外されています。

これには2つの大きな意味があると思います。 一つは、ラボグロウンダイヤモンドが市場に登場し始めた当初の「天然ダイヤモンドへのラボグロウンの混入」という懸念が、今ではこの逆のパター ンにもブランドが対応する必要が出てきたということです。確かにこれは透明性の観点では一般的に必要なことですが、それを考慮してもラボグロウンダイヤモンドに対する消費者の価値観が確立してきていることの表れでもあると思います。事実、多くのメレサイズのラボグロウンダイヤモンド バイヤーは、「天然ダイヤモンドが入っていないことをサプライヤーに保証させる」傾向があります

もう一つの意味は、シグネット・ジュエラーズのような大企業(2022年度の年商は78億ドル超)であっても、メレサイズのラボグロウンダイヤモンドの安定調達には懸念があるという事実です。世界的にメレサイズのラボグロウンダイヤモンドの需要は高まっていますが、生産はそれに対応して増加してはいません。確かにメレサイズのラボグロウンダ イヤモンドの「原石」は天然ダイヤモンドに比べて安価かもしれませんが、研磨、流通などのコストが天然ダイヤモンドと同等であることを考慮すると、 価格的なメリットは比較的低く、そのため生産者は費用対効果の優れた大きいサイズのラボグロウンダイヤモンドを生産するようになります。天然ダイヤモンドであれば一つの鉱山からさまざまなサイズの原石が(採掘業者の意図とは関係なく)産出されますが、ラボグロウンダイヤモンドはそのチャンバーからどのようなサイズの原石を取り出すかを生産者が決定することができます。結果的にメレサイズの供給が増えず、シグネットのような大企業であっても安定的なメレサイズのラボグロウンダイヤモンドの調達には懸念が発生します。またメレサイズのラボグロウンダイヤモンドは価格も上昇し続けており、ここ1年でも倍以上の価格になりました。またこの傾向はまだ止まる気配がありません。

一方このような状況で、時計メーカーのブライトリングは2024年までに全てのダイヤモンドをラボグロウンに切り替えると発表しました。時計のケースに使用されるダイヤモンドですから、 全てメレサイズのダイヤモンドになります。それに加えて、全てのラボグロウンダイヤモンドはカーボンニュートラル認証されたものです。このラボグロウンダイヤモンドの供給元はFENIXというインド企業だとブライトリング側から発表されています。私は早速、FENIXの知人に連絡し、 詳細を確認しました。すると「カーボンニュートラル認定を受けたメレサイズのラボグロウンダイヤモンドは供給が限られており、またコストも高くなるため、プレミアム価格を許容でき、継続的なプログラムを組める(ブライトリングのような) 大手ブランドにのみ提供している。」との話しでした。価格は開示しなかったものの、同等の天然メレダイヤモンドとほぼ差のない価格になっている可能性があります。

 ラボグロウンダイヤモンドの一般的に認識されている「アドバンテージ」は、価格と倫理性です。しかしメレサイズのラボグロウンダイヤモンドの価格が上昇を続け、また供給安定性に懸念が出てくると、メレサイズをメインに使用したデザインのジュエリーでは価格面でのアドバンテージが限りなく低くなります。例えば18金の地金に1/50サイズくらいのラボグロウンダイヤモンドを数ピース留めたようなデザインのジュエリーを製作する場合、原価比率のほとんどは地金と加工代が占め、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドのコスト差の影響は微々たるものになり、上代にほとんど反映されません。

しかし、ラボグロウンダイヤモンドを使用したジュエリーを開発しようとする場合、ほとんどの企業や人は「ラボグロウンダイヤモンド=安い製品」という固定観念があるため、単価が安い製 品を中心に展開しようとします。つまり、メレサイズのダイヤモンドを使用した製品ですが、安い製品を作ろうとすればするほど天然ダイヤモンド製品との価格差を打ち出せないというジレンマに陥ります。これを解消するためには、天然ダイヤモンドでは通常使用しないようなシルバーの地金を使用したり、また天然ダイヤモンド製品よりも大幅に利益率を下げたりすることで上代を下げて販売するという手法を取らざるを得ません。つまりギミックです。
 ここには、市場に対する一つの誤解があると私は感じています。市場への理解不足とも言えると思いますが、それは「消費者は、ラボグロウンダイヤモンド製品をアクセサリーの延長として認識しており、高い予算を設定しないだろう。」というものです。そのため消費者がラボグロウンダイヤモンドに支払える単価を低く見積りすぎてしまい、単価とコストパフォーマンスのジレンマに嵌ってしまいます。しかし、その認識と現実には乖離があるかもしれません。
 実際、ラボグロウンダイヤモンドを使用したブライトリングの時計は242万円(税込)の価格が設定されています。これは同社の製品の中で特別に高価というわけではありませんが、それでも一 般的な腕時計に比較すれば十分に高級です。ラボグロウンダイヤモンドを使用しているからといってコストが下がっているわけではありませんし、また消費者もそれを期待していません。ブライトリングや一部のラグジュアリーブランドの顧客層にとってラボグロウンダイヤモンドの意義はあくまで倫理性です。それらブランドは倫理性を 前面に打ち出すことによって自らを倫理的アイコ ンとして位置付け、消費者にとってはそれらのブランドを選択することが、自分の倫理的価値観を 社会に示すことになります。

 一方で、多くの消費者がラボグロウンダイヤモンドに対して価格的メリットを求めている事も事実です。実際、大多数の消費者にとってラボグロウンダイヤモンドを選択する理由は、その価格的 メリットのためです。つまり、ラボグロウンダイヤモンドの市場は、完全に倫理性に振り切ったカテゴリーと、価格メリットにフォーカスしながら倫理性が購買の動機付けを補足しているパターンに分かれるという事です。

この価格的メリットを、価格帯と考えるとジレンマに嵌る可能性があります。注目すべきなのは価格帯ではなく、天然ダイヤモンドとの価格差です。消費者が注目し期待しているのが、価格帯ではなく価格差だからです。
 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス (takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■■ 連載コラム No 95 ■2022年10月1日 土曜日 14時4分53秒

「唯一の愛」の証明

先日のJJFにて、当新聞編集長の藤井勇人さんと業界セミナーに登壇させていただきました。中国市場についての説明でしたが、その中でもあるブライダルジュエリーブランドの説明が興味深かったと多くの方からコメントを頂いたので、改めてこちらでも紹介させていただきます。

日本ではほとんど知られていませんが (ネットで検索しても日本語の情報は一切ヒットしませんでした)、中国では誰もが知っている『DR』というブライダルジュエリーブランドがあります。このブランドのダイヤモンドリングは特にデザインに特徴があるわけでもなければ、品質に特化しているわけでもありません。しかし、このブランドの粗利率は70%を超えており(ティファニーなどの海外ブランドでも60%台)、似たようなブライダルジュエリーブランドの同品質の商品と比較しても1.5倍前後の小売価格が設定されています。それにも関わらず、2010年に創業されたこのブランドは女性から圧倒的な人気を獲得し、10年足らずで急成長しました。2021年前半にはDRの売上は中国市場 最大のジュエリー小売企業である周大福の8割まで迫っています。

彼らの優れたポイントはブランドコンセプトにあります。ダイヤモンドが愛の象徴という のはよく知られたマーケティングですが、DRはこれに「唯一」という要素をプラスしました。つまり、「男性は生涯に一度しかリングを制作できない」という同社のキャッチコピーの通り、男性はDRで一生に一度しかエンゲージリングを購入することができません。 購入時には身分証明書番号(マイナンバーのようなもの)を登録する必要があり、その情報は全店舗のネットワークに共有されます。一度購入したら、その男性は二度とDRのリ ングを購入できないということになっています。どれだけお金を積んでも2回目は購入で きない、「唯一の愛」の証明というわけです。 このコンセプトは女性たちの心に深く突き刺さり、唯一の愛を欲する彼女たちの独占欲、男性を拘束したいという欲望にマッチしたのです。つまりDRはリングそのものではなく「唯一の愛」を商品化したことになります。これは商品のデザインや品質を超越した価値になり、この「唯一の愛」の証明を求めて女性は男性にDRの指輪を買うように迫ることになります。たとえそれがどんなに割高だったとしてもです。  

男性は購入するときに「一生に一人にだけ贈る」という同意書にサインし、身分証を「真実の愛の勇気の石板」と呼ばれる機器で(購入履歴がないか)検査、婚姻証書を模した「真実の愛の協定書」にサインすることになります。このプロセスも多くの女性の心を掴んだ理由の一つです。婚姻届の疑似体験ができるというわけです。  

男性は一生に一度しか贈れませんが、女 性は一生に一度しか受け取れないとは言っていないのもポイントです。ある意味女性は ノーリスクなので、男性にDRの購入を迫ることが容易です。これを断れる男性は多くはないでしょう。  

しかしよく考えれば、たとえ2回、または3 回結婚した男性がいたとしても、同じブラン ドで毎回エンゲージリングを買う人は稀でしょう。仮にいたとしても無視できる割合だと 思います。つまりDRは、もともと一生に一回しか(自分のブランドで)購入されない商品に対して「一生に一回しか売りません」という宣言をしたに過ぎません。実質的な機会損失をゼロにしながら、圧倒的なブランド価値の向上を実現したわけです。  

一方で、いくらブランドコンセプトが優れていても、それが消費者に認知されなければ何も価値を生み出しません。DRの2020年のビデオメディアへの支出は日本円で6億円を超えており、実際にTikTokやその他 SNSでのフォロワー数は海外ブランドを含む他のジュエリーブランドを凌駕しています。DRは様々なSNSで「2つ目のエンゲージメントリングはDRでは購入できない」「真実の愛は一つしかないので慎重に」などのメッセージを繰り返し投稿、DRのダイヤモンドリングが真実の愛の証明であるというイメージを強烈に消費者に刷り込んでいます。 商品に高い付加価値を設定し、その利益をプロモーションに回すことによって、よりブランド価値が高まるという好循環を生み出しているのです。もちろん、優れた店頭体験が、多くの消費者にSNSで拡散させたいと思わせるものであることも付け加えておきます。  

ジュエリーは元々、心理的価値の比率の大 きい商品です。ダイヤモンドリングはその最た るものと言ってもいいでしょう。つまるところ、 DカラーとEカラーの差も心理的な価値の部分が多いのではないでしょうか。つまり、DR のように我々の扱う商品は、どのように心理的な価値を創造するという部分で、まだまだ 消費者に対して訴えかける余地が非常に大きいということです。何度も申し上げていることですが、他社より安いことは、少なくとも生活必需品であるジュエリーにとってはブランド価値となり得ません。また過度な価格競争はジュエリー業界を疲弊させるだけでしょう。

ジュエリーの価値は物質的なものに加えて、消費者の心理の中に生み出されるものです。それを演出することがジュエリー企業の役割であり、今後の成長の可能性を大きくすることを、DRが証明しています。  

具体的なご相談や質問は、私のメールア ドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。

■連載コラム No.94 ■2022年9月1日 木曜日 9時52分48秒

パフォーマンスに対するプレミアム価格

 GIAは先日、2025年までに全てのレポートをデジタル化すると発表しました。紙の鑑定書をそれ以降に発行しないということです。最初にDossierレポートを全て2023年からデジタル化すると発表していますが、GIAはラボグロウンダイヤモンドのレポートに関しては既にデジタル形式でのみ提供しています。

 ダイヤモンド業界にもデジタル化の波が押し寄せてきていると以前から何度か説明してきましたが、特に2022年はそのスピードが更に加速しているように感じます。その背景にあるのはもちろんコロナ禍による様々な制限ですが、加えてロシアへの制裁、CSRに対する社会からの要求の高まりがあることは疑いようのない事実です。デジタルはそれらの課題に対するソリューションです。つまりデジタルは開発主導型で市場に投入されているわけではなく、主に市場からの需要がデジタルの導入を促しているのです。

 実際、Sarine社の提供する第三者原産地証明プログラム Diamond Journey Traceabilityは今年に入ってから日本での導入小売店を急激に増やし続けており、 対応するダイヤモンドの調達と生産がなかなか追いつかない状況になっています。  

加えてSarine社は先月、研磨工場内でのダイヤモンドグレーディングの開始を発表しました。これは、インドなどの研磨工場内に人工知能ベースの自動グレーディングシステムを設置すると言うもので、これによりダイヤモンドの公平な第三者鑑定が完結します。人工知能による高い鑑定精度と比類ない一貫性を実現しており、また生産されたダイヤモンドが鑑定機関へ提出して返却されるまでのタイムロスを限りなくゼロに近づけるため、企業のキャッシュフローにも貢献します。またSarine社の Diamond Journey Traceabilityシステムとのシームレスな連携により、より堅牢なトレーサビリティシステムを構築します。

 Diamond Journey Traceabilityはデジタル形式で提供されるので、前述のGIA と同様、顧客エクスペリエンスを向上させると共に店頭のオペレーション負荷を軽減するという効果もあります。小売店であれば経験があると思いますが、商品とその鑑定書の管理は時に問題を発生させます。 委託商品に鑑定書は添付されていたか、商品を一時的に店舗間移動した際に鑑定書も移動していたか、保管場所の並び順がずれていて目的の鑑定書が見つからない、などの経験をされた方も多いと思います。 また、保管状態が悪く劣化、破損することも悩みの種になる場合があるでしょう。

 SarineとGIAは奇しくもダイヤモンドの生体認証という手段でこの解決に取り組んでおり、近い将来的には、専用スキャ ナーによってダイヤモンドそのものから鑑定書データを呼び出すことが可能になります。店頭での利便性はもちろんのこと、デジタルへの信頼感が高い若い世代への魅力的なプレゼンテーションになると同時に、特に原産地証明付きのダイヤモンドに 関しては、ダイヤモンドそのものから原産地データを呼び出すというパフォーマンスが、より高い信頼性をアピールするものになるでしょう。

しかし一方で、これらの原産地証明付きダイヤモンドの導入に慎重な小売店も数多く存在します。それら小売店の主張として、“倫理的に調達された”ダイヤモンドにはコストプレミアムがある、というものがあります。つまり、原産地証明付のダイヤモンドは割高だということです。確かに、確実な原産地証明を取得し、それを加工、流通の経路にわたって追跡し、記録し、管理することには相応のコストがかかります。しかし一方で、マーケットでは国際的な相場感よりも大幅に安いダイヤモンドを見つけることがあると思います。しかしそれらのダイヤモンドには、その価格で提供できる何か特別な理由があるという可能性も考慮すべきだと思います。確かに原産地証明付きダイヤモンドには現時点で若干のコストプレミアムは発生するかもしれませんが、それにも相応の理由があるということです。スーパーで、生産者の顔が見える野菜が若干割高でも購入する人は多くいます。相場より異常に安い野菜の価格を警戒する人はいても、その最低価格を基準にして、生産者の顔が見える野菜を 「割高でぼったくりだ」という人はほとんどいないでしょう。しかし、なぜかダイヤモンドに なるとそう感じる人が中にはいるようです。

デビアスの最新のダイヤモンドインサイトレポートでは、消費者の56%が倫理的だと証明された天然ダイヤモンドに対して 10-20%のプレミアム価格を支払うと答えており、17%の消費者は25%までのプレミアム価格を受け入れると答えていることが報告されています。  

確かに、同じ品質のダイヤモンドであればできるだけリーズナブルに提供することも企業努力であり顧客サービスの一部です。今までは間違いなくそれは真実だったでしょう。しかし、ジュエリーは生活用品と異なり主に感情的な価値を重視するアイテムであって、新しい世代の消費者の意識がどう変化してきているかを理解すれば、 今後何が顧客にとって価値の高いサービ スであり、求められるのかは想像に難くないと思います。  

具体的なご相談や質問は、私のメールア ドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。

■■連載コラム No 93 ■2022年7月30日 土曜日 12時58分46秒

ビジネスの本質として理解すべき点

消費者にとってはそうではありませんが、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドの対立構造は世界中のジュエリー業界の中に今でもまだ強く残っています。前回のコラムでは、天然ダイヤモンドに長年携わる業界人ほど感情的な判断に左右されやすいという話をしましたが、中にはもっと理論的な理由で明確にラボグロウンダイヤモンドに対してNOを言う人も存在します。例えば、ラボグロウンダイヤモンドは資産価値がなく、故に価値がないという理論です..

実はこの議論は、マーケットにラボグロウンダイヤモンドが登場し始めた数年前から提起されていたものです。ラボグロウンダイヤモンドの議論の際には事あるごとにこのトピッ クが扱われ、資産的な観点から価値がないと言われることもしばしばあります.
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先月7月12日、RAPAPORTとIGIが主催したウェビナー(パネルディスカッション)でも実際にこの点が議論されました。それは、 価値と価格は意味が異なるということです。 価値はその商品がどのようなものであるかを意味し、価格は消費者がレジカウンターで支 払う数字を意味します。

資産価値や投資価値とはどのようなものでしょうか。基本的には購入時の金額と売却時の金額が近いものを言います。つまり、ポイント Aで購入した商品をそのままポイントBに持っていって売却した場合、ほぼ同じ価格で販売ができることを意味します。有価証券や金のイ ンゴッドなどを想像するとわかりやすいと思います。一方で天然ダイヤモンドのジュエリーで あっても、宝石店でお客様が商品代金を支払い、その店の扉から商品を持って出た瞬間に、その商品の再販価格は大幅に下がります。お客様が支払ったのは価格だからです。少なくともある程度の金額で現金化しやすい商品ではあると思いますが、それでも売却する際には購入価格を大きく下回るでしょう.
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ラボグロウンダイヤモンドの場合はどうでしょうか。現在、少なくとも日本市場にラボグロウンダイヤモンドの「業界としての」環流マーケットは存在しないので買取屋に持って行ってもダイヤモンド自体を現金化することは難しいでしょう。将来はそのようなマーケットが出来上がる可能性も十分ありますが、劣化しないラボグロウンダイヤモンドは今でもフリマサイトなどで現金化することが可能です..

ここで簡単な算数の計算をしてみましょう。  現在、ラボグロウンダイヤモンドの小売価 格は同等の天然ダイヤモンドの3割〜4割程 度です。一方、天然ダイヤモンドの買取屋での買取価格はサイズにもよりますが小売価格の3割〜4割になると思います。仮に100万円の天然ダイヤモンドを購入した場合、再販価格は多く見積もって40万円になり、60万円の損失が発生することになります。一方同等のラボグロウンダイヤモンドは小売価格が40 万円程度になりますから、仮に再販価格がゼ ロだとしても、損失は40万円になり20万円を多くセーブできる計算になります。

ここで理解していただきたいのは、天然ダイヤモンドの価値の有無について論じたい訳で はないということです。上記の計算のように、 そもそも再販価値の理論を我々のビジネスに持ち込むこと自体がナンセンスだということを私は強調したいと思っています。万が一将来現金化したいと思った時にある程度の金額で買い取ってもらえるということは商品の持つ 副産物的な側面かもしれませんが、我々のビジネスの本質ではないからです。我々は投資ビジネスをしているわけではないのです。再販 価値が高いものに意味があるのであれば、ダイヤモンドの代わりにPS5でも贈った方がよっぽど喜ばれるでしょう。しかし実際はそうではありません。自動車の色は白を選んだほうが再販価値が高いことはよく知られていますが、多くの人は自分の好みで色を選びます。エンゲージメントリングを贈るときに「再販価値が高いものを選んだよ」と説明すれば、かなりの確率でビンタされるでしょう。

現在、米国ではラボグロウンダイヤモンドの エンゲージメントリングを購入するカップルが増加傾向にありますが、彼らはラボグロウンダイヤモンドの再販価値が低いことを十分理解しています。それでも、人生のその瞬間を祝うためにラボグロウンダイヤモンドを購入しているのです。米国でラボグロウンダイヤモンドを取り扱う多くのショップでは天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドを併設販売しているところが非常に多いですが、これはショップ側 のメリットとして、機会損失を最小限にする効 果があるからです。一方消費者にとっては、両方の適切な説明を聞いて自分で選択できるというメリットがあります。ラボグロウンダイヤモンドを取り扱っているからショップの信用度が下がるという懸念は2019年頃までの話であり、2022年現在ではもはや過去のものです.
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私も20年以上天然ダイヤモンドのビジネスに携わっていますが、消費者から「どのダイヤモンドが投資価値が高いですか?」と質問されたことが何度かあります。その度に「ダイヤモンドは投資価値として購入するものではないので、ご自身が美しいと思って気に入ったものを購入されるのが一番です。」と説明してきました。実際のところ、投資対象となるダイヤモンドは世界生産の1%ほどであり、通常のジュエリーショップに置いてあるものは それ以外のものです。ジュエリーの価値はそれを身につける人、またはそれを贈る人と受け取る人の中で決定されるものです。我々 は、真実を消費者に伝え、選択肢を提示し、 彼らが自分の望むものを購入するサポートをすべきではないでしょうか。再販価値は我々の提供する商品の本質ではないのです..

実際どのような選択肢をお客様に提供できる可能性があるのか、LGDEAL(www.lgdeal.com)でいつでも調べることが可能です。また具体的なご相談や質問は、私のメー ルアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■■ 連載コラム No.92 ■2022年7月5日 火曜日 6時29分11秒


先月、LVMHグループの投資ファンドがイスラエルのラボグロウンダイヤモンド生産企業に投資をしたことが報じられ、世界で話題になりました。これを一側面的に捉えて「ハイブランドがラボグロウンダイヤモンドを採用するようになる」と解釈するのは早合点だと思いますが、 世界のダイヤモンド業界が早いスピードで変化していること自体は疑いようがありません。

一方で、デビアスがLIGHTBOXを発表して以降、日本のジュエリー業界ではラボグロウンダイヤモンドに対して中立的な視点を持つ人が増えてきたと思いますが、それでも尚且つ「ラボグロウンダイヤモンド」と聞くと脊髄反射的に拒否反応と嫌悪感を示す人が業界では少なくないのも事実です。肉を食べている人を見るだけで顔をしかめる一部のヴィーガンの心理にも似ているようにも見えますが、まだ「合成ダイヤモンド」と呼ばれていた6-7年前の感覚のままのようです。中には、ラボグロウンダイヤモンド側の天然ダイヤモンドに対する挑戦的な態度それ自体(環境、価格)に対しての嫌悪感を持っている人もいると思いますが、多くの人はもっと感覚的な態度を示しているように見え、特に天然ダイヤモンドに携わってきた期間が長く、また天然ダイヤモンドに対しての愛情が強い方にその傾向が見える気がします。私の個人的な感覚では、一般消費者よりも業界人の方がその傾向が強いように見えることから、やはり天然ダイヤモンドへの愛情や愛着がラボグロウンダイヤモンドに対する拒否反応を引き起こしているのだと感じます。 私自身20年以上ダイヤモンドビジネスに携 わってきており、ダイヤモンドに対する愛情は決して皆さんに劣るものではないと思っていますが、今回よりその心情の理解に努めようと考え、以下のような「作り話」を想像してみました。

私はワイン愛好家であり、ワイン造りの歴史、葡萄を成長させる自然、生産に関わる全ての人々の努力と工夫と情熱に敬意を払っています。素晴らしいワインを飲むときには、その背後にある様々なストーリーを感じることができます。しかしある日、あるテクノロジー企業がラボで人工的に再現した「ラボワイン」を発表したとします。(ワインの成分は水、アルコール、グリセリン、アントシアニン、ミネラル、糖類などで、既存のワインを分析して同じものを人工的にコピーすることはいつか可能になるかもしれません。後で調べたら実際にその研究をしている企業がアメリカにあるようです。)その空想の企業はロマネコンティを完全にコピーしたと言い、世界トップのソムリエでもブラインドテストでどちらが本物かを判断することはできないと主張します。私の最初の瞬間的な感情は「ワインの歴史や自然、生産者に対する冒涜だ!受け入れられない!」でした。この感情は、ラボグロウンダイヤモンドに拒否反応を示す多くの方が抱いている感情と極めて近いものだと思います。しかし、その後(空想にも関わらず)飲食店、消費者にとって、またワイン生産者にとってどのよう な影響があるのかしばらく考えてみました。このコラムはジュエリー業界向けなのでワイン市場の詳細は省略しますが、一部の国を除いて一人当たりのワイン年間消費量は決して多くありません。そしてそのほとんどの人々は安価なテーブルワインを飲んでいます。一部のワインは品質が粗悪で、また質の悪い保存料が添加されています。これらのワインは多くの人をワイン嫌いにしている原因かもしれません。一方でロマネコンティはもとより、ボルドーの5大シャトーなどの有名ワインが、99.9% の一般的なワイン消費者の口に入ることは一生ありません。しかし「ラボワイン」であれば、ロマネコンティと同じワインを比較的安価に多くの人が経験できるかもしれません。安いだけで質の悪いワインが淘汰され、ワインを楽しむ人口が増えるかもしれません。ミシュランレストランでは本物のワインだけを扱いますが、カジュアルなレストランでは楽しみ方の選択肢が増えるかもしれません。 そしてそれらは決して本当に質の良いワインを作っているワイナリーの価値を毀損しないでしょう。心理的な価値の側面からも投資価値の側面からもそれらは別の市場を築くからです。そして消費者として個人的に、何よりまずは試してみたいと純粋に思うようになりました。どう感じるかは、自身で実際に体験してみないとわからないからです。 その結果、自然と人々の努力が生み出した奇跡の結晶である本物のワインを飲む楽しみは変わりま せんが、新しいワイン市場の可能性と楽しみの選択肢が広がったと捉えることができるのかもしれません。(あくまで空想の話です、念の為。

ダイヤモンドに関しても同じではないでしょうか。1ctアップのダイヤモンドを身につけられる人が世界中で何%いると思いますか?多くの一般人は0.20ct又は0.15ctの天然ダイヤモンドで満足するべきでしょうか?ラボグロウンダイヤモンドの 1ctは価値がないから、天然の1ctを買えない人は0.20ctの天然ダイヤモンドで我慢しなさい、と業界全体で消費者に啓蒙すべきでしょうか?私たちは何かを批判するのではなく、消費者に対して全ての情報を開示し、業界として選択肢と機会を広げることを考えるべきではないでしょうか。何を販売するかの自由が小売店やブランド側にあるのと同様、何を購入するのかの選択肢は(それが 世の中に存在する以上)消費者側にあるのです。

私は天然ダイヤモンドビジネスに加えて、世界展開しているラボグロウンダイヤモンドのオンライン取引プラットフォーム『LGDEAL』(www.lgdeal.com)のプロモーションを担当していますが、欧米ではもちろん、日本でも多くの方が実際に取引をするかどうかに関わらず、登録をして世界中のラボグロウンダイヤモンドの市場動向をウォッチングしています。一方日本では特に異業種からの参入やスタートアップブランドの方の登録が多く、既存の宝飾企業は相対的に多くありません。しかし、天然ダイヤモンドを取り扱う小売店やブランドの方であっても、ラボグロウンダイヤモンドの市場を理解しておく必要があると思います。「嫌いだから見たくない」では一部のヴィーガンと変わりませんし、「合成ダイヤモンド」の鑑別方法を勉強するだけが、理解を深めることではないのです。市場全体の解像度を上げることは、天然ダイヤモンドビジネスにとってもきっとプラスになるでしょう。 CVDとHPHTでどのような流通傾向があるのか、1ct. D VVS1が現在どのくらいの相場なのか、サイズの上下幅と中心レンジはどのくらいなのか、どのシェイプの在庫が豊富なのか、どのカラーレン ジのものがどれくらいあるのか、それらをご存じですか?もし少しでも知りたいと思われたら、是非 LGDEALに登録して常時11万点を超える世界中の在庫を見てみてください。登録は無料です、そしてもちろん決して購入を強要は致しません。  

具体的なご相談や質問は、私のメールアドレ ス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂 けますと幸いです。
■■ 連載コラム No,91 ■2022年6月1日 水曜日 10時38分8秒

各国で始まった市場戦争

ロシアのウクライナ侵攻はこの数ヶ月、ダイヤモンド業界に想像以上に大きな変化をもた らしました。前々回のコラムでも触れましたが、ロシアは世界の3分の1近くのダイヤモンド供給を担う産出国です。しかしロシアに制裁が課されるにつれ、ロシア産のダイヤモンド原石の供給は停滞しています。紛争がいつ終了するかはわかりませんが、たとえ紛争が明日終了したとしても、供給体制が改善するには 時間がかかるでしょう。  

この状況の影響で、先月(5月)は世界中のダイヤモンド業界で2つのトピックが非常にホットになりました。「トレーサビリティ」と「ラボグロウンダイヤモンド(以下LGD)」です。

GIAは独自の原産地検証サービス「GIA Source Verify」を発表しました。この発表は多少見切り発車のようにも見え、またサービス開始時期などは不明であるものの、このサービスは低コストで導入できるため、特に GIAの需要が大きいマーケットでは有効性が高そうです。  

またデビアスは以前より準備していた Tracrプログラムの実装を急遽早め、今年4 回目のサイトで一定サイズ以上のダイヤモンドにこの追跡データを付与しました。これはデビアスサイトからの原石であることを保証するもので、特定の鉱山情報は記録されていません。しかしロシア産ではないという保証を求める多くの、特に米国のジュエラーにとっては有効なソリューションになるでしょう。

私も携わっているSarine社では、既にダイヤモンドパイプラインの中に組み込まれてい る(市場シェア80%とも言われる)同社のシステムのデータを利用して原産地検証をする システム”Diamond Journey Traceability” サービスを以前より提供していますが、特に ロシア制裁以降、世界的に関心と需要が急増しています。

これらは全てサプライヤー側からの提案ではなく、多くの小売店側からの強い要望によって急速に導入が進んでいるのです。

また、ロシアからの原石供給の停滞と将来に 対する不安は、各地の業界でLGDへの注目を 大きくするきっかけともなっています。インドでは政府機関がLGD産業を支援するプロジェクトを提案、LGDを国内産業の重要な部 分に位置付ける姿勢を示しています。天然ダイヤモンドで培ったノウハウを活用し、この分野でも産業を発展させていく考えのようです。

また私の住む上海のある中国では、5月に広州ダイヤモンド取引所主催のLGD展示会及びフォーラムディスカッション(LGD-IDIC)が開催されました。このイベントはオフライン(実会場)とオンラインを組み合わせて開催され、国内のプレイヤーはもちろん、CIBJO、GIA、 Synova、Sarineなどの国際的ダイヤモンド関連企業、組織が参加する大規模なものでした。

私は都市封鎖の影響で現地に赴くことができずオンラインで参加しましたが、LGDを新しいマーケットと明確に位置付けて整備を進めている業界の力強いエネルギーを感じました。中国はLGDの生産国から、洗練された消費マーケットを持つ国へと進化しようとしています。か つて生産効率、技術革新、コスト改善という軸でLGDを論じていた人々が、今回のフォーラムでは「マーケティング」「ブランディング」「サスティナビリティ」といったキーワードを軸に議論を展開していたのがその証拠です。業界内の知識を蓄え、共有し、適切な説明を消費者に行えるマーケティング的な土壌を作ることによって小売市場を整備しようとしているのです。

誤解のないように申し上げますが、私はここで日本のジュエリー企業にLGDの導入を勧めている訳ではありません。過去のコラムでも何度もお話ししてきた通り、どのような商材をどのような価格で取り扱うかは、個々の企業のコンセプトやポリシーに従って決定されるべきであり、それが法の範囲内であり、お客様への説明が適切になされている限り、この場で特定の商材の取り扱いを推奨も批判もしません。ただ、日本ではこのカテゴリーに対して適切な議論がなされずに、ひたすら目を伏せているだけのような気がしてならないのです。そしてそれが、業界として消費者に対しての責任を果たせているのかも疑問に感じています。インスタグラムなどのSNSを見ると、日本では個人のインフルエンサーがLGDの販売をしているケースも多く、そのいくつかでは不正確な、または不適切な表現や説明も度々見受けられます。

このフォーラムでは香港を拠点とするLGDジュエリーのグローバルECプラットフォームを運営する(周生生を母体とする)企業、The Future RocksのCEOも登壇し、中国本土と日本市場で今後マーケティングを強化していく計画を明確に宣言しました。スピーチで特に日本市場への期待を何度も強調しており、 市場として強く意識していることが窺えます。 実際に同社は日本市場でのPRに資金を投じ始めており、今後露出が増えていくことが予想されます。(CEOのAnthony Tsang氏は快く個人的なWeChatの交換に応じ、私の疑問に答えて下さった非常にフレンドリーで丁寧な方だったことはここで付け加えておきます。)

つまり、日本が業界として見ぬふりをしている間に、海外では国や業界を挙げてこのカテ ゴリーの発展を促進しており、一方日本では個人や異業種がこのカテゴリーの商品を(正 しい方法と正しくない方法入り混じって)宣伝し始め、海外企業が資金を投じインターネッ トというボーダレスな方法を用いて日本に進出してきているという状況が既に起こってい るのです。この状況を知って危機感を覚えない方は恐らくいないと私は信じていますが、いかがでしょうか。具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■■ 連載コラム No89 ■2022年4月3日 日曜日 14時29分26秒

流通の透明性から考えるトレーサビリティ

ロシアによるウクライナでの軍事展開は、世界中のダイヤモンド業界でも大きな関心事になっています。3月11日、米国バイデン政権はロシア産のキャビアなどの海産物、ウォッカ、そしてダイヤモンドの輸入禁止を発表、同国への経済制裁を強化しました。ダイヤモンド業界では、ロシア産ダイヤモンドの供給が停滞することでダイヤモンドの価格上昇を更に加速させるのではないかとの懸念に加え、ロシア産ダイヤモンドの取り扱いの是非に関しても議論の対象となっているのです。  

現在、世界のダイヤモンドの供給の30%ほどがロシア産と言われています。ここ数ヶ月ダイヤモンドの価格は異常な高騰を見せていますが、世界の約1/3の供給を担うロシア産のダイヤモンドにブレーキがかかると更なる価格高騰を招くと懸念されています。また、ロシアで採掘されるダイヤモンドの約9割はアルロサによるものですが、アルロサは1/3をロシア国家が所有、残りの 1/3を地方政府が所有しています。その為、ロシア産ダイヤモンドの購入はロシア政府の軍事活動を支援することになると考えられており、ボイコットの動きが世界的に広まっています。  

ロシア産ダイヤモンドは国連の定義する 「紛争ダイヤモンド」には該当しません(紛争ダイヤモンドの定義は「正統的な、かつ国際的に承認された政府に反対する勢力の制圧下にある地域で産出し、これら政府に対する軍事行動向け資金として利用されるダイヤモンド」となっています)。その為ロシア産ダイヤモンドはキンバリープロセスによる規制の対象にはなっておらず、加えて現時点でロシア産ダイヤモンドの輸入禁止措置をしているのはアメリカだけです。アメリカが輸入規制しているのは「ロシア産ダイヤモンド原石」及び「ロシアでカットされたダイヤモンド」であり、「ロシア産原石を別の地域でカットしたもの」は依然としてアメリカに輸入が可能です。つまり、ロシア産原石をインドでカットしたものはアメリカに輸入する際の書類には「インド産」と記載され、規制の対象とはなりません(当コラム執筆時点)。  

一方で、この軍事展開はブランドや一般消費者からロシア産ダイヤモンドに対する懸念を引き起こす可能性があります。実際、アメリカ最大手ジュエリー企業、シグネット・ジュエラーズはロシア産ダイヤモンドの調達中止を表明、サプライヤーに対しても「ロシアが軍事作戦を開始した2月24日以降に購入したロシア産ダイヤモンドや貴金属がシグネットに存在しない」ことの保証を求めています。またエシカルをコンセプトとするジュエリーブランド、ブリリアント・アー スはロシア産ダイヤモンドの販売を早々に中止しました。

このコラムは政治を論ずるものではないので、ロシアの軍事展開について、またロシア産ダイヤモンドの取り扱いについて是非を述べるつもりはありません。しかし、この問題は我々ダイヤモンド業界に対して透明性を強く求める流れになってくることだけは間違いないでしょう。消費者は幸せの象徴 としてのダイヤモンドを購入するために実店舗又はWebショップに訪れており、可能な限り戦争に関わりのないソースのダイヤモンドを入手したいという人が増えることは想像に難くありません。  

ご存知の通りダイヤモンドはトレーサビリティの証明が非常に難しい商材であり、今まで明確なトレーサビリティを打ち出せるブランドは限られていました。しかし現在では、鉱山単位で、サプライヤーのプログラムとして、鑑定機関の取り組みとして、そして第三者による認証としてなど、様々な形態のトレーサビリティの実現が可能になってきています。ブランドや小売店のトレーサビリティの導入も、以前と比較すると、ずっとハードルが下がってきているのです。  

今回のロシアによる軍事展開は、ダイヤモンドの供給や価格の面で業界に懸念をもたらしただけでなく、ダイヤモンド流通の透明性の問題へ強い圧力をかけるものにしました。現地の緊張状態はテレビだけでなく、ネットニュースやSNSを通じて毎日何度も消費者の目に触れています。エシカルや社会問題への意識がかつてなく高まっている現在、このような状況は消費者のエシカ ルに対する意識を更に高め、企業やブランドに対しての要求や圧力を強めています。

依然、全ての消費者が原産地の開示を求めるわけではありません。しかし、このような社会的な要求は確実に徐々に強まっており、どこかのタイミングで対応する必要が出てくることは間違いありません。今後、エシカルな意識の高い消費者の信頼を得ることはブランドや小売店の全体的な信頼性において重要度を増してきます。  

幸いなことに、現在では前述の通り消費者へエシカルなダイヤモンドを提案する数々の方法やプログラム、商材が存在し、導入が比較的容易になっています。消費者へ信頼と安心を提供できるダイヤモンド業界に向けて、今後も取り組みがで きると幸いです。  

具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■連載コラム No、88 ■2022年3月1日 火曜日 11時1分43秒

天然ダイヤモンド固有の価値にフォーカス

今回は少し、日本のラボグロウンダイヤモンドの状況について触れたいと思います。  

日本では2019年以降ラボグロウンダ イヤモンドのブランドが徐々に市場に登場してきていますが、昨年2021年後半より新ブランド開発が加速しています。 試しに現在ラボグロウンダイヤモンドを 取り扱っているジュエリーブランドを調べてみたところ、ネットやSNSで40ほど 確認することができました。これ以外に、会員制サロンでの販売や店頭のみでの扱い、ECモールへの出品企業などを含めていくと60前後には達するでしょう。 また、新規ブランド開発の相談も日々受けており、今後も新規ブランド開発は更に進むと思います。  

これらは異業種からの参入やスタート アップなどが多く、また既存ジュエリーブランドが新たにラボグロウンを取り扱う場合でも新規事業チームとして既存 チームとは別に立ち上げることが多いようです。これらのブランド運営に共通しているのは、知識意欲と知識レベルが高く、それを消費者に啓蒙する姿勢が非常 に強いということです。

当然と言えば当然ですが、ラボグロウンダイヤモンドは新しい素材ですのでそれを取り扱う為にはそれ自体についてよく知る必要があります。それは同時にダイヤモンド全体についての知識が要求されることにもなるので、ラボグロウンダイヤモンド取扱ブランドの知識の範囲は必然的に広い範囲に及びます。ラボグロウンダイヤモンドの製造方法、それぞれの違い、製造国、ダイヤモンドのグレードに関してはもちろん、ダイヤモンドの結晶構造、屈折率、ダイヤモンドタイプ、含まれる不純物の種類、蛍光性、ダイヤモンド鑑別方法、天然ダイヤモンドの産出国、キンバリープロセスの成り立ちや機能、ダイヤモンドの価格推移や国際相場、また鑑定書を発行している主に海外の鑑定機関や支店による鑑定傾向の違いまで知っている人も少なくありません。そして彼らは直接お客様に、自社Webサイトを通じて、またはSNS投稿で、時にはライブ配信でその情報を公開し続けています。

3年以上前であれば、ダイヤモンド販売にこれほど広範囲に及ぶ知識が必要になると誰が想像したでしょうか。このような情報がSNSなどで日々公開され、 消費者が知識を得る時代になると予想できたでしょうか。

ラボグロウンダイヤモンドの登場はダイヤモンド小売市場『全体』を変えつつあります。天然ダイヤモンドもラボグロウ ンダイヤモンドもそれぞれ異なる魅力と価値を持つ商材であり、何を取り扱うかはそれぞれのブランドや企業のポリシーによって決定されます。天然ダイヤモンドに特化したブランドも立派な戦略であり、現在はその方針自体がブランド価値になり得ます。しかし一方で新しいプレイヤーが市場に新しい商品と知識を提供し続けている中で、既存の企業が(結果的にであったとしても)天然ダイヤモンドに特化するということは、その固有の価値を新たに追求していく必要があることを意味しています。つまり、ラボグロウンダイヤモンドの登場によってダイヤモンド市場が「天然ダイヤモンド」と 「ラボグロウンダイヤモンド」にカテゴライズされるようになったということです。 この傾向は以前からありましたが、今年に入ってさらに加速しているように見えます。

既存のジュエリーブランドや企業で、ダイヤモンドタイプなど上述したトピックについて社員や販売員が十分な知識を持っていると言える企業は決して多くないでしょう。しかし、今後は市場の変化に合わせてアップデートが必要になっていきます。例えば、新たな価値観の世代の台頭がダイヤモンド業界にもエシカル消費の圧力を高めている中で、トレーサビ リティなどの新しい付加価値を取り入れる天然ダイヤモンドのブランドが出てきています。トレーサビリティは天然ダイヤモンド固有の価値にフォーカスした付加価値であり、ゆえに天然ダイヤモンドについてのより広い知識が求められます。このようなブランドは天然ダイヤモンドのカテゴリーとして価値を高め、消費者の信頼をますます勝ち取っていくでしょう。

一方で、この変化を意識することなく、 漫然と「今までそうだったから」という理由で何も行わず、アップデートしないブランドや企業はいずれ淘汰されていく可能性が高いのです。市場の変化を認識し、自身の立ち位置を決定し、アップデートし続ける。これが今後全てのダイヤモンド企業に求められる姿勢であることは間違いありません。

具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛 に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■連載コラム No.87 ■2022年1月30日 日曜日 11時2分55秒

時代に合わせて進化する道を選択

先月25日、老舗メゾンのブシュロンが Sarine社(イスラエル)のダイヤモンドジャーニ・トレーサビリティ及びAIグレーディングを採用したと発表があり、話題になりました。  本誌でもニュースとして取り上げられるかもしれませんが、コラムとして私なりの視点で本件を紹介したいと思います。

BOUCHERON(ブシュロン)は説明の必要もないほど有名なブランドだと思います。1858年創業、ハイジュエラーとして初めてパリのヴァンドーム広場にブティックを構え、グランサンクにも数えられている老舗中の老舗メゾンです。すでに確固たるブランド地位を築いてきた同ブランドにとって、新しいことに挑戦する必要はないように見えます。しかし、同ブランドがこの最先端テクノロジーを採用した背景には、密接に結びつく2つのことが関係しています。消費者の世代交代と、それに伴うサスティナブル消費の増加です。  
前回のコラムでも取り上げましたが、Z世代の台頭と、SNSを中心とした情報と価値観の拡散は、消費者から企業への社会的責任対応への圧力をかつてなく強めています。どんな情報にも容易にアクセスできる世代にとって、業界内でのシークレットとされていた問題はもはやオープ ンになりつつあり、業界の裏側に関して知っている消費者も少なくありません。  
ハイジュエラーとしてティファニーは独自のトレーサビリティプログラムをいち早く採用しており、国際的な人権 NGOの「責任ある調達のジュエリー企業格付け2020」でもトップに位置付け されていましたが、現在では他にも多くの大手ジュエラーで社会的責任に対する対応の強化と表明が年々進んできています。つまり、どのジュエラーであってもサスティナビリティは必須の課題に なっているということです。  
このような状況でブシュロンが選んだのは、第三者による原産地証明と、人工知能によるグレーディングの自動化というデジタルソリューションの採用です。 Sarine社の提供するトレーサビリティプログラムは、原産地から研磨済ダイヤモンドに至るまでの包括的で検証可能なソリューションです。ダイヤモンド原石 は原産地で3Dスキャンされ、データは位置情報と共に専用クラウドにアップロードされます。研磨工場に原石が到着すると再度3Dスキャンされ、登録済の原石データと照合されます。それぞれの原石の詳細なカットプラン、カットプロセスのデータが工程毎にクラウドにアップ ロードされ、研磨の完了したダイヤモンドは最終的にSarine Lab.に提出されま す。そこですべてのプロセスの検証を行 い、すべての工程において追跡が認められたダイヤモンドにデジタル原産地証明 が発行されます。

Sarine Lab.では人工知能を使用した最先端のダイヤモンド鑑定を採用しています。カラーとクラリティの判定にAIを使用し、スキャンしたダイヤモンドをデータベースと照合するという完全自動化プロセスにより、ダイヤモンド鑑定から、人的、地理的、市場的な要因を完全に排除、か つてない高い客観性と精度、そして高い再現性のグレーディングを実現しました。  
改ざん不可で検証可能な第三者によるトレーサビリティ、AIによる正確なダイヤモンドグレーディング、それらをブランドの世界観と融合させ統合させたデジタル形式のダイヤモンドレポート。このアプローチは、デジタルネイティブで社会問題意識の高いミレニアル世代及びZ 世代に対して特に有効です。

ブシュロンのCEOはこのポイントにつ いて「私たちのビジョンは、世界的なサスティナブルへの取り組みにおいてジュエリー市場をリードすることで、それは信頼性の高い安全なデータと透明性を通じてのみ達成できます。ブランド世界観の中で歴史とダイヤモンドに関するすべ ての情報をデジタルプレゼンテーションとしてお客様に提供することは、フィジカルとデジタルが存在する現在の世界において必要不可欠で重要なステップです。」と表現しています。  
ブシュロンは老舗サロンでありながら、時代に合わせて進化する道を選択しました。それは決して容易な選択ではなかったはずです。また古くからの顧客の中にはこのような変化を嫌う人も少なからずいるでしょう。しかし、時代の価値観に合わせて変化をすることは、長期的に見れば必ずブランド価値を更に高めるものとなります。

急速に変わりゆく時代にあって、皆さんが方向性を模索する参考になれば幸 いです。 ブシュロンのデジタルレポートサンプルは、QRコー ドからアクセスできます。

具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛 に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■連載コラムNo.86 ■2021年12月25日 土曜日 15時50分21秒

社会的正義と責任が購買行動の決め手

新年おめでとうございます。本年が皆様にとって希望に満ちた、挑戦的な変化の年となるよう願っております。
 2022年以降、日本を含む世界は大きな変化を始めます。「スマホ時代」とタイトルしたこのコラムも丸6年を超えましたが、開始当時このスマホ時代という言葉はミレニアル世代を意識したものでした。しかしこの数年の間に、その次の世代であるZ世代が台頭してきています。Z 世代は一般的なイメージよりも年齢層が高く、上は今年26歳になる年代までが含まれます。この生まれた時からネットに囲まれて育ってきた世代が、今後の消費の大きな部分を占めるようになっていきます。生まれた瞬間からテクノロジーに触れ、iPadを与えられて育ち、画面はすべてタッチスクリーンだと思い込みテレビも指でスワイプしてしまう、FBは古いと感じ、算数は音声AIが手伝い、化粧の方法はアプリや動画プラットフォー ムで学ぶような、テクノロジーとの融合 レベルが段違いに高い世代です。

 かつてうまくいっていたマーケティングやブランド戦略もZ世代に対しては効果がなく、どの業界も例外なく新しいア プローチへの挑戦が必要です。ある企業はそれをチャンスとしてZ世代へ寄り添 い変化し、ある企業は現状にしがみ付き、過ぎることのない嵐が過ぎるのをひたすら待つことになります。

 この世代の特徴の一つに、社会的価 値観の衝突の中に生きているということが挙げられます。SNSやニュースサイト、ウェブなどの社会問題の激論を常に目にし、また発言をするZ世代は、上の世代とは異なる何かを求める期待や願望を持ち、多くの社会問題を容認できないと考える姿勢がとても強い傾向にあります。つまり、Z世代は社会正義を購買行 動の決め手にします。

 2018年にスポーツブランドのナイキは、有色人種差別抗議のために試合前の国歌斉唱で片膝をついてリーグから追放されたアメリカンフットボール選手を広告に起用、「何かを信じろ、たとえすべてを犠牲にするとしても」というコピーと共に展開しました。これにメディアでは批判の嵐が起き、ナイキのスニーカーを燃やすなどの抗議行動に発展するなど大炎上したのです。しかし、このナイキの行動はZ世代からは圧倒的な支持を得ました。ナイキの株価は四半期決算で9.2%上昇し、消費者からのエンゲージメントは大幅に上昇しました。ナイキは、ロイヤルティの高い長期顧客の一部が離れようとも、自己定義する道を選び、今後の重要な購買層であるZ世代に対する明確な姿勢を示しました。

 今後のマーケティングが過去と大きく異なる点は、全ての年代に受け入れられる戦略は存在しなくなるということです。今後、ナイキの例のように世代による価値観の分断は必ず起きるでしょう。すべての人を喜ばせようとするブランドは、今後誰からも支持されないブランドになります。Z世代は、自分達の価値観に合致し、それを表明する企業やブランドを求めているのです。

 昨年末、アメリカのラボグロウンダイヤモンドジュエリーブランド「VRAI」では興味深いオークションが実施されました。一つの原石から削り出された世界初の4.7ctsの特別なソリティアクロスダイヤモンドですが、このダイヤモンドをより特別にしたのはそれ以外に、ローマ教皇フランシスコの祝福を受けた後、オークションされたという事実です。このローマ教皇は以前より鉱業分野での社会問題に関心を持っており、「近視眼的で貪欲な経済モデル」と鉱業分野を非難したこともあります。天然ダイヤモンド採掘が環境に与える影響の議論は単純ではありませんが、今回ローマ教皇がラボグロウンのクロスダイヤモンドを祝福したことにより、その祝福はラボグロウンダイヤモンドの生産方法自体に関するローマ教皇の明確なメッ セージとなって世界中の人々に伝わりました。「VRAI」は自社の明確な姿勢をロー マ教皇の祝福という手段で世界中に示したことになります。非常に効果的で優れたプロモーションというしかありません。

 Z世代は企業にお金を使う前に、その企業が商品よりも大切なものを追求しているかどうかを知りたいと願っています。 逆に、その立場を表明していない企業に関しては疑いの目を向けます。ラボグロウンダイヤモンドだけが彼らへの答えではありません。大切なのは、ジュエリー企業としてそれぞれが社会的責任、社会的正義に対する明確なメッセージを持ってZ世代へ向き合えるかということに尽きます。

 Z世代はブランドを買うのではなく、ブ ランドとの絆を作ることを求めていると言われます。商品をどう製造しているのか、商品によって何が達成できるのか、どれだけ真剣に社会的責任に向き合っているのかなどのあらゆる側面での共感を期待しているのです。

 この世代は多く、消費の表舞台へ流れ込んで大きな力を持つようになり、今後数年間にわたり増加し続けます。つまり、2022年はZ世代の価値観に合わせた挑戦的な変化をスタートするのに最適な 年と言えるのです。新しい時代に向けた皆様の挑戦に、今年も参考になる情報をお届けできますと幸いです。

 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に 直接ご連絡頂けますと幸いです。
■連載コラム No85 ■2021年12月1日 水曜日 11時16分42秒

宝石本来のプラシーボ効果を

ここ何度かのコラムで、ブランドのイメージを強化することが消費者にとっての商品の魅力を作り出し、価格競争から抜け出すポイントだとお話ししました。宝飾業界ではないですが、その面白い実例があったのでご紹介したいと思います。  
レッドブルというエナジードリンクを皆さんご存知と思います。1987年にオーストリア の起業家がタイで創業したこのエナジードリンクは、ソフトドリンク業界としては新参者であったにも関わらず短期間で急成長、2013 年には世界のエナジードリンク市場で7割のシェアを取るまでになりました。レッドブルのマーケティング戦略は世界中の経済学者の研究対象となっているほど独特なものですが、よく知られているのは、同社が製造と流 通を完全に委託しており、レッドブル社自体はマーケティングに特化していることや、エクストリームスポーツへのスポンサー契約、街頭サンプリングなどです。

今回は違う視点からレッドブルのブランド戦略について考えてみたいと思います。  
レッドブルの価格は250mlで約200円です。一般的な炭酸飲料が500mlで150円ほどであることを考えると、実質2倍以上もの価格になります。また味に関しても、控えめに言っても好みの別れるものだと思います。実際、調査期間が世界中の消費者の反応をリサーチしたところ、他の炭酸飲料と比較しても否定的な意見が非常に多かったようです。しかし、他のドリンクと比較しても圧倒的に高価で、また味に優位性があるわけでもないのに(どちらかというと逆)、年間60億本以上を売り上げる大ヒット飲料になりました。

レッドブルは、通常の飲料とは異なる小さな缶で発売され、高価で、独特な味がする上、飲み過ぎないようにと注意まであります。 それを見たほとんどの人は、「あれは本当に強力な効き目があり大量に飲んだら危険なので、高価で、小さな缶で売られているに違いない。」と想像したに違いありません。  
これは、レッドブルを成功に導いた一種のプラシーボ効果です。これを調べる為に、フランスのインシアード大学とアメリカのミシガ ン大学の研究者たちは154人の若い男性を 対象に実験をしました。全員にレッドブルとフルーツジュースとウォッカでできた全く同 じカクテルを飲ませ、飲んだ後の行動を観察したのです。ただし、グループ毎にラベルを 「ウォッカカクテル」「フルーツジュースカクテル」そして「ウォッカレッドブルカクテル」と変えて表示しました。同じ飲み物を摂取した後に幾つかのテストやゲームをした結果、完全に同じ飲み物を飲んだにも関わらず「ウォッカレッドブルカクテル」のグループは他の集団より酔っていると感じ、一層リスクを冒す気になっていて、自信に満ちていたそうです。  
インシアード大学の教授によれば、レッブルのスローガンやエクストリームスポーツへのスポンサー、販売方法によるブランディングは、人々が製品を買うかどうかを決定するだけでなく、その名称にどのような反応をするか、その影響をどう解釈するかも決定づけるとの事です。つまり、ブランディングとはその製品を通して人々の気分を左右するためのものと言えます。  
数百円の飲料と数十万の宝飾品では意味が異なると思う方もいらっしゃるかもしれませんが、嗜好品や贅沢品の購入動機の大半が印象によって気分を変えること、心理的な価値によるものであることは間違いないで しょう。つまり、他人に自分をどう印象付けたいか、または自分自身が自分に対してどう印象付けたいか、ということです。

レッドブルのマーケティングの価値観はそれを端的に表しています。  
『現代社会は既に資本主義から離れ、消費主義の段階に入った。消費主義では個人が変革を求め市場へ介入してくる。そのため、 商品のプレゼンテーションでは、機能や利点を説明する従来の方法は影を潜め、イメージ を前面に押し出したものに取って代わった。 このデオドラントを使えば異性にモテる。このタバコを吸えば君は自由だ。君が選ばれた人間ならこの車に乗れ。こんな小さな缶で喉の渇きを癒せると思うな、翼を手に入れるためにレッドブルを飲め。つまり、商品の働きについては説明せず、代わりにイメージ、価値、イデオロギーを心に訴えかけるものだ。』

ダイヤモンドをはじめとする宝飾品は、本来この心理的価値のかたまりです。つまり私たち宝飾業界は歴史的にどの業界よりもこのイメージによるプレゼンテーションの歴史があ り、長けているはずです。VVS2とVVS1のダイヤモンドの差は機能や実用性という面では全く影響がなく、それでも高額なVVS1のダイヤ モンドを人々が求めるのは、そこに精神的な価値を見出しているからに他なりません。社会の成熟により多機能や高機能がもてはやされる時代は終わり、今後はより精神的な価値観が重視される時代に突入します。鑑定書の記号と価格の説明に終始する接客は本来のジュエラーの姿ではなく、消費者が自分を投影できるイメージを作り出しプレゼンテーションすることがジュエラーのあるべき姿です。もちろん品質はブランドの価値を担保する最低限の要素ですが、ブランドイメージの向上に注力しポジティブなイメージを作り出すことに より価格を超えた価値を想像することができると信じています。裏付けのある確かなストーリー、ポジティブなメッセージを持つブランドの構築のお手伝いができれば幸いです。

具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■連載コラム No.84 ■2021年11月1日 月曜日 9時23分40秒

新しい楽しみ方がスタンダードに

おそらく多くの方が気になっている話題 について、今回は少しお話ししようと思います。ラボグロウンダイヤモンドの価格は今後下がるのでしょうか。海外の業界レポートやLIGTHT BOXの価格などを見て、そのように質問してくる人は少なくありません。

 私がラボグロウンダイヤモンドを扱い始めたのは5年以上前になりますが、確かに特に1ct以上のラボグロウンダイヤモンドの価格は当時と比較すると現在は下がっています。これには幾つかの要因があります。需要の増加と共に生産者が増えていること(つまり市場が大きく成長していること)、技術の発達によりコストが若干下がっていることなどが要因として挙げられますが、CVDに関しては一部の生産者があえてブラウンがかった低品質なダイヤモ ンドを成長させ、成長後に色の改変処理することにより生産プロセス全体としてコストダウンをしていること、また需要の見誤りにより在庫過多となったサイズを利益なしで販売している業者がいることなどの要因もあるようです。一方、高品質のCVD生産者は価格水準を維持して(それでも5年前よりは下がっていますが)販売されています。参考までに、グレードを含むラボグロウンダイヤモンドの品質は生産コストと直接的な関係があります。今後の価格に関して言えば、上記のような理由でスポット的には特に安く見えるものも出てくると思いますが、全体としての下げ幅は大きくなく、ある程度の水準で安定するものと考えられます。

 メレサイズのラボグロウンダイヤモンドに関して言えば、逆にここ数ヶ月で価格の高騰が進んでいます。メレサイズはほとんどがHPHTのラボグロウンダイヤモンドですが、メレサイズの需要が世界的に増え続けていること、メレサイズ業者(カット業者)がより利益の高い大きいサイズのカットへ移行していることなどによるもので、サイズによっては以前の倍近い金額になっているものもあります。この傾向は今後もしばらく続くと思います。

ここまでは、ラボグロウンダイヤモンドサプライチェーンの上流の事実です。しかし、ブランドや小売に関して価格を議論する際、注意すべきポイントがあると私は感じています。それは、生産セクションと小売セクションを混合して議論しないことです。ラボグロウンダイヤモンドに限ったことではありませんが、生産セクション(つまり素材)の価格変動を業界全体の価格変動として扱うことは、業界全体に対して決して良い影響を与ません。消費者にとって、ラボグロウンダイヤモンド生産のコストの問題と、ブランドとしての商品の価格は本来リンクすべきものではありません。工場生産量の増減や技術の発展によるコストへの影響は消費者への説明には関係がなく、小売価格の決定は常にブランドの戦略に依存しています。どのブランドの価格が上がるか下がるかはそのブランド自体の戦略であり、他のブランドとは関係なく業界全体とも関係がありません。例えばアパレルブランドに関してはどうでしょうか。ナイロンを使用した海外ハイブランドのバッグについて、ナイロ ンの生産量やコストを引き合いに出して小売価格を議論する消費者はいないでしょう。ユニクロについてでさえ、消費者が原料 や生産コストを議論することはありません。 つまりブランドは、そのブランドの影響力やイメージに基づいて価格を決定する完全な 権利があるということです。もし他ブランドと比較して自社の小売価格を下げるような ことがあれば、それは自社ブランドに対して自信がないことにならないでしょうか。

 つい先日、上海である30代の女性に会 いました。彼女は誰もが知る外資系大手ジュエラーの香港支社で4年、上海支社で3年の計7年働いていましたが、ラボグロウンダイヤモンドの可能性に着目し、独立して自分でブランドを立ち上げる計画をしているところだと話してくれました。彼女は 既存のラボグロウンダイヤモンドブランドがあまりにアクセサリー寄りの低価格商品 ばかりであることに対し、ラボグロウンダイヤモンドはもっとラグジュアリー寄りの商品も消費者に受け入れられるはずだと考えています。「商品の価格はブランドが作り出すもので、ブランドが消費者に良いイメー ジを与えられれば高い価格帯のラボグロウンダイヤモンドジュエリーは必ず売れる」と力説しました。そして、「それは私の仕事です!」と自信ありげな笑顔を見せました。 その彼女の表情に、これからの世代のジュエリー市場の一端を見た気がしました。

 ラボグロウンダイヤモンドの価格変動を恣意的に指摘し、このカテゴリーの商品を批判する人が存在することは事実です。しかし、市場シェアが大きくなりブランドの影響力が大きくなれば、それがその商品の価格となります。成長性のある市場で確固としたブランドを構築するお手伝いができるよう願っております。

 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■連載コラムNo.83 ■2021年10月1日 金曜日 11時34分21秒

1ct未満は余った破片で作ったもの…

 私が昨年末より上海に拠点を移していることは以前お話ししましたが、今回は中国の宝飾業界の状況について少しお話ししたい と思います。今後の日本のジュエリー市場を考える上でも参考になると思います.

 先日、informamarkets(旧UBM、香港ジュエリーショー主催)の関連で、中国のダイ ヤモンド関連業者が450名ほど参加するWeChat(LINEのようなアプリ)のグループへ参加しました。また、中国のダイヤモンド専門業界メディアが立ち上げた新しいWeChatグループ(現在約350名参加)にも招待され、先日より参加しています。どちらのコミュニティもトピックタイトルがダイヤモンドなので、参加者はダイヤモンドに関連した業界の人間のみです。このコミュニティに参加して気づいたことがいくつかあります。一つは、情報スピードが非常に早いことです。国際的な最新の業界情報も、英語メディアとほぼ同じタイミングで共有されます。これは英語圏の人間が中国市場向けに情報発信をしている為だと思いますが、そのため中国では国際的なダイヤモンド業界の情報に詳しい業界人が比較的多いです。例えば最近ではアンゴラのCatoca鉱山の汚染事故に関して中国でも話題になりましたが、日本語の記事はネット上でほぼ見つかりませんでした(天然地下資源系のメディアの小さい記事が一つ見つかったのみ)。二つ目は、コミュニティ内でのメンバー同士の情報交換や意見交換が盛んなことです。立場や役職に関係なくコミュニティ内のメンバーが自由に自分の意見を発信し、またそれに対する意見も活発に出てくるので、業界の中での各社の考え方や方向性をリアルタイムにキャッチすることができます。蛇足ですが、チャットの機能を使用してグループメンバーにランダムで少額のお金(紅包)を配る人も多くいます。また、このグループ内で取引をしたり、新規クライアントを探したり、自分が求める内容の専門家を探すこともできます。この交流の内容を見ると、近年の中国のダイヤモンドジュエリー市場の傾向が見えてきます。その他多くの国と同じく旧態依然とした方法のダイヤモンドビジネスに固執したがる人がいる一方、グローバルなダイヤモンドビジネスの方法と新しい世代の消費者の価値観に目を向け、新しい方法でダイヤモンドの販売を推し進める人が多くいるのが予想に反して印象的でした。具体的には、ダイヤモンドのトレーサビリティへの関心がここ中国でも非常に高まっています。倫理的な問題への対応や二次流通ダイヤモンドに関しての消費者への説明としてトレーサビリティの関心が高まっており、また実際にス タートしている企業も数多くあります。例としては、中華圏最大のジュエリー企業である「周大福」も2016年に既にトレーサビリティプログラムを開始し、また最近ではCIBJOのメンバーに加盟するなど、より倫理的な企業としての姿勢を強めています。価格競争のイメージの強かった中国市場のこのような変化は、世界的な消費傾向がより倫理的な方向に傾倒していることを如実に物語っています。
 また、ラボグロウンダイヤモンド関係の業者が増えてきていることも最近の中国の注目すべき傾向の一つです。確かに以前までは、中国は世界でもトップのラボグロウンダイヤモンドの『生産国』として知られていましたが、決して『消費国』ではありませんでした。現在でも依然としてアメリカがトップの消費国ですが、中国国内でのラボグロウンダイヤモンドの消費マーケットは現在確実に成長してきています。コミュニティの中でもラボグロウンダイヤモンドに関する意見交換は盛んで、生産者だけではなくバイヤーとしての交流も数多くあります。
 ハリウッド俳優のレオナルド・ディカプリオが出資していることで世界的に知られるラボグロウンダイヤモンドの大手企業、 Diamond Foundry社は自社小売ブランド 「VRAI」の世界で初となる実店舗を、アメリカではなく上海に昨年オープンさせました(今年LAに2店舗目をオープン)。同社は出 店前に世界の大都市のマーケットリサーチ を入念に行なったと言われており、その結果上海の消費者がラボグロウンダイヤモンドジュエリーに関しての受容性が高いと判断し出店に踏み切ったようです。また、2020年に立ち上げられた中国の新しいラボグロウンダイヤモンド生産者でありブランドである「Light Mark-小白光」は、Webでの販売と今年には上海で複数の実店舗をオープンし、好調な売り上げを続けています。その他、2千以上の店舗を持つ大手の「豫園ジュエリー&ファッショングループ」は、今年の8 月にラボグロウンダイヤモンドジュエリーブランド「LUSANT」をスタートさせ、発売時に大きな売上を記録しました。
 中国では「1ct未満のダイヤモンドは余った破片で作ったものだ」というフレーズが昨 年SNSで拡散され、消費者の多くは特にエンゲージリングなどの重要な意味を持つジュエリーでは1ctアップを選ぶ傾向が強くなっています。そのような消費者の意識の中、天然ダイヤモンドの価格高騰を受け、ラボグロウンダイヤモンドが新たな選択肢として急浮上しつつあります。
 天然ダイヤモンド重視の市場で伝統的な価値観が強く、また価格競争のイメージが強い隣の中国でも、ここ数年で非常に大きな業界と消費者の意識の改革が進んでいます。 業界はより世界のスタンダードに近づき、消費者はより倫理的で合理的な選択をするようになってきています。世界的に市場と消費者は大きく変化しつつあります。グローバルな視点でこれからの時代の長期的な戦略を立てる上で、参考になりますと幸いです。
 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuyaito@126.com)宛に直接ご連絡頂けますと幸いです。
■■ 連載コラム No82 ■2021年9月1日 水曜日 13時30分13秒

新しい楽しみ方がスタンダードに

 前例のない無観客開催となった東京オリンピックも無事終了しましたが、東京オリンピックはそれだけでなく、史上最もテクノロジーを駆使した大会ともなりました。AIによる遅延ない スケジュール進行管理や競技場を管理するロボットなどはもちろん、ドローンが空に描いた華麗な地球のシンボルはテクノロジーを駆使した大会の象徴として記憶に残っていることと思います。また、聖火は五輪史上初めて環境負荷の小さい水素によって灯されました。世界中から1.6万人ほどの放送関係者やプレスが集まる会場では、アリババクラウドの提供する「デジタルピン」が配布され、ピン同士をタップすることによってSNSを交換したり、また体温や脈拍と気温や湿度などを統合することで熱中症を防ぐシステムとしても活用されました。

競技の観戦方法、楽しみ方もテクノロジーが一変させました。陸上競技ではタイム表示だけではなく、それぞれの選手が時速何キロで走っているのか表示され、短距離では勝者が最高速度に達した地点や、長距離では誰が加減速しているのか、走者間の距離などもリアルタイムでわかります。ビーチバレーなどではAIカメラによって選手のジャンプの回数や高さが計測され、バスケットではコンピュータが作り出した映像の中に視聴者が入り込める技術を利用し、臨場感あふれる映像を提供するとともに、外から見ただけではわからないプレーを判定できるようになりました。

人間の肉体を駆使して競い合うスポーツの祭典という、ある意味原始的な(事実オリンピックの起源は約2800年前の競技祭と言われています)イベントにおいても、テクノロジーは確実にその価値を向上させています。運営の円滑化や競技者にとっては快適で集中できる環境、そして私たち観戦者にとってはより競技結果への信頼できるデータの提供、競技中の詳細なデータの提供によりスポーツの新しい楽しみ方と応援の仕方を手にすることになりました。

 テクノロジーは、不変と思われていた様々なものに新しい価値を付加することを可能にします。それは新しい流通や管理方法であったり、 新しい価値の定義であったり、また新しい魅力の見せ方だったりするでしょう。

 ダイヤモンドに関して言えば、かつてはテクノロジーによる極めて正確な形状測定がカットの重要性を高め、また生産段階でのカット技術を底上げさせました。3EXやH&Cなどの当時の新しい価 値の定義もテクノロジーが生み出したものです。

 現在のダイヤモンドのテクノロジーは恐らく皆様が思っている以上に進んでいます。鉱山では採掘したダイヤモンド原石を数種のマシンでスキャンすることによって、原石の状態でカット後に何カラットになるか、グレードも含めて正確にAIが計算できます。そのデータをインターネット上にアップロードして世界中のバイヤーが買い付けできるようにもできます。また、鉱山でスキャンされた原石のデータはクラウド上に保存され、 カット工場でスキャンされたデータと照合するとによってAIが同一性を確認する比類ない正確 性のトレーサビリティ(原産地証明)が実現します。データは加工過程でそれぞれ途切れなく追跡されクラウドに記録されるので、人の管理に頼らない極めて正確なトレーサビリティになります。カットされたダイヤモンドはその場(工場)でAIによる4Cグレードを取得することが技術的には可能です。これは鑑定機関にダイヤモンドを提出しグレードを待つ時間的なコストを大幅に短縮し、また人的ミスや主観を排除した正確な鑑定を実現することを意味します。また個々のダイヤモンドの輝きのレベルを測定し、360°スキャン によって完全な3D画像を作成することもできます。原石の形状やカットプロセスなどのデータを含む全てのデータをWebサイト上で閲覧できるようにすることで、小売店は生産者のダイヤモンドを自社の在庫のようにお客様に販売することができるようになります。今まで見ることのできなかった個々のダイヤモンドの原石の詳細や、 カットされたダイヤモンドの隅々の特徴までもお客様に説明することで、お客様は新たなダイヤモンドの楽しみ方と選び方を知ることになります。 原石の3Dデータも保存されているので、お客様が購入された世界に一つだけの個性的なダイヤモンドがどのような原石から生まれたのか、原石のレプリカを3Dプリントでお渡しするのもエモーショナルなサービスになるでしょう。

テクノロジーは、ダイヤモンドと鑑定書の同 一性という問題も解消します。ダイヤモンド 個々に刻まれた指紋をスキャンする生体認証 のような技術により、ダイヤモンドそれ自体から鑑定データにアクセスすることが可能になりました。ダイヤモンドと鑑定書が一致しているか 心配する必要がゼロなので、店頭では鑑定書を取り違える心配もなくなり、また消費者に とっては安心してダイヤモンドを購入できる絶対的な信頼になります。またメーカーや店頭での鑑定書の管理負担を大きく軽減させるとともに、消費者がかさばる鑑定書をどこかにしまい込む必要も無くなったわけです。また消費者がアフターサービスでダイヤモンドだけ持ってご来店されても、ダイヤモンドからデータにアクセ スできるので保証書なしで対応できます。

 ここに述べたようなことは、SFではなく全て 今すでに存在している技術です。導入コストや 技術認知などの理由で全ての技術が一般的に 普及しているわけではありませんが、それらの テクノロジーがすでに存在している以上、徐々 にこのような状態に近づいていくでしょう。何年 も前のオリンピックと同じ手法の中継を見たい と思う人がいないのと同じように、ダイヤモンド も信頼性と新しい楽しみ方を提供できればそ れがスタンダードになっていくからです。

 新しいスタンダードをみなさんのビジネスに 活用する方法を、今後も説明させていただきた いと思います。  具体的なご相談や質問は、私のメールアドレ ス(takuya-ito@pure-dia.com)宛に直接ご 連絡下さい。
■連載コラム No.81 ■2021年7月29日 木曜日 11時23分4秒

消費者の頭の中に、何があるのかという問題

 コロナ禍の中、1年越しとなった東京オリンピックがいよいよ開幕しました。 良い意味で歴史的なオリンピックとなり無事に終わるよう願いながら、興味のある競技はインターネットで観戦しています。一昔前のオリンピックとは異なり、テレビ放送のない人気のないようなマイナー競技でもネットで観戦できるようになったことにより、今のオリンピックはより多くの人が楽しめる祭典になったように感じます。
 インターネットの普及は本当に人々の生活を一変させました。特にGoogleに代表されるロボット型検索エンジンの登場と普及により、人々は世界中の溢れる情報にいつでもアクセスできるようになりました。人々の意識や嗜好は日々目にしている情報によって形成されますので、どんな情報を得ているかということは消費者の頭の中に何があるのかという問題に直結します。テレビ、新聞、雑誌しか情報媒体がなかった時代の消費者に比べて、当然現代の消費者はある意味賢く、また要求が多くなっている傾向にあります。

 ここ最近何度か、『ググる』はもう古いという話を耳にしました。ググる、とはGoogle検索を省略した言葉で、主にロボット型検索エンジンで情報を調べることを意味しています。ネット検索したら?は「ググったら?」ネット検索しろ、は「ググれ」など幾つか活用形があるのですが、いずれにしても若者の間で使われていたこの言葉が古くなっているということのようです。Googleのページランクアルゴリズムは日々改良されてはいますが、基本的な仕組みはある程度解明されており、SEO対策により任意のサイトを任意の検索キーワードの上位ランキングに入れることが可能です。このことは消費者もよく理解しており、つまりググった結果の検索ランキングが意図的なものになっている、純粋な情報の精 度や有益性のランキングになっていないということを人々は認識しているということです。またインターネット上では情報が溢れすぎており、アクセスした情報が正しいのかどうかを見極めるスキルが必要になってきていることも Google離れが進んでいる要因の一つ のようです。  

消費者の頭の中が得た情報で構成されているのであれば、我々は消費者がどのように情報を取得しているのかを常に知っている必要があります。でなければ、消費者が望んでいない的外れな商品を開発してしまったり、また適切な情報を消費者に届けられないということが起こったりするからです。

 消費者の情報取得方法は時代によって変わるものですが、現在ではSNSでの情報取得が主流になっています。その中でも能動的情報収集と受動的情報収集によって若干の違いがありますが、いずれにしてもSNS内でのタグ検索とレコメンドコンテンツの消費が主な情報収集源になります。Instagramでは特に日本のユーザーがハッシュタグ検索をする回数は世界平均の5倍だという データもあります。加えて、現代の若者が特に時間を消費しているのは発見タブに自動表示されている投稿のようです。表示されている投稿はAIがそのユーザーの趣味嗜好に合わせてピックアッ プしたもので、個々のユーザーの興味を 特に引きやすいように設計されています。調査ではレコメンドに出てきた情報がきっかけで商品を購入したくなったことがあるというユーザーは74.1%に上るとのことです。

 SEO対策に関しては引き続き、「地名+アイテム名」のような、消費者の動向が明確なケースに関しては有効だと思います。しかし、ブランドのアピールや潜在ユーザーへのアプローチに関しては SNSによるマーケティングをうまく併用していくことは今後必要不可欠だと思います。SNSも年齢層や目的によって変わりますし、また同じものがずっとトレンドであるとも限りません。さらに、国や地域によっても人気のあるSNSは全く異なります。必要なことは小手先の知識やテクニックではなく、常に消費者への理解を模索し続けることです。

 ここまで読んでいただいて、今回の話、 特に後半がよく意味がわからなかった方もいるのではないでしょうか。ですが、 現代の消費者の嗜好を理解し、そして正しい情報発信をするには、今後避けては通れないことだと私は思っています。

 前回のコラムでは、ブランディングによるポジティブなイメージ作りの大切さについて書かせていただきましたが、メッセージが優れていても情報発信が適切でなければ、富士の樹海に看板を 立てるようなものです。ネットの情報が氾濫し、様々な情報媒体が出てくれば出てくるほど、消費者は多様化し、理解することが重要になってきますが、そのような中で少しでも参考になれば幸いです。

 具体的なご相談や質問は、私のメー ルアドレス(takuya-ito@pure-dia.com)宛に直接ご連絡下さい.
■■ 連載コラム No.80 ■2021年7月2日 金曜日 13時53分17秒
消費者の購買活動にはイメージ戦略

 先日、久々に面白いドキュメンタリー番組を見ました。「COLA WARS /コカ・コーラvs.ペプシ」という、1970年代から80年代にかけて起こった両社のマーケティング戦争を描いた番組で、当時の両社の重役やマーケティング担当者、ジャーナリストなどが出演した1時間半ほどの内容ですが、あっという間に見終
わってしまいました(UNEXTで独占配信されています)。

 コカ・コーラ(コーク)は1886年にアトランタの薬剤師が開発し、ペプシは1893年に遅れて発売された炭酸飲料です。1%のシェアが何億ドルにもなる市場でコークは1970年までに圧倒的な人気を獲得、当時ペプシは二位ですらありませんでした。そこでペプシは禁じ手とも言えるような手法のマーケティングを展
開しコークを猛追、70年代後半には小売分野でコークを追い抜くまでになります。ペプシチャレンジと呼ばれたこのキャンペーンはダラスでスタートしたもので、街中で人々にコークとペプシのブラインドテストをしてもらうというものです。コーク派という人を含め多くの人がペプシを選ぶ姿を映し出し、コークの対抗馬はペプシだという印象を消費者に植え付けることに成功しました。

 焦ったコークはペプシ側に味を寄せるべく1985年にコークの調合を変更すると発表しました(ちなみにコークの調合は同社のトップシークレットで社内でも3人までしか調合を知らされておらず、その3人は同じ飛行機には乗らないというルールまであるそうです)。ペプシはこれを好機と捉え、コークの敗北宣言だと大々的な広告戦略を実施、それが大当たりしペプシは一時売上を大幅に伸ばしました。コーク側には調合の変更が「伝統が失われた、文化の破壊にあたる」と消費者からの抗議が殺到し、街中ではデモが起こるなど大変な騒ぎになったようです。その結果、元の味のコーク(クラシック)を併売せざるを得なくなったのですが、結果的にクラシックの売上が爆増し、当時利益を大きく伸ばしました。

 このドキュメンタリーで描かれるのは両社の熾烈なまでのマーケティング合戦です。番組中でも両社陣営が「ただの砂糖水」と言い、「味の違いなんてわからない」とまで言う商品に対して、想像力を駆使してイメージを作り上げ、無数にある商品の中から自社商品を消費者に購入してもらう、自社商品の立ち位置を決めるアイデンティティのための戦争です。この戦争の勝者はソフトドリンク業界全体だと番組は結論しています。この両社の戦いにより消費者は炭酸飲料に熱狂し、結果ソフトドリンク業界全体の成長に大きく貢献しました。

 ダイヤモンドは究極の心理価値商品と言われますが、コーラも近い商品だと思います。喉の渇きを癒すのが目的であれば他に効率の良い商品はいくらでもありますし、彼らが言うようにコーラは確かにただの香料入りの砂糖水です。それでも消費者は、その商品を飲む自分の姿に何かを投影し、企業のプロモーションによってイメージを膨らませ、好意を持つようになります。この戦争で明らかなのは、消費者はイメージで購買活動を行なっており、そのイメージを作り上げるのは企業の戦略だと言うことです。

 ダイヤモンドも同様です。ダイヤモンドの販売を伸ばすために取るべき戦略は安売りではなく、徹底的なイメージ戦略です。確かに大量消費とマスメディアの時代は80年代で終わりを告げ、現在の消費動向は一層複雑さを増しています。かつてデビアスが広告キャンペーンを展開するだけで市場規模が増えた時代とは事情が異なります。しかし、手法は変わっても商品の価値を生み出すのが企業のイメージ戦略であることに変わりはありません。消費者が、それを手にする自分をどれだけポジティブにイメージできるかの問題です。高い4Cグレード、輝きの評価、最近流行りのサスティナビリティやトレーサビリティなども、突き詰めればこのイメージを作るためだと言えるでしょう。素材が進化し、テクノロジーも発達した現在、ダイヤモンドのイメージを作り上げる材料は増え続けています。適切な材料の共有、そしてそれを消費者にとってのポジティブなイメージに変換させることで、今後も私がお手伝いできればと思っております。

 番組は、ペプシの広告代理店BBDOワールドワイド元会長アレン・ローゼンシャインの言葉で締めくくられています。「私たちの商品には社会的重要性があるとは言えません。しかし、人々を楽しませ、幸せにする商品です。いいでしょう?」
 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuya-ito@pure-dia.com)宛に直接ご連絡下さい。__
■■ 連載コラム No.80 ■2021年7月2日 金曜日 13時53分12秒
消費者の購買活動にはイメージ戦略

 先日、久々に面白いドキュメンタリー番組を見ました。「COLA WARS /コカ・コーラvs.ペプシ」という、1970年代から80年代にかけて起こった両社のマーケティング戦争を描いた番組で、当時の両社の重役やマーケティング担当者、ジャーナリストなどが出演した1時間半ほどの内容ですが、あっという間に見終
わってしまいました(UNEXTで独占配信されています)。

 コカ・コーラ(コーク)は1886年にアトランタの薬剤師が開発し、ペプシは1893年に遅れて発売された炭酸飲料です。1%のシェアが何億ドルにもなる市場でコークは1970年までに圧倒的な人気を獲得、当時ペプシは二位ですらありませんでした。そこでペプシは禁じ手とも言えるような手法のマーケティングを展
開しコークを猛追、70年代後半には小売分野でコークを追い抜くまでになります。ペプシチャレンジと呼ばれたこのキャンペーンはダラスでスタートしたもので、街中で人々にコークとペプシのブラインドテストをしてもらうというものです。コーク派という人を含め多くの人がペプシを選ぶ姿を映し出し、コークの対抗馬はペプシだという印象を消費者に植え付けることに成功しました。

 焦ったコークはペプシ側に味を寄せるべく1985年にコークの調合を変更すると発表しました(ちなみにコークの調合は同社のトップシークレットで社内でも3人までしか調合を知らされておらず、その3人は同じ飛行機には乗らないというルールまであるそうです)。ペプシはこれを好機と捉え、コークの敗北宣言だと大々的な広告戦略を実施、それが大当たりしペプシは一時売上を大幅に伸ばしました。コーク側には調合の変更が「伝統が失われた、文化の破壊にあたる」と消費者からの抗議が殺到し、街中ではデモが起こるなど大変な騒ぎになったようです。その結果、元の味のコーク(クラシック)を併売せざるを得なくなったのですが、結果的にクラシックの売上が爆増し、当時利益を大きく伸ばしました。

 このドキュメンタリーで描かれるのは両社の熾烈なまでのマーケティング合戦です。番組中でも両社陣営が「ただの砂糖水」と言い、「味の違いなんてわからない」とまで言う商品に対して、想像力を駆使してイメージを作り上げ、無数にある商品の中から自社商品を消費者に購入してもらう、自社商品の立ち位置を決めるアイデンティティのための戦争です。この戦争の勝者はソフトドリンク業界全体だと番組は結論しています。この両社の戦いにより消費者は炭酸飲料に熱狂し、結果ソフトドリンク業界全体の成長に大きく貢献しました。

 ダイヤモンドは究極の心理価値商品と言われますが、コーラも近い商品だと思います。喉の渇きを癒すのが目的であれば他に効率の良い商品はいくらでもありますし、彼らが言うようにコーラは確かにただの香料入りの砂糖水です。それでも消費者は、その商品を飲む自分の姿に何かを投影し、企業のプロモーションによってイメージを膨らませ、好意を持つようになります。この戦争で明らかなのは、消費者はイメージで購買活動を行なっており、そのイメージを作り上げるのは企業の戦略だと言うことです。

 ダイヤモンドも同様です。ダイヤモンドの販売を伸ばすために取るべき戦略は安売りではなく、徹底的なイメージ戦略です。確かに大量消費とマスメディアの時代は80年代で終わりを告げ、現在の消費動向は一層複雑さを増しています。かつてデビアスが広告キャンペーンを展開するだけで市場規模が増えた時代とは事情が異なります。しかし、手法は変わっても商品の価値を生み出すのが企業のイメージ戦略であることに変わりはありません。消費者が、それを手にする自分をどれだけポジティブにイメージできるかの問題です。高い4Cグレード、輝きの評価、最近流行りのサスティナビリティやトレーサビリティなども、突き詰めればこのイメージを作るためだと言えるでしょう。素材が進化し、テクノロジーも発達した現在、ダイヤモンドのイメージを作り上げる材料は増え続けています。適切な材料の共有、そしてそれを消費者にとってのポジティブなイメージに変換させることで、今後も私がお手伝いできればと思っております。

 番組は、ペプシの広告代理店BBDOワールドワイド元会長アレン・ローゼンシャインの言葉で締めくくられています。「私たちの商品には社会的重要性があるとは言えません。しかし、人々を楽しませ、幸せにする商品です。いいでしょう?」
 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuya-ito@pure-dia.com)宛に直接ご連絡下さい。__
■■ 連載コラム No79 ■2021年6月2日 水曜日 13時3分20秒

様々なB to Bプラットフォーム

 世界中がコロナ禍に苦戦する2020年5月、GAFAM5社の時価総額合計が約560兆円となり、東証1部約2170社の合計を上回ったというニュースを覚えている方も多いと思います。2021年5月現在、私の計算ではGAFAMの時価総額合計は約850兆円まで増加しており、コロナ禍がリアルベースの企業の価値を下げる中でネットやデジタルを中心とした企業は劇的に価値を伸ばしています。(現在の東証1部企業の時価総額合計は700兆円強です。)ここ一年で使い古された表現ですが、コロナ禍により世界は確実にデジタル化へと急激に変化しています。

 ネットの本質の一つは、情報や物を小分けにして、離れているものを繋げることにあります。それによって新たな価値が、サービスが、ビジネスが生まれます。今のような激動の時代では、ネットによって様々な場所の人たちと繋がり合うことにより、リスクを回避することができます。一箇所で何かが起こっても、離れた場所にいる人が支えることで前進することができるからです。先日、ある企業の興味深いプレスリリースを見ました。夜の10時までにネットで依頼をすれば翌朝の8時までにパワーポイントのプレゼンテーションを仕上げてくれるというサービスです。タイムゾーンが真逆の地球の反対側の日本企業支社が作業を請け負うとのことですが、これも一つのネット時代のビジネスです。今の時代、様々な強みを持った企業のサービスや商品を利用し、組み合わせていくことで自社だけではできない価値を生み出すことができます。特にコロナ禍により物理的な移動が制限されている現在、ネットによって離れた場所や海外と繋がることは大きなメリットになります。また各企業のサービスやテクノロジーを小分けにしてもらい、利用することにより、かつては大企業だけのものであったものを個人や中小企業が簡単に活用できるのもネット時代の大きな特徴です。

ジュエリー業界に関しても、このコロナ禍で加速しているデジタルビジネスモデルが幾つもあります。特に最近目立つもののひとつが、B2B取引プラットフォームです。渡航制限により海外での買い付けが世界的に厳しい現状、様々な企業がB2Bプラットフォームの開発と運用を開始しました。大量のダイヤモンド在庫の中から、シェイプや石目、グレードでダイヤモンドを簡単に検索でき、買い手は在庫を持たずに商売をすることが可能です。中には発送書類や伝票まで自動的に作成してくれる機能を備えたプラットフォームもあります。世界中からダイヤモンドの買付が可能で、24時間365日いつでも、店頭で接客をしながらでも適切なダイヤモンドを探すことが可能です。

 ジュエリー制作に関しても現在ではOEM生産もシステム化が進んでおり、CADとレンダリングを利用し、サンプルレスで、また低コストで製品を開発することが可能になりました。OEM工場の中にはドロップシッピングに対応しているところもあり、指定した検品を行い、商品を指定のボックスに入れて消費者まで直送することも可能です。また、ジュエリーに特化した物流業社を利用することで検品から発送の作業を自動化することもできます。このようなサービスを組み合わせ、Shopifyなどのプラットフォーム上で運用すれば、個人や中小企業でも少ないコストで新しいビジネスを生み出すことが可能です。作業が追いつかなければクラウドソーシングを利用するという手もあります。またテレビCMより効果的なPR方法も現在では容易に利用が可能です。実際にそのような方法で新しいビジネスが世界中で日々スタートしています。

 加えて、ダイヤモンドのネット流通を支えているのは、ダイヤモンド情報のデジタル化技術であることは間違いありません。ネット上でダイヤモンドを売買するためにはダイヤモンドの詳細なデータが必要になります。ダイヤモンドデータの技術は日々進歩しており、ネットでのダイヤモンド購入のハードルを下げています。また、紙の書類であれば大量のボリュームになってしまうほどの情報を簡単に提示、閲覧できるのもデジタルデータならではの強みです。そのダイヤモンドがどのような原石から切り出されたのかまでも3Dで表示できるサービスも日本を含む世界中で大きな反響を得ています。

 デジタルの導入は必ずしも大きなコストを必要とするわけではありません。低コストで効果的な技術の導入は可能です。しかし、適切な導入を行わないと既存の仕事をデジタルに置き換えただけになってしまいます。皆様が想像しているより遥かに多くのツールやサービスが現在は存在しています。デジタル化が急激に進む世界で、適切なDXを導入するためのお手伝いができれば幸いです。

 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス(takuya-ito@pure-dia.com)宛に直接ご連絡下さい。
■連載コラム No、78 ■2021年4月29日 木曜日 9時33分58秒

ブランドとしての明確なスタンス

 アメリカの高級百貨店、サックス・フィフス・アベニューは先月7日に毛皮販売を段階的に停止していくことを発表しました。アメリカの百貨店ではメイシーズとノードストロームがすでに毛皮販売の停止を発表しており、サックス・フィフス・アベニューは毛皮販売停止の理由を「社会的な変化及び顧客の傾向による」としています。
 近年、エシカル、サスティナブルをポリシーとしているブランドが増加している傾向にあります。ステラ・マッカートニーは設立当初よりエシカルをブランドの柱としており多くのセレブに支持されていますが、その他にもグッチ、マイケルコース、プラダ、コーチ、トミーフィルフィガーなどが自社製品に毛皮を使用しないと公言、またカリフォルニア州では 2023年から毛皮製品の製造と販売を禁止する法案を成立させました。アメリカでは市民の71%が毛皮の禁止を支持しているという調査結果もあります。 一方では化学素材を用いた衣類の推進がサスティナブルなのかという議論もあるようですが、いずれにせよ百貨店、ブランドとして明確なスタンスと回答を持っていることが今の時代では求められているということだと思います。

 このエシカル、サスティナブルの流れはジュエリー業界にも当然押し寄せてきていますし、今後さらに大きな圧力となってくることが予想されます。今の時代、エシカルやサスティナブルが大きなトレンドになるのにはスマートフォンとSNSが大きく関係しているように思います。例えばセレブがフェイクファーの衣服を来てリアルファーを否定するよう なコメント共に写真を投稿すると、多くの人がそれに共感し、リアルファーを時代遅れのように感じる空気感が出来上がります。加えて別の人間がリアルファーの(またはそう見える)衣服を着て写真を投稿すると、アンチコメントで 溢れ炎上状態になり、これによって完全に消費者の意識は変革させられます。
 同様の現象はジュエリー商材でも充分起こり得ます。2006年に紛争ダイヤモンドを題材にした映画「ブラッドダイヤモンド」が公開された当時、業界では紛争ダイヤモンドに対する店頭での回答マニュアルを配布までして備えたにも関わらず消費者からの反応があまりなかったのは、当時まだSNSが普及していなかったからだと思っています。現在ではSNS で、エシカルファッション、エシカルライフ、エシカルジュエリー、サスティナブルなどの文字を多く見ることができます。 影響力のあるインフルエンサーがダイヤモンドの流通の透明性に関しての発信 をしている投稿も数多く見かけるようになってきており、他のファッション商材同様、実際にエシカルの流れが確実にジュ エリー業界にも押し寄せてきています。

先日私にも、消費者の方からメールで「御社のダイヤモンドのカーボンフットプリントはどうなっていますか?」との問い合わせがありました。カーボンフットプリントとは商品の生産における温室効果ガスの排出量のことです。カーボンフットプリントも最近認知されてきた指標ですが、情報技術の発達とSNSの普及によって紛争フリーや原産地、フェアトレードやサスティナブルな取り組みに関してなどの質問が消費者から当たり前のように寄せられる時代になったということです。またコロナ禍による意識の変化により地球環境への関心が高まったという消費者も多いでしょう。

ダイヤモンド業界としては世界的にこのトレンドの対応が進んでおり、今では様々なソリューションが提供されています。独自のトレーサビリティプログラムを提供しているダイヤモンドサプライヤーも増えていますし、テクノロジー企業と共同でプログラムを組んで信頼性の高いサービスを提供する鉱山や研磨業者も多くあります。いずれにせよ消費者の意識が大きく変化する中で、それぞれの企業が消費者に対して自社としての明確な回答を求められているということです。御社では消費者に対しての回答を持っていますか?ちなみに先の消費者からの問い合わせには「 弊社では完全なカーボン ニュートラルの承認を受けたダイヤモ ンドの提供が可能です。」と私は回答しています。

新たな消費トレンドに対応する方法は 一つとは限りません。皆様と一緒に、新しいジュエリーの価値を創造するお手伝いができれば幸いです。
 具体的なご相談や質問は、私のメールアドレス( takuya-ito@pure dia.com)宛に直接ご連絡下さい。

■連載コラム No 77 ■2021年3月31日 水曜日 11時48分25秒

10秒で6億円売り上げるライブコマース

 コロナ禍以降、消費がオンラインにシフトしていると言われていますが、実際のところジュエリーとしてそれを実感されている方は多くないと思います。高額商品であるジュエリーはECに不向きと思われている方も多いのではないでしょうか。確かに、消費者が商品知識をあまり持っていないダイヤモンドやジュエリーは、不安感を軽減できる実店舗での購入を望む消費者が多いのも事実です。しか し、オンラインでも高額ジュエリーは販売可能ですし、その傾向は間違いなく今後加速します。
 私は昨年末より、EC先進国である中国、その経済中心地である上海に拠点を移しています。情報技術の発達により、日本にいる時と変わらず日本のお客様とビジネスを継続、また新規のお客様とも取引できており、世界中どこにいても変わらず仕事ができる近年のリモートワーク技術は本当に素晴らしいものがあります。
 さて中国ではライブコマースが非常に盛んです。ライブコマースというのは、ライブ配信で商品を紹介し、オンラインで販売する手法のことで、ここ最近市場規模が急拡大している分野です。インター ネット版のテレビ通販のようなものと考えていただければわかりやすいと思います。人気のある配信者(KOL‒インフルエンサー)の配信には一度に数千万人が集まり、紹介される商品は飛ぶように売れていきます。様々な商品が販売されており、私も食品から化粧品、家電製品まで様々なものをライブコマースで購入しました。ライブコマースで売れない商品はないと言われており、トップKOLの一人であるViyaは以前ロケットを販売したことでも話題になりました。
 つい先日、2021年3月8日は私にとっ て衝撃的な日となりました。別のトップ KOLであるAustinが、中国のジュエリーブランド『I Do』の商品をライブコマース(タオバオライブ)で紹介、販売したのです。紹介した商品は以下の通り。
 10.26ct D VVS2 EX ダイヤモンド リング 929万元(約1.5億円)
 10.27ct D VVS2 ハートシェイプダ イヤモンドリング799万元(約13億円)
 10.18ct D FL 3EX ダイヤモンドリ ング 1176万元(約1.9億円)
 上記の商品に加え、9万元前後(約150万円)の1ctダイヤモンドリングが100点売り出されました。私はその日、リアルタイムでそのライブ配信を見ていました。それぞれの商品が10分弱くらい説明され、「3、2、1、上接!(リンク開始)」の掛け声と共に購入ボタンがアクティブになります。どの商品も10秒経た ないうちに購入ボタンが完売を意味する非アクティブになり、一瞬で売れていっ たことがわかります。100点の1ctも全て10秒ほどで完売し、この日『I Do』は30 分ほどのライブ配信で日本円にして6億 円以上を売上げたことになります。ちなみにタオバオライブでの購入は注文時に AlipayやWeChatPayによる即時決済です。億を超えるジュエリーがオンラインで次々に、一瞬で売れていく様子をリアルタイムに携帯で眺めながら、オンライン販売の果てしない可能性を肌で感じ、 興奮しました。
 冒頭に触れたViyaはインタビューで次のように語っています。「ライブ配信では、すべての物を販売することができるのだ。決して私のマーケティングスキルが優れている訳ではない。ライブ+映画エンターテインメント、ライブ+出版物、 さらにはライブ+飲食、ライブ+自動車などこれまでには考えられなかった分野の組み合わせが化学反応を起こしている。このような試みは今も際限なく広がり、ECライバーとしては次々とブレークスルーを果たすことへの喜びと驚きを感じている。」

 これはよその国で起きている日本と無関係なことではありません。既存のEC、 既存の実店舗の欠点を補う新しいネット販売の形が既に出来上がっており、この現象はいずれ日本でも一般的になるでしょう。テレビ雑誌広告よりもインフルエ ンサーの発信が重要視される時代にすでになりつつあり、彼らを活用したビジネス手法は今後更に広がっていきます。 こうして実際に証明されている通り、数億円は多少特別ですが何十万円、100 万超のジュエリーであってもネットで販売することは現実的なのです。  既存の手法に今後も固執し続けることもそれぞれの自由です。しかし、新しい 手法にチャレンジすること、トライ&エラーを繰り返しながらより良い方法を模 索することは、必ずより良い結果をもたらし、来たる時代に大きな成果をあげられ るものと私は確信しています。今後とも、 その為の情報発信やお手伝いを喜んでさせていただきたいと思います。
 具体的なご相談や質問は、私のメール アドレス(takuya-ito@pure-dia.com) 宛に直接ご連絡いただけますと幸いです。
■連載コラム No.76 ■2021年2月27日 土曜日 9時16分51秒

世界的に加速する傾向とは

 ベルギー・アントワープのAWDCは、世界3大コンサルティングファームの一つであるBain & Companyと提携し、ダイヤモンド業界の年次市場調査レポートを発表していま す。これは業界マーケットレポートとしては最も信頼性が高いものの一つで、最新レポートが先月(2月)に発表されました。特にCovid19が業界に与えた影響に焦点が当てられていますので、興味深い部分をご紹介します。

 今回のレポートでは、Covid-19により世界的にダイヤモンドジュエリーの売上は15%減少し、そのほとんどは2020年の前半に集中しました。また旅行制限によりダイヤモンドジュ エリーの需要は地域による偏りが大きくなっています。特に中国では旅行制限により海外で消費できなくなった為、国内での需要が増加し、大手チェーンでは下半期の成長率が二桁に達しています。この傾向は世界的な旅行再開と共に長期的には収まる見通しですが、中国全体の経済発展は引き続きジュエリー市場の成長も促進すると見られています。

 またCovid-19により2020年にはEコマースが拡大し、小売売上高全体の20%に達しました。大手の小売業者はオンラインでの売上を前年比で70%ほどアップさせています。このようなオンライン販売の好調な推移とは対照的に、多くの消費者(90%)は依然として実店舗でのダイヤモンド購入に好意的との調査結果も出ています。これは消費者が店頭での購買体験を重視している為ですが、他の高級商材がオンライン販売を伸ばしている状況を考えると、ジュエリーのオンライン販売は成長可能性が非常に高いと言えます。店頭での販売に関しては、店頭でしか実現できない購買体験の追求、オンライン販売は消費者の不安を払拭し信頼感を向上させるためのデジタル施作を提供することにより、双方が今後より洗練、差別化され、成長することが可能です。店頭であれオンラインであれ、それぞれの特徴を生かした企業が今後より業績を上げる一方、変化に対応できない企業が淘汰される時代になると言えます。

いずれにせよ、Covid-19による移動制限は消費者によるオンラインショッピングまたはリサーチを加速させました。調査ではミレニ アル世代と呼ばれる若い消費者のうち、ジュエリーの購入の際に75%がオンラインでリサーチや購入をしており、この傾向はCovid19収束後も加速します。その為、オンラインに対して適切な投資をしていない企業は75% 以上の消費者に対して正しいアプローチができていない可能性が大きいということです。  ラボグロウンダイヤモンドに関しては、過去2年間で生産量が二桁の成長を遂げ、生産量は年間700万カラットに達しました。価格に関 して、小売価格ベースで2017年、1ct G-VSの ラボグロウンダイヤモンドは、同じグレードの 天然ダイヤモンドの約65%でしたが、2019 年には約50%、2020年には35%程度まで減 少しました。ラボグロウンダイヤモンドの小売 価格の減少は、ラボグロウンダイヤモンドのセ グメントを拡大する可能性があります。大規模 なファッションブランドはラボグロウンダイヤ モンドを既存のクリスタルの代わりとして取り 入れ、プロモーションを推し進めています。また、価格の減少により、価格に敏感な新たな 消費者が購入できるようになるので、更に成長性のあるファッションカテゴリーになる可能性が高いとBainは主張しています。

 Covid-19はマーケティングの新たなトレ ンドを加速させました。消費者の可処分所得が減少し、オンラインでの購買が増えているため、市場でのラボグロウンダイヤモンドの 受け入れも加速しています。中でも米国の成 長が非常に大きなものでした。現在二番目の 市場は中国となっています。Bainが注目したのは、ラボグロウンダイヤモンドの販売ベースは元々オンラインで、販売チャネルが天然ダイヤモンドと異なっていたことです。混乱が最小限で、ラボグロウンダイヤモンドの市場成長に繋がりました。

 現在、ラボグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドの製品の差別化が続いているため、 ラボグロウンダイヤモンドは天然ダイヤモンドとは別の市場シェアを占めているとBAINは強調しています。消費者にとって価格が魅力 的になるにつれて、ラボグロウンダイヤモンドはよりファッションに移行しつつあります。これにより、より多くの消費者、特にダイヤモンドジュエリーを検討していなかった消費者がターゲットとなる為、天然ダイヤモンドの代替物ではなく、市場のパイの拡大に繋がります。

 いずれにせよ、ダイヤモンドジュエリー業界はブライダルを超えた新たな市場を拡大する 必要があります。ダイヤモンドをパーソナライズされた人生の瞬間に結びつける必要がありますが、SNSなどのプロモーションを通じて実現することが可能です。実際、私自身も新たなダイヤモンドの提案キャンペーンをつい最近SNSで試しましたが、結果を通じてSNS は非常に効果的で強力なツールになると感じています。ダイヤモンドの魅力が適切な消費者に伝われば、必ず新たな市場が築けるはずです。事実、ジュエリー以外の高級商材のマーケティング支出は利益の6-8%であるのに対して、ジュエリー業界は1-2%という低い水準となっています。これはブライダル頼み だった業界の特徴と言えると思いますが、今後はより新しい価値の創造とプロモーションにリソースを費やす必要があると言えます。

 Covid-19により世界的に健康と安全への関心が高まり、エシカルとサスティナブルへの 注目が高まっています。アメリカの消費者は社会的影響を購買活動の際に重視し、中国では環境保護や内紛、CO2排出量へ大きな関心を持っています。今後この傾向は世界的によ り加速すると見られており、ジュエリー企業はブランドや製品開発または取扱いに関してこの点を検討事項に入れる必要が出てきます。

 AWDCとBainによるレポートは鉱山から小売までのサプライチェーンまで細かく述べ られており長いものですが、特に日本のダイヤモンドジュエリー業界として留意すべき点 は、オンラインコンテンツの充実と見直し。新たなプロモーションによる市場の開拓。サスティナブルなプログラムへの取り組み。そしてラボグロウンダイヤモンドを活用した新たなセグメントの開拓と言えると思います。

 Covid-19のパンデミックは世界的にダイヤモンドジュエリーのトレンドを一瞬で変え たとはいえ、この最新のレポートが示唆する通り、新たなトレンドに対応する方向性は明 確です。それぞれのソリューションに関してのヒントやアイデアなど、引き続き2021年のダイヤモンドジュエリー市場の拡大のために共有させていただきたいと思います。

 具体的なご相談や質問は、弊社Pure DiamondのWebサイト(www.puredia mondjapan.com)又は私のメールアドレス (takuya-ito@pure-dia.com)宛にご連絡ください。
■■ 連載コラム No.75 ■2021年2月3日 水曜日 13時33分37秒

鑑定書との同一性の担保とは

 再度の緊急事態宣言が発令され、未だ収束の見えない状況が続いています。そのような状況下、先日東京ビッグサイトで開催された国際宝飾展では、ライブコマースの配信が目 立っていたようです。コロナ禍によるデジタルシフトの加速は、ポスト・デジタル時代(デジタルが完全に日常化し浸透している状態)の早期到来の呼び水となり、小売のあり方を大きく変化させました。実際、キャッシュレス化、SNSの普及と深化、5Gのスタートなど、どれもECを加速させるものです。EC先進国、春節間近の中国ではライブコマースで毎日様々な商品が販売されており、人気KOL(インフルエンサー)の配信では数万個単位の家電や化粧品がどれも数秒で売り切れています。
 このような、ECが当たり前となるポスト・ デジタル時代、店頭販売はECやライブコ マースに対抗する優位性と意義が必要不可欠になります。
端的に言うと、信頼性と体験です。大手ブランドの化粧品や家電など、商品名だけで購入を決定できるような商材と異なり、ジュエリー、特にダイヤモンドは1点1点が異なる個性を持ったものです。加えてお客様自身が商品知識を多く持っていない場合も多く、店頭販売の優位性を保ちやすい商材と言えます。しかしもちろん、ECはその特異性をカバーできるソリューションがあるので、店頭販売は信頼性と購買体験をより強化したものでなくてはなりません。
 ダイヤモンドの信頼性と言えば真っ先に思いつくのが鑑定書の存在だと思います。しか し、商品であるダイヤモンドそのものと、鑑定書との同一性は取引時に、または店頭でどのように担保されているでしょうか。ごく稀に、 小売店から「店頭接客時にルースの入れ間違えが発生した可能性があるので調べて欲しい」と依頼があります。弊社APではルースを3Dプロポーションデータで管理しているので、 同一石目、同一グレードの商品であっても、 3Dプロポーションをデータベースと照合することによって番号を割り出すことが可能です。 つまり、全く同じ石目とグレードのダイヤモンドが数ピースあっても、どの鑑定書に一致するものか容易に識別できます。しかし、そのような管理体制を持つメーカーは多くないと思います。また、店頭ではお客様から同一性の確認方法を聞かれた場合にどのようにお答えできるでしょうか。今までは消費者は、販売員の言葉を信じるしか方法がありませんでした。
 生体認証という技術があります。指紋認証や顔認証など、個人特有の特徴を携帯電話やキャッシュカードとの照合に使用する技術で、人とモノを完全に安全にリンクさせることができます。今後、ダイヤモンドも同様の概念で同一性を、しかも店頭で容易に確認し保証することが可能になります。
 前回のコラムでも少し触れましたが、 Sarine Technologies社のTruMatch™ ダイヤモンド認証システムは、ダイヤモンド個々に刻まれた「指紋」をスキャンすることによってデジタルレポートデータに安全にアクセスします。まさに生体認証の概念です。 スキャンに使用するTruMatch™スキャ ナーは机の上におけるサイズの小さな機器で、ルースであっても製品であっても認証が可能です。ダイヤモンドを機器にセットすると瞬時に「指紋」をスキャンし、クラウドのデータベースと照合します。認証コードがクラウドのデータIDと一致すると、ダイヤモンドのストーリーを含むデジタルデータ(トレーサビリティ情報、原石情報、グレード情報、3Dデータ等)をユーザーに提供します。 もはや、ダイヤモンドと紙ベースの鑑定書の番号を照らし合わせて棚やキャビネットを探す必要は一切ありません。
 このシステムのメリットは主に4つあります。1つは、テクノロジーを利用した購買体験に慣れたデジタル世代の消費者に対して、 刺激的で新しい感覚の購買体験を提供でき るという点です。様々な場面で日常的にデジタルテクノロジーに触れている世代に対して、より洗練されたダイヤモンド購買のプレゼンテーションを行うことは、紙ベースの鑑定書でのみ説明している他店に対して大きな優位性を打ち出すことが可能です。
 2つ目は、完全な同一性の保証による信頼感です。特にデジタル世代はデジタル情報に対してより信頼感を持つ傾向がありますが、目の前でダイヤモンドそのものからデータを読み取りアクセスする様子は信頼感へ直結します。
 3つ目は、エシカルな需要に対する提案です。エコやエシカル、トレーサビリティは現代の新しい商品価値基準となりつつありますが、多くの場合企業のステートメントだけでは不十分だと消費者は感じています。ダイヤモンドの完全なストーリーをデジタル表示することは、そのダイヤモンドがどこからどのように加工されてきたのか、またダイヤモンドの評価基準が公正であることを消費者に明確に示すものとなります。
 最後に、顧客情報とのリンクによるアフターサービスの信頼性です。通常、お客様がアフターサービスを希望される場合、保証書や鑑定書の持参が必要です。しかし、(他の家電製品でもそうだと思いますが)保証書をいつまでも保管している人はそう多くないでしょう。家電などを修理に持ち込んで、「保証書を持って再度来てください」と言われて不愉快な思いをしたことがある人も多いのではないでしょうか。加えて、持ち込まれたダイヤモンドが本当に自店で販売したものかどうか、どうやって確認しますか?しかし、ダイヤモンドの生体認証が可能であれば、保証書も鑑定書も必要ありません。いつでもダイヤモンドだけ持ってお客様が来店されれば、またはチェーン店の別のお店へ来店されても(社内ネットワークで顧客情報が紐付けされていれば)、ダイヤモンドそのものから情報が引き 出せるので、必要なサービスをすぐに提供することが可能です。また、そのようなアフターサービス体制をお客様にアピールすることにより、他店との差別化はもとよりECに対する 優位性を打ち出すことが可能です。保証書を保管するストレスから解放される事は、高額商品であるダイヤモンドの場合特に消費者にとっては大きな安心感になるでしょう。  コロナ禍の収束の兆しが見えない中、今後世の中はよりオンラインに加速していきます。このポスト・デジタル時代にどのように店頭の優位性を打ち出すことができるかは、今までの常識的な方法や接客をいかに捨てるか、新しい方法をどのようにトライするかにかかっています。
 具体的なご相談や質問は、弊社Pure DiamondのWebサイト(www.puredia mondjapan.com)又は私のメールアドレス (takuya-ito@pure-dia.com)宛にご連絡ください。
■連載コラム No,74 ■2021年2月2日 火曜日 18時16分39秒

業界の構造改革が迫られる

 新年明けましておめでとうございます。未だ 世界はコロナの影響から抜け出せておりませ んが、2021年が暗いトンネルを抜け、皆様にとって輝く成功の年となりますよう、心から祈念しております。

 昨年はコロナ禍により非常に辛い思いを強いられた1年間となりましたが、皮肉にもその逆境が世界を新たな時代に一足飛びに進化させた年ともなりました。ニューノーマルと呼ばれる時代がもたらしたものは、宝飾業界の2021年にも大きな影響をもたらすはずです。
 ソーシャルディスタンスや旅行の自粛などは期間こそ長いものの一過性のもので、コロ ナ収束と共に緩やかに元に戻っていくことが予想されますが、その間に人々が得た新たな 生活スタイルは今後もより加速していくことになります。このコロナ禍の中、昨年は多くの業界でDXが加速しました。一年前まではZoom などのオンライン会議を知らない人がほとんどでしたが、今ではほとんどの人が知っており、また利用したことがあるのではないでしょうか。ECを以前は利用していなかった人もEC を利用するようになり、またキャッシュレス決済も昨年から使い始めたという人も多いと思います。フードデリバリーサービスも一般的になり、今後は食べ物に限らず様々な商品のデリバリーと非対面販売が一般的になっていくでしょう。これまで普通だったことが突然変化し、その変化に慣れた消費者の為の新しいビジネスのあり方を考えることが今後必要不可 欠になります。婚約指輪は給料3ヶ月分、結婚 10周年には記念のダイヤモンドなど、良い商品を揃えて待っていればお客様がお金を持って来店される時代は過ぎ去り、新しい価値観の消費者に適切に対応できるビジネスだけが生き残っていく時代になります。

 DXがもたらした市場の変化は、競合構造も大きく変えてしまっています。もしあなたが自社の競合を同エリアの同業店舗や同業界の他ブランドだと考えているのであれば、そ の考えは近いうちに変化させる必要があるかもしれません。

 本コラムでも何度も取り上げているAma zonは、かつては書店やレコードショップなど様々な業界の構造を塗り替えてきました。今後 Amazonは処方薬の販売、融資事業や保険業への参入などを計画しており、すでに様々な企業や消費者の膨大なデータを所有する同社が参入することにより各業界は大きな構造改革を迫られることになるでしょう。それぞれの業界は特に既得権益に守られ新規参入の難しい業界ですが、DXはこのような長年変化せず続 いてきた業界ですら一瞬にしてゲームのルールを変えてしまう力を持っています。米国に本部を置くNeatsy AI社は、iPhoneのFace IDに使用する深度センサーを利用し、ネットでスニーカーを購入する際に自分の足にフィットするサイズが正確にわかるフットスキャナーアプリを開発しました。このようなバーチャルフィッティング技術は今後宝飾を含む他のアパレル、アクセサリー製品のECに利用できる可能性があり、ECやWebプロモーションの利便性をどの業界でも加速させます。今後Amazonやその他テック企業が宝飾業界に参入してきたり、またBlue NileやJames Allenのような大手宝飾 EC企業が日本でキャンペーンを始めたりしないという保証はありません。そのようなことが起こった際に対抗できる自社の強みは何なのかを今真剣に考える必要があります。地震やコ ロナは予見不可能ですが、そのような事態は容易に想像でき、備える事ができるからです。

 本コラムのタイトルにもなっているスマホですが、もはや新しい世代だけのツールではなく、全世代にとって必須のツールになりました。 SNSを見るとわかると思いますが、若者だけではなく様々な世代が情報を発信しており、また情報収集に使用しています。テレビCMや雑誌広告で目にする商品が良い商品だと思う人は 今や少数になり、全て手元のスマホで商品を納得いくまで調べられるようになりました。また、SNSを利用して実際に購入した人の声も聞くことができます。この傾向はウィンドウショッピングが難しいコロナ禍時代においてより顕著になっているようです。Webでの情報収集により多くの時間を費やすようになるということは、店頭で販売員のトークを聞く時間よりも遥かにWebでの情報収集時間が多くなるということです。この傾向の中で必要なことは、Web戦略の充実、スタッフのプロフェッショナル化、店頭での販売体験の強化です。Web戦略に関しては今までも何度も触れてきていますので割愛しますが、事前知識を持ち、また来店後に疑問をWebで調べられるお客様と接する販売員には今まで以上の専門性が求められます。正しい知識を持っていることはもちろん、 Webでは調べられないような知識、そして個々のダイヤモンドに対するパーソナルな情報をどれだけ提供できるかがポイントになるでし ょう。また店頭でのより信頼感と特別感のある購買体験を提供することです。オーダーメイドジュエリーやワークショップのようなイベント、 またデジタルツールを導入した次世代のプレゼンテーションなども効果的かもしれません。

 例えば目新しいところでは、ダイヤモンドのトレーサビリティを完全に保証するSarine Trumatch™があります。これは店頭でダイヤモンド実物をスキャンするデバイスで、スキャンしたダイヤモンドの詳細なデジタルトレーサビリティデータを表示します。目の前でダイヤモンドルースをスキャンし、その個別の起源をデジタルで表示するプレゼンテーションは確かな信頼感と特別な体験を演出することが可能でしょう。近年、Webは個人の消費活動をより社会的なものに変化させました。毛皮、動物実験の疑いのある化粧品、環境負荷のある製品などは、個人の価値観を超越して購入への社会的圧力がかかっています。ダイヤモンドも例外で はなく、トレーサビリティ、エシカルなどの意識が高まっていく中で、店頭でのプレゼンテーションは大きな信頼感と差別化につながります。

 鍵は、現在の消費者の価値観と購買行動にマッチした戦略をテクノロジーとの融合で実現することです。そして最も重要なことは、このような情報を知っていることだけで満足するのではなく、まずトライしてみることです。知識は行動を伴うことでしか自分のものにできないからです。大きく変化した中でスタートする2021 年、皆様が何か新しい戦略に踏み出す最初の一歩のお手伝いができることを願っています。  具体的なご相談や質問は、弊社Pure Dia mondのWebサイト(www.purediamond j a p a n . c o m )又は私のメールアドレス (takuya-ito@pure-dia.com)にご連絡ください。
■連載コラム No,73 ■2021年2月2日 火曜日 17時44分22秒

EC先進国から見えてくること

 今年はオンラインシフトの加速によって、世界が大きく変化した1年でしたが、これは2021年以降より顕著になることが予想されています。

 世界のBtoC-EC市場規模は昨年2019年で約3兆5300億ドル。2021年には4兆9000億ドル、2023年には6兆5400億ドルまで上昇すると予測されており、今後ECを含めたオンライン戦略のあり方が一層問われることになります。消費者行動はよりオンラインにシフトしていき、オンライン上で決済まで完結するEC以外にも、情報収集、比較検討、そして消費者自身からの情報発信までを含めた包括的な概念になります。

 特に最近ではD2Cが注目されていますが、その成功理由は、SNSによって企業が既存の広告媒体を使わずに数十万人以上の消費者と直接的にコミュニケーションを取れる時代になったからです。特にコスメ業界ではオンライン戦略が進んでいるイメージがありますが、ターゲットも宝飾業界とある程度近いので参考に紹介させていただきます。

 2014年にNYで立ち上がった「Glossier」というコスメブランドは米国内のコスメ市場で急成長を遂げましたが、その成功要因はまさにオンライン戦略です。もともとVOGUE誌のスタイ リングアシスタントだった創業者のエミリーワイズ氏は月間140万人が訪れるファッションブログを持っており、そのファンがGlossierに流れたことで急拡大しました。しかし、注目すべき点はInstagramの戦略です。Glossierの製品には、インスタ映えするステッカーが同梱されています。ユーザーはそのステッカーを使い、タグ付けしてInstagramに投稿、それをGlossierの公式アカウントがリポストすることで顧客エンゲージメントを高めます。それを見た他のユーザーも真似をしてGlossier製品を使った投稿を するようになる、というものです。この一連の流れはUGC(User Generated Contents)の発生を狙ったものです。UGCはSNSプロモーションの活用で非常に重要です。UGCによって一般消費者が数珠繋ぎ式にどんどん投稿をしてくれるので、自社で広告をするより大きな、そして信頼性の高いプロモーションを行うことが可能になります。UGCの発生は今後のSNSマーケティングには必要不可欠な概念になります。

 また、EC市場先進国である中国のコスメも注目に値します。中国では、ECで販売できないものはないとまで言われています。独身の日と呼ばれる11月11日の年間最大のネット通販セール日が有名ですが、今年はアリババと京東の2社だけでも12兆円の流通額を記録。日常消費財だけでなく億単位の不動産から宝飾品まで販売され、この市場がどれだけ大きいかわかると思います。最近日本の若者の間でチャイボーグという言葉が流行になっているのをご存知でしょうか。これはチャイナとサイボーグを掛け合わせた造語で、人 間離れした美しい(中国風メイクの)女性を指すネット用語です。コロナ自粛で若者の間でメイクをして投稿することが流行り、チャイボーグはその中でも人気の投稿スタイルの一つです。Made in Chinaブランドも非常に人気で、花西子などのブランドはSNSで続々とユーザーがチャイボーグのタグで商品を投稿しています。また先月NY 市場でIPOを果たした中国コスメの完美日記は時価総額78億ドル。これらブランドの共通点は消費者とのコミュニケーションを重視していることです。ライブコマースやKOL(Key Opinion Leader)を活用した発信や、中国版インスタのREDやWeChatによる情報戦略を取っています。特にKOLによるライブコマースが人気で、これはネットのテレビショッピングというとイメージしやすいかもしれませんが、トップのKOLになると一回のライブ配信で何億円分もの売上を作ります。ライブコマースは最近日本でも徐々に注目をされていますが、コメントから質問ができたり、またその場にいるような感覚で買い物ができたりするというのが人気の理由です。このようなチャネルで大きな成果を上げるためには、 徹底した消費者コミュニケーション重視が必要です。完美日記は従業員の平均年齢が24歳と、 消費者と同年代のチームがコンテンツを制作しています。西花子では製品開発においてABテストから販売後までの消費者アンケートを回し続け、短期間で製品開発に反映させています。

 宝飾品販売においては、店頭の販売が全てオンラインにシフトしていくことはすぐには起こらないでしょう。引き続き店頭にお客様は来店され、購入するでしょう。そのためオンライン戦略の重要性を今感じることは少ないかもしれませんが、確かなことは、店頭で商品を購入されるお客様も情報収集、意思決定、そして情報拡散は必ずオンラインで行なうことがますます 増えていくということです。今は集客できていても、より消費者とのコミュニケーションを意識したオンライン戦略というものが今後必ず必要になってきますし、であればそのための経験値を今から積む必要があるということです。そして必ず、消費者コミュニケーションを重視する必要があります。これだけインタラクティブ型のメディアが台頭している現在において、メーカー側の一方的な価値観の押し付けはもう通用しない時代になってきているからです。

 オンライン戦略においてツールを使いこなすことはもちろんですが、最も重要なことは発信する人間がプロフェッショナルであることです。 ユーザーが知りたい、知って良かったと思える情報を発信できるコンテンツを作ることが、顧客エンゲージメントには重要です。キャンペーンやセール情報の発信だけでは絶対に成功しませ ん。KOLも、それぞれの分野に専門的な知識があるからこそ、信頼され商品を売ることができるのです。ですからECやオンラインマーケティングは、誰よりもその分野の知識を持った人間が、片手間ではなく『本気で』取り組む必要があります。

 これは様々なデジタルツールにおいても同様です。デジタルツールは導入すれば売り上げが上がる魔法の道具ではありません。それをどう活用するか、どう自社の強みとして組み込めるかを本気で考えられるかどうかが、成功を分ける鍵です。実際に、Sarine社などが提供しているデジタルツールを利用して成功している企業、そうでない企業を見ると、導入してからどう活用するかを真剣に考えているか、導入したことだけに満足しているかが分かれ目になっていると感じます。

 数年前に比べて、今はデジタル導入が非常に簡単になりました。Sarine社のようなダイヤモンドに特化した上質な消費者優先型のデジタルツールをすぐに導入できますし、ECに関しては特別な知識がなくても数日あれば誰でもある 程度のものを開設することが可能です。要は、やる気があるかどうかです。今年の残り約1ヶ月、 最も宝飾販売市場の熱い1ヶ月でもありますが、この今年のラストチャンスが是非何かをス タートするきっかけになりますと幸いです。
■連載コラム No、72 ■2020年11月2日 月曜日 14時30分43秒

天然ダイヤモンドの神秘性をより際立たせる

 新型コロナウィルスが引き起こした混乱は、企業やブランドに対する今までには存在しなかった価値基準をもたらしました。すなわち、デジタル化によって混乱を乗り越えられているかどうかという点です。
 ロンドン・スクール・オブエコノミクス(LSE)の研究者は、この混乱的な状況の中でデジタル技術がどの様な役割を果たしたのかを検証しています。企業戦略を4つのカテゴリー、『既存資産を酷使する戦略』『事業の維持優先戦略』『タイムスケールとリソースの見直し戦略』そして『長期的な適応と柔軟性の向上を優先する戦略』に分類しました。
この混乱的状況下では目先の短期志向(前者2カテゴリー)を選択する企業が多い一方、危機下でも勝ち組の企業は長期志向の後者の企業が多く見られており、そしてデジタル化 はそれに大きく貢献していたようです。LSE は「多くの組織は回復の過程で従来よりも テクノロジーを活用するようになるが、一部の企業は他の企業よりも競争上優位になると見られ、この差は不可逆的なものになる可能性がある。この点で、新型コロナウィルスの時期は、企業のDXの歴史において重要なターニングポイントになるかもしれない。
これによって以前から存在したデジタルデバイドはさらに広がる。」と指摘しています。  つまり、このコロナ禍においてDXに関する考え方と戦略は、この一過性の危機を乗り切 るためのものではなく、長期的な企業ポジションに大きな影響を及ぼすということです。 その中で、ある意味朗報としては、この危機的状況がデジタルシフトを進めるためのインフラの強化とサービスのバリエーション増加を加速させているということです。デジタルシフトのためのサービスは、既存から新たなものまで、今や我々には様々な選択肢があります。
 前回のコラムでは世界でのデジタルシフトの取り組みと成功例を紹介しましたが、今回 は実際我々がすぐにでも取り組めるデジタル手法について紹介したいと思います。
 一つはオンライン在庫活用による効率化です。元来、特にダイヤモンドを取り扱う企業にとっては商品の性質上、現金でまとまった在庫を仕入れてストックしておく必要がありました。最近では小売店に委託をするメーカーもあると思いますが、いずれにしてもメーカーか小売店、またはその両方が在庫を抱える必要があります。しかし、現在では国内に在庫を持たずに、国外の豊富なダイヤモンドの情報をオンライン在庫として自社サイトに引き込んで活用したり、また店頭での接客販売に使用したりすることが可能です。また、国外の在庫をただ見せるのではなく、完全にカスタマイズされた自社のインターフェイスとして運用することが可能です。つまり、消費者からは自社在庫として見えるようになります。多くの場合、オンライン在庫のデータには石目やグレードだけではなく、寸法データ、ルース画像、ローテーション動画、鑑定書PDFデータが含まれており、 現物を持たずにダイヤモンドの詳細を見せることが可能です。これはラボグロウンダイヤモンドのサプライヤーだけではなく、天然ダイヤモンドのサプライヤーもこのようなシステムを提供しており、このサービスを活用することにより、実際に在庫を持つよりも多くの選択肢を、在庫を持たずにお客様に提供することが可能になります。
 また製品に関しても、普通はサンプルを制作して写真を撮影する必要がありますが、こ れには製品制作コスト、在庫負担、また現物の写真撮影コストなどがかかります。しかし今ではデザインをCADデータで作成してレンダリングを作成することにより、現物のサ ンプルを作成しなくても高いクオリティの写真や3D画像を作成することができます。こ れはビジネスの回転スピードと在庫効率に大きく貢献します。Sarine社などが提供しているVertoというシステムでは、このレンダリング作成を使いやすいユーザーインターフェイスのプラットフォームとして提供しており、画像の角度やアスペクト比の選択、また金属の色調や質感、宝石の色の変更も自由に行うことができます。
 ダイヤモンドの情報のデジタル化やトレイサビリティも引き続きトレンドです。GIAは先月よりラボグロウンダイヤモンドのフルレポートサービスを開始しましたが、デジタル レポートのみの提供となっており、インター ネット上でのみ閲覧することができます。特 にデジタル世代のユーザーにとっては物理的に保管が必要な紙の鑑定書よりデジタルレポートの方がより好まれる傾向にあるかもしれません。Sarine社の提供するデジタルレポートSarine Profile™及び原石からのカット工程をデジタル化するDiamond Journey™も好調で、国内でも導入企業では売上を伸ばしてきています。研磨されたダ イヤモンドは肉眼では違いが極めて分かりづらいですが、Sarine Profile™は個々のダイヤモンドの個性に焦点を当て、唯一無二のユニークなダイヤモンドであることを消費者に示す新しいプレゼンテーションを実現させました。そしてDiamond Journey™ は更に踏み込んだ、原石の個性を可視化することによって、研磨する前の荒々しい個性と、研磨された後の洗礼された個性の対比に焦点を当て、天然ダイヤモンドの神秘性をより際立たせています。
 新しい時代に対応できるかどうかは業界によって度合いが全く異なりますし、また業態によっても左右されるはずです。加えて、リソースの投入を含めて困難なことが生じる可能性もあります。しかし、デジタルシフトによりこの状況を乗り切ることができれば、長期的に大きなメリットになるはずです。
 具体的なご相談や質問は、弊社Pure DiamondのWebサイト(www.purediamondjapan.com)又は私のメールアドレ ス(takuya-ito@pure-dia.com)にご連絡ください。
■■ 連載コラム No71 ■2020年10月1日 木曜日 10時49分57秒

一歩踏み込んだ、OMO + Emotion

 コロナ禍が世の中のデジタルシフトを加速させる中、ジュエリー業界にとってもデジタル戦略はもはや必須課題となっており、既にジュ エリー業界の様々なセクションで多くの実績を上げ始めています。
 ティファニーは7月31日までの3カ月間でe コマースの売上を123%増加させ、過去3年の平均6%だった全体の収益に占める割合を 15%まで増加させました。アメリカ最大のダイヤモンド小売チェーンSignet Jewelersは8 月1日までの四半期のオンライン売上が2.7億ドルになり、昨対72%の増加となっています。
 オークションハウスもパンデミック以降デジタルシフトを加速させており、大手のクリスティーズは6月30日にオンラインオークションの新記録を樹立しました。(28.86cts D-VVS1 Type2エメラルドカットダイヤモンド 落札額210万ドル)
 展示会もオンラインシフトが加速しています。9月にはAWDCとイスラエルダイヤモンドインダストリーによるオンライントレードショーがVDBのプラットフォームを利用して開催されました。実際に参加しましたが、スマホアプリによる洗練されたシステム、会期中は世界中どこからでも24時間参加できるオンライントレードショーは、今後の可能性を感じさせるものでした。バーゼルワールドはHouruniverseという名称で通年開催のバーチャル展示会を立ち上げ、香港フェアも今年は10月27日から D&J Digital Worldとして開催されます。
 原石取引に関して、デビアスはテクノロ ジーに特化した組織改革を進めており、ロシアのAlrosaはSarineの技術で、それぞれの原石のほぼ完璧なデジタルデータの提供を開始しています。

 一方、消費者サイドのデジタル化も加速しています。世界中でリモートワークの普及によりデジタルネイティブの存在感が大きくなってきています。従来の仕事ができる人間の定義が覆り、デジタルツールを使いこなせる人材の価値が高まってきているのです。消費者自体 がデジタルシフトする以上、それが消費動向に大きな影響を及ぼすことは確実です。デジタルネイティブ世代、またデジタルシフトされた 人々にとって魅力的なプレゼンテーションと利便性が今後のジュエリー販売の核になり、 コロナ禍の収束に関わらずこの潮流はジュエリー業界の状況を完全に変化させるでしょう。
 しかし、ジュエリーが情緒的価値商品である以上、デジタルテクノロジーの訴求方向性 は感情に結びついている必要があります。前回のコラムではノードストロームの例を出して OMOの有効性を紹介しましたが、ジュエリーにおいては一歩踏み込み、OMO + Emotion が重要なポイントになります。ジュエリー業界においてのデジタル活用は情緒的価値を強化する為のものでなくては意味がありません。

 幾つか例を紹介しましょう。Darry Ringという中国全土に展開しているブライダルジュ エリーブランドがあります。このブランドのキャッチコピーは『The Only One for a Life time』(生涯で唯一)というものですが、実際にこのブランドで男性が買い物をできるのは、一生に一度だけです。購入時に公的身分証の番号を入力する必要がありますが、そのデータは全店舗で共有され、一度購入した人は、その後二度と購入することはできません。女性にとってDarry Ringの指輪を贈られることは『生涯で唯一の人』を意味することから、非常に人気のあるブランドになっています。シンプルな デジタル活用ですが、確実に感情に訴えかけており、非常に大きな効果を発揮しています。
 NYに本部を置くVerragioというブランドではリングの細かいカスタマイズが可能で、 オンライン上のコンフィグレーターで消費者自身が自由にリアルタイムにデザインを作成 できます。数えきれないほどのオプションの中から自分だけのリングを組み上げる楽しさ、 愛着、特別感という価値をデジタルで提供しています。
 シンガポールを中心にアジア各国で展開しているSK JewelryはLovemarqueブランド でSarine Profileシステムを導入、ダイヤモンドの輝き評価及び3Dフルデジタルインフォメーションという手法でダイヤモンドの完全な品質開示を行い、生涯で最も大切なギフトに相応しいクオリティダイヤモンドブランドのイメージを確立しています。
 Tiffanyはデジタルテクノロジー活用したトレーサビリティプログラム、Diamond - Craftmanship Journeyを発表、原石からの加工工程をデジタルで開示し、天然ダイヤモンドの神秘性と信頼性を訴求するアプローチを取り入れる予定です。この個々の原石をデジタルインフォメーションとして見せる手法はラボグロウンダイヤモンドの普及以降、より天然ダイヤモンドの価値を高めるものとしてトレンドになりつつあり、日本でも Sarine Diamond Journeyとして既に導入がスタートしています。店頭に並んでいる美し いダイヤモンドがそれぞれ個性的な唯一の原石から磨き出されているストーリーは、数十億年かけて誕生した天然ダイヤモンドの価値を更に情緒的に高める効果があります。
 ラボグロウンダイヤモンドのブランドはエシカルを情緒的価値の柱としています。アメリカ、カリフォルニアのDIAMOND FOUNDRY社 は自然エネルギーを使用したクリーンなダイヤモンド生産を洗練されたイメージと共にアピールし、特に倫理的価値観に敏感な西海岸のセレブを中心に大きな支持を集めています。

 今後緩やかにコロナの影響が軽減されていくとしても、業界構造がデジタルシフトし続けることは確実な未来です。ブライダルジュエリーを義務として購入する時代は過ぎ去り、消費者に対する購入の強い動機付けが必要になるこれからの時代において、感情に訴えかけるデジタルの情緒的活用はもはや必須スキルとも言えます。コロナが一変させるこの業界において、私の情報が新たな戦略の参考になれば幸いです。
 具体的なご相談や質問は、弊社Pure DiamondのWebサイト(www.purediamo ndjapan.com)又は私のメールアドレス (takuya-ito@pure-dia.com)にご連絡ください。
■連載コラム No 70 ■2020年9月1日 火曜日 14時20分54秒

消費者バリューを重視したGIAの対応

 コロナウイルスの関係で今年の国際展示会は中止、またはオンライン開催となっていますが,,先月(8月)のJCKショーもオンライン開催(JCKバーチャル2020でした。その中で開催された、JCKバーチャルのウェビナー(ウェブセミナー)では、GIAのCEOスーザン・ジャック氏 が言及したラボグロウンダイヤモンドのレポー トについて話題となっています。
 GIAは2006年よりラボグロウンダイヤモンドのレポートを発行していますが、以前は合成ダイヤモンドに該当する「Synthetic Diamond」という名称をレポート表記に使用していました。 これを昨年の4月、米国連邦取引委員会のガイドライン変更を受けて、「Laboratory Grown Diamond」の名称へと変更しました。しかし、その後もグレード表記に関しては天然ダイヤモンドと異なる表記を引き続き採用しています。
 今回のGIAの発表は、今年末からラボグロウンダイヤモンドに対して(天然ダイヤモンドと同様の)フルグレードのレポート提供を開始するというものです。「これは心変わりではなく、進化です。」とスーザン・ジャックは述べ、変化していく市場や環境に対応する必要があることを強調しました。実際、この変化には2つの重要な意味が含まれていると考えます。一つは、変わりゆく状況に我々は柔軟に対応する必要があるということ、そしてもう一つは、消費者に対して公正で有益な価値を提供する必要があるということです。
 今までGIA鑑定書では、ラボグロウンダイヤモンド独自のグレード表記が使用されており、 ラボグロウンダイヤモンドの購入を希望する消費者のニーズに対応ができていませんでした。 ラボグロウンダイヤモンド購入希望者で、独自のグレード表記に満足する人はほとんどおらず、それは多くの消費者が、ラボグロウンダイヤモンドに対して、ダイヤモンドとしての一般的で,そして正確なグレードを知ることを望んでいたということです。これは、現在ラボグロウンダイヤモンド鑑定書の市場流通を、フルグレード表記を採用しているIGIやHRD、またはGCALのものが占めていることからも明らかです。ですから今回のGIAの対応は、消費者にとってのバリューを重視し、市場の状況に合わせて柔軟に対応した結果だと考えています。

 コロナ禍の状況にあって今最もよく聞くキー ワードは『DX』(デジタルトランスフォーメーショ ン)だと思いますが、実はDXの本質というのも、この二つが非常に重要な意味を持っています。 つまり、柔軟な変化とユーザー価値の創造です。
 アメリカに、シアトルに本部を置くノードストロームという百貨店チェーンがあります。ノードストロームの店舗を訪れてみると、百貨店として客数は決して多い方ではありません。しかしこ のノードストロームで特徴的なのはEC販売の 比率が百貨店としては突出して高く、またEC購 入のためのピックアップカウンターを設置していることです。アメリカのECでは一般的に、ある程度高額な衣料などを購入する際、とりあえず20着ほどまず購入して家で試し、1着を選んで 残19着を返品することは最近では普通のことです。そこでノードストロームでは、お客様がWebで欲しい服をセレクト、店舗に訪れる日時をWeb予約すると当日に試着室にその20着が用意されていて、そこですぐに試して購入できるシステムを作りました。また、EC購入の商品も店頭で簡単に確実に返却できるよう、返却カウンターと返却ポストを店頭の目立つスペースに 設置しました。返却ポストにはQRコードが設置されており、そこで手続きをするだけで列を待たずに返品が完了します。デジタル技術をフル活用し 、オンラインとオフラインを融合(OMO)、そしてユーザービリティを最大まで追求したこのノードストロームのDX戦略は、旧態依然とした他の百貨店が相次いで閉店する中 でひときわ大きな成功を収めています。
 古くは銀行ATMも(当時はその概念がありませんでしたが)DXの好例です。ATMの登場によって人間の窓口業務が機械に置き換えられましたが、それにより小規模な銀行支店が増え,また窓口での新たなサービスに人員を割けることになったため、利用者から見た銀行の利便性が大きく向上しました。 一方で、一時期話題になったAmazon Goはどうでしょうか。無人コンビニとして大きな注目を集めていますが、消費者の目線で言うと物珍しさ以上のバリューを感じることはないと思います。もちろんAmazonも将来を見据えた企業なので、現在のパイロットテストを経て新たなバリューをAmazon Goで将来的に提供するものと思いますが、DXの本質は、今まで行っていたことを機械やデジタルによって代替することでは全く不十分であることがわかると思います。

 DXの本質は、革新技術の積極的な取り入れと、それによって利用者に対しての付加価値をどう生み出すかです。店舗販売をオンラインにすれば良いとか、目新しいものを取り入れればいいという単純なものではありません。もちろん、今までのアナログなことをデジタルに置き換 えるということはDXの最初のステップとしては 正しいですが、その先にある顧客を意識する必要があります。  今までのビジネスの考え方は、過去の経験則 に基づくものです。今までやってきた事の積み上げの上に、今後のビジョンをイメージすることが普通で、その上昇は比例的(直線的)なものです。一方で、現代の技術革新スピードは指数関 数的に上昇しているので、今までの思考方法で はこの革新についていくことはできません。特に コロナ禍がその革新スピードに拍車をかけている状況では、過去に囚われない新たなチャレンジが必要不可欠になってくると思います。  小売店のあり方が変化し、大手百貨店ですら新しいチャレンジをしなくては生き残れない現在、またGIAのような世界中に大きな影響力を持つ組織が時代に合わせた変化を実行する中で、我々は今一度、この時代の変化に対応する 努力を自分がしているかどうかを問うべきタイ ミングに来ているのではないでしょうか。
具体的なご相談や質問は、弊社Pure Diamond のWebサイト(www.purediamondjapan. com)又は私のメールアドレス(takuya-ito@ pure-dia.com)に連絡をいただければ幸いです。
■■ 連載コラム No 69 ■2020年8月1日 土曜日 14時6分26秒

デジタルとフィジカルの共存及び融合

 全国的に新型コロナウィルスの感染者数が 再上昇する中で、私たちは終わりの見えない 戦いの中にいます。しかしこの状況だからこそ、今体験できること、挑戦できることも数多くあると私は考えています。
 アメリカGoogleのCEOであるサンダー・ピチャイ氏はアフターコロナの世界について「緊急事態が終わっても、世界は以前と同じような姿ではないだろう。オンライン上での仕事、教育、医療、買い物、娯楽は今後も増えていく」と述べました。これはGoogleの企業としての希望的観測も含まれていると思いますが、私の考えでは、このコロナ禍が収束した後に消費者は確実にデジタルにシフトしていきますが、そこには必ずデジタルとフィジカルの共存及び融合があります。
 現状では新型コロナウイルスの影響を受け実店舗への来客が減少しているという実態が あると思います。しかしジュエリーのような、個々に製品の違いがあり、また千差万別の好みがあるファッション的な側面を持つ商品の売買には、きめ細やかな接客が可能な実店舗には一定の優位性があります。「エタニティダイヤモンドリング」とネットで検索してピックアップした同じように見える商品もそれぞれ違いがあり、消費者は場合によっては販売員のアドバイスを受けながら商品を選びたいと 考えるからです。しかし一方で、店頭で人と話すのは気後れするのでネットで時間を問わずゆっくり吟味したいという人も多く存在しま す。かつて店舗の大きな役割は、世の中の流行や最新の商品を提示するというものがあったと思います。インターネットが今ほど普及していない時代には、新しい商品を見る為には店頭に足を運ぶ必要があったでしょう。しかしその役割は現在ではネットによって取って変わられ、むしろ海外の情報に自由にアクセスできる人に関しては、店頭より多くの情報を持っていることもあります。
 上記の状況を総合的に考えると、今後のジュエリー販売の課題は明確です。一つは、デジタル戦略への理解を持ち、挑戦することによ り自身の経験値にすること。もう一つは実店舗の存在意義を明確に持つことです。デジタル技術が革新を続ける中、明確な実店舗の優位性を理解し追求することは必須になるでしょう。
 現在、海外のダイヤモンド業界ではデジタル化の波が押し寄せています。これはこのコロナ禍で加速したものですが、いずれにしても必ず近い将来には起こっていたことです。   現在、世界最大級のダイヤモンド鉱山ALROSAは最新のデジタルテクノロジーを採用したオンライン原石販売を採用しています。 原石の詳細はデジタルデータとしてバイヤーに 提供されており、そのデータには原石の正確な3D形状、最先端スキャナーによる内包物の完璧な3Dプロット、カラーのデータが含まれます。提供されたデータはSarine社のAdvis Advisor™というソフトウェアを使用し、事前に最適なカットを多くのパターンから知ることができます。つまり現物を手にすることなく、事前にそれぞれのダイヤモンドの期待値を高い精度で知ることができます。このシステムにより、原石買付リスクを最小化し、全体のコストをダウンさせ、そして生産時間の短縮を実現させます。
 今年の9月には、AWDC(Antwerp World Diamond Centre)とIDI(Israel Diamond Industry)が共同で第2回となるオンライントレードショーを開催します。これは現在のコロナ禍で世界中の展示会が中止を余儀なくされている中でダイヤモンド取引を加速させるために企画されているものですが、デジタルによるダイヤモンドの詳細データ、リアルタイムビデオチャットなどを利用し、世界中どこからでも(業界企業 限定で)参加できる次世代の展示会になってい ます。またウェブセミナーなども計画されております。これもまさにコロナ禍が加速させたデジタルトランスフォーメーションの一例です。  研磨済ダイヤモンドの3Dデータをデジタルレポートとしてオンラインで提供するSarine Profile™のサービスも、デジタル接客に非常に有効として世界中の特に大手小売店で採用 が加速しています。特にダイヤモンドの原石から研磨までのデータをデジタル化した Diamond Journey™はダイヤモンドの新たな魅力を消費者に提示するものとして多くの 企業から注目を集めています。
 このような取り組みは、コロナ禍が収束した後も経験則として提供する側、利用者側双方の経験値となり、状況に応じてデジタルとフィジカルが両立する世界になっていくでしょう。コロナ禍が収束した後、デジタルとフィジカルの融合は加速すると考えます。今後、「宝石買うならなんとなく実店舗の方がいい」では通用しなくなる時代に入っていきます。消費者が多くの情報を持つ現代では、市場に迎合するだけのブランドや顧客への理解が浅く、価格競争や過去の経験則に基づいてのみの商品販売はとても厳しい時代に突入します。顧客理解に基づいた明確な価値(選ぶ基準)を提示できる店舗(EC、実店舗共に)が選ばれる時代になるからです。そしてこれからの時代、デジタルが実現できることは予想している以上に非常に多くあります。ウィズコロナ、アフターコロナでは、ECと実店舗はそれぞれの優位性を生かしつつ、共存するようになるでしょう。しかしその為には、相互の、特にデジタルの理解と、それぞれの業態の優位性の追求が必ず必要になります。ジュエリー業界においても現在の不自由な世界環境によりデジタルの波がきているこの状況は、ある意味チャンスと捉え、様々なツールを試すことにより、今後の方向性や自社の優位性が見えてくるでしょう。実 際にどのようなサービス、ツールがあり、どう活用できるかは、弊社Pure DiamondのWebサイト(www.purediamondjapan.com)又は私のメールアドレス(takuya-ito@pure-dia. com)に連絡をいただければ、是非具体的にご紹介させていただきます。
■■ 連載コラム No68 ■2020年7月2日 木曜日 15時48分36秒

利用する企業にかかる、武器の活用法

 本コラムで一貫しているメッセージは、時代の変化に柔軟に対応することです。
 ここ数年で大きく発達し変化した分野の一つが、ストリーミング配信サービスではないでしょうか。特にビデオストリーミングサービスを利用している方は、レンタルビデオショップにいかなければ自宅で映画を観られなかった日々には決して戻りたくないと思うでしょう。ここ最近コロナの影響により自宅で過ごす時間が増え、ビデオストリーミングサービスを利用し始めた方も多いと思います。私も現在4つのビデオストリーミング契約をしています。レンタルビデオショップを利用していた頃は、その度にわざわざ出かける必要がある上、歩き回ってタイトルを探し、レンタル中のタイトルは断念し、また返却が遅れると延滞料を取られるというリスクがありました。返却予定日が大雨や雪だと非常に面倒な思いをしたものです。
 2007年にNetflixは世界で最初のビデオストリーミングサービスを開始しました。同様の
サービスを使用したことがある方はわかると思いますが、思い立ったらいつでも映画を見ることができ、しかもユーザーの好みに合う映画をお勧めしてくれます。今ではNetflixは世界の家庭のビデオ視聴スタイルを完全に変化させました。余談ですが、Netflixの企業文化と行動規範を定めたカルチャーデックというものがりますが、この資料はシリコンバレーから生まれた最高の文章と評されました。ネットで公開されているので、ぜひ読んでみてください。
Netflixがなぜこんなに強い企業になれたのかが理解できると思います。(本コラムでは人事制度を含む経営手法に焦点を当てているわけではないので、内容に関しては割愛します。)
 ダイヤモンドに話を移し、テクノロジーの変化を辿ると、ダイヤモンド業界では過去数十年で製造分野において大きな発展を遂げてきました。最先端技術によりリスクは軽減され歩留まりは改善され、またジュエリー製作精度も向上しています。しかし一方で、ダイヤモンドのグレーディングと販売の現場は数十年で大きな変化はほぼありません。映画で言えば制作技術は発展したのに、未だにレンタルショップで作品を貸し出しているようなものです。ダイヤモンドのグレーディング自体は過去何十年とほぼ変わらない方法で、手作業で行われており、またそこで発行される紙のレポートは現代のダイヤモンド販売現場が持つ課題に答えているとは言えません。現在、ダイヤモンドの鑑定は実はほぼテクノロジーによる完全オートメーション化が実現可能なステージに来ています。近い将来、各企業の中で完全な信頼性の高い、そして一貫性のあるグレーディングが実現できるでしょう。
 また、実際に導入されている企業も多くありますが、テクノロジーによるダイヤモンドのその他の特徴の分析は個々のダイヤモンドに対して4Cグレードよりもはるかに多くの情報を提供することができます。同一のグレードのダイヤモンドであっても、内包物の大きさ、位置、種類、蛍光性、外観的特徴はそれぞれ異なりますし、それに伴って当然輝きの多寡も変化します。現代のテクノロジーではそれら全てをデジタルデータとして記録し、適切な情報をお客様に提案することが可能です。ビデオストリーミングサービスでは
ユーザーの好みに合わせて最適なタイトルをリコメンドする機能がついていますが、多くのダイヤモンドデータを利用することによって、BtoB、BtoC共に4Cを超えた最適なダイヤモンドの選出と提案をすることが将来的には可能になります。これは小売店にとっては自社に最適なダイヤモンドを効率的に仕入れることを可能にしますし、また店頭ではお客様にとって最適なダイヤモンドを、デジタルテクノロジーを用いて提案することを可能にします。グレードを超えた接客は、現代の(多くの情報にアクセスでき、本質を見抜くことができる)消費者にとっては非常に響くプレゼンテーションになります。またデジタルデータによる機会ロスの削減と提案の迅速化は企業と消費者双方にとって大きな利益をもたらします。正にストリーミングサービスによってパラダイムシフトが起こったことに似ています。Netflixも最初は映画業界を破壊すると言われ、またオリジナル作品がオスカーを受賞することに対する批判もありましたが、現在では消費者により受け入れられていることは紛れもない事実です。
 コロナショック以降、消費者の価値観や心理状態は大きく変化しました。それと同時に企業やブランドに求められるコミュニケーションの質も大きく変化しています。この不安定な状況の中で消費者が企業に求めるのは、共感できるメッセージでありコミュニケーションです。そしてそれは表面的なものではなく、本質的な表現がより求められる時代になるということです。例えばNIKEは「Play for the world(世界のためにスポーツしよう)」というWeb動画キャンペーンが人々の共感を得てブランド価値を高めました。今後このような価値観が加速するにつれて人間らしい温かみのあるコミュニケーションはより一層重要になってきます。ダイヤモンドに関して言えば、当然そのダイヤモンドの社会的倫理性がより一層求められてくるでしょうし、グレードと鑑定書だけの接客ではなくダイヤモンドそれぞれの個性にフォーカスした、それぞれのお客様のための最適なダイヤモンドの提案が必要になります。そしてそれはテクノロジーが可能にするでしょう。今後そのような流れの中、D VVS1ですよ、H&C鑑定書がついていますよ、安いですよ、という売り方は必ず取り残されていきます。
 これからの時代を考える時、オンライン活用と現実の融合、倫理性、それぞれのユーザーに合わせたカスタマイズされた接客が求められることは異業種を見ても明らかです。そしてそれを実現するのは、テクノロジーだけではなく、それを活用するそれぞれの企業、ブランドのアイデアと方法です。個々の戦略とも言えます。テクノロジーという武器は誰もが等しく享受することができますが、それを戦略として正しく活用できるかどうかは利用する企業にかかっているからです。テクノロジーの詳細や活用するヒントなどは、ぜひ共有させていただき、皆様の今後の発展に役立てていただければと希望しています。弊社P u r e D i a m o n dのW e bサイト(www.purediamondjapan.com)又は私のメールアドレス(takuya-ito@pure-dia.com)に連絡をいただければ、是非皆様ビジネスに合わせ戦略を一緒に考えさせていただきたいと思います。
■■ 連載コラム No67 ■2020年6月2日 火曜日 14時18分6秒

トライ&エラーで得る成功

 先月末にやっと全国的に緊急事態宣言が解除され、世の中は日常を取り戻しつつあります。一方で第二波、第三波への警戒や、新しい生活様式に沿った営業体制の模索など、元通りではなく引き続き注意と工夫が必要な状況になっていると思います。そのような状況の中で肝心なことは、以前のスタイルを取り戻すことではなく新しいスタイル、新しいビジネスを模索することです。新型コロナウイルスが存在するかしないかに関わらず、時代と消費者の価値観、そしてテクノロジーは進化しており、今回のコロナ騒動はそれを少しだけ加速させたに過ぎないからです。
 そのような時代で最も注目すべきポイントは、本コラムでも何回も触れていますが、消費者の行動がよりオンラインに移行していくということです。今後人々は、人生の半分以上をオンラインで過ごすようになると言われ
ている現代において、SNSやネット広告は流行りの一言で片付けられるものではありません。これからの時代、ネット上に情報が存在しないものはこの世に存在しないことになります。今後は、コンテンツを消費するだけの側ではなく、いかにネット上で有益なコンテンツを発信する側になれるかが間違いなく成功の鍵になるでしょう。事実、それを裏付けるデータも存在します。様々な年代の4,000人超を対象にした調査では、まだ緊急事態宣言が発令された4月前半のデータで、SNSの利用時間が増えたと回答した人は34.5%、またSNSを利用した企業のプロモーションには9割以上が肯定的で、実際にそのプロモーションに対してキャンペーンに参加する、フォローするなどのアクションを起こす人が多い傾向も見られたようです。今後、SNSをはじめとしたオンラインプラットフォームの拡大によってビジネスのフィールドは今までより遥かに大きくなります。実際、この新型コロナが世界中で蔓延し始めて以降、オンラインを介したビジネスの相談やオファーが日本だけでなく世界から私に届くようになりました。そのうちの幾つかは実際に進めているところですが、今後はこのような案件が増えていくのだと感じています。いずれにしても、地域限定のビジネスのようなものは、今後は少なくなっていくのかもしれません。
 新型コロナなど厳しい状況下ではとかく守りに入りがちで、新しいことにトライすることは難しいと感じるかもしれませんが、リスク範囲をしっかりマネジメントしながら新しいことにトライすることは必ず必要です。
なぜなら、トライし続けることはすなわち新しい情報を取り入れて学んでいくことで、テクノロジーが台頭している現代では、トライ&エラーを繰り返すことでしか自分にとっての正解を得ることができないからです。現在
どのようなSNSが世の中にあり、どのSNSをどの世代のどの性別のユーザーがメインに使っているか、地域による偏りはあるのか、どのSNSでどのようなキャンペーンを実施することが自分のビジネスに最もマッチするのか、実際それは日々変化していきますし、一度成功した方法がずっと通用するわけでもありません。しかし雑誌やテレビの広告と違いターゲットを明確にセグメントできることや、効果測定が容易にそして正確にできるので、これを活用できるかそうでないかでは大きな差が出てくることになります。例えばライブコマースは実際海外では非常に効果を上げている手法ですが、まだこれを本格的に試そうとする日本企業は多くないようです。可能性のあることはまず試し、可能性があるか、自身のビジネスにマッチするか判断することがこれからの時代の成功には必要だと思います。
 ラボグロウンダイヤモンドに関しても同様だと私は考えています。実際市場にはまだ認知されていない商材なので、どのようなターゲットがどのようなシチュエーションで興味を持つのか、購入するのか、それは実際にト
ライした人でないと得ることができない情報であり、その試行錯誤を繰り返すことでビジネスは洗練されていきます。SNSなどオンラインでのプロモーションにシフトしていくこと、今までとは異なる素材や商材を取り扱うことは懐疑的であったり否定的だったりする人も少なくない、むしろ多いと思います。しかし、成功するビジネスモデルが最初から多くの人から称賛されたり賛同されたりすることは、過去の例を見てもまずありません。日本で絶大な人気を誇るiPhoneですら、日本で初めて発売されたときは世間から冷めた目で見られていたのを記憶している人も多いのではないでしょうか。多くの人が素晴らしいと思うものは実は既に誰かが成功させて過去のものになっているものです。新しいビジネスを成功させるためには、多くの人が否定的で見向きもしないタイミングで始める必要があります。その中でトライ&エラーを繰り返すことでしか、今後のビジネスの本当の成功はないと考えています。新型コロナとテクノロジーが一足飛びに時代の変化を促している現代において、過去の事
例に拘って変化を拒むのではなく、新しいビジネスに果敢に挑戦するような業界になるよう、新しいジュエリー業界を築いていけるよう今後も力添えできれば幸いです。
 全てのビジネスモデル、業態、更には全てのブランドに共通する成功のセオリーなどと言うものは存在しません。結局のところはまず試すところからスタートするしかないと思いますが、そのためのヒント、アイデアは是非協力させていただき、個々に共有できればと思っております。弊社P u r eDiamondのWebサイト(www.puredia
mondjapan.com)又は私のメールアドレス(takuya-ito@pure-dia.com)に連絡をいただければ、是非皆様のビジネスに合わせた個々の方向性を一緒に考えさせていただきたいと思います。__
■■ 連載コラム No、66 ■2020年5月7日 木曜日 12時53分38秒

アフターコロナでのポジショニング

 緊急事態宣言が全国に拡大され、特にジュエリー業界に関しては輸入、卸、小売など全ての業種で大きな影響が出ています。このゴールデンウィークも活動が大きく制限されていますし、完全な事態の収束までには想像より長い期間が必要でしょう。
 今まで、この瞬間だけを乗り切ればビジネスが元通りになると期待していたかもしれませんが、実はもっと長期的な視点で今後のビジネススタイルの改革を考える必要が出てきています。何故なら、事態が収束したとしても、この未曾有の事態において変化させられた消費者の意識や価値観は元に戻ることはないと予想されるからです。社会的変化が一過性のものではない以上、この自粛期間中の企業の挑戦的なアクションが収束後のポジションに大きく影響します。今、適切な対応をすることで、アフターコロナの市場でアドバンテージを得られる可能性があります。
 この自粛生活下では消費者の意識にどのような変化が起きているでしょうか。多くの企業が営業体制を変更し、IT系企業を中心にリモートワークが取り入れられています。飲食店やショッピングモールなどは軒並み休業しており、買い物などの外出も制限される中で極限的な抑圧とストレス環境下に置かれています。そのような環境の中で人々が求めるものは、ストレスの軽減と、この環境下でも少しでも充実した毎日を送るための方法です。
 この状況下で様々な企業が実践を始めているのが、既存顧客に対するCRM(顧客関係管理)の強化、新サービスの実施、社員モチベーション管理です。特にCRMに関しては、実際に行動(移動)が制限され、お客様が実店舗に来店できないからこそ、この時期に強化することで、今後のお客様との関係性に大きな影響を与えます。多くの消費者が、自粛期間が終わった後に何をしようかと思いを巡らせる中に、自社の店舗、ブランド、そして商品を入れてもらうのです。そのためには既存の情報発信だけでは不十分です。消費者との良好な関係の継続を目的とし、有益で新しい情報を提供し続ける必要があります。あらゆる業種、ブランドがオンラインでの施策に移行、強化している中で、いかに差別化を図るかが重要になってきますが、幸いジュエリー業界でオンライン施策に注力している企業は多くありませんので、今からでも戦うことは十分可能です。海外では、実店舗での売り上げが落ちている化粧品売り場でBAがライブ配信することで商品を販売している事例もありますし、国内ではビームスで初めてのライブコマースで1時間に6千人もの視聴者を集めるなど存在感を示しました。各業界で様々な取り組みが実施されている中で、ジュエリーでも必ずできることはあります。
 ポイントは、いかに上質な体験をデジタル上で消費者に届けるか、そしていかに有益な情報を
発信できるかです。多くの消費者が自宅での時間の消費を余儀なくされている中で、全年齢層でデジタルへの抵抗感が急速に弱まり、多くの時間をデジタル上で過ごすようになっています。収束の兆しが見え始めるにつれて、オンラインでのコミュニケーションが飽和状態になり、リアルへの欲求が高くなっていくことは容易に予想されます。この特殊な状況下では今後、よりオンラインとオフラインの融合は進んでいきます。デジタルはフィジカルの代替品ではなく、ブランド体験をよりリッチなものにし、ユーザー満足度を高めるものとして相乗効果を生むようになります。
 つまり、我々の扱っている商品とデジタル価値を融合させることによって、アフターコロナの
世界で自社のブランドや商品の存在感を高めることができます。ECでの販売に何かトライしてみるのもいいでしょうし、今このような状況だからこそ改めて自社の商品の魅力についてのオンライン配信を整備することも可能でしょう。また、Web上でダイヤモンド一点一点の違いをゆっくり比較することのできるダイヤモンドオンラインレポートの活用もこのような時期には有効でしょう。これはお客様が自由にWebサイト上で閲覧できる環境にする必要が必ずあるわけではなく、顧客とのデジタルコミュニケーション上で活用することもできます。Sarine Profile™のようなデジタルツールを使用すれば、お客様は自宅から一歩も出ることなく実店舗で見る以上に精緻な3D画像によって一点一点のダイヤモンドを確認しながら選ぶことができます。オンラインによるデザイン接客が組み合わされば、今までにないジュエリー購買体験になり、コロナ収束後でも新たな価値の提供になります。新しい商品、商材に関して顧客に伝えるためのデジタルコンテンツを作るのも有効な施策になります。ジュエリーに対しての感度の高い顧客層は、このような機会に新しいジュエリーに関する情報収集を積極的に行っている可能性があるからです。普段であればスルーしてしまうような情報、例えばラボグロウンダイヤモンドの魅力などの新しい情報も、時間をかけて読んでもらえる可能性もあります。ジュエリーやダイヤモンドに興味のあるお客様、または場合によってはコロナ収束後にジュエリーを買おうと思っているお客様はこの機会にインターネットで時間をかけて情報収集している可能性が大きく、その中でも、差別化でき新たな価値提供になるラボグロウンダイヤモンドのような商材は、この機会にお客様
に注目してもらうチャンスとも言えます。
 また社内施策としても、オンラインセミナーを実施するなどこの機会に従業員のスキルアッ
プのためにデジタルを活用している企業もあります。今までのように一カ所に集まってセミナーを開催する代わりにオンラインでセミナーを開催することで、参加ハードルも下がり、多くの従業員を集めて実施しやすくなりますし、収束後の顧客対応の質が大きく変わってくることが予想されます。また従業員のモチベーション維持にも有効な手段です。
 我々の業界が扱っているものは、過去何百年にもわたって変わらない価値です。どれだけ時代が進み発展しようとも、ジュエリーそのものには機能価値がないからこそ、生活必需品ではないからこそ、そこに人と人の絆がありライフタイムイベントが人生にある限り、決して消滅しません。書店はデジタル書籍の登場により消滅するかもしれませんし、ガソリン車は電気自動車により淘汰されるかもしれません。しかしジュエリーは心理価値商品として、自己承認向上、精神衛生管理、そして結婚など人生の重要なシーンで必要とされ続けるものです。新型コロナウイルスにより世の中の価値観が変わろうが、私たちの業界が提供しているものの本質的な価値と需要は今後も変わりません。むしろ、この状況下で人と人のつながり、リアルな価値、サスティナブルな価値への欲求が高まる中で、ジュエリーの価値が見直される可能性も大いにあります。
 今この状況を乗り越えるだけでも多くの努力が必要かもしれませんが、この状況だからこそできること、新しい顧客アプローチを模索することにより、アフターコロナでのポジショニングに大きな影響を与えるものと思っています。この未曾有の事態に、今何ができるかを一緒に考えられますと幸いです。
■ 連載コラムNo.65 ■2020年4月2日 木曜日 12時8分32秒

アフターコロナの価値観に注目

 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るっておりますが、皆様健康を第一に、この厳しい局面を一丸となって乗り切れる事を心から願っております。

本原稿を書いている時点でイスラエル、ベルギー、インド、ニューヨークなどが相次いでロックダウンされており、ダイヤモンドの輸入が極めて厳しい状況になっています。いつ完全に正常化するか不透明な状況では、今を耐えることももちろんですが、今後起こる可能性のある状況にどれだけ備えられるかが特に明暗を分けることになりそうです。
 最近巷では、ビフォアコロナ、アフターコロナなどという言葉が使われています。今回の新型
コロナウイルスを境目に世の中が大きく変化する事を表していますが、昨日までの普通が突然
普通ではなくなり、強制的に生活スタイル、ワーキングスタイルとビジネススタイルの変化が、しかも今この瞬間に要求されているのです。業務の効率化、勤務体系の見直しなど、いつかやろ
うと思っていた事が、ある日突然外的要因によって変化を迫られる。今回我々は、外的要因によって強制的なパラダイムシフトを経験しているのです。多くの企業ではリモートワークの強制的な導入によって、今までのワークスタイルが非効率であった事を知るようになりました。
また、成果のみにフォーカスされることにより、無駄に長い時間働いていた人が変革を迫られ
ています。物販においては外に買い物に行く人が減ったために巣篭もり消費と言われる購買活
動に、例えばWebを活用していかに対応できるかがポイントになっています。ただこのどちらも、いずれ対応しなくてはならない課題という認識はほとんどの人にあったはずです。要は、先の課題にどれだけ早く取り組めていたかが現状を分けているということになります。
 ジュエリー業界に限らず、本来日本は非常にイノベーションが起こりづらい構造になっています。リスクのある事に対しては慎重を期すと言えば聞こえがいいですが、今までのやり方や仕組みを変えたくない、既得権益権を手放したくない、また一部の既存顧客から見放される可能性に過度な恐怖感を持っているだけです。例えば本国でのUberやGrab、滴滴(DiDi)のような本来の配車サービスは未だに日本に導入されません。Uberや滴滴をアプリでタクシーが呼べるだけのサービスだと思っていると、このテクノロジーの本質を見失います。例えば滴滴の場合、一ヶ月で約10億件の移動データが集まるので、それをAI分析することで、どの時間帯にどこが渋滞するのかわかります。都市部の渋滞は世界中で大きな問題です。通常タクシーは空車のまま流している時間の方が客を乗せている時間より長く、それが交通渋滞の原因になりますし、二酸化炭素による大気汚染、又ドライバー自身の生産性の低下にも繋がります。滴滴はドライバーと客両方のデータを持っているので、どの時間帯にどこでどれだけの需要が発生するかデータとして導き出すことで究極的な効率化を実現します。また、ドライバーと客の両方をスコア管理することで、双方がより快適に利用できるようになっています。しかしその数々のメリットと可能性を抑え込み、危険が伴う、高齢者が利用しづらい、法整備が追いつかないなど、できない理由を並べ立て、可能な限り現状を維持しようとするのが日本の体質です。__

 それでも時代は変わります。時代が変わるということの意味は、本コラムのタイトルにも関連しますが、世代が変わる事を意味します。多くの前時代的なジュエリービジネスは未だに、お客様は紙媒体の広告を見て、または人通りの多い通りにある実店舗に訪れて、そこにある実際の商品を販売員のお勧めを聞いて、半ば受動的に購入するという半世紀前のモデルを前提に成り立っています。しかし、これからの消費者にとって意思決定に影響を及ぼすものが多岐に渡り、また価値観も多様化する中で、ただ店を訪れ受動的に意思決定をする人は以前に比べて格段に減少しています。今後その傾向がさらに加速する中で、その来るべき時代に向けて、いま何をしているのか聞かれたら、具体的に答えられますか?

 必ずしもWeb販売に切り替える必要はないです。もちろんいますぐラボグロウンを扱うべきという話でもありません。しかし、今後ますますWeb販売は、実店舗で提供するのと同等の価値をオンラインで提供できるようになります。バーチャル試着、丁寧な説明、高品質な購買体験、無条件返品など実店舗同様の価値をWebが提供し始めますし、対面の接客が苦手な世代にはWebで好きなだけ商品の比較検討ができることは大きなメリットです。この変化する時代に店頭ではどのように、今後の新しい世代を引きつける価値を提供していけますか?Webではなく店頭だから提供できる価値はありますか?今までの広告媒体以外で、自社ブランドに、また自社店舗にお客様を誘導するための導線が何かあるか聞かれた場合、答えられる施策は何かありますか?今後ますますラボグロウンダイヤモンドを取り扱う店舗やECが増えると想像できる時代に、自社では取扱商品に対して「様子見」以外の明確な方針を持っていますか?天然ダイヤモンドを扱うのであれば、その価値をお客様に明確に伝える方法を持っていますか?Webか実店舗か、ラボグロウンか天然かという話ではなく、世代は必ず変わっていくという事実を認識すれば、今何かを変える必要があるという事は理解できるはずです。数年前の成功事例を持っていても、そこから何も変えない事は既にリスクという時代になっているのです。

 私はつい先日、自宅にあった物理メディア(CD、DVDなど)と、書籍などの紙媒体を全て処
分しました。CDラックや本棚が全てなくなりましたが、PCとスマホだけで今まで所有していた
全ての物理メディアより遥かに多いコンテンツをどこでも自由に楽しむ事ができています。確か
に私の場合は極端な例だと思いますが、レコード屋や本屋が「今」変革を迫られることに変わり
はありません。いずれ来る未来から目を背ける事は、ゆっくりと自滅に向かうようなものです。しかも、場合によっては多くのことが今回のように突然変革を迫られることすらあるのです。

 今回のコロナショックでは収束以降も人々の考え方はそれ以前(ビフォアコロナ)には戻ら
ないと言われています。アフターコロナの価値観の変化を強制的に迫られる中で、ジュエリー
業界も変化に対応する必要があるという意味では例外ではありません。新たな世代に合わせ
た価値をどう提供できるかが常に問われているのです。まずは、この新型コロナウイルス禍を
皆様が健康で無事に乗り切れるよう、心からお祈りしております。
■■■ 連載コラム No.64 ■2020年3月2日 月曜日 16時19分43秒

D2Cの本質は、デジタルを駆使した顧客エンゲージメントの獲得

 先月24日、米バーニーズ・ニューヨークが97年の歴史に幕を下ろしました(日本のバーニーズ・ニューヨークはセブン&アイ・ホールディングス傘下にあり、今後も営業継続)。アメリカ高級衣料品店の老舗
の閉店は、既存ビジネス業態が転換点に来ていることを示唆しているようです。米バーニーズ・ニューヨーク破綻の要因の一つは店舗賃料の高騰と言われていますが、オンラインショッピングの影響が大部分を占めていることは間違いないでしょう。といっても、Amazonのような一般的なネットショップではないようです。バーニーズ・ニューヨークは年間100万ドル以上の買い物をする顧客を何人も抱えていましたが、スマホとSNSの普及により、外で買い物をしたセレブは外を歩けばすぐ盗撮、SNSに投稿されてしまいます。そのため、ブランドのオンラインショッピングサイトから直接購入や、NET-A-PORTERやリシュモンが運営するYOOXなどの高級ブランドECサイトからの購入がかなり増えてきているようです。最近のSNSではハリウッド女優の着ているものをクリックすれば購入できるサイトに飛べる仕組みになっていることもあり、ネットショッピングが今や高級商材であっても当たり前になりつつあるのです。ジュエリーを含むラグジュアリー商品であっても、今後の物販ビジネスを考えるにあたって販売チャネルは確実に変化するということが、日本においても百貨店の閉店が相次ぐ現状を見れば明らかです。今後、資本力の大小ではなく、いち早く時代の変化に対応できるブランド、企業が勢力を増す時代に確実に突入していきます。
 ここ数年でトレンドワードとなったものに“D2C”(Direct to Consumer)というものがあります。名前の通り製造者が直接消費者と取引するビジネス形態を指す言葉ですが、D2Cは今後ブランド運営において長期的なトレンドになっていくと思います。D2Cを単純に直販の中抜き構造のECサイトと考えている方が多いように思いますが、直販による中間マージン省略はその一側面でしかありません。D2Cの本質は、デジタルを駆使した顧客エンゲージメントの獲得です。つまり、デジタルで消費者と直接繋がり、フィードバックを得て、常にアップデートし、消費者が求める以上のものを提供し続けるサイクルです。AppleがD2Cの大きな成功事例のひとつであることを考えれば、D2Cの本質が理解しやすいかもしれません。実店舗で
あってもWebであっても統一された購買体験、高級感ある商品パッケージ、ユニークな開封体験、洗練された使用方法からアフターケアまでを世界観として提供し、それを日々得られるデジタル上での大量のフィードバックを元に常に改良を繰り返し細かいアップデートを繰り返すことで、高い顧客エンゲージメントを獲得しています。つまり、デジタルを駆使したブランドの世界観のシームレスな構築こそがD2Cの本質であり、単純なWeb販売ではないということです。日常消費材や機能価値の高い商材であれば、価格比較だけで売れていくので、Amazonなどで安く販売すれば売れていくでしょう。しかし我々の扱うようなジュエリーをはじめとした心理価値商品の販売戦略は、一貫したストーリーの下でのみ販売され、それが実店舗であってもWeb上であっても基本原則は変わらないということです。厳しいことを言うようですが、これからの変化の時代において、ジュエリーブランドとしての一貫したストーリーの構築、SNSを含めたデジタルツールへの理解と実行、デジタルネイティブ世代の顧客への深い理解がなければ生き残ることはますます難しくなるでしょう。
 デジタルによる消費者とのコミュニケーションの利点は、戦略に対するフィードバックがダイレクトに獲得でき、アップデートが素早くできることにあります。SNS広告であれば、どんなターゲットがどのようなPRに対して反応しているのか、その時間帯は何か、どのキーワード、投稿に高い反応を示すのかなど完全に把握することが可能です。そのデータに基づきマーケティングを行い、アップデートを重ね続けることが大きな利点となります。
 D2Cとは必ずしもWeb販売を意味するわけではありません。誤解のないよう補足すると、Web販売をしなければ生き残れないと言っているわけではありません。ただ、商品販売チャネルと消費者アプローチ方法が明らかに変化している現代において、既存の販売方法を変えずに継続することは限界があるということです。他業界のラグジュアリー商品がD2Cにフォーカスし、消費者がその販売方法に慣れていく中、我々もその変化に対応し挑戦していく必要があります。D2Cにマニュアルや決まった正解は存在しません。どのメディアを使いどのターゲットにアプローチしていくのか、日々試しながら精度を上げていき、その上で常に新しい手法を試みる必要があります。今後、IT企業に近いソフトウェア的な考え方はジュエリー業界の発展にとっても必要不可欠でしょう。__
■■ 連載コラム No.63 ■2020年1月31日 金曜日 12時29分11秒

今後生き残るダイヤモンド業界の戦略

 先月は恒例の国際宝飾展が東京ビッグサイトで開催されました。今年は新規の海外のラボグロウンダイヤモンド企業が多数出展していたので盛り上がるかと期待していましたが、結果から言うと期待したほどではなかったかなと思います。ただ会場でお話しした多くの方はラボグロウンダイヤモンドに関しては以前に比べればポジティブな姿勢を見せており、昨年との空気感の違いは確かに感じました。しかし、大手が大々的にPRしてくれたら乗っかりやすい、誰かがやってくれたら、という意見が多かったのも事実です。
 現状のこのようなジュエリー業界の風潮は、私からすると不思議でなりません。皆さんご存知の通りラボグロウンダイヤモンドはアメリカ市場では大きく支持されており、アメリカ以外の欧州やアジア市場でも広がりを見せています。日本市場においても今後消費者から一定の支持を得ることは、いずれ起こる、ほぼ約束された未来と言えます。この状況で他の戦略もなく、ただなす術もなく静観するのは自滅行為であるだけではなく、業界全体にとっての損失です。日本のジュエリーが成長市場でないことは自明の理なので、現状維持は衰退を意味するからです。そもそも、大手がPRしてくれたら乗っかりたいという時点で、ラボグロウンダイヤモンドが消費者にとって魅力的な商材だと認めているのですから、そうであれば自分で始めればいいだけの話です。
 日本のジュエリー市場は衰退傾向にあると言えると思います。この状況の中でラボグロウンダイヤモンドが天然ダイヤモンド市場を奪うという対立構造としての捉え方は意味がないことに気づく必要があります。そもそもジュエリー市場が衰退傾向にあるのは、消費者がジュエリーに魅力を感じていないこと、加えて言うならジュエリー以外の消費に対してより意欲を持っているからです。ジュエリー業界として訴求すべきはラボグロウンダイヤモンドを排除することでも天然ダイヤモンドの既得権益を守ることでもなく、消費者の関心を改めてジュエリーという商品に向けさせることです。ラボグロウンダイヤモンドというテクノロジーが生み出した新しい商材はそのきっかけになるはずですし、それをきっかけにジュエリー業界全体が活性化する可能性は十分あるからです。
 事実、昨年から、今年に入っても私のところには異業種からの取り扱いの相談が数多く寄せられています。アパレルやアクセサリーはもちろん、建築業者が新規事業としてというものもありましたし、IT企業などからの相談も多くあります。これら全て、一般の方が新しい波としてこの商材に期待を寄せていることの何よりの証拠ではないでしょうか。ラボグロウンダイヤモンドは決してジュエリー業界の敵ではなく、ジュエリー業界に新たな可能性を見出す一助になるものです。
 天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドが混ざることを懸念するステージは既に過ぎており、アメリカの多くの小売店のように消費者への新たな選択肢として同じ店頭で天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドを提案することが主流になりつつあります。実際、世界最大規模のダイヤモンドジュエリー小売企業であるSIGNET JEWELRESが運営する店舗ではどちらも取り扱いをしていますし、同社のECサイトJames Allenでも、天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドを選択することが可能になっています。ラボグロウンダイヤモンドがどれだけ消費者に受け入れられようが、天然ダイヤモンドの市場が消
えることはありません。それぞれがそれぞれの価値観軸を持った消費者に同様に受け入れられ、ジュエリー業界全体が活性化することこそが理想です。ただその為には、ダイヤモンドの販売方法も時代に合わせて変化していく必要があります。
 今年以降生き残るダイヤモンド業界の戦略は、整理すると以下に集約されます。天然ダイヤモンド特有の原石や原産地などのストーリーにフォーカスし追及すること、またはラボグロウンダイヤモンドのメリットにフォーカスしストーリーを作り上げること。加えてオフラインかオンラインか(又は両方か)の適切な販売チャネルの選択とPR戦略、加えてインバウンドとアウトバウンド戦略、この掛け算です。今までのような価格戦略は同業での競合にしか意味がない上に業界全体を疲弊させます。それよりジュエリー業界が意識すべきなのは、同業他社ではなく他のラグジュアリー商品の業界です。であれば価格訴求に大きな意味がないことはご理解いただけると思います。
 2020年以降、もう一度消費者をジュエリーの魅力に振り向かせ、ジュエリー業界全体の発展に寄与する戦略を実行できるよう、皆様と足並みを揃えられることを願っています。
 ラボグロウンダイヤモンドに関しては一般社団法人日本グロウンダイヤモンド協会でもご相談の窓口を設けておりますので、お問い合わせいただければ幸いです。__
■■連載コラム No.62 ■2019年12月25日 水曜日 14時0分36秒

新しい挑戦の一年に

 新年明けましておめでとうございます。
オリンピックイヤーになる本年、皆様が大きなビジネスチャンスを掴める年になりますよう祈念しております。

 昨年は「合成ダイヤモンド元年」と呼ばれ、メディア等で大きな反響を呼びましたが、実際に業界内での勢いは大きくなかったと皆さんは思われたのではないでしょうか。しかし私の感覚としては業界外への影響と期待値はかなり大きなものがありました。今年はIJTで海外から10を超えるラボグロウンダイヤモンドの業者が出展することもあり、更に大きな転換点となると思われます。

 業界内部の方々がどのような商品を売りたいのか、それとも売りたくないのかに関係なく、マーケットは常に変化していきます。消費者の意識が変化し続けている以上、変化しないと生き残れないということです。かつてはジュエリーのトレンドは業界が作り出すもので、キャンペーンなどで消費者の心理を誘導すれば商品は売れていった時代があったと思います。しかし今、情報技術の飛躍的な発達により今の消費トレンドは消費者自身が作り出すものになりました。ラボグロウンダイヤモンドに関しても決してそれは例外ではありません。欧米のように影響力の大きい消費者の発信によってトレンドは変化し続けるでしょう。

 しかし、マーケットが変化してもジュエリーの持つ本質的な価値は決して変わりません。2020年代以降のダイヤモンドジュエリービジネスはこの本質的な価値を、変化するマーケットにどう対応させていくかにかかっていると思います。Webをはじめとしたテクノロジーの活用や、ラボグロウンダイヤモンドの採用など、そのどれもあくまで本質的な価値を高めて対応させる手段の一つに過ぎません。

 日本の宝飾業界は海外から見ても、そして国内異業種から見ても時代遅れと言われています。基本的には20年以上前のビジネスモデルを踏襲しており、それ以上の発展はほとんど見られません。特にブライダルジュエリーに関しては顕著で、価格競争、品質のアピール、取ってつけたようなブランドコンセプトなど、そのどれも20年以上前からあったものです。当時ブライダルジュエリーはほとんど必需品でしたから婚姻数に比例して客数が見込め、隣の店、隣のブランドと勝負すればある程度の売り上げが見込めたでしょう。今でも一定のそのような消費者群が存在しますから、なんとなく過去と同じ方法でも売れ続けている気になっていると思いますが、その状況は長く続くわけがありません。2020年以降、消費者にとってのジュエリーの本質的価値をいかに現代的に提供できるかがポイントになります。
 それではジュエリーの持つ価値とは何でしょうか。それは情緒的価値です。散々テクノロジーだのラボグロウンだのを語ってきて何を今更と思われるかもしれませんが、それらは情緒的価値を高める為の手段にすぎません。情緒的価値は読んで字の如く、エモーショナルな価値観のことです。ダイヤモンドにはWi-FiもBluetoothも付いていませんから、ダイヤモンドの価値が「機能」ではないことは明白です。機能価値商
品であれば、価格競争、品質(機能)比較で商品は売れますが、情緒価値で構成される商品の場合は全く異なります。ダイヤモンドの価値、特にブライダルジュエリーの価値は、それを贈る人と贈られる人の間に流れるエモーショナルな空気であるとも言えます。ブライダルジュエリーが必需品ではなくなった今、この価値をいかに訴求し、啓蒙し、裏付け、そして今の時代に合ったものとして演出できるかが、2020年以降のダイヤモンドジュエリー戦略のポイントになるでしょう。そもそも婚約してもジュエリーは買わないという選択肢が存在する時代に、価格競争や売り手側の押し付けの価値観が時代錯誤であることに議論の余地もないと思います。そして、このエモーショナルな価値を担保する手段が時代と共に変化してきているのです。二次流通のダイヤモンドでこの価値を保てますか?消費者が無限の情報収集力を手にした現在、根拠のない品質アピールは限界だと思いませんか?ブライダルジュエリーを贈る必要性と価値を無視してブランドコンセプトだけを押しつけていませんか?

 消費者の変化に対応している海外の企業はそれに合わせて戦略を組み立てており、非常に洗練されているブランドも数多くあります。かつて我々がベンチマークにしていた欧米ブランドだけでなく、その他の国々でも非常に優秀なマーケッターによりジュエリーの本質的価値を昇華させた素晴らしいブランドが数多く誕生しています。当然それらにはその価値を担保する為のテクノロジーが付随していますが、テクノロジーを用いることによってジュエリーの持つ価値をより高めているというわけです。

 過去の成功体験や既存の価値観に拘り、日本市場と多少の欧米大手ブランドしか見えていないのであれば、2020年代を生き抜くことは極めて難しいでしょう。消費者の価値観は常に変化し続け、テクノロジーは常に発達し続け、世界の状況も大きく変化しているからです。これからの10年間を正しく見通し2020年代を生き残るためには新しい視野と価値観、そして変化が必要です。世界が大きく変化する2020年、皆さんにとって新しい挑戦の一年になりますよう願っております。
■連載コラム No.61 ■2019年12月2日 月曜日 12時22分29秒

よりベネフィットにフォーカスした消費活動へシフト

 私はハードコンタクトレンズを使用しているのですが、先日買替えに行ったところ、最近はコンタクトレンズのサブスクリプションプランがあることを知りました。非常に安価な月額で、破損したり視力が合わなくなったりしても、何度でも交換できるとのことです。商品自体は前からある物であっても、最近はどの業界もサービスや形態が大きく変化していると感じます。以前は単純に商品そのものを販売していたものが、よりベネフィットにフォーカスした消費活動にシフトしています。サブスクもその一例ですが、コンタクトレンズの場合は視力の矯正という目的に加え、紛失や破損の不安の解消、視力変化に対する精神的負担の軽減というベネフィットが提供されています。
 当然ですが消費そのもの自体が目的になることはありません。消費者は自分の目的を達成する手段として消費活動を行います。ビジネスの形態がよりベネフィットやサービスを重視するようになると、自社の提供する本当の価値が何か、商品そのものや価格を超えた部分を理解し特化した企業が生き残る時代になるのは容易に想像できます。牛丼屋とフレンチレストランは同じ飲食業ですが、提供する価値やベネフィットは異なります。牛丼屋が最高のホスピタリティを追求することに意味はありませんし、フレンチが価格を追求することも基本的には意味がありません。ジュエリーも同様、ファッションジュエリーとブライダルジュエリーでは目的が異なりますし、ファッションジュエリーでもそれぞれのアイテムによってお客様が求める価値やベネフィットは異なるはずです。
 かつてのジュエリー販売は消費者の知識が浅く、店舗主導で勧めるものを消費者が買う
ような形態が一般的だったと思います。もちろん現在でも心理価値商品であるダイヤモンドは店舗と接客が価値を創造しますが、最近は消費者が知識を持ちまたベネフィットを重視するため、意思決定プロセスはより複雑になります。過去の常識は新しいサービスの登場によって一気に変わります。そして変化のほぼ全てはテクノロジーによってもたらされているのは今更説明の必要もないと思います。
 不動産業界のアマゾンと言われている会社をご存知でしょうか。OYOは元々ホテル運営
を行うインドのベンチャー企業で、創業わずか6年で世界第二位の客室数を誇るホテルグ
ループになりました。そのOYOが手がける新しい賃貸住宅サービスがOYO LIFEというもの
で、敷金礼金仲介手数料は無料、契約手続きも全てスマホで完結します。敷金礼金不要な
ので1ヶ月からでも住む事ができ、物件によっては家具まで設置されているようです。OYOの提供する価値はリビングスペースを提供すると言うもので、ホテルと賃貸住宅の間にビジネス的な垣根を設けていません。当然既存の不動産業界や物件の管理会社からは大きな反発がありましたが、新しい技術と発想によってもたらされるサービスは既存の業界構造を大きく変えていく可能性を持っています。OYOはインドの企業で、ましてやホテル運営会社ですから日本の不動産業界にとってはまさに衝撃的だったでしょう。しかし不動産であっても他の業界であっても既得権益企業が旧体制のビジネスを行っているフィールドに海外や異業種が参入してくることによって構造が大きく変化する可能性があるということは理解しておく必要があります。何故なら、消費者は単純に価格だけではなく、本質的な価値やベネフィットをより重視するようになってきているからです。ジュエリー業界においても、新しい技術、売り方、素材、PR手法というものが以前に比べ急速に変化しています。その変化を業界内部が受け入れない限りは、上記の例のように海外や異業種がある日突然参入して業界構造を変える可能性は大いにあります。
 しかしOYO同様革新には常に反発が起こります。ノイジーマイノリティという言葉があ
りますが、この声の大きい少数派に振り回されると全体的な発展が阻害されます。先日こ
のような事例がありました。あるファストフードチェーンで自動精算機を導入したところ
「飲食において金銭の授受こそ一番大事な行為なのに残念でならない。」との意見が大きな反響を呼びました。正論に聞こえるかもしれませんが、コスパ重視のファストフード
チェーンで、人件費削減と効率化によってよりバリューの高い商品が素早く提供された方が多くの消費者にとってメリットがあるのは明白です。仮にこの意見によって自動精算機が廃止されたら、多くの消費者が本来受けるはずだった利益を失っていた可能性があります。少数派の意見に耳を傾ける必要がないというわけではありませんが、その部分だけに振り回されるのではなく、大局を見る中で数々の意見をどう取り入れるかを検討する方が健全な成長に繋がるのではないでしょうか。ジェリー業界もテクノロジーのパワーによって大きな変革の時代を迎えています。足元だけを見るのではなく、先を見通し突き進む覚悟をする時期に来ているのではないでしょうか。時代が大きく動く時には混乱が伴いますが、大きな流れを見ることができる人や企業が、次の時代の成功者になると考えます。大きな流れを見るためには国内や業界内だけの視野ではなく、その外からの視点も重要です。そのためのお手伝いを来年以降も引き続きさせていただければ幸いです。__
■連載コラム No、60 ■2019年11月5日 火曜日 11時18分11秒

天然ダイヤモンドの販売方法を改めて考える理由

 先月は約1年ぶりに上海のCVD工場の視察に訪れました。驚いたことに、この1年の間に生産規模(CVD装置の数)が3倍に増えており、また翌年には更にこの倍に生産規模が増えるとの話を聞きました。CVDダイヤモンドの場合はレーザーカットマシンが必須ですが、この工場内ではレーザーカットマシンが40〜50台並び、全てのマシンが稼働している状態でした。これも来年には更に倍の規模に拡大するとのことですが、世界的な需要の高まりに対して生産量はまだまだ求められるとのことです。実際の現場を目にして、新しいビジネス分野に対する世界的な勢いを肌で感じることができました。主なマーケットは依然としてアメリカですが、アメリカでの普及率は予測を超えており、アナリストの予測より早く市場シェア10%の水準に達すると言われ
ております。また、ヨーロッパ、特にフランスと、アジア諸国でのマーケットも加速してきて
おり、今後莫大な可能性のあるマーケットとして海外生産者は世界市場を捉えています。
 日本でも海外でも、ダイヤモンド企業やジュエリー企業はラボグロウンダイヤモンドに対してポジティブな方もいればネガティブな方もいます。ただ、市場の捉え方に関しては日本と海外では温度差があるように感じます。
 これはラボグロウンダイヤモンドのビジネスを推奨しているわけではなく、ラボグロウンダイヤモンドのビジネスに参入するにしても、天然ダイヤモンドのビジネスに特化するにしても、世界的な潮流をしっかり見極めなければ今後のポジショニングが難しくなるという話しです。これに目を背けて既存のビジネスを惰性で続けていくことは、もはやリスクでしかありません。
 来年の1月には東京ビッグサイトで開催されるIJTに、海外のラボグロウンダイヤモンド企業が多数出展する予定のようです。日本初出展の企業も多数あると聞いておりますので、日本にも海外の波が押し寄せるのは時間の問題と言えるでしょう。
 一方で、ラボグロウンダイヤモンドをどうやって販売したらいいのかわからないという意見もよく耳にします。まずは今販売している製品のダイヤモンドを置き換えてコストダウンする方法を思いつくと思いますが、これはあまり良い方法とは言えません。販売単価が下がってしまうと、販売数量を増やさないと売り上げアップに貢献できなくなるからです。また、地金代や加工代の原価比率の高い製品の場合はコストメリットが出づらいので製品制作には工夫が必要です。
 私の経験上、ラボグロウンダイヤモンドの効果的な販売方法は4つあります。
 1つは、超低単価のジュエリーで、今までジュエリーに対して敷居が高いと感じていた層の顧客を獲得する方法です。これは新規顧客の獲得に有効です。 2つ目は、同じ価格帯でサイズアップまたはグレードアップするという方法です。0.2ctの予算のお客様に0.3ctや0.5ctといった新
しい価値を提案することにより、お客様の予算を下げずに満足感を提供でき、自社の差別化を図るのに有効です。
 3つ目は、1ct、2ctアップの大粒のダイヤモンドに特化するという方法です。1ct以上のダイヤモンドであれば天然との価格差が顕著に出ますので、価格訴求力があります。特にある程度の年代以上の方は0.5ctまたは1ctのダイヤモンドは既に持っているので、それ以上のサイズのダイヤモンドを買いたいと思っている方が多く、天然ダイヤモンドではなかなか勇気のいる値段になるという点から、ラボグロウンダイヤモンドを喜んで買って身に着ける方が多いと感じています。
 4つ目はファンシーカラーダイヤモンドです。ファンシーカラーダイヤモンドのラボグロウンダイヤモンドは世界的にも需要が高く、一方で本当に美しいファンシーカラーのラボグロウンダイヤモンドを生産できる工場は極めて限られています。しかしファンシーカラーの天然ダイヤモンド、特にブルーは到底一般人が手にできる金額ではないですから、それが身近なジュエリーとして楽しめるようになるというのは新しい価値の提供となります。
また、ファンシーカラーであれば天然ダイヤモンドと混合する可能性も極めて低いですから、最初の取り扱いとしては実は比較的ハードルが低いアイテムと言えると思います。
 当然逆の理屈で、天然ダイヤモンドの販売方法も今改めて考える必要があります。どのターゲットがどのような天然ダイヤモンドの価値を求めているのか、という本質的な問いに改めて取り組む必要があるということです。
 この市場が出来上がることが現実味を帯びて目の前に迫っている今、見ぬふりをすることは大きなリスクになります。様々な情報を取り入れ、今後のポジショニングを真剣に考えることが、今一番重要なのではないでしょうか。
■連載コラム No、59 ■2019年10月1日 火曜日 11時6分25秒

ラボグロウンダイヤモンドのプライスを考える5つのポイント

 私がラボグロウンダイヤモンドをビジネスとして扱うようになってもうすぐ3年が経過します。今年に入ってから徐々に取扱い企業(特に異業種)が増えていますが、業界内には依然として批評家が多いように思います。批評家とは、実際にビジネスにタッチしていないのに意見を外から言う人たちのことです。例えるなら、野球を一度もやったことがない人が采配や選手に関して評価するようなものです。私はこの3年間実際にマウンドに立ち続けプレイをしてきました。そしてその立場だからこそ皆さまにお伝えできる情報があると思います。
 ラボグロウンダイヤモンドに関して業界内でよく言われていることで、恐らく皆さんも非常に気になっていることの一つに、価格が今度どうなるのか?という疑問があると思います。批評家の中には「ラボグロウンダイヤモンドの価格は今後どんどん下がるので、今仕入れると高い買い物になる、損をする。」というようなことを言う人もいます。それは事実でしょうか。
 ラボグロウンダイヤモンドはテクノロジーによって成長させたダイヤモンドですから、技術発展により例えば機材のコストが下がる、ダイヤモンドの成長期間が短縮されるなど物理的にコストダウンする可能
性は長期的に見れば確かにあります。しかし、今日明日このような理由で値段が下がることはないでしょう。ラボグロウンダイヤモンドのプライスを考える際のポイントは5点あると経験上私は考えています。
 1つは、そもそも価格情報が間違っている可能性です。ラボグロウンダイヤモンドの価格は現在ある程度安定しており、業者間の価格差も大きくありません。スモールサイズに関しては需要の関係で価格は微増しています。しかし多くのラボグロウンダイヤモンドの、特に新規の生産者は新規取引先を開拓したいので、初回に関しては利益度外視の特別価格を提示している可能性が高いのです。実際私が新しい業者からの取引を持ちかけられる場合は相場よりだいぶ安い価格であることがほとんどですし、実際に2回目からの取引で大幅に値段を引き上げられたこともあります。
 2つ目は、需要と供給のバランスです。言うまでもなくダイヤモンドに限らず価格を決定するのは生産コストではなく需要供給バランスです。今まではアメリカが最大で唯一の市場であった一方、生産量は増える傾向にあったため価格は下がる傾向にありました。しかし現在ではヨーロッパ、特にフランス市場が大きく開いており、その他の国も追従している状況です。また中国香港などのマーケットでも大手の小売店が取り扱いをまもなくスタートし、需要が世界的に急速に拡大する見通しです。需要共有バランスの関係で、特に品質の高いラボグロウンダイヤモンドは価格が上がる可能性も示唆されています。
 3番目に、天然ダイヤモンドとの価格対比です。ラボグロウンダイヤモンドの価格はラパポートを指標としており、ラパの価格に連動しています。ラパのインデックスを見た方はご存知だと思いますが、ラパのプライス指標はここ数年で下がっている傾向にあります。ラパのリストプライスが下がれば当然ラボグロウンダイヤモンドの価格も連動して下がりますが、それは天然ダイヤモンドの価格も下がっていることを意味しており、ラボグロウンダイヤモンドの価格を危惧する理由にはなっていません。
 4番目は、資金効率です。現在ラボグロウンダイヤモンドの価格はおよそ天然ダイヤモンドの1/3です。つまり1千万の天然ダイヤモンド仕入れ資金があった場合に、同等のラボグロウンダイヤモンドであれば
300万ほどで仕入れが可能ということになります。残りの700万円を適正に運用ができれば、300万円で仕入れたラボグロウンダイヤモンドのリスクは限りなく減少することになります。
 5番目は、価格が今後下がるので今買わない方が良い、という理屈の影響力は業界内にしか及ばないということです。消費者は今欲しいものがあれば、今対価を払って手に入れますし、それが手に入れやすい価格であれば尚更喜んで購入します。これは私が実際に消費者に販売して確証を得ていることですし、取引先でも日々起こっています。
 技術の発達や競争による価格変動制はどの業界にも当然あります。しかし、それがそのビジネスに手を出せない理由にはならない上に、消費者であっても買い控える理由にはなっていません。テレビもパソコ
ンも同じスペックのものが数年後には値下がりすることを誰もが知りながら、今日快適な生活を送るためにそれを購入しているのではないでしょうか。将来のリスクを考えてビジネスに手を出さないのであれば、どのようなビジネスであっても手を出せないことになります。まずはトライをすることから始まるのではないでしょうか。
■■連載コラム No 58 ■2019年9月11日 水曜日 16時31分32秒

テクノロジーへの理解が業界の競争原理を左右する

このコラムを書き始めて4年半以上になりますが、その間一貫してテクノロジーを軸にダイヤモンド業界を見るという視点で書かせていただいているつもりです。テクノロジーの重要性に関して共感いただける方もいらっしゃれば、中には、感性の商品であるダイヤモンドとテクノロジーは相容れないものだと思っている方も多いかもしれません。

確かにダイヤモンドは地球が育んだ(最近ではマシンが育むこともあるようですが)奇跡の結晶で、ダイヤモンドそのものには通信機能やカメラがついている訳ではありません。しかしそれでも、現在はダイヤモンドとジュエリー業界にとっても、それどころかどの業界にとっても、テクノロジーか死か、という時代になっているということは、確信を持って言えます。特に経営幹部の人間にとってテクノロジーへの理解は「あった方が良い」ものではなく、既に「必須」になっています。

冒頭から相反することを言うようですが、インターネットはもはや成長産業ではありません。インターネットの利用者数増加率、スマホの出荷率はここ数年で成長を止めています。日本においてインターネット利用者数は2017年についに減少に転じました。では今後の成長分野はどこかと言うと、インターネットの「外」です。少し前の話題になりますが、ベーカリーにAIレジが導入されているという記事がありました。ベーカリーといえば普通、商品にタグやバーコードがついておらず、店員は商品を一つ一つ覚えてレジを打つ必要がありました。このAIレジは画像認識によるパンの自動判別を行うため、レジ作業効率が大きく向上します。導入店舗では売上が5〜8%アップ、人件費が半分になるなど多大な恩恵をもたらしているということです。パン屋にテクノロジーが大きな影響を与えるなど、以前は想像もできなかったのではないでしょうか。しかし今、同様のインターネットの外でのイノベーションが業界問わず起きており、大きく成長しているのです。

事実、今年の米国でのスタートアップの時価総額トップ3はUberやAirbnbなど、インターネット外で事業展開している企業が占めています。インターネット内だけでデジタル完結する事業とは異なり、インターネットの外の事業はその事業領域に対する深い理解と専門性が必要不可欠になってきます。インターネットの外とは、インターネットと関係ない事業ということではなく、インターネットを活用した実態のある事業です。今後は、それぞれの事業を展開する業界に対する知識、理解が深く、なおかつテクノロジーへの理解があり、それを活用できる企業だけが成長できる時代になるということです。

これは、テクノロジーへの理解が業界の競争原理を左右するということです。以前は広告代理店に多大な広告費を払い見栄えの良い広告を打てば商品は売れました。つまりお金を投じて消費者認知をあげることが商品の売り上げに直結していたのです。これはある意味現在でも間違いではありません。しかし、方法が根本的に異なります。広告産業はインターネット内のビジネスで最もデジタル変換されたものの一つです。Facebookは23億8千万人という膨大なユーザー(データ)を抱えている企業で、その個々のユーザーの年齢、性別、居住地はもちろん、家族構成、好きな食べ物、興味関心、昨日の夕食から今日の朝食、好きなテレビ番組から最近購入した商品に至るまでの情報を収集しており、その情報を(匿名的、非匿名的に)様々な企業が利用することができます。

たとえばこのようなツールを効果的に活用するためには、自社で取り扱う商品とデジタルの効果的な連携を取る必要があります。情報を適切なターゲットにリーチさせることが必要ですし、またリーチしても情報が魅力的でデジタルとの親和性がなければ無意味です。たとえ想定するターゲット1万人にリーチできても、来店予約がFAXオンリーだったら誰も来店しないでしょう。ですから、商品そのもの、マーケット、そしてテクノロジーツールに対する深い理解の全てが揃って初めてシナジーが生まれます。ダイヤモンドに関して言えば、デジタル販売ツール、オンラインのダイヤモンド評価データ、デジタル原産地証明などを活用し、それを膨大なパワーを持つ様々な既存のサービスに乗せて組み合わせることで今後のビジネスは大きく変化していくでしょう。

テクノロジーは従来儲からなかった領域を収益化していくパワーを持っています。例えば地方の疲弊した農家がAIとセンサーの導入により高い収益性を確保し、投資対象になったという例もありますが、同様の現象は業種を問わず様々な領域に及んでいます。ダイヤモンド業界もテクノロジーの恩恵を受けることができる業界という意味では例外ではありません。ジュエリー業界は特にローテクと言われていますが、今後、テクノロジーの導入はジュエリー業界においても必要不可欠になっていくでしょう。そのような状況の中、今やるべきことはテクノロジーへの理解を深めること、特にダイヤモンドに関連するデジタルテクノロジーへの理解を深めることです。そして理解は自分で触って試して初めて自身のものとすることができます。ただ眺めたり批判したりするだけではなく、触れて、試行錯誤することで初めて次のビジネスが拓けていくものと確信しています。

■連載コラム No 57 ■2019年8月1日 木曜日 14時20分42秒

ダイヤモンドにとっての真の競合を認識すべき

 今年1月、ティファニーが原産地証明を発表して以降、ダイヤモンド業界ではトレーサビリティ(履歴情報管理)ブームが起こっているようです。海外では次々に独自のトレサビリティプログラムを打ち出し、国内でも様々なトレーサビリティプログラムを試みたり、また納入業者に要請したりしているようです。海外の展示会でもトレーサビリティの提案が急速に増えています。
 トレーサビリティが少なくとも現時点で、特に天然ダイヤモンドに付加価値を与えるのに有効な手段の一つだということに異論はありません。ラボグロウンダイヤモンドに対する天然ダイヤモンドの価値とは何かという問いの一つの答えだとも思います。そしてトレーサビリティは徐々に一般化していき、いずれ消費者が求める通常の条件になってくるでしょう。そもそも、トレーサビリティプログラムを導入し流通の透明性を確保すればダイヤモンドは売れるようになるのでしょうか?どうすればダイヤモンドが売れるようになるのか、その答えの鍵は消費者から見たダイヤモンドジュエリーという商品特性と、消費者の意識の変化にあります。
 ダイヤモンドは自己実現価値と情緒的価値という心理的価値のみで構成された特殊商品です。一方で現代の消費者がお金を費やしている電子機器やアプリなどのガジェットや、コンテンツは明確な機能があり、支払った対価によって自分自身の生活に何が起こるかが非常にわかりやすいものです。しかしダイヤモンドの場合、大きなターゲットであるブライダル層はダイヤモンドを初めて買うことになりますから、その必要性も、意義も、買ったらどんな感情になるのか知る由もありません。20年前であれば、4Cと価格の説明だけでダイヤモンドはある程度自動的に売れていたわけです。しかし現在は、必ずしも婚約指輪は当たり前ではありません。必然性がなく、買った後のことも想像できない商品に対して、4Cや価格や、たとえ産地を説明されたところで、買う動機になるでしょうか。
 そして厄介なことに、現代の多くの消費者は販売員に接客をされることがあまり好きではありません。以前の消費者は喜びを感じていたことでも、現代の消費者は、店に入るなり「何かお探しですか」「お手伝いしましょうか」と言われることをストレスに感じることが多いのです。ネットで情報収拾する利便性の理由には、干渉されずに商品を見られるという点も非常に大きな理由です。一方でジュエリーの場合はネットで提供される情報が非常に少なく、現代の消費者にとってネット上に情報が存在しないものはこの世に存在しないのと同じです。このことを総合して考えると、お客様に直接的な干渉をし過ぎずに、それでいてダイヤモンドジュエリーの魅力を、買いたくなるような動機を作るように説明しなくてはならないという極めて難しい課題をダイヤモンド業界は抱えているわけです。
 アップルストアでは商品を見ているお客様にスタッフが話しかけることはあまりありません。特に若い世代のお客様に対してはそうです。お客様は事前にネットで商品について調べ、店頭で自由に製品を試し、気に入ったらスタッフを呼んで購入します。当然ジュエリーでは全く同じ方法は難しいですが、デジタルエクスペリエンスによって現代のスタイルの購買体験をお客様に提供することは可能です。来店前のネット上でのお客様との接点から、店頭でのデジタル接客までのシームレスな体験の提供と、それに融合した商品を開発することによって、現代の消費者にフィットした提案が可能になります。その上で、トレーサビリティが初めて重要になってきます。人生で初めてで1回の、そして意味のあるダイヤモンドを選ぶのであれば、どこから来たのかわからない、中古品かもしれないダイヤモンドではなく、自分がお金を払うに値するダイヤモンドを選びたいと思うでしょう。
 4Cと価格でダイヤモンドを販売するのは完全に時代遅れの商売です。今でも婚約指輪を必需品と思っている一部の人には売れるでしょうが、今後の世代にはますます難しくなっていくでしょう。ブライダルジュエリーに限らずダイヤモンドジュエリーを知り尽くしている販売のプロの仕事は、4Cや価格のような表示を見ればわかることを説明することではなく、ダイヤモンドジュエリーの先にあるものをお客様に伝えることです。我々の競合は隣の店、隣のブランドではなく、年末発売の新しいスマホだったり、インスタ映えする景色のレストランの食事だったり、お客様がベネフィットを完全に理解しているものです。我々もダイヤモンドを購入することでどんな変化が起こるか、どんなベネフィットが生まれるかを伝える必要があります。伝えられなければ、新しい消費者にとってダイヤモンドは価値のないものになっていくでしょう。
 トレーサビリティに関しては正しいものを見極める必要があります。最近のトレーサビリティのトレンドは原石情報の記載やブロックチェーンです。原石の情報に関しては、本当に信頼できる情報ソースから出ているものか確認する必要があります。ブロックチェーンに関しては後からの情報改ざんが極めて難しい分散型台帳技術ですが、元の情報が正しいことを保証するものではありません。しかしブロックチェーンだと言うだけで記載されている情報が全て正しいと盲信してしまう危険があります。同様に、トレーサビリティもどうやって信頼性を担保しているのかが今後ポイントになるでしょう。その上で、どのようなデジタルエクスペリエンスを提供できるものなのかが重要になります。
 この10年余りでダイヤモンドを取り巻く環境は大きく変わりました。婚約指輪は当たり前のものではなくなり、価格競争は熾烈になり、最近ではラボグロウンダイヤモンドという新たなカテゴリーまで生まれました。ほんの少し前のダイヤモンド販売方法は現在の消費者にはほぼ通用しなくなってきています。安価で美しいラボグロウンダイヤモンドとストーリーを持った天然ダイヤモンドという二極化構造が急速に進む時代において変化することはもはや命題になっています。それぞれの特徴を最大限に活用し、テクノロジーを用いて魅力を伝えることは十分に可能です。そのヒントやアイデアをみなさまと共有することで、ダイヤモンド業界全体の発展に貢献できれば幸いです。
■連載コラム No 56 ■2019年7月1日 月曜日 15時44分55秒

天然ダイヤによる価格以外の差別化

 先月末に恒例の香港ジュエリーフェアが開催されましたが、デモの影響もあったのか、日本人のビジターはあまり多くない印象でした。6月の香港フェアは規模として大きくはないものの、出展企業の展示内容や動向を見ると世界的な流れが見えてきます。ここ数ヶ月で顕著なのは、ダイヤモンド業界の二極化が進んでいるということです。特徴のない古い体質のダイヤモンド業者は、今後ますます生き残りが難しい時代に突入するでしょう。二極化とは、世界的に大きな広がりを見せるラボラトリーグロウンダイヤモンドと、差別化された価値のある天然ダイヤモンドです。この二つは実はテクノロジーによって価値が生み出されているという共通点があります。
 ラボラトリーグロウンダイヤモンド関連業者はどこも好調で、どの業者も過去一年間で売上は右肩上がりで伸びています。主要マーケットであるアメリカはもちろん、ヨーロッパでの売上が増加してきており、香港、中国に関しても今年後半で売上が伸びる見込みとのことです。世界的な需要が増加するにつれて、供給とのバランスが取れて価格的には安定してきており、一部のグレードやサイズに関して今後価格は上昇する可能性さえあると言われています。LIGHTBOXの発表から一年、海外のラボラトリーグロウンダイヤモンド市場は既に次のステージへと移行し始めています。生産業者は半年前と比べても品質の向上、研究開発が進んでおり、新しい商品が誕生しています。また、今まで批判的だった天然ダイヤモンドの企業がラボラトリーグロウンダイヤモンドを生産し始めたり、既存のラボラトリーグロウンダイヤモンド企業に投資をしたりしていますし、技術力の高い天然ダイヤモンドのカット工場がラボラトリーグロウンダイヤモンドの原石を買って研磨、より高品質なダイヤモンドを作成しているところもあります。天然ダイヤモンド企業の参入によって、ラボラトリーグロウンダイヤモンドは海外では既に、天然とラボグロウンの枠を超えてダイヤモンド業界の一部となってきています。
 一方で天然ダイヤモンドに関して特に最近ポイントとなっているのは、信頼性とトレーサビリティです。ダイヤモンドの品質は3EXとH&Cの登場によってグレードとしては完成を見せています。品質の差別化が極めて困難なため、熾烈な価格競争が行われてきていますが、ラボラトリーグロウンダイヤモンドの登場によって、天然ダイヤモンドの価値基準に信頼性やトレーサビリティ、個性などの新たな要素が加わっています。今やダイヤモンドに限らず、『倫理性』はどの業界にとっても共__通の重要なキーワードになっています。
 ラボラトリーグロウンダイヤモンドと天然ダイヤモンドの関係は、クォーツ時計と機械式時計の関係のようなものです。1969年にクォーツ時計が登場した際、大量生産が可能で、機械式時計より高い精度を持ち、しかも安価なクォーツ時計は大きな脅威だったと思います。しかしそれから50年、差別化された高品質な機械式時計メーカーは現在では以前より高いステータスを持ちブランドを確立しています。また、高額な機械式時計とクォーツの両方を作っているブランドも数多くあります。
 ダイヤモンドに関しても同様に、いかに両者の価値を高め、差別化してビジネスに落とし込むかということが今後のポイントになってきます。ラボラトリーグロウンダイヤモンドに関しては、まず一つでも良いのでラボラトリーグロウンダイヤモンドを持ってみることです。実物に触れて、知識ではなく実感として理解すること、出来るところから少しでもトライすることが重要になると思います。一方天然ダイヤモンドに関してはどのような新たな価値をテクノロジーが生み出しているのかを知り、活用することが重要になってくると思います。お客様自身が一瞬で世界中の情報を入手できる時代に、今までの接客は通用しなくなってきています。お客様に差別化された価値を提供できるブランド、店だけが生き残っていく時代になるでしょう。
 海外のジュエリーフェアでは以前と比べても多くの天然ダイヤモンド企業が、価格以外の差別化を打ち出しています。ある企業はオンラインPOSシステムを提供していますし、ある企業は原産地証明とトレーサビリティプログラムを、またある企業はダイヤモンドの詳細なデジタルデータを提供しています。どれもテクノロジーによって付加された価値です。店頭においても、そのような技術を落とし込み差別化された消費者への提案が必要になってきますし、利用が可能な状況になってきています。デジタルに対する感性が高く、倫理性を重んじる今後の世代の消費者に対して、ダイヤモンド業界も新たな価値を提供できる時代になってきているということです。今後、顧客主体のテクノロジーによる差別化されたダイヤモンド販売が求められる時代の中で、新たなビジネスの構築となれば幸いです。
■連載コラム No 55 ■2019年6月10日 月曜日 14時7分56秒

天然のEやFカラーに見えるのは、実はLカラー

 先日、神戸で神戸国際宝飾展(IJK)が開催され、ラボグロウンダイヤモンド(合成ダイヤモンド)企業として初めてIJKに出展させてもらいました。昨年秋のIJT、今年1月のIJTと関東での展示会には出展しましたが、関西エリアでは初めての出展です。
 ラボグロウンダイヤモンドが少しずつ浸透してきた影響もあると思いますが、今までの展示会に比べてブースに訪れる方の反応はかなりアクティブだったというのが今回の感想です。過去の展示会では、興味はあるものの、まずはリサーチ、興味本位、将来的には考えたいけど今は買わない、というようなスタンスの方が多かった印象です。IJKでは実際に仕入れたい、まずサンプルで買いたい、導入したいという方が多く、事実多くの方が購入をされていきました。
 今回は、一般社団法人日本グロウンダイヤモンド協会として石田代表理事がIJKセミナーを開催しましたが、そのセミナーの中でも「セミナーなど話だけ何度聞いていても意味がない。まずは1点でも良いので自分で持ってみて、実際にラボグロウンダイヤモンドとはどんなものなのか、お客様やスタッフはどう反応するのか、自分で知るところから始めるべき。」という主旨の話をしました。そのセミナーの終了後はその足で受講者がブースに押し寄せ、購入されて行かれました。
 実際、1ctのオフカラー、VS EXのラボグロウンダイヤモンドであれば17-18万くらいで買えてしまうわけです。オフカラーというと、天然ダイヤモンドを見慣れている方であれば、黄色味が強い、プラチナ枠に留めたら色が目立ってしまうようなものを想像されると思います。しかし、ラボグロウンダイヤモンドの場合、特にフェイスアップで見た際に黄色味はあまり感じません。プラチナ枠に留めても、色味が目立つことはほぼないでしょう。IGIやHRDの鑑定書がついていますからカラーに間違いはありませんし、横から見ると確かに色味が確認できますが、天然ダイヤモンドの印象としてみなさんが思っているオフカラーとは別物です。
 私は個人的に1ctのラボグロウンダイヤモンドのピアスを持っています。海外で天然ダイヤモンドのプロバイヤー達に会うと、彼らは当然それに興味を持つわけです。みんなプロですからグレードを勝手に推測し始めるわけですが、Fカラーだろうとか、いやEカラーだとか言うわけです。もちろん枠に留まって耳についている状態なので、ルースの状態でルーペで確認するのとは違いますが、それでも天然ダイヤモンドを今まで何万ピースも見てきたプロがそう言うわけです。でも、実は私のダイヤモンドのカラーは、公開するのも少し気が引けますが、“L”です。枠に留まっている状態とはいえ、普通に考えたらLカラーのダイヤモンドですから黄色味を感じると思います。少なくともプロがFカラーなどと判断することはないと思います。しかし、ラボグロウンダイヤモンドの場合は黄色味の具合が天然と多少異なることと、タイプ2aで不純物が少ないことや照りが良く輝くので色が飛ぶことなどが複合的に作用しているのだと思いますが、カラーグレードが低くても色味を感じにくいと言う特徴があります。
 話を100回聞くより実物を見る、自分で持ってみた方が早いですし、よっぽど為になります。デビアスがラボグロウンダイヤモンドを取り扱うと発表してちょうど一年経ちました。その間に数々のセミナーが各地で開催され、テレビでも取り上げられ、この一年ダイヤモンド業界の話題の中心にラボグロウンダイヤモンドがあったことは間違いないでしょう。でも、神戸でもそうですが東京でここ最近お会いする業界の方も、ラボグロウンダイヤモンドの実物をまだ一度も見たことがないという人が多いのです。
 今、ダイヤモンド業界にかかわらず世界はものすごいスピードで変化しています。以前は、未来を見通すことが大事、などと言われていましたが、この高速で変化している時代に、5年後のことすら予測するのは不可能です。スマホでほとんどの仕事ができて、通販で買い物がいつでもできて、QRコードでコンビニで買い物ができる時代が来る今のことを10年前にわかっていた人なんて一人もいないと思います。10年後にどんな生活をしているのか予想もできないでしょう。新しいデジタルツールが怖いからと、触らずにいる人はどんどん時代から取り残されていくのです。
 では、先が見えない時代には何をすればいいのか。まずは試すことです。今、目の前にあるものを試てみることでしか変化を本当に感じることはできません。天然と混ざったら怖いから、価格が下がるから、消費者が嫌がりそうだから、触らない言い訳はたくさん思いつくと思いますが、でもサンプルを実際持ってみて色々と考え始めている企業は実は多く存在します。市場で流行ってきてから検討すればいい、では遅いのです。あれこれ考えるよりまず試す、その実体験を元に天然ダイヤモンドにしてもラボグロウンダイヤモンドにしても、ブランディングを構築する事が本当の戦略ではないでしょうか。
■連載コラム No54 ■2019年6月10日 月曜日 14時1分40秒

国際標準とITの活用はどの業界でもマスト

海外に行くと、ITの分野で日本は国際的に見て遅れていると感じることが特に最近多々あります。もちろん、日本はインフラが非常に整っていて最も快適な国の一つであることは間違いありませんが、ITに関しては遅れていると感じるシチュエーションがあります。

通常、海外に行ってストレスを感じることの一つはタクシーです。英語圏以外のタクシーの運転手は英語を話せないケースが少なくなく、目的地を伝えるのに一苦労、目的地を伝えたとしても、現地のタクシー料金相場がわからないので適正な料金を請求されているのか、遠回りされているのかわからないからです。しかし最近はタクシーアプリがほとんどの国で使えるようになっており、タクシーは快適そのものです。アプリで現在地までタクシーを呼ぶことができますし、流しのタクシーに無視されることはありません。アプリに車種とナンバーが表示されているので、迎えに来たらすぐにわかります。事前に目的地を入力(または地図上で指定)すれば、乗車してから必死で運転手に目的地を説明しなくても大丈夫です。目的地を指定した時点で料金は確定しているので、目的地に着くまで料金がわからない不安から解放されますし、遠回りされて不当に高い料金を請求されることもありません。

日本ではどうでしょうか。日本では道路運送法という法律でタクシー事業は様々な規制があり、距離毎の料金まで決められています。配車アプリはありますが、海外のアプリのような利便性はなく、日本でも使用することのできる海外アプリ、Uberであっても、実質は既存のタクシー会社のタクシーが来るだけの配車アプリとなっています。

誰がどう考えても海外のようなタクシーアプリの方が便利ですが、変化に伴う負の側面に過剰に注目したがるのがこの国の特徴です。タクシーを自由化したら不当に高い料金を取るドライバーが出るかも、地域によって格差が生じるかも、未熟なタクシー運転者が増えて事故が増えるかも、などです。もちろん変化には課題が伴います。しかし、変化を受け入れなければ国際社会から取り残されるだけです。急速に国際化が進む社会で、ガラパゴスなルールに縛られている業界には限界があります。

ちなみに、中国はディディというタクシーアプリがあります。このアプリの導入によって中国のタクシー事情は劇的に改善しました。アプリが導入される前は、お客様が特定のタクシーのリピーターになるということはないのでカスタマーサービスに気を使うことはありませんでした。マナーも悪く、ぼったくりもあったと思います。しかし、アプリの導入によって急ブレーキ、急発進などの運転の質が管理され、目的地まで素早く快適に到着するかをスコアリングされます。ドライバーは評価スコアを高めることによって収益性が上がるので、近年の中国のタクシーのクオリティは総じて非常に高いと言われています。ITによって課題にソリューションを見いだした好例と言えるでしょう。

今後のビジネスを考える上で、国際標準とITの活用はどの業界でもマストです。しかし、ジュエリー業界はガラパゴスな進化を遂げてきているように思えます。日本は今でも世界第3位のダイヤモンド消費国ですが、売れているダイヤモンドのサイズや品質は他の国と異なります。アメリカの知人は日本のジュエリーショップに並んでいる0.18ctくらいのエンゲージメントリングを見て目を丸くして驚いていました。アメリカだけではなく、アジアの他の国と比較しても日本のエンゲージメントリングのサイズと品質は特殊です。それを当然と考え疑問を抱かないと、今後インバウンドまたはアウトバウンドを視野に入れた際には必ず壁にぶち当たることになります。

ラボグロウンダイヤモンドを取り巻く環境も、目まぐるしく変化する国際的な環境に対応していく必要が必ずあると思います。ラボグロウンダイヤモンド自体が、世界的に見て新しい商材で、その定義が確立しているとは言いがたい状況なのは事実です。色々な立場で色々な意見があるでしょう。しかし大局的にどのような流れになっているのかを把握しておく必要はあります。日本で宝飾業を営んでいる方々は日本の法律及び業界団体の決まりの中でビジネスを行います。一方でネットを活用した消費者の情報収拾は国の垣根を越えていきますので、場合によっては消費者の方が他国の状況を知っているという状況も起こり得ます。

イギリス王室のヘンリー王子の妻であるメーガンマークルが今年に入ってからラボグロウンダイヤモンドのイヤリングを着用し、同ブランドのイヤリングが売り切れになっていることをご存知でしょうか?アメリカの連邦取引委員会がジュエリーのガイドラインを改定し、ダイヤモンドの定義から、天然のみとしていた限定を外し、起源に関わらずダイヤモンドとすること、また、消費者が誤解する危険性があることから、合成(Synthetic)の用語をガイドラインから削除し、使用しないようにしたことはご存知でしょうか。それを受けてGIAも表記をSyntheticからLaboratory Grownへ変更すると発表しています。また、HRD Antwerpが今年からラボグロウンダイヤモンドに関して天然ダイヤモンドと同じグレード表記を使用した鑑定書を発行していることはご存知でしょうか。HRDはその決定に関して「鑑定機関の役割は100%の公平性であり、天然かそうではないかに関わらず、消費者に明確な価値を示すこと。」とコメントしています。

個人的な意見としては、天然ダイヤモンドはその価値を生かせるカテゴリーで健全に存続すると考えています。一方で、ラボグロウンダイヤモンドに適した商品の市場というものも必ず出来上がります。その方向性に関しては賛否両論あると思います。しかし、国際的な動きを見極めないと日本だけが取り残されることになってしまう可能性があるということです。バブルの時代はそれで良かったのかもしれません。しかし、インバウンドやアウトバウンドを意識せざるを得ない今の時代、必ず国際的な視点が必要になってくるということです。
■連載コラムNo.53 ■2019年4月3日 水曜日 11時34分23秒

 2月末から3月にかけて、世界最大規模の展示会の一つである香港ジュエリーショーが開催されました。私も現地で複数ミーティングがあったので数日間訪れました。ラボグロウンダイヤモンドのエリアが以前のように天然ダイヤモンドのコーナーと接しておらず、離れた場所に設けられていましたが、これはビジターが混合することを避けるための措置のようです。ラボグロウンダイヤモンドのエリアはさらに以前より規模を拡大しており、出展者は回を増すごとに増加、既存出展企業のブースは段々と豪華になっているなど、世界的に勢いを増しているようです。
天然ダイヤモンドのエリアと離れて設置されたことに関して出展者に感想を聞いてみましたが、「無駄な対応をしなくて良いから嬉しい」とのこと、つまり以前は天然ダイヤモンドを見る流れで来たビジターが間違えて迷い込んでしまい、天然ダイヤモンドと間違えている人の対応をするケースがあったようです。また、買う気もないのに情報収集のためだけに訪れる人の対応も時間の浪費になるとのコメントもありましたが、それくらいラボグロウンダイヤモンドのブースはどこも対応に追われ非常に賑わっていたのが印象的でした。ただ、品質や対応に関しては玉石混合という感じで、ラボグロウンダイヤモンドの企業も優劣がハッキリとしてきたという印象もありました。

 一方で、実は今回私が注目し、最も変化を感じたのは天然ダイヤモンドのエリアでした。皆様ご存知の通り、天然ダイヤモンドは3EX、H&Cが当たり前になっており、品質的には差別化が非常に難しくなってきています。多くの天然ダイヤモンドの業者は品揃え(在庫数)や価格で競争せざるを得ない状況で、どこのブースに行っても売り文句はあまり変わらないのが当たり前でした。品質と在庫と価格だけを武器に商売を行うのはダイヤモンド産業が長年続けてきた古典的な商売方法ですが、実は先進的な一部の天然ダイヤモンド企業はそのループから既に脱出しつつあります。
今回訪れた多くの企業で、スマホアプリ対応するオンラインストックシステムなどを活用しており、デジタル鑑定書の導入、また生産過程を細かく追跡確認できるブロックチェーンテクノロジーを利用した保証制度などもいくつかの企業では既に開始しています。
また、特別なアタッチメントによってスマホでスキャンできるガードルのQRコードによって、ダイヤモンドからダイレクトにデジタルデータにアクセスできるシステムを構築している企業もあります。イスラエルのSarine社では、最先端の原石プランニングシステムを利用し、原石からのカット工程を3Dデータでデジタルレポートに組み込む技術を開発しました。また3Dプリンタで個々の原石を再現したディスプレイなどもデモンストレーションしており、天然ダイヤモンドにとってデジタルツールとトレーサビリティの融合は今後大きなトレンドになると感じました。

 今までのコラムで、ラボグロウンダイヤモンドの出現によって天然ダイヤモンドは新たな価値を見出すステージに突入すると何度か書きましたが、将来のことではなく海外の現場では既にそれが起こっているのです。ラボグロウンダイヤモンドの出現は確かに天然ダイヤモンドのビジネスに影響を与えますが、それは驚異かどうかという問題ではなく、いかに次の高みに自身のビジネスの価値を引き上げられるのかというビジネスの本質の問題です。ラボグロウンダイヤモンドはハイテクの産物ですが、ハイテクはラボグロウンダイヤモンドの為だけにあるわけではありません。ハイテクの恩恵は天然ダイヤモンドにも同様にもたらされているのです。

 少し話は逸れますが、先日知人が面白い事を言っていました。グラスフェッドミルクやグラスフェッドビーフという言葉を聞いたことがあるでしょうか。最近注目されている、牧草で肥育された牛そのものや、その牛から取れる牛乳のことを指します。栄養的にメリットがあるらしく、通常のものより高価ですが、非常に人気で一部の商品は品薄な状態が続いているようです。グラスフェッドに対して一般的に穀物で肥育されている牛はグレインフェッドと言うらしいですが、その知人が言うには「もともと牛は自然に草を食んで育つものなのに、飼育が楽だとか、肉にサシが入ると言う理由で人間が人工的な環境で育てたのがグレインフェッド。これが普通になったら、逆に元の自然の環境で育った牛の方が貴重だとか価値があるとか言われている。」と。ちなみに霜降りと言われているものは必要以上の脂肪をつけさせて筋肉繊維の中に人為的に脂質を入れ込んだ牛のことを言うそうですが、最近では健康的なグラスフェッドの赤身の人気が上がっているとのこと。グレインフェッドがあるおかげで、グラスフェッドの価値が際立っているということです。ただどちらも価値があり、シーンや調理法によって棲み分けがされていくわけです。ダイヤモ
ンドも同様、ラボグロウンによって天然ダイヤモンドの価値が際立つと言うことが実際に起こっているのではないでしょうか。

 今、長いダイヤモンド産業の歴史の中で、技術によって二つの大きな破壊的イノベーションが起こっています。ひとつは、ラボグロウンダイヤモンドという新しい素材の登場、そして二つめは、高度なデジタルソリューションの波です。
既にダイヤモンドビジネスの競争原理は価格と品質ではなくなっています。世界のダイヤモンド産業を観察すれば1年や半年単位でも大きな変革が起こっていることがわかります。既存のビジネス手法を変えずに固執することはリスクになるという時代に来ているのです。それでもし、何かを変えてみたいと思われたその際は、ぜひお手伝いできれば幸いです。
■連載コラム No52

RAPAPORTは守りに固執するのは、やめるべきと指摘

クリーンミートをご存知でしょうか。培養肉とも言われ、文字通り研究室で動物細胞から培養される肉のことで、畜産業の抱える多くの問題の解決策になると期待されています。増え続ける世界の食肉需要の増加と、それに伴う畜産業による環境破壊を解決するものとして、動物飼育を伴わない動物性食品の切り替えは今や世界的な関心事になっています。

動物細胞から培養された肉は本物の肉と遜色のない見た目、食感、味、栄養になるようです。培養された肉の味がどうであれ、研究室で成長した肉を食べるのは抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、見方を変えれば農場で抗生物質やワクチンを投与され、陽の当たらない不衛生な飼育小屋で飼育された食肉よりも、生産過程が明確で安全なクリーンミートを選択する人が増える可能性は十分にあります。

このトピックは世界的なダイヤモンドメディアRAPAPORTの2月号にも掲載されました。何故食肉産業のニュースを取り上げたかというと、ラボグロウンダイヤモンドのケースと類似する点があるからです。クリーンミートは今後その品質と供給安定性が上がるに従い、流通量の増加が予想されますし、通常の肉との区別が難しくなります。近い将来、レストランでステーキを注文する際に、焼き加減よりも、消費者はその肉が何なのか(天然かラボグロウンか)を知ることの方が重要になるかもしれません。そのためにレストランはメニューの内容を完全に把握し、そして開示することが必要になります。

アメリカの食肉業界では既に、そのクリーンミートの名称をどうすべきかの議論が生じています。クリーンミート、ラボグロウンミートなどの候補が上がっていますが、既得権益団体は「肉」という名称を用いないよう主張し、それを肉以外の何かであると認知させることによって畜産業界が毀損されないよう努めています。

ところで先日、非常に興味深い事件が起きました。ある一般消費者が私に電話をかけてきて、ネットショップで売られている合成ダイヤモンドが本当に合成ダイヤモンドか教えて欲しいと言うのです。どうにも奇妙な質問ですが、聞けばそのネットショップでは1ct以上の大きさの「合成ダイヤモンド」を2万円前後で販売しているとのこと。もしそれが「本物の合成ダイヤモンド」であれば是非購入したいと考えているようです。調べてみると大手ネットショッピングモールで多数の商品を販売しているようで、サイズ的には2ct-3ctに相当するものがシルバーのジュエリーにセットされて2万円前後で販売されています。商品スペック欄にも「合成ダイヤモンド」と明記されていますし、「イミテーションではなく硬度や屈折率が天然ダイヤモンドに極めて近いもの」との説明書きもあります。これだけ見れば一般消費者がラボグロウンダイヤモンドと同一の商品と思い込むのも無理ないことだと思いますが、これはキュービックジルコニア(CZ)のジュエリーである可能性が極めて高いと思います。実際にCZを合成ダイヤモンドという名称で販売している例はこれに限ったことではありません。大手ショッピングサイトで「合成ダイヤモンド」と検索すると何が表示されるのか、試してみるとよくわかると思います。またこのようなことから、消費者も合成ダイヤモンドのことをCZ(ダイヤモンドではない、似た何か)と認識している人が多いのではないでしょうか。事実、誤認する可能性があるのではないかという消費者からの指摘はTwitterなどで散見されます。

消費者から見たときに、名称の問題は非常に重要です。消費者は自身が食べる肉が何か、自分が購入しようとしている宝石が何かを明確に理解する権利があります。そしてそれは名称の問題に直結します。名称は消費者保護の観点から、誤認の可能性が低いものではなくてはなりません。売り手にとってではなく、消費者にとって明確な名称を選択する必要があります。それが結果的にはダイヤモンド業界の信頼性を向上させ、業界全体の活性化につながるのではないでしょうか。RAPAPORTは「天然ダイヤモンド業界はラボグロウンダイヤモンドの議論の中で、守りに固執することをやめるべきだ」と指摘しました。現代の消費者は、自分が買おうとしているものが何か、それが天然でもそうでなくても、透明性があるのか、エシカルかどうかを気にしています。ラボグロウンダイヤモンドに対して防衛意識を働かせるより、天然ダイヤモンドとして消費者にどれだけ価値と信頼を提供できるかの方が、今後の天然ダイヤモンドビジネスには意味のある議論ではないでしょうか。ラボグロウンダイヤモンドが天然ダイヤモンドにとって脅威であるかという問題はそこには関係ないはずです。

アパレルブランドのグッチは昨年、動物の毛皮を使用しないファーフリーを宣言しましたし、シャネルもエキゾチックレザーの使用を廃止すると発表しました。フェアトレードなどエシカルや社会的責任に対する関心が世界的に益々高まっていく中で、肉にせよダイヤモンドにせよ、また他のカテゴリーにしても「ラボグロウン」は新たな魅力を提供し新たな市場を築くでしょう。しかし一方で、天然ダイヤモンドも消費者に対して新たな価値を提供することにより共存することが可能です。天然VSラボグロウンという対立構造を超えて、新たなダイヤモンド市場の拡大に貢献できますと幸いです。
■連載コラム No51

天然ダイヤモンドの価値を、より際立たせる

 先月、東京ビッグサイトで国際宝飾展が開催されました。今回は合成ダイヤモンド関連の企業が数社出展していたこともあり、『合成ダイヤモンド元年』として多くの人々の注目を集めていました。私もラボグロウンダイヤモンド(合成ダイヤモンド)専門企業として出展させていただき、新聞、テレビを合わせ11のメディアから取材を受けさせて頂きました。また、IJTセミナーとしては合成ダイヤモンド関連のセミナーがいくつも開催され、それぞれ会場から溢れるほどの受講者がいたと聞いております。合成ダイヤモンドが今回の国際宝飾展で最も大きな話題をさらったことは誰もが認めるところだと思います。

 テレビ東京系列「ワールドビジネスサテライト」も取材に来ておりましたが、同番組は昨年の11月にも合成ダイヤモンドを取り上げた10分ほどのコーナーを放送しています。今回の取材の際に聞いたのですが、去年のその10分のコーナーは、2018年の年間の同番組の最高視聴率だったとのことで、いかに合成ダイヤモンドに対する一般消費者の関心が高いかを物語っています。また、各テレビ局からはスタジオ収録後に連絡をいただきましたが、収録現場も非常に興奮して盛り上がり、局内でも非常に評判が良かったとお聞きしました。取材に来た制作会社の方達は、ここ数十年で最も面白い宝飾業界のトピックとして非常に注目していると教えてくれましたが、一方でメディアや消費者の注目度とポジティブな意見に反してジュエリー業界では否定的な意見がある多くことが不思議だともいう声もありました。

 最近、業界内の論調を見ていると、一元論的に「合成ダイヤモンドは悪か善か」のような雰囲気があるように思います。派閥争いではないのですから、「天然ダイヤモンド派」と「合成ダイヤモンド派」に分ける必要はないですし、天然ダイヤモンド派の人間が合成ダイヤモンドを扱ってはいけない訳でもありません。仮に天然ダイヤモンドだけ、合成ダイヤモンドだけを専門に取り扱うショップ、ブランドがあったとしても、それはあくまでブランディングの問題です。

 合成ダイヤモンドの問題以前から、例えば10金や14金のゴールドをジュエリー素材として認めるのかどうか、新素材に関してはどうなのか、などの議論が業界内では度々起こっていました。しかし、どの素材を取り扱うか、または取り扱わないのかは各ブランドやショップのブランド戦略の問題で、素材を正しく表記して説明している以上、何を選択するかはお金を支払う側である消費者が決める事になります。当然ですが、ろくに説明もせずに18金のジュエリーを売っているショップより、両方の特徴、メリットやデメリットを説明しながら丁寧に1 4 金のジェエリーを売っているショップの方が誠実でお客様にとって良いショップである事は間違いありません。何を扱うかは重要な問題ですが、どう説明するのかはそれ以上に重要です。最終的に判断するのはお客様だからです。

 合成ダイヤモンドに関しても同様に、それ自体の是非よりも、ブランド戦略としてどう取り入れるのか(または取り入れないのか)をしっかり考える事の方が重要です。今回の一連の報道に関する消費者の反応をSNS等でリサーチすると、一般消費者は我々が想像するより多角的に多くの情報を持っており、合成ダイヤモンドが物質的科学的に本物のダイヤモンドである事をすでに理解しています。その上で、シチュエーションなどによって使い分ける事をすでに想定しているようです。消費者のマインドは、既に合成ダイヤモンドがジュエリーとして店頭にある市場を想定しているという事です。

 今回の国際宝飾展では一方で、HRDAntwerpのセミナーでは天然ダイヤモンドの特徴である青白色の蛍光性についての肯定的なリサーチ結果が詳細に説明されました。また、イスラエルのSarine社のブースでは、ダイヤモンドがユニークな天然の原石からどのように美しい輝く宝石になるのか個々に表示する最新のツールが紹介されていました。ティファニーは先日、自社の天然ダイヤモンドの透明性と価値を高めるために、ダイヤモンド原産地の情報公開プログラムを開始しました。これらは全て、天然ダイヤモンド特有の個性と価値にスポットを当てるものです。合成ダイヤモンドの登場は、天然ダイヤモンドの価値をより際立たせるものになります。今後、消費者にとって二つのダイヤモンドの選択肢が生まれる中で、それを販売するブランドやショップは、どの価値に焦点を当てるのかを意識する必要に迫られます。

 今年、ダイヤモンドビジネスは新たなステージに突入します。合成ダイヤモンドによって新たなジュエリーの顧客層を取り込める可能性もありますし、また、天然ダイヤモンドの価値を再定義して販売をすることも可能になります。今まで通りの方法が通用しなくなる中で、このコラムが天然ダイヤモンド、合成ダイヤモンドそれぞれの新たな方向性を見出す一助になれば幸いです。
■連載コラム No50

ジュエリー業界全体で大きなチャンスを掴む

新年あけましておめでとうございます。
 2019年が皆様にとって更なる飛躍の年になりますよう、心から記念しております。

 ちょうど一年前にこのコラムで「2018年はAI競争が加速する」と書かせていただきました。実際、昨年の特に後半はAIというキーワードがテレビや雑誌などで頻繁に取り上げられ、『AI搭載』と書かれた謳い文句の商品が数え切れないくらい登場しました。昨年一年間という短期間に、いかにテクノロジーが私たちの生活により深く浸透したかを実感したのではないでしょうか。

 「スマホ時代」というタイトルで本コラムを書き始めて丸4年経ちましたが、最近このタイトルも少し時代遅れではないかと感じています。スマホを含むデジタルデバイスは我々の生活に溶け込み、スマホがなかった時代のことすら想像できないというレベルまで来ています。そもそも「スマホ時代」しか知らない世代も社会に出てきているのではないでしょうか。実際若い世代は、「スマホ便利で好き!」などとそもそも思いません。インターネットとスマホは既に生活インフラの一部で、彼らに言わせると「水道便利で好き!」と言っているくらいのレベルです。スマホを使う、SNSを利用する、これら全て息を吸って食事をするのと同じくらいのレベルまで浸透しています。今までテクノロジーを積極的に取り入れることを中心に書かせていただいていましたが、2019年以降は、テクノロジーがあることを前提に、いかにビジネスとの融合を図るかが大きなポイントになります。それは情報発信についても同様です。今の若者は作られたマーケティングに非常に敏感です。単純なテレビ雑誌広告はもちろん、ステマに対しても非常に敏感で鋭い嗅覚を持っています。

 ダイヤモンドは長い間、ステータス性とブランド力だけで販売されてきた商品です。しかし、ダイヤモンドに限らずステータス性やブランド力だけで商品が売れることは今後あり得ません。特にこれからの世代には納得感と説得力が必ず必要になってくるのです。ダイヤモンドは、ジュエリーを含めどう『本当の』差別化ができるかが問われる時代になります。特に今後は、ダイヤモンドも天然だけではなくラボグロウンダイヤモンド(合成ダイヤモンド)が市場に入ってきます。消費者にとって商品の選択肢が広がる中で、販売側も選択を迫られることになります。そして、それが天然であれラボグロウンであれ、自社にとってのダイヤモンドビジネスを再定義することが必ず必要になってくるということです。

 メディアはいま、革命的なダイヤモンドとしてラボグロウンダイヤモンドに大きく注目しています。実際に多くのメディアの方から話を伺っていますが、多くの消費者が関心を持っているトピックだと口を揃えて言われました。実際に今年も幾つか地上波のテレビ番組での放送が既に決まっています。私自身も昨年はラボグロウンダイヤモンドの研磨工場、HPHTのファクトリー、CVDのファクトリーなどを訪れましたが、製造業者はどこも非常に意欲的でビジネスの拡大を確信しています。生産能力、そして品質は非常に高く、長年ダイヤモンドビジネスに従事している私の目から見ても、そのクオリティは感動を覚えるほどのものです。そして各社既に十分な生産能力を持っていますが、どこも今後生産を拡大する予定だと教えてくれました。つまり現在、多くのメディア、消費者、製造業者がこの新しいカテゴリーにフォーカスしているということです。

 一般消費者がどう思っているのか、実際に合成ダイヤモンドやグロウンダイヤモンドに対しての反応を、キーワードやハッシュタグでSNS等をリサーチすると、ほとんどの意見は非常に肯定的です。特に若い世代を中心にこの傾向は顕著ですが、これを「消費者が天然ダイヤモンドからラボグロウンダイヤモンドにシフトした」と捉えるのは間違いです。ネットなどで情報収集してSNSにポストすることが当たり前の新しい世代が、この新しいカテゴリーのダイヤモンドの出現によってダイヤモンドやジュエリーに関心を向けるようになった、ということです。つまり、テクノロジーによって生み出された新しいこのラボグロウンダイヤモンドが、新たなジュエリー市場を開拓する可能性を持っているということです。その延長線上で、目的に合わせて、予算に合わせて、アイテムに合わせて天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドを消費者自身が選択するようになるでしょう。お店として、ブランドとして何を取り扱うかを慎重に検討し、決定することは非常に重要です。しかし、この時代に何を購入するかという選択肢は消費者自身にあるということです。

 この流れの是非や善悪を議論することには既に意味がありません。既に技術は出来上がっており、流通も始まり、そして消費者の認知は急速に広まっています。この流れが来ていることを前提に、どのような戦略を取るのかを考えるタイミングに既に来ているということです。AIに関して言えばメディアでは「AIが仕事を奪う!」というトピックが頻繁に出てきています。しかし、AIを否定することに意味はなく、AIを取り入れることによってビジネスのクオリティを上げる、もしくはAIができない領域の人間の仕事の質を上げることに目を向けるほうがよっぽど理にかなっているはずです。

 今月の東京ビッグサイトで開催されるIJTでも、ラボグロウンに関係するセミナーや、ブースが出展されるなど、大きな関心を集めることが期待されています。

 ラボグロウンという水源から湧き出た水は十分な時間を経て、既に太く大きな流れになり、今年一気に流れ込んで来ます。川の流れを変えようとするのではなく、川の流れる先へ行くことで、業界全体として大きなチャンスがつかめる年になるはずです。
■連載コラム No49


時代の流れに対応した人間のみが生き残れる

先日、日本のインターネットの普及と経済に関する非常に興味深い講演を聞く機会がありましたのでご紹介したいと思います。

 日本でYahoo!Japanがサービスを開始したのは1996年でした。インターネットを広く利用可能にしたと言う意味で、この年が日本での一般的なインターネット元年とも言えますが、インターネットが我々の生活をいかに変化させたか、皆様現在も実感されていると思います。

 それ以前の仕事がどうであったか想像していただくと、スマホは当然ありませんし、携帯やパソコンすらほぼなかったわけです。今と比べて圧倒的に非効率的な仕事をしていたわけです。一人の人間の生産性はテクノロジーの向上によってこの20年で比較にならないほど向上しました。つまり社会の生産効率が飛躍的に上がったわけです。

 ところが、この20年で日本の名目GDPはなんと0.8%しか成長していません。ほぼゼロです。生産効率が飛躍的に向上し、一人の人間の能力が何倍にも拡張したのにも関わらず、です。同期間の他国はどうだったかと言うと、米国は139%、韓国は157%、中国に至っては1285%となっています。普通に経済活動を営んでいる世界中の国は日本を除き全て成長しているのに、唯一日本だけがゼロという異常事態です。

 ちなみに宝飾業界のピークは同じく約20年前で市場規模は3兆円、そこから下降の一途を辿り現在では1/3以下の9600億円と、テクノロジーによる生産効率の向上と反比例するかのように市場縮小しています。

 日本経済が成長しない(できない)理由は幾つか説明がありましたが、私が着目したのは「規制がイノベーションを抑制している」「改革を忌避する既得権益者」「リーダー層の低いデジタルリテラシー」の3点です。

 例えばUBERは本来、いわゆる個人所有の自動車を利用したライドシェアサービスですが、世界で唯一日本だけがUBERを本来の用途で活用することができません。道路運送法によってライドシェアは白タク扱いとなり、違法になるからです。そしてこの規制を改革せずに維持することによって利権を守れる会社や団体が多数いると言うことです。しかし消費者にとっては革新的で利便性の高いサービスを利用する機会を阻害されることになり、結果的に新しい経済を生み出すイノベーションが抑圧されると言うことになります。一部の既得権益者だけが得をし、消費者と社会経済にとっては何のメリットもありません。旅館業法によって規制されているAirBnBなども全く同じ構図になっています。本来、新しいイノベーションが生み出されたらそれをどう活用し新たなビジネスとするか模索するのが健全な社会の考え方です。それを規制し既存のビジネスの方法に固執することに将来性も消費者目線もなにも全くありません。

リテラシーの低さです。新しいテクノロジーを採用することによって生じる僅かなリスクを必要以上に重視しすぎて、利便性の高い技術を利用できない、または活用できないというものです。個人でもたまに、不正利用が怖いのでネットでクレジットカードを一切使わないという人がいますが、正直どうやって生活しているのかと不思議になることがあります。私の感覚としては、事故が怖いので車には一切乗りません、というのと同じ感覚で、リスクの為に大きな利便性を犠牲にしているとしか思えません。企業でもテクノロジー活用に関して同様のことは事の大小を問わず多くあります。

 宝飾業界に目を移すとどうでしょうか。宝飾業界は基本的に金属の土台に宝石をセッティングして売るという極めてアナログな業界です。しかし、ここ数年で過去に類を見ない革新的なテクノロジーやイノベーティブなものが数多く登場しています。ここ100年で、ここまでの破壊的イノベーションが宝飾業界に起こったことは恐らくないでしょう。インターネットは生産者と消費者の距離を限りなく縮め、ECによるボーダレスな販売を可能にしました。テクノロジーは店頭でのダイヤモンド接客に革命を起こし、そしてラ
ボグロウンダイヤモンドは新たなカテゴリーとして消費者に衝撃を与えています。つい先日テレビの情報番組で取り上げられたのでご覧になられたかもしれませんが、多くのメディアは現在ラボグロウンダイヤモンドに大きく注目しています。

 しかし依然、多くの業界人はそれに触れようとせず、見ぬふりをして嵐が去るのを待とうとしています。または、それを邪魔し阻害することによって自分のテリトリーを守ろうとしているのかもしれません。しかし、時代は既に変化しています。メーカーが広告戦略によって消費者の嗜好や商品イメージをコントロールできる時代は終わりを迎え、SNSなどのメディアの登場と普及は商品認知の方法を根本から変えました。消費者は自分たちで需要を作り出しつつあります。

 この破壊的イノベーションは日本だけでなく世界中で同時に起きています。アメリカの特に新興の小売店はこの状況を大きなチャンスとしか考えていません。なぜなら、消費者側がこの新しいイノベーションを求めているからです。アメリカのある著名な調査会社は宝飾業界に対して一つのアドバイスをしています。「川の方向を変えようとするのではなく、川が流れる方向に向かうべきだ。」

 この目まぐるしく変化する時代において、時代の流れに対応した人間のみが生き残れます。宝飾業界はまさにその破壊的イノベーションの真っ只中にいるのです。
■連載コラムNo48

消費者の価値観が変わる日々が見えますか?

 先月末にパシフィコ横浜で秋のIJTが開催されました。今回、日本初のラボグロウンダイヤモンド専門商社としてブースを構え、3日間を通じて感じた事を書かせて頂こうと思います。

 以前から本コラムでお話をしている通り、テクノロジーの発展によって普及するものは、その流れを止めることは基本的に不可能だと思っています。そしてジュエリー業界で言えばその一つがラボグロウンダイヤモンドです。私自身、HRD Antwerpの代理店としてダイヤモンドの判別機材を取り扱っている立場から、何年も前からラボグロウンダイヤモンドについてリサーチしていましたが、技術の進歩や海外の生産者の勢いは凄まじいものがあり、この流れは止められないと何年も前に感じました。

 ラボグロウンダイヤモンドは物質的特性としては天然ダイヤモンドと全く同一のものです。炭素からできていますし、同じ硬さ、同じ屈折率を持ち、そして二つとして同じものの無い、本物のダイヤモンドそのものです。頭で理解はしていましたが、4年前に初めてラボグロウンダイヤモンドを見たときには、想像よりも美しく驚いたことを覚えています。アメリカ市場では既に数年前から販売されており、年々市場は拡大しています。既にアメリカの市場で認知され、そして物質としても優れていることから日本市場に入るのは時間の問題だと思いました。しかし日本はどうだったかというと、ここ数年間ずっと市場から排除する方向で議論され続けて来たのです。それが一転したのは、今年5月にDeBeers社がLIGHTBOXを発表した時です。ダイヤモンド界の巨人がこのビジネスに参入することで、一気に風向きが変わりました。そして9月には(アメリカ国内限定のWEBですが)遂にDeBeersが販売を開始しました。

 日本国内では9月にラボグロウンダイヤモンドを使用した日本初となるジュエリーブランドが始動し、また全国展開しているチェーン店も全国での取扱いを発表するなど、遂に日本でも新たなジュエリーカテゴリーが産声を上げた、このタイミングでの国際宝飾展となったわけです。

 結果、初日は本当に昼食どころか一瞬座る暇もないほど開場から閉場までずっと対応に追われ、二日目以降もずっと来客は途切れませんでした。ありがたい事に、この為だけに横浜に来た企業も多くいらっしゃいました。5ctsのプリンセス、1ctのブルーやレッドダイヤモンド等を展示し、皆様非常に驚かれていました。また、現物を見た事で「これは本物のダイヤモンドだ」という事を(かつての私と同じように)実感として理解され、この流れを受け入れられたようにも見えました。実際、今回ご用意させて頂いたラボグロウンダイヤモンドは私が厳選して輸入したもので、見ていただければ必ず、ダイヤモンドを普段見慣れている方であればあるほど美しいと感じていただけたはずです。

 このタイミングでまだ知識がない方は論外として、知識としてラボグロウンダイヤモンドが何であるかはご存知の方でも、知識があるということと実際現物に触れることは意味が全く違います。頭では本物のダイヤモンドと理解していても、現物を見るまではイメージが先行してネガティブな感情が残っていた方がほとんどだと思います。しかし、現物を見ると意識が一瞬にして変わります。初めてラボグロウンダイヤモンドを見る方を観察していると、意識が変わった瞬間が良くわかります。ダイヤモンドは理屈抜きに美しさこそが全てだと直感的に理解でき、そして扱う意思を持たれていました。今回、大きく業界が動いていると感じました。

 先日、既に販売を開始されているショップでお話を伺う機会がありましたが、しっかりと説明をすればお客様は抵抗なく受け入れられているとお聞きしました。実際、私も少し前に消費者の方から直接お問い合わせを頂いた事があります。「都内中のジュエリーショップに問い合わせたけど、どこも扱っていないので直接売って欲しい。」とのお問い合わせでした。詳しく伺うと奥様への結婚5周年記念日のプレゼントという事でしたが、ラボグロウンダイヤモンドをプレゼントする事で、自分が物の価値を見極めることができる人間であるとアピールしたいと仰っていました。消費者の方々は多様な価値観を持たれていて、ときに販売側の予測を軽く飛び越えます。

 一方、国際宝飾展の隣のブースではSarine社が新しい「Diamond Journey」(ダイヤモンドの旅)という新しいプログラムを公開しました。Sarine社はダイヤモンド原石のプランニング技術の圧倒的な世界トップ企業ですが、そのシステムを利用し、研磨された個々のダイヤモンドが実際にどの様な形状の原石からどの様に切り出されたのかをデジタルレポートとして提供するというものです。研磨されたダイヤモンドは個々の違いがわかりづらいですが、原石は一つ一つユニークで、それをお客様がご覧になる事でご自身のダイヤモンドが本当に唯一無二であることを実感としてご理解頂けます。また、輝くダイヤモンドを切り出す為に大きな原石を惜しみなく削ぎ落とすことを理解でき、よりダイヤモンドへ価値を感じ愛着を持たれるはずです。Sarine社は来年で設立30周年を迎えます。何十年もの間ダイヤモンド業界のすべての分野にテクノロジーを提供し続けてきた同社
だから実現できた画期的なプログラムです。

 今回は特に誤解の無いように強調させていただきたいのですが、ラボグロウンダイヤモンドを取扱うべきだと主張するつもりも全くなければ、ましてやここでビジネスの宣伝をするつもりも一切ありません。ただ、この2018年ほどダイヤモンド業界が大きく動いた年はないということを皆様にご理解をいただきたく、説明させていただきました。テクノロジーによってダイヤモンドの魅せ方、接客方法は大きく変わり、そして素材そのものまでも新たなステージへと突入しました。今後ダイヤモンド業界が変わるのではありません、今この瞬間に変わっているのです。そして、消費者の価値観も日々変わり続ける中で、この全体の流れを知らずにいる事は命取りになります。

 今この瞬間も、業界は動き続けています。それが見えるか見えないか、この差は決して小さくはないと思います。
■連載コラムNo 47

ZOZOスーツから見る、圧倒的な優位に立てることとは

 Amazonや楽天などの台頭によってネット通販はだいぶ一般的になってきました。私も食料品以外の買い物はほとんどがネットですが、洋服だけはサイズ感に不安があるためネットでの購入に抵抗感があったのも事実です。Mサイズと表記されていても、メーカーによってサイズ感が異なることはよくあることです。同じように感じている方も多いのではないでしょうか。

 そこで、特に新しい話というわけではありませんが洋服通販サイトのZOZOが実質無料で販売しているZOZOスーツを買って試して見ました。試してみた方はご存知と思いますが、マーカーと呼ばれるドットのついた水玉模様の全身タイツのようなもので、これを着用してZOZOのアプリでスキャンすることでウエストや袖丈はもちろん、首回り、太もも周り、股下や足首周りなど18カ所のサイズを自動的に採寸してくれる仕組みになっています。このデータはZOZOの自分のアカウントと結び付けられていて、自動的に自分の体型に合うサイズの服の絞り込みが行われるというわけです。実際にZOZOオリジナルブランドのデニムパンツを購入してみたところ、本当にジャストサイズのものが届きビックリしました。これから服は全部ZOZOで購入すれば安心かな、と思ったほどです。

 ただ、インターネットで ZOZOスーツの評判を調べてみると否定的な意見が多いことに気づきました。スキャンが面倒すぎる、届いた服のサイズがピッタリではなかった、などです。また、当初はセンサー式だったものがより低コストのマーカー式に変わったことで残念、というものもありました。ではこのZOZOの試みは失敗だったのでしょうか?決してそうではありません。得てして日本企業は100%の完成度を待って商品をリリースしようとしますが、ZOZOはこの製品を恐らく60〜70%程度の完成度で市場に投入しています。革新的な試みは100%の準備が不可能であり、挑戦するものだけが市場を支配すると知っているからです。恐らくZOZOはこの批判的な意見も取り入れ、近いうちに高い完成度を実現するでしょう。そうなれば、日本国民の膨大な体型データを持ちノウハウを有するZOZOはこの分野において圧倒的な優位に立てることになります。

 もちろん中には、洋服の購買は試着したり店員とコミュニケーションを取ったりしながら店頭で購入するのが楽しいし、一番自分に合う服を探す方法だという方もいるでしょう。もちろんそれも正しい意見だと思います。しかし、だからといってこの様なテクノロジーによるインターネット販売の発達を巻き戻すことが可能でしょうか?好む好まざるに関わらず、テクノロジーは発達していきます。個人の趣向として購買スタイルを選ぶことは自由ですが、ビジネスとして捉えた時に個人の趣向を優先させることは間違いなく命取りになります。

 このような事を『破壊的イノベーション』という言い方をしますが、何も決して最近に限ったことではありません。冷蔵庫が普及したことにより氷売りはほとんど必要とされなくなりましたし、自動車ができたことにより馬車に関わる仕事のほとんどは消滅しました。また、蓄音機はレコードプレイヤー、ウォークマン、MD、MPプレイヤーと変わり、今ではほとんどの人はiPhoneなどのスマホで音楽を聴いているのではないでしょうか。実際CDすらも今の若い世代はほぼ買うことがありません。レコードの音質が豊かだからとスマホの音楽配信を否定して見ても、ビジネスとしては意味がないことに反論の余地はないと思います。

 ジュエリーに関しても、デジタルツールを利用した販売戦略は加速の一途を辿っています。ジュエリーのサイズ採寸などアパレルに比べれば遥かに簡単です。ヴァーチャル試着などができれば、商品が手元になくても接客や販売は容易になるでしょう。この販売方法が正しいかどうかをここで議論するつもりはありませんが、ここで言わんとしているのは、テクノロジーはいずれそれらを可能にし、それを拒否することは不可能だということです。もしあなたがやらなくても、いずれ誰かがやるでしょう。

 先月の香港ショーでは以前にも増して多くのラボグロウン(合成)ダイヤモンド業者が出展していました。ラボグロウンダイヤモンドは本物のダイヤモンドですが、テクノロジーによって成長しているテクノロジーの産物です。テクノロジーによってハウス栽培の花が安定的にそして高品質になるのと同様、ダイヤモンドも品質や生産効率が進化します。長い間宝飾ビジネスに携わってきた皆様には思うところが色々とあるとは思いますが、この流れが止められないのも一方でまた事実なのです。

 もちろん、蓄音機とスマホのような関係性とはまた異なりますので、どちらかの市場が消滅するということではありません。消費者の価値観は多様性がありますから、天然ダイヤモンドは天然としての価値を見出され売れるでしょうし、また他の消費者にとってはラボグロウンダイヤモンドの価値が受け入れられるということになります。重要なことは、今後テクノロジーによる発達が何をもたらすかを予測し、そして備えるということです。先月末、ついにLIGHTBOXがスタートしました。これはダイヤモンド業界に投げ込まれた起爆剤です。DeBeersの意図とはもはや関係なく、今後業界は大きく、しかも短期間に大きく動くでしょう。将来のことは誰にもわかりません。しかし、変化に備えずに成功するということは、あり得ないのです。
■連載コラムNo 46

バーチャルが生み出す、在庫や接客の効率化と利便性

 先日、AIに関する非常に興味深い講演を聞く機会がありました。
 著名な脳科学者と言えば想像がつく方もいらっしゃるかもしれません。AIの発達によって今後何が起こるのか、そしてその(抗えない)流れの中で、人はどのように価値を創造していくべきなのか、私たちのビジネスにも非常に関係の深い話ですので少しご紹介できればと思います。

 まず大前提として、AIが発達すれば、今までの頭の良さの尺度は全く意味がなくなるということです。例えば、歴史の年号を全て暗記している人がいたら学校のテストで高い点を取れるでしょうし、とても頭がいい人と言ってもいいと思います。でも、今は皆さんスマホを持っていますし、手元で調べれば一瞬で情報を得ることができます。また、ソロバン一級を持っている人がいたらそれはすごい能力だと思いますが、それだけで、是非うちの会社に欲しい!と思われますか?それより、エクセルを使いこなせる人の方が、能力が高いと判断されるのではないでしょうか。

 誤解のないように言いますが、年号を覚えたりソロバンを覚えたりすることに意味がないと言っているのではありません。全てをコンピュータに頼るのはもちろん良くありません。しかし情報量が過去と比較にならない現代において、人間の能力をテクノロジーやAIによって拡張することは今後必要不可欠になってくるということです。

 AIの最も得意とすることは、ビッグデータがあること、そして評価関数の決まっていることです。例えば統計を出したり、過去のデータから照合して適切な答えを導き出したりすることなどは最もAIに適した作業になります。ディープマインド社が開発したアルファゼロは、囲碁や将棋、チェスのAIですが、既に人間の能力を凌駕しています。これも、AIの能力を示す良い例ですが、実はアルファゼロを開発した人々は囲碁にもチェスにも全く興味がありません。興味の有無ではなく、AIを使用することによって容易に世界一になれるのが、今後のAI社会ということです。

 ビッグデータと評価関数が決まっていることといえば、ダイヤモンド鑑定もその種類の業務でしょう。ダイヤモンドスキャンの精度に依存はしますが、適切にスキャンが行われていれば、あとは機械の学習によって完璧に正確なダイヤモンドグレーディングが可能です。また、鑑別作業自体もデータ蓄積によって可能になってくると思います。

 この流れは、つまりAIが人間の既存の業務に取って代わるということは避けられない事実です。このこと自体に抗っても意味はないのです。ただ、人間がこのAI時代に価値を見出すことはもちろん可能です。AIは、前例があって評価関数が決まっていることは得意ですが、逆のこと、つまり前例がないことは不得意です。直感力や想像力を持つ人間だけが新しいことを生み出せるのです。そして、この前例がないことはビジネスにおいて大きなジャンプになる事が多いのです。

 新聞やテレビだけが情報源だった時代と異なり、現在は様々な情報ソースがあり、我々は能動的にどの情報を自分が得るか選択できます。既存のメディアの情報だけを得ている人と、能動的に新しい情報にアクセスしている人には自ずと大きな差が出てきます。以前は一般的な知識を知っている事が重要でしたが、いまは何に意識を向けているかが知識レベルを左右するということです。例えば、スポットミニが何かご存知ですか?ハイパーループは聞いた事がありありますか?スマートスピーカーは使った事がありますか?今後、このような情報の積み重ねと経験はAI時代に大きな差になって個人や企業の明暗を分けるでしょう。

 しかし、この新しい技術を積極的にフォローしていくということは、個人や企業の能力を最大化し、拡張できるというメリットがあります。私が今、今後のために取り組んでいることのひとつに、タブレットを用いたバーチャルジュエリー接客があります。店頭接客ツール利用を想定していて、タブレットの中に大量のリングデザインデータが格納されているものです。サイズ、リング幅、素材に応じて3Dデータをリアルタイムで生成する事が可能です。お客様の希望するリングデザインがどこに展示してあるかケース内を探す必要はないですし、素材違いもすぐにビジュアルで提案する事が出来ます。また、拡張現実(AR)を実装すれば、お客様にご試着いただくことも可能です。店頭に枠見本を大量においておく必要もありません。新しいデザインが発売されたらシステム内に自動的にアップデートされるので、店頭見本を追加発注するかどうかを悩むこともありません。また、1店舗でも100店舗でも、アプリケーションさえダウンロードすればその日から導入スタートする事が可能です。

 店頭在庫がゼロというわけにはいかないでしょうが、Sarine Profileなどのダイヤモンドの精細な3Dスキャンイメージと組み合わせれば、タブレット上で接客を完結させることも可能でしょう。このような新しいテクノロジーの活用は旧体質的な業界では導入が進みづらいかもしれませんが、アルファゼロのように、異業種の参入によって大きく構図が変わる可能性すらあるのです。

 結論として、AIは人間の知識の差を限りなく小さくしますが、技術を活用できる人間、企業にとっては大きな恩恵をもたらすものになるということです。そして、その効率化された中で、どのように技術を取り込み活用するか、そしてどのように新しい価値を生み出していけるのかが、今後のビジネスを飛躍させる鍵になってくるということです。
■連載コラムNo 45

既存の枠を超えて楽しめる素材

ダイヤモンドが事業種に広がる可能性

世界一高いマティーニをご存知ですか?六本木、東京ミッドタウンの45階に位置する、『ザ・リッツカールトン東京』のバーで提供されるマティーニがそれです。価格は何と一杯200万円!しかも、サービス料、消費税別です。ちなみにリッツカールトンのバーのサービス料は15%なので、サービス料だけでも30万円です。

 この規格外のマティーニは『ザ・ダイヤモンドイズフォーエバーマティーニ』と言う名前で、実は1カラットのダイヤモンドがグラスに入っているのです。ある意味反則技のようなマティーニですが、話題作りのための飾りとしてメニューに載っているわけではなく、バーでは常に1カラットのダイヤモンドを常備しています。実はこのダイヤモンドを私が手配しているのですが、このマティーニ、注文されたお客様が今までに何組もいらっしゃいます。

 もちろんそのダイヤモンドはお客様が持ち帰ることができます。そう考えると実はかなり良心的な価格設定だと思いますが、リッツカールトンとしてはサービス料だけでもかなりの金額の利益を上げることができるので、結果お客様にとってもリッツカールトンにとってもメリットの大きいサービスになっています。これは既存の宝飾業者にとっては考えつかないダイヤモンドの利用法ではないでしょうか。世界一高価なマティーニという看板を掲げながら、実質比較的リーズナブルな価格でダイヤモンドを、しかもリッツカールトンというブランドで提供できるのです。

 約2ヶ月前にD e B e e r s は自社のLab-Grown Diamondブランド、LIGHTBOXを発表しましたが、その際に「フォーマルに対してのカジュアル」という表現がありました。特別な日のシャンパーニュに対してのカヴァ、レッドカーペットに対してのストリートファッションという例えと共にそのコンセプトは表現されていました。要は、ジュエリー素材としての上下の二階層構造を示したわけですが、しかし上記のリッツカールトンの例でもわかるように、ダイヤモンドは既存の枠を超えて楽しめる素材です。もちろんリッツカールトンで使用されているのは天然ダイヤモンドですが、今後ラボグロウンダイヤモンドはダイヤモンドという素材の可能性を大きく広げることができます。単に上下の二階層構造ではなく、多様性に富んだ展開が可能なのです。今まで、ダイヤモンドはジュエリー業界だけのものでした。しかし今後は異業種にダイヤモンドが素材として広がっていく可能性があると思っています。以前、188年の歴史を持つフランスの銀食器ブランド、クリストフル社とコラボレーションしたことがあります。天然ダイヤモンド入りの箸をインバウンド向けに一膳18万円で販売したのですが、これも非常に好評でした。また別の分野で、リーズナブルで高品質なLab-Grown Diamondを使用すれば更に表現性の豊かな新しい価値の商品が産まれるかもしれません。

 実は先日、高品質なL a b - G r o w nDiamondのメレを見る機会がありました。たまたま天気の良い日の窓際で、ロットで袋に入れられたそれらのダイヤモンドは、ダイヤモンドに見慣れた私でも新鮮な驚きを感じるほどのものでした。実際、このダイヤモンドで何か製品を作ったらどんなに美しいだろうとワクワクしたくらいです。材料もののダイヤモンドに関していえば、美しいダイヤモンドの方がお客様にとっては絶対的に嬉しいはずです。もちろん天然の美しいメレダイヤモンドをふんだんに使用したダイヤモンドジュエリーには価値があると思います。しかし、天然というだけでキズだらけの「屑」ダイヤモンドを使用している超低単価ジュエリーにどれだけの価値があるのかは甚だ疑問です。

 以前も幾つかのセミナーでご紹介させて頂きましたが、面白い調査結果があります。これは以前にアメリカのある権威ある調査機関によって発表されたものですが、アメリカで1年間の間にインターネット検索されたジュエリーブランドは何だったのか、というものです。つまり、消費者がどんなジュエリーブランドに関心を持っているのかの調査というわけです。結果、1位はカルティエ、2位はティファニーでした。ここまでは想定の範囲内だと思いますが、3位は実はスワロフスキーでした。スワロフスキーは洗練されたジュエリーのブランドですが、使用されている素材はダイヤモンドではありません。私は過去同コラムにおいて、新世代の消費者の目線を意識できるかどうかが今後のダイヤモンドビジネスを左右すると何度も説明してきましたが、まさにそれを象徴する例で、いまの消費者は価格と見た目の美しさのバリューを意識して購買決定をしているのです。クリスタルが消費者の第3位の人気を獲得しているとすれば、L a b - G r o w nDiamondを使用したステータスの高いブランドが誕生したらどうなるでしょうか。

 冒頭の話に戻りますが、マティーニにダイヤモンドを沈めて供するという発想は宝飾業的ではなく異業種の発想です。今後、消費者の多様性に伴い異業種でダイヤモンドを取り入れる例が増える可能性があります。しかしこの流れは、今まで横這い、または衰退産業と言われていた宝飾業界にとっては、明るい兆しではないでしょうか。今までも、そしてこれからも『ダイヤモンド』という単語は世の中では『最高』と同義です。その最高のイメージを使いながら、どれだけ新しい発想を持てるか、そして時代を先回りできるかどうかが重要なのです。
■連載コラムNo 44

「スマホ時代」の意味を理解し、様々な可能性を考え、準備すること

 5月末にDeBeersは自社の合成ダイヤモンドブランド『LIGHTBOX』を発表し、6月初めのラスベガスJCKショーで発表しました。天然ダイヤモンドの供給ルートを持ちビジネスを展開してきたDeBeersが宝飾用合成ダイヤモンドを売り出すとあり、業界の困惑は相当なものがありました。実際、JCKショーでのプレゼンテーションは混乱状態で異様な雰囲気だったようです。

 DeBeersが合成ダイヤモンド事業を行うこと自体に加え、その価格設定も衝撃的なものでした。小売価格が1ctでUSD800、1/2ctで半分のUSD400、1/4ctで更にその半分のUSD200と、その低価格もさることながら全てのサイズレンジで同じカラット単価とすることで、ダイヤモンドのプライスの常識を無視していたことも衝撃的でした。

 何故DeBeersはこのビジネスへの参入を決定したのでしょうか。大きな理由のうちの一つは、合成ダイヤモンドマーケットが急速に拡大していることへの懸念があることは疑いようがありません。実際、昨年1年間でアメリカでのマーケット規模は3倍に拡大していると言われており、今後さらなる拡大が予想されている成長市場です。数々の企業がブランドとして販売しており、ハリウッド俳優の資本参加やハリウッド女優の着用などによって素材としてのイメージは確実に向上し、無視できない規模になっております。
DeBeersはこの市場をコントロールし、その影響力を使って消費者へのイメージ付けをしようと試みています。

 しかしアメリカでは先行プレイヤーが既に市場を構築しつつあり、単純にプライスメリットがあるだけの商品ではなくピュアで倫理的価値の高いダイヤモンドとして一定の支持を得ています。加えて、サイズを重視しながらも品質も良いものが購入できる合成ダイヤモンドはアメリカ市場で特に合理的な選択肢となっています。

 ここで皆さんには一つの疑問が湧き上がっている事と思います。『日本で合成ダイヤモンドは市場に受け入れられるのか』と。その答えは、時間のみが知ることすが、ここで留意すべき点は、合成ダイヤモンドは宝飾業界の商品に見えますがテクノロジー分野の商品であるという事です。この分野の商品は時に我々の予想を大きく超える可能性がありますし、「スマホ世代」の消費者にとっては別の価値観を持って捉えられる可能性が大いにあるという事です。

 iPhoneが初めて登場した時、携帯業界人は日本での普及に大きく懐疑的でした。おサイフケータイ機能もなくワンセグTVもついていないタッチパネルの携帯が日本で普及するはずはない、日本の消費者は日本カスタマイズされた携帯を欲しがるはずだ、と考えたのです。恐らくそう考えたのは携帯メーカー各社の重役の方々だったでしょう。
その結果がどうなったのかは、皆さんがご存知の通りです。Appleがダントツのシェアを誇り、サムソンやファーウェイが猛威を振るう中、かつてトップだった富士通が携帯端末事業売却を決定しました。

 新しいテクノロジーの登場による市場の変革に抵抗することには意味がありません。ダイヤモンドの場合は、新しい商品の登場によってどちらかが淘汰されるという単純なものではありません。例えば合成ダイヤモンドの登場によって天然ダイヤモンドへの憧れを強くする消費者もいるかもしれませんし、エンゲージメントリングを購入する予定のなかった方がエンゲージメントリングを購入するという新たな需要喚起になる可能性もあります。加えて、天然ダイヤモンド専門ブランドという新たな価値も生まれる可能性すらあります。
 先にも述べたように、日本の市場がどうなるか、これは時間のみが教えてくれることです。しかし、わからないという事と、考えないということは別問題です。考えることを放棄して既存のビジネスを続ける事と、色々な可能性を考えた上で今までのビジネスを強化するのが得策だと判断してそれに注力する事は大きな違いがあります。また、違う方向に舵を切るという判断をされる方もいるかもしれません。ダイヤモンド業界は何十年もの間同じビジネスを継続してきたため、これが今後も続いて行くと考えがちですが、そのようなビジネスはこの時代には存在しません。先を予想し、様々な可能性を考え、先回りをして準備している人だけが今後生き残れるのです。

 何れにしてもテクノロジー分野の商品である以上、もし宝飾業界の人間が手がけないのであれば、異業種が参入して日本で販売を開始することは間違いないでしょう。なぜなら、アメリカで既に受け入れられ売れている物販商品だからです。

 DeBeersのLIGHTBOXに端を発したこの騒動が今後のビジネスにどう影響を与えるのか、いずれにしてもこの発表が今後のマーケットを大きく動かすことだけは間違い無いでしょう。既存の合成ダイヤモンド事業者はこのことをポジティブに捉えているようです。DeBeersによって合成ダイヤモンドジュエリーが今まで以上に健全なものとして市場に認知される可能性があるということ、そして取り扱う企業が増えるということです。否定する事は簡単ですが、先を見通してビジネスを構築する事は柔軟な発想と真剣さが無いと不可能だと思います。技術は日進月歩どころか秒進分歩で発展しており、今日の新技術が明日には陳腐化する時代です。そして、我々の今後のターゲットは「スマホ世代」だという事です。この意味を理解することが、今後宝飾業界で生き残る唯一の道だと私は思います。
■連載コラムNo 43

570年前の1447年に、疑似石の取引を制限したアントワープ

 先月(5月)、ベルギー・アントワープの AWDC(アントワープ・ワールド・ダイヤモンドセンター)の主催で、昨年に引き続き第2回目となる日本企業対象のアントワープ・ダイヤモンド・エクスペリエンスツアーが開催されました。
 570年という世界で最も長いダイヤモンド産業の歴史を持つベルギーの魅力、信頼性を、実際に見て体験していただくことで、ベルギーダイヤモンドの優位性を知ってもらうことを目的にしています。メーカー、小売店など様々な業種の方々が今回このツアーにご参加され、歴史や倫理など改めて実感されていたように見受けられました。

 世界に31箇所あるダイヤモンド取引所のうち4つがアントワープに存在し、世界で最初に設立された取引所もあります。また、原石専門の取引所は世界で唯一アント
ワープだけに存在します。世界中にある他の30の取引所は研磨済ダイヤモンド用ですが、この取引所では原石のみが取引されます。実際、このアントワープの限られた一角で世界中のダイヤモンド原石の84%が現在でも取引されています。

 アントワープはダイヤモンドの長い歴史と最先端が共存する場所です。その長い歴史の中で世界中どこにも類を見ない高度な業界構造を作り上げており、世界で最も高い倫理水準を実現しています。

 今から570年前の1447年には既に、疑似石の取引を制限するアントワープ市の法律がありました。いかに昔からダイヤモンド取引の信頼性を街として重視していたのかお分りいただけると思います。現在においても取引の信頼性を守るため、アントワープはダイヤモンド研究の最先端であり、世界最高水準の信頼性をもたらしています。

 AWDCの傘下にはHRD Antwerpというダイヤモンド研究・鑑定鑑別機関があり、世界で最も信頼性の高いダイヤモンド鑑定機関のひとつとして知られています。特に昨今、混入が問題視されている合成ダイヤモンドに関する研究も最先端のものです。

 合成ダイヤモンドは、その生成技術と処理技術の向上によって、少し前の選別技術が有効ではなくなる、つまり見分けられなくなることも少なくありません。例えば、メレサイズの合成ダイヤモンドの大半を占めるHPHT合成ダイヤモンドに関して、HPHT合成ダイヤモンドの特徴である燐光(りんこう ‒物質に光を当てた際に光の補給が停止しても残光が見られる現象)を撮影することで天然ダイヤモンドから選別するという技術がありますが、最近では比較的簡単な後処理によってHPHT合成ダイヤモンドからその燐光を消す技術が明らかになりました。実際に、燐光を示さないHPHT合成ダイヤモンドが既に市場に存在しているようです。一方、元々未処理のCVD合成ダイヤモンドでは燐光を示さないことからHRD Antwerpでは紫外線(とその他複数の技術)によるダイヤモンドタイプ選別を採用しマシンを開発していましたが、その技術は現在でも全ての種類の合成ダイヤモンドの選別に有効なものです。容易に欺けない技術を信頼性の担保として採用していることも、アントワープの信頼性を影で支えている大きな柱のひとつです。

 また、一般的に上記のようなマシンを使用して行われるのは「スクリーニング」と呼ばれる、天然ダイヤモンドと、疑いのあるものを選り分けるという作業です。無色のダイヤモンドであれば98%はこのスクリーニングによって天然ダイヤモンドの確認が取れますが、残り2%、場合によってはそれより多くのダイヤモンドは更に検査が必要になります。通常はHRD Antwerpのような高度な鑑別機関に依頼しないと最終判断できませんが、HRD Antwerpでは天然ダイヤモンドか合成ダイヤモンドか(もしくは疑似石なのか)を1台で最終判断するためのマシンを開発し、5月に発表しました。
“D-Tect”という名称のこの機器は、全てのサイズ、シェイプ、そしてジュエリー製品に使用することができ、そのダイヤモンドが何なのかを最終特定することを可能にしました。

 アントワープは最先端の研究と、その技術をダイヤモンド産業全体に提供することにより信頼性を担保しています。HRD Antwerpでは合成ダイヤモンド( L a b - g r o w nDiamond)専用の鑑定書を発行しており、新たなカテゴリー商品としての価値を提供しています。最も重要なことは取引の情報開示ですが、アントワープでは高度で正確な検査を実現することにより、将来を見据えた高い信頼と取引を実現しているのです。

 ダイヤモンドに従事する人間が初めてアントワープを訪れるとき、そこに息づく歴史、誇り、そして最先端技術を同時に感じることができます。その信頼性という価値は、消費者にとっても同様に価値のあるものではないでしょうか。
■連載コラム No42

米国で認知された合成ダイヤモンド

世界で急速に拡大する時、日本は?

前回はダイヤモンドの信頼性について説明させていただきましたが、今回は別の視点での信頼性についてもう少し書いてみようと思います。

 業界の皆様が現在最も気になっていることの一つに、合成ダイヤモンドがあると思います。本コラムでも過去何度とこのトピックに関して書かせていただきましたが、私は今年が本当の意味で日本においての合成ダイヤモンド元年となると考えています。今までは合成ダイヤモンドに関しては「どう混入を防ぐか、どう天然を守るか」と言う文脈でネガティブに語られていたものがほとんどです。しかし、今後は合成ダイヤモンドをポジティブに、ビジネスとしてどう考えるかの選択に迫られることになるからです。

 その主な根拠は、海外での市場拡大です。特にアメリカ市場では合成ダイヤモンドが新たなカテゴリーの商品として認知、販売されており、市場規模は過去1年間で約3倍、今後更に加速することが予測されています。そもそも、海外では既に『合成(Synthetic)』とは言われておらず、『ラボグロウン(Lab-grown)』と呼ばれ、認知されています。そして、GIA、IGI、HRD Antwerpなどの鑑定機関では『LaboratoryGrown』と記載した正式なダイヤモンド・グレーディングレポートを発行しています。また、ラボグロウンだけを取り扱う専門店、既存の宝飾店の一部のコーナーでの展開、百貨店での販売、ECなど様々なチャネルで展開されており、消費者にとってラボグロウンは新たな選択肢となっていま
す。どのチャネルでも販売は非常に好調で、売上は増加し続けている成長市場です。加えて、ハリウッド女優がオスカー受賞パーティーにラボグロウンのブランドジュエリーを身につけて出席するなど、既にマイナスイメージはなく、むしろ高いステータスを獲得しているのです。

 ダイヤモンドビジネスはアメリカが先進国ですから、このラボグロウンに関しても日本市場に入り出すのは時間の問題です。怖いからと言って目を背けていたらずっと見なくて済むわけではないのです。問題はあくまで「混入」であり、ラボグロウンダイヤモンドそのものは新たなカテゴリーの商品なのです。

 一方で、ラボグロウンの販売が始まったからといって天然ダイヤモンドの価値が下がるわけではありません。地中奥深くで気の遠くなるような時間を経て我々の手元に届く結晶は奇跡の産物ですし、天然ダイヤモンドの持つ個性や希少性は非常に魅力的なものです。一方で、ラボグロウンの持つ強みや性質は新たな価値として消費者に選択肢を与えるものになるでしょう。

 合成ダイヤモンドに関して日本ではネガティブなイメージで語られがちですが、ラボグロウンがジュエリーとして受け入れられるかどうかを決めるのは我々ではなく、消費者です。我々に本当に求められることは、カテゴリーの棲み分けと適切な説明です。

 今後もし、ラボグロウンダイヤモンドがジュエリーとして日本で販売開始された際、必要になることは、販売側のダイヤモンドへのより高い専門性です。ラボグロウンダイヤモンドを扱う場合はもちろん、扱わないのであっても必ずダイヤモンド全般についてのより深い知識が必要になるはずです。ダイヤモンドは永遠です、と言う説明で売れていた時代は過去のものです。天然ダイヤモンドの天然としての特性、価値は何なのかを改めて問うと同時に、ラボグロウンと天然の違いをお客様にしっかりと説明する必要が生じるでしょう。

 ラボグロウンについては、どのように成長させているかご存知ですか?どのような国、場所でどのようなタイプのラボグロウンがつくられていて、どのような形をしているかはご存知ですか?どのように流通しているか、種類によってどのような特性があるかはご存知でしょうか。最新の技術に関してはご存知でしょうか。そもそも、現物をご覧になったことはありますか?

 ラボグロウンはIT同様、テクノロジー分野の商品です。技術は日々進歩し、より高度なものへと進化していきます。技術の発達に伴い生産量も増加を続けており、今後3年間で5倍に増加すると推定されています。これは今後市場が益々拡大することを意味しており、抵抗してもせき止めることは不可能です。

 しかしこのような状況の一方で、この新たなカテゴリーの登場はダイヤモンド業界を専門性という原点に回帰させ、ダイヤモンドの価値の再認識をさせる新たなチャンスにもなるのではないでしょうか。
■連載コラム No41

グレードを画像で見せる品質担保で、消費者心理を大きく捉える

前回はAIによるダイヤモンドグレーディングの概要についてご説明させていただきました。単純に先進的で目新しいイメージに感じると思いますが、テクノロジーの進化はそれだけではなく基本的には信頼性と密接に関係します。高級商材であればあるほど、品質の担保は消費者心理を大きく左右します。AIによるグレーディングが客観性と再現性の点で信頼性が高いという点は以前説明しましたが、店頭でのプレゼンテーションに信頼性をプラスできるのも大きな特徴です。例えばデジタルレポート上では自動的にプロットされたクラリティの図面が実際のダイヤモンドの画像にオーバーラップされて表示されます。販売員は(現物のダイヤモンドを見ることに慣れていなくても)それをお客様に示しながら、鑑定士でないと見つけられないような微細な内包物を示しながら、そのグレードの根拠を説明することが可能です。今までただの『記号』だったグレードが『個性的な特徴』となり、お客様からの信頼を得るツールとなります。

つい最近発表されたリクルートの調査では、婚約指輪購入の際に重視する点として「石の品質」が昨対ベースで増加、消費者傾向として素材が重視されていることが示されました。加えて、素材の価値(信頼性)をしっかり打ち出し、独自性のあるショップ、ブランドが好調に販売を伸ばしているようです。

信頼性の別の価値軸として、トレーサビリティーがあります。主に紛争ダイヤモンドや児童労働の排除の意味合いがありますが、日本国内においては二次流通商品などが度々メディアで取り上げられていることもあり、婚約記念品として相応しいソースのダイヤモンドかどうかということが度々話題になります。また今後は天然ダイヤモンドとして販売されているものが合成ダイヤモンドではないのかという懸念も生じて来るでしょう。

しかし、ダイヤモンドが心理的価値商品である以上、トレーサビリティーが担保されていれば何でも良いというわけではないことも想像に難くないと思います。例えば、仮に見た目と味が同じであっても聞いたことのない地名のお菓子より京都の老舗のお菓子の方が美味しいとほとんどの人は信じるはずですし、多少値段が高くてもそちらを選ぶ理由があります。ダイヤモンドも同様、つまるところイメージが非常に重要ですから「どこから届いたのか」ということはブランドイメージを大きく左右します。

ベルギー・アントワープは世界中のダイヤモンド原石の8割以上が集まる世界のダイヤモンドキャピタルで、ダイヤモンド取引において570年という世界最古の歴史を誇ります。アントワープでは世界中にその価値を発信すべくD n A(Diamonds& Antwerp)というプログラムをスタートしました。これはベルギーダイヤモンドの品質を啓蒙し、その証明をつけて消費者信頼とブランド価値をアップさせるというプログラムです。ベルギーは一時期のショコラティエブームなども手伝い、歴史がありオシャレなヨーロッパの国というイメージが広まっています。確かに、ベルギーダイヤモンドは安くはないです。しかし、信頼性が担保されており、歴史のあるヨーロッパの国から届いたダイヤモンドというイメージは、人生の節目に購入するダイヤモンドとして非常に親和性が高く、プログラムを採用し積極的にこのイメージを打ち出している店舗では、以前に比べて高単価のダイヤモンドの販売を大きく伸ばしています。

イメージ戦略に凝っているブランドは多々あります。また、トレーサビリティーをアピールする販売も珍しくはありません。しかし、その二つが密接に関係していなくては心理的価値商品であるダイヤモンドの販売を後押しすることは難しいでしょう。京都の老舗の和菓子のように、信頼性とブランドイメージがリンクする戦略が重要になってきます。片方だけではダメなのです。

最新のAIグレード、570年の歴史とヨーロッパのイメージ、一見正反対に見えますが、消費者信頼という視点ではどちらも非常に強力な武器になります。

5月(22-24)にはベルギーAWDC(アントワープ・ワールド・ダイヤモンドセンター)の主催でアントワープダイヤモンド産業の視察ツアーが予定されています。世界のダイヤモンド中心地をその目で見て経験するということは、消費者信頼に大きく影響するものになると確信しています。
■連載コラム No40

Amazon Goから読み解く、今後のリアル店舗のスタンダード

Amazon初のリアル小売店『Amazon Go』1号店が1月22日、アメリカのシアトルでオープンして話題となっています。これはレジのないコンビニで、消費者は商品を手にとって自分のバッグに入れるだけで店の外に出ることができます。商品代金は利用者のアカウントに自動的に課金される仕組みとなっています。これにより、レジの列に並ぶ必要がない超高回転率と、人件費の削減という二つの効果を実現しています。しかしAmazon GoはEC最大手がリアル店舗に進出したという単純な話しではありません。

Amazonは元々、書籍のEC店舗としてスタートしましたが、今ではほぼ全てのジャンルを網羅するEC、加えて電子ブック配信、動画オンデマンド配信、音楽配信、AWSと呼ばれるWebサーバーサービス、AI開発と事業は多岐にわたっています。Amazonの動向による経済や政治の影響は米国では「Amazon効果」と呼ばれているほどです。AmazonはすでにEC企業ではなく、ビッグデータとAIを軸にしたテクノロジー企業です。

Amazon GoでAmazonは、ECで培ったノウハウを注入し、同時にこのAmazon Goで得たデータを新たな分野で活用しようとしています。AmazonはこれまでもビッグデータとAIを組み合わせて顧客の経験価値を高めてきました。ここ近年のテクノロジーの発達に伴い、消費者がサービスに期待する経験価値はかつてないほど高まっています。例えば、高性能なスマホでネットショッピングをすることに慣れていると、店頭で商品を探すのが面倒だったり、商品レビューが見られなくて不満に感じたりしたことがないでしょうか。Amazon Goではそのようなテクノロジーに日常的に慣れている消費者に対してリアル店舗で高いエクスペリエンスを提供することで優位に立とうとしています。

また、今までのリアル店舗の課題の一つが顧客分析です。Amazonはこの分野では非常に高い優位性を持っています。ネットショップの場合、どのユーザーがどの商品を何秒閲覧して、最終的にどの商品を購入したのか動向の情報全てが収集でき、その情報を蓄積して分析することにより今後のユーザーの動向が高い精度で予測できます。Amazonではこれを0.1人セグメントと呼んでおり、一人の人間のその瞬間ごとのニーズまでも絞り込むことを目標としています。Amazon Goでは、どのユーザーがどれくらい滞在したか、どのコーナーを見たか、どの商品を手にとってまた棚に戻したか、最終的にどの商品を購入したのか、全てのデータを収集して分析を行います。これによって実際に売れた商品以外の商品動向の分析も可能になり、高い精度でお客様へのリコメンドを行うことができます。

Amazon Goから読み解く今後のリアル店舗のスタンダードは次の2点に集約することができます。一つは「高い経験価値を提供できること」そしてもう一つは「深い顧客分析ができること」です。

前述の通り、高性能なスマホに慣れ親しんだ現代の消費者は「使いやすく」「楽しく」「わかりやすい」体験を求めており、リアル店舗においても同じ価値を要求しています。それに呼応するように様々な業態ではリアル店舗でのデジタルエクスペリエンスを導入し、店頭での上質で楽しい経験価値を提供しています。一方で、心理的価値に重点をおいてきたはずのダイヤモンド業界では、この分野で大きく遅れていると言わざるを得ません。取扱ブランドのネームバリューに頼りきっていている店や、価格を少しでも下げることだけがお客様への貢献と信じている人が今でも非常に多いのが現状です。

また、購入サイクルの長いジュエリー業界では顧客分析も他業種に比べ決して高い水準にあるとは言えません。例えば、あなたがスーパーバイザーであれば売上のデータはチェックしていると思います。しかし、例えばEカラーを購入したお客様がDカラーと迷ったのかFカラーと迷ったのかは把握しているでしょうか。VS1を購入したお客様がVVS2と迷ったのかVS2と迷ったのかは把握していますか。このデータの蓄積と分析は本来であれば仕入れ計画に非常に大きな意味を持つはずです。

上記の課題を解決するのは、テクノロジーしかありません。テクノロジーはかつてない経験価値を生み出し、ダイヤモンド販売の現状を一変させるパワーを持っています。特にAIは今までの課題を飛躍的に大きく解決するものになります。望むかどうかに関係なく、この流れは世界的に大きな流れとなって押し寄せてきます。ダイヤモンド生産現場、グレーディング、そして小売の分野で既に広く活用され始めているからです。

先月、世界で初となる人工知能(AI)によるダイヤモンド鑑定がイスラエルでスタートしました。前回も簡単に触れましたが、これは単に業務の効率化などの意味、人間が機械に置き換わるというものを遥かに超えた意味を持っています。現在、世界中のダイヤモンド産業の現場でAIテクノロジーが活用されてきており、これは今後起こる革命の序章にすぎません。AIは正確性、再現性だけではなく、透明性と高い経験価値、高度な情報分析を実現するでしょう。今までの例えば鑑定機関技術と大きく根本的に異なるのは、今までは閉じた技術だった鑑定機関での現場の技術が、そのまま店頭でのプレゼンテーションへと転化可能になるという点です。しかも魅力的な経験としてです。

人工知能によるダイヤモンドグレーディングと、小売店での活用に関してはまた次号掘り下げて説明させていただきます。
■連載コラム No39

新たな購買体験として、AIによるダイヤモンド鑑定がスタート

先月、「第29回国際宝飾展」が東京ビッグサイトで開催され、私も出展者の一人として4日間会場で来場者の方々とお話をさせていただきましたが、ダイヤモンドを差別化し特別な価値を与える『何か』を探している人が増えているように感じました。昨今のダイヤモンドの価格競争は熾烈を極めており、その競争から脱却する方法を模索している方が多いのではないでしょうか。

 ところで、消費者の目線で見たときに価格が安いということは本当に最重要事項なのでしょうか。もちろん価格は購買決定の大きな要因の一つですが、高級品においては常に最重要事項ではありません。消費者が買い物をする際に最も気になるのは、それが少しでも安いかではなく、商品が対価に見合うかどうかです。特に買い直しがきかない高額品においては、安物買いの銭失いを恐れます。消費者は間違いない買い物をしたいと思っていますが、どの店に行っても「これが、最も美しくて間違いないですよ」とお勧めします。お客様自身が価格との整合性を見極めることは難しいですから、極論を言えば消費者のダイヤモンド購入の大部分は、どのお店のプレゼンテーションが一番信用できるかの判断ということになるでしょう。例えば信頼性の薄い店で30万円を支払うよりも、より信頼できる店で35万を支払う方がお客様にとっては意味があるということです。

 当然店頭のダイヤモンドには4Cグレードが付いていますから、それが価値の担保だと言う方もいると思います。しかし、様々なカテゴリーの商品でデジタル購買体験が提供されている現代において、4Cが同じであれば全て同じ価値ですよという説明は現代の消費者には受け入れ難いものです。4Cは依然として価値の目安であることに変わりはありませんが、最も重要なのはそれをどう消費者に伝えるか、つまりプレゼンテーションです。

 異業種では様々な商品の販売現場でデジタル・プレゼンテーションが導入されています。ワインショップ、アパレル、カーディーラー、コスメティックの売場などでデジタル体験が用意されており、ただの商品のスペックと価格表示だけではなく、デジタルインフォメーションによって商品そのもの、そしてそのバックグラウンドをより深く理解することが可能です。現物の商品とデジタル情報が組み合わさることで購買体験はよりリッチなものになり、現代の消費者はこのような体験を通して商品とお店への信頼性を構築します。特に高額な商品ほど、価格に対して顧客エンゲージメントの重要度は増します。
 ダイヤモンドの購入も全く同じです。実際にデジタルツールを使用したダイヤモンドのプレゼンテーションは日本国内外の店頭において既に広く活用されており、導入店舗では販売されている方自身がその効果を劇的に実感しています。そして、今年中には人の目に頼らないAIによるダイヤモンド鑑定もスタートします。AIは4Cグレードへの消費者の信頼感を更に強化します。

 ところで、シリコンバレーではピザが無人の自動運転(AI)で配達されていることをご存知でしたか?「自動運転で配達されるなんて危険だ!」と思われるかもしれませんが、シリコンバレーの人々は人間のドライバーの方がよほど危険だと真顔で言います。人は様々な要因で容易に集中力を切らしますが、AIは運転中にスマホを見たり、体調を崩したり、今夜の食事に悩んだりしません。全てのAI は常に集中力を切らさず運転することが可能です。Iの活用は今後、どの業界でも信頼性と同義になって行くでしょう。

 AIによるダイヤモンドグレードは、単なる4Cの表示ではなく、新たな購買体験としての消費者へのプレゼンテーションになります。今までは無機質に紙に書かれた4Cを説明していましたが、今後は全ての販売員が、ディスプレイに表示された実際のダイヤモンドを見ながら、そのグレードの根拠を特別なツールで説明することができます。消費者はディスプレイに触れ、そのダイヤモンドのグレードを体験として実感することにより、安心して購入することが可能になります。今まで記号だった4Cは、テクノロジーにより感動的な購買体験へと変わります。そして、我々販売する側をもダイヤモンドの専門性へと原
点回帰させるものにもなるでしょう。

 今年は日本の宝飾業界が新しいステージへと移行する年になります。新しい情報を提供させていただくことで、皆様のお手伝いができれば幸いです。
■連載コラム No38

What’s a computer? 新しいステージへの移行

新年あけましておめでとうございます。
 2018年が皆様にとって希望に満ちたものでありますように、心から祈念しております。

 昨年は特にAIというワードが世の中の大きな注目を集めましたが、2018年はAI競争が更に加速します。人工知能を始めとした技術発展のスピードはかつてなく高速化しており、ダイヤモンド業界においてもそれは決して例外ではありません。

 昨年末から流れているA p p l e 、iPad Proの新CMをご覧になった方も多いと思います。簡単に内容を説明すると、ある少年がiPadをフル活用して友達とコミュニケーションを取ったり、街で見かけた虫たちの記録を作ったりしています。デスクの前ではなく、バスの中や、カフェ、庭に寝そべりながらです。それを見た隣の家の女性がコンピュータで何をしているのか尋ねますが、少年は「What’s a computer?(コンピュータって何?)」と答える、というものです。

 このCMを見たとき、ある意味衝撃的で、そしてある意味スッキリとした感覚を得ました。これは今後の若者にとって、デジタルツールというものは全く特別なものではなく、そこにあって当たり前のもので、日常生活のどの部分にも溶け込んでいくものであるということを端的に表現しています。デジタルと現実の境界はより希薄になっていき、その双方で説得力のある価値の提供が今後更に求められるでしょう。

 スッキリしたという表現を使用したのは、今後のビジネスの方向性に確信的な答えを得たと思えたからです。現在、Appleを始めとした世界中のテクノロジー企業は日常の様々な分野でのデジタルの活用を目指しています。人々は今後、より『コンピュータ』の存在を意識することなく、かつてなく『コンピュータ』の恩恵にあずかる生活へと突入します。そのライフスタイルには賛否があるでしょうが、デジタルの存在は全ての業界にとってより自然なものへとなっていきます。ダイヤモンド業界もAIとデジタルツールの導入は必要不可欠なものになりますが、これは今後の消費者の動向を見ると非常に明白です。

 A(I Artificial Intelligence - 人工知能)というと非常に大げさに聞こえますが、シンプルにいうと人間の判断を機械が代わりにするというものです。暗くなると自動的に点灯するライトも、初歩的なAIのひとつです。人間との違いは、人間は暗いと判断する基準が気分によって変わりますが、機械は常に一定の暗さで点灯を決定します。

 この機械による判断が高度に発達すると、膨大な判断を脳内で行っている人間に近いことが可能になります。(人間の行動は連続する大量の判断の結果で、フローチャートで説明することが可能です。)人間との大きな違いは自動ライト同様、常に一定の判断基準を持つ事です。

 今後ダイヤモンドの流通と販売のプロセスにおいてAIは大きなサポートを提供することになります。AIによる4Cの自動グレーディングを含む新たなダイヤモンドの評価はすぐ目前に迫っており、誤差の極めて少ない一定のグレード、すなわち信頼性を提供することが可能になります。現代の消費者にとっては、AIによる判断基準はかつてない信頼性の担保になるでしょう。また、技術が進めばお客様に最適なデザインの提案をAIがサポートすることも可能になるでしょうし、また感覚的だった在庫計画もAIが計算によって計画することができるでしょう。

 誤解されがちですが、AIやデジタルの発展はビジネスをWebに移すことを意味しません。店頭で、実際の商品、生身の販売員とデジタルの融合による新しい購買体験を提供することによって、デジタルネイティブ世代の消費者は必ずそこに価値を見出すようになります。AIダイヤモンドグレーディングは間もなく利用可能になりますが、そのご案内は改めてここでさせて頂きたいと思います。

 今後のデジタルは、特別なものではなく、自然にそこにあるものになります。『What’s a computer?』

 2018年はデジタルの活用によってダイヤモンド業界が新しいステージに移行できる年になると確信しています。皆様と一緒に、新しいダイヤモンド産業を築く年とできれば幸いです。
■連載コラム No37

未来はこっち、早く慣れた方が、絶対いい

 11月にAppleから新型のiPhone X(テン)が発売されましたが、核となる機能にイスラエルテクノロジーが使用されているのをご存知ですか?iPhone XはiPhoneの発売から10年目という記念すべきモデルで、過去10年間にAppleが築き上げたスマートフォンを再構築するものです。全面ディスプレイ実現のためにiPhoneの特徴とも言えるホームボタンと指紋認証を廃止し、その代わりにFace IDと呼ばれる新しい認証技術を採用しました。3万以上もの目に見えない赤外線ドットを顔に投射し、3Dで使用者の顔を正確に認識する技術で、それによってロック解除や支払いの認証が可能です。

 これはイスラエルに本社を置くPrimeSense社の3D空間認識センサー技術で、2013年にAppleが同社を3億6千万ドル(約400億円)で買収しています。その後4年もの沈黙を経て、このイスラエルテクノロジーでAppleはスマートフォンの新しい未来を作ろうとしています。

 ただ実際は、慣れ親しんだホームボタンとの決別、それに伴う操作体系の変化、指紋認証がなくなることへの不安など、過去と大きく変わるプロダクトに関しては大きな賛否がありますし、切り替えに二の足を踏む人も多いと思います。スマホはほとんどの方にとって生活必需品であり、毎日触れるものですので、今後の生活の快適性を左右する問題です。事実、私も情報を色々調べてメリットとデメリットを比較したり、発売日に入手したマニアのレビューを見たりしました。しかし、見聞きしただけでは本質はわかりません。最終的には「実際に自分で使ってみないと絶対にわからない」ということと「未来はこっちだから、早く慣れておいた方が絶対にいい」と考え、購入に至りました。

 これは、新しいテクノロジーの理想的な導入プロセスだと思います。未知の技術に触れたとき、ある人は理解を超えているので拒否し、ある人は納得いくまで調べて100%クリアになってから導入しようとします。しかし、全く新しいものですから、使わずして納得行く答えを得ることは不可能です。ある程度情報を入れて、良いと思ったらあとは実際に試す、これが理想的です。

 私がこのコラムを書き始めたのはちょうど3年前でした。その頃はまだスマホを持っていなかった方も、この3年の間に購入されていると思います。今では、スマホを使ってインターネット検索はもちろん、メール、チャット、SNS、乗換検索、新聞閲覧、音楽プレイヤーや、中には名刺管理やタクシー配車、英語学習やデジタルチケットのサービスを利用されている方もいるのではないでしょうか。

 では購入当時、スマホ購入の決定前にそこまでの利用を想定していましたか?購入した後の利便性を隅から隅まで調べて、どのアプリをインストールして使うか事前に全て決めて、利用方法まで完全に納得してからスマホを購入された方はおそらくいないでしょう。ほぼ全ての方が、少し調べて『便利そうだから』という動機で購入し、その後に実際に試行錯誤し触っていく中で新しいアプリを発見したり、便利な利用方法に出会ってきたはずです。

 スマホに限らず、新しいテクノロジーどれも同じで、今までの生活やビジネスには全く存在していなかった未知のものですから、実際に自身で試して初めて理解することが可能なものだと私は思います。そして、実際の経験や試行錯誤による熟練度が、後々に大きな差になります。スマホもそうですが、5年以上使用している人と1年しか使用していない人では活用方法の幅が全く違うということは皆さんも実感されていると思います。

 ダイヤモンド業界においても、テクノロジーの開発は加速度的に進んでいきます。今年早い段階から新しいテクノロジーを導入している企業では実際に、通常の活用だけではなく、既に次のステップのアイデアを考えるステージに来ています。新しいアイデアは実際に使って初めてわかるものです。迷っている時間があったら実際に試してみたほうがよっぽど早いのです。テクノロジーは常に進化し変化し続けるものです。重要なのはパーフェクトな導入などではなく、いかに早く触れ、理解し、対応するか。テクノロジーと時代の流れに乗ることが最も大切なのです。「迷わず行けよ。行けばわかるさ。」iPhone Xを購入しての感想ですか?もちろん最高です。
■連載コラボ No36

接客ノウハウを進化させた先に見えてくるデジタルツールの活用法

先月25日より三日間、パシフィコ横浜にて秋のI J T が開催されましたが、Sarine Technologiesは初めて秋のIJTに出展し、最新のダイヤモンド販売促進デジタルツールをご紹介しました。

 今回S a r i n e 社が紹介したのは、“Sarine Profile”(サリネ・プロファイル)というSarine社の様々なテクノロジーを使用したダイヤモンドの情報を集約する統合テクノロジーです。以前も何度かご説明していますが、このSarineProfileとは、ダイヤモンドの輝きを科学的に分析し評価したデータや、特殊な機器でスキャンされた360°全方位のダイヤモンドの観察と拡大可能な詳細なデータ、H&C、プロポーションデータなどを含むオンライン鑑定書のようなもので、デザインや内容などもそれぞれのブランドに合わせたフルカスタマイズが可能となっています。

 今回、宝飾業界の方々のデジタルツールに対してのリアクションが、以前とは大きく異なっていたのが非常に印象的でした。これは、個別の情報が一つのプラットフォームに統合されることによって、より導入に現実味を感じるようになったこともあると思いますが、基本的には数年前に比べて世の中全体がデジタルツールの活用に対して積極的になってきていることにあると思います。

 数年前であれば、ダイヤモンドはデジタルとは相入れない感覚的な商品だと思っていた人も多かったでしょう。また、現実離れしていてどこか遠い未来の話のように感じていた人も多くいたように思います。しかし、今回は多くの方がご自身のビジネスに照らし合わせて可能性を探っていたように見受けられました。

 これは恐らく私の感覚的な感想ではなく、今後この流れが大きく加速していくことを示しているのだと思います。最終的には、ダイヤモンドの販売にデジタルツールがいかに効果的かということを、時間の差はあっても『ほぼ全ての人』が理解するようになるということです。ダイヤモンドは消費者から見て極めて価値判断の難しい商品です。一般的な商品、例えばインテリアや服飾、時計などであればお客様がその商品を見て、いくらぐらいなのか、少なくとも高そうか安そうかという感覚的な予想ができますが、ダイヤモンドは違います。

 お客様にとって感覚的な価値判断の難しい商品販売において、4Cの情報だけではなくしっかり実物の価値をご納得いただくのは、非常に難しいと同時にダイヤモンドの販売では非常に重要です。したがって、この部分で接客の差別化が実現すれば、よりダイヤモンドの販売は強化されるはずです。当然、紙の鑑定書の説明だけで、実物の詳細な説明をしない(できない)店舗ではお客様はダイヤモンドを購入しづらくなり、デジタルツールによる個々のダイヤモンドの詳細な説明が可能な店で納得してダイヤモンドを購入するようになるでしょう。

 また、Sarine Profileはオンラインデータなので、下見のお客様にご自宅でご覧いただけるリンクURLをメール等でお送りすることができます。通常、下見のお客様には名刺の裏に4Cやプライスを書いて渡されるお店が多いと思いますが、名刺の裏のメモと、自分のスマホやタブレットで自由に閲覧できるデジタルデータと、どちらが後で検討しやすいか、言うまでもないと思います。

 ここで重要なことは、デジタルツールは販売スタッフの代わりにダイヤモンドをお客様に説明してくれる魔法のツールではないと言うことです。ダイヤモンドの質はもちろん、販売スタッフのスキルがこのデジタルツール接客にマッチすることによって、最大限の効果を発揮します。その方法は恐らく、商品、ブランド、元々の接客スタイルによって大きく変わるでしょう。デジタルツールを使用すると言うことは、進化するツールと、そのツールの効果を引き出す接客ノウハウを常に進化させ積み重ねていくと言うことでもあり、この部分の差は非常に大きなものになります。 今、日本国内でも数々のジュエリー企業がデジタルツールを採用し始めています。このシステムが一般的になる日も、もうすぐかもしれません。
■連載コラム No 35

不可能と言われた新しい購買体験と商品に対する納得感の提供

 ファストファッション『GU』の最大面積店舗が先月15日に横浜港北にオープンしました。その最新店舗はテクノロジーを駆使したファッションデジタルストアになっています。

 まず目を引くのは店舗に設置された大きなミラーで、商品をかざすとその商品を着用したモデルや一般人のコーディネート、購入者レビューなどがデジタル表示されるようになっています。また、カートにはタブレットのようなモニタが取り付けられており、商品をセンサーにかざすとサイズ、カラーバリエーション等その商品の詳細情報、コーディネートやレビューなどが表示されるようになっています。お客様は商品を手に取り、パッと見ただけではわからない商品の特徴や購入した後のコーディネートを具体的にイメージしながら買い物を楽しむことができます。

 GUといえばユニクロの弟ブランドで、徹底したコスト管理で信じられないくらいの低価格を実現しているアパレルブランドです。例えば、生産コストの管理はもちろん、店頭ではユニクロと比べても細いハンガーを使用することで面積あたりの品数を増やすなど非常に細かいところまで徹底されています。そのGUが、恐らくかなり大きな開発費や設備投資、そして手間をかけて商品そのもの以外のところにコストを割いたのか、それは現代の顧客に対応するために他なりません。

 つまり、実店舗とデジタルコンテンツの融合による新しい購買体験の提供と、商品に対する納得感の提供です。アパレル業界ではネット通販が非常に大きな伸びを見せており、市場規模はこの4年間で2倍の630億円となっています。(ちなみに、アパレル業界もジュエリー同様、つい数年前まではネット販売は成功不可能と言われていたことを付け加えておきます。

 現代の顧客はネットでの情報収集、デジタルコンテンツとして商品を検討することに慣れています。ネット通販であれば色違い、サイズもすぐに検索できますし、ZOZO TOWNなどのサイトでは詳細な写真から様々なコーディネート例まで見られます。また実際に購入した人のレビューも見ることができます。一方で実店舗では商品に触れて質感を確認したりサイズ感を確かめたりすることができるというメリットがあります。その利点を融合させ、デジタルに慣れた現代の顧客に実店舗ならではの新しい購買体験を提供することが狙いです。

 現代のお客様は日常的にデジタルテクノロジーによるプレゼンテーションに触れています。この世代のお客様が今後メインターゲットになっていく全ての業界は、何らかの形でデジタル対応していく必要があると思いますが、これはジュエリー業界でも例外ではありません。例えばジュエリー業界でも今ではほぼ全てのブランド、ショップが独自のWebサイトを持っていると思いますが、10年前には持っていないブランドやショップも少なくなかったのではなかったでしょうか。当時は、「ホームページはあった方が良い」などと言われていましたが、今では選択の余地なく必要不可欠なものであることに異論のある方はいないでしょう。

 Webサイトは集客に非常に有効な媒体ですが、Webサイトを開設したからといってその瞬間に集客が増えるものではありません。そのツールを使ってどう見込み客にリーチするのか、その試行錯誤を積み重ねていった人だけが現在集客に成功しているのです。他社が成功したのを見たら自分もWebサイトを作ればいいと思って後から開設しても、自動的に集客できるわけではないのです。10年前にWebサイトを持っていた人と、今年開設した人の差は非常に大きく、簡単には埋められるものではありません。

 デジタルテクノロジーツールも同様です。更に10年後に何が起こっているかを正確に予測することは不可能ですが、現在の延長線上にあるテクノロジーツールは必ず必要不可欠なものになります。その時、勝敗を分けるのは、試行錯誤とノウハウの蓄積です。つまり、いかに早くそこに手を出すかが今後の10年を占う一つのポイントになっていくことでしょう。

 今月25日から横浜で開催されるIJTにはSarineのテクノロジーツールを出展します。今後のテクノロジー時代の片鱗を実際にそこで体験していただき、今後の参考にしていただければ幸いです。
■連載コラム No 34

海外ではすでに小売店が導入する ダイヤモンドイメージングによる夢を売る商売

 前回、技術によって個々のダイヤモンドの価値をしっかり示すことが可能というお話をさせていただきました。今回はそれが具体的にどうゆうことなのか、ダイヤモンドの販売においてどれだけ革新的な事か、ご説明させていただきます。

 皆さんもスーパーでトマトを買うことがあると思います。スーパーで積んで売られている、同じ大きさ、同じ価格のトマトを購入する際に、皆さんは何も考えず手前のトマトをカゴに入れますか?きっとほとんどの方は、値段が同じでも注意深く比較し、少しでも美味しそうなものを選んでカゴに入れるでしょう。

 または、雑貨屋で木製のお皿を購入するところを想像してみてください。同じ形状に加工されている同じ価格のお皿ですが、恐らくほとんどの方は一つ一つ比較して、木目の入り方や色味を見ながら自分の好みに合うものを選ぼうとするでしょう。

 一方で、ダイヤモンドを店頭でお客様に販売するシーンを想像してみてください。お客様の目の前には0.50ct D VS1 3EXのダイヤモンドが置かれており、お客様はそのダイヤモンドに興味を持たれています。そのダイヤモンドのグレードをお客様に説明する際、ほとんどの店頭ではこう接客するでしょう。4Cの説明ボードをお客様にお見せし、それぞれのグレードがどこに位置するか説明します。そして、クラリティの内包物イメージ図がボードに描かれていれば、『VS1クラスですとこの程度の内包物があるダイヤモンドになります。肉眼ではほとんど目立たないので気になりませんよ』というような説明をすると思います。この接客の流れを読まれて違和感を感じる方はほとんどいらっしゃらないでしょう。

 しかし、皆様もご存知の通り100ピースのVS1のダイヤモンドが並んでいれば、全く同じ内包物を持つダイヤモンドは二つとありません。加えて、ダイヤモンドの内包物は『欠点』ではなく、個々のダイヤモンドが持つ『特徴』であり『個性』です。地球の奥深くで数十億年かけて成長したダイヤモンドが生み出した天然の証でもあります。また、お客様は何十万というお金を支払ってダイヤモンドという自然の奇跡の結晶を購入されようとしていますが、その目の前のダイヤモンドがどんな『個性』を持っているのかを、店頭で説明を受け、また接客の中で見せてもらうことはほとんどないのが現状です。

 前述のトマトや木皿ですら、ほとんどの人が真剣に個々の特徴を見極めて購入するのに、その千倍も二千倍も、場合によってはそれよりも高価なものを購入する際に見比べたり特徴を確認したりすることはできません。同じVS1でも見え方にはそれぞれ違いがあります。それなのに、ほとんどのお店では『VS1です』の一言で説明が終了しているのです。

 念のために申し上げますが、現状のダイヤモンド販売方法を批判しているわけでは全くありません。10倍のルーペを使用してお客様に見ていただくことは難しいですし、顕微鏡を設置していたとしても、販売員もお客様も慣れていないと意外と扱いが難しいものです。つまり、そのような個々の特徴をしっかりお客様に説明する接客は今までは不可能だったのです。

 しかし、昨日まで不可能だったことが突然、技術によって可能になることは珍しいことではありません。このダイヤモンドの説明も例外ではありません。今の技術では、ダイヤモンド一点一点を、最先端テクノロジーを使用した専用スキャナーでスキャンし、店頭でPCやタブレットなどを使用してお客様にしっかりとお見せすることが可能です。これはダイヤモンドイメージングと呼ばれる技術で、ダイヤモンドの表面の形状と内部の特徴がしっかり見えるよう高度にコントロールされた光源と高精細カメラを組み合わせることによって実現しています。ラウンドブリリアントの場合、1つのダイヤモンドに対して全角度から960枚もの画像を撮影し、それをコンピュータ処理によってシームレスな画像へと変換させます。それによってダイヤモンドがPCやタブレットのスクリーン上であたかも空中に浮かび上がっているように表示され、自由に触ってどの角度からでも観察することが可能です。もちろん、内包物など個々の特徴もしっかりと見ることができます。

 この技術を使用したダイヤモンドの接客を想像してみて下さい。お客様の目の前には先のケースと同様、0.50ct D VS1 3EXのダイヤモンドが置かれており、お客様はそのダイヤモンドに興味を持たれています。
製品タグにはQRコードがプリントされており、販売スタッフはタブレットを取り出してそのQRコードをスキャンします。すると瞬時に、その現物のダイヤモンドの3Dモデルがスクリーン上に表示されます。スクリーンをなぞると、ダイヤモンドはくるくると回転し、好きな位置を拡大して観察できます。販売スタッフは説明を続けます。「これは、この実際のダイヤモンドをスキャンしたものです。このダイヤモンドはVS1というグレードなので、ご覧の通りテーブルの端に内包物と呼ばれるこのような特徴があります。これは、数十億年という気の遠くなるような時間をかけて造られた天然のダイヤモンドが持つ個性で、同じものは二つと無いアイデンティティなんです。肉眼では見えませんが、自然が創り出した個性なので神秘的ですよね?」とお客様に内包物を示し、続けて「一口にVS1と言っても、100個あれば100個全部違います。大変高価なダイヤモンドですから、それぞれの特徴を必ずご確認いただいて、お買い求め下さい。」と説明します。

 未来のダイヤモンド販売のように見えるかもしれませんが、これは既に始まっていることです。海外では既に多くの小売店が導入しており、日本でもこの販売方法は店頭で導入され、お客様への信頼感と納得感を生み出すという成果を上げています。

 ダイヤモンドは夢を売る商品だから、テクノロジーで全てわかるようにする必要はない、という意見もあるかもしれません。確かに、夢や神秘とテクノロジーは相容れないイメージがあると思います。しかし、数十億年かけて造られた自然の痕跡をお客様にお見せすることこそ、神秘ではないでしょうか。また、数ミリというサイズのダイヤモンドが、いかに人間の技で精巧に美しくカットされているか、その一つ一つの面の美しさをお見せするのは夢を見せることと言えませんか?逆に、4Cの記号と価格だけでダイヤモンドを販売することは夢を売る商売と言えるでしょうか?

 この新しい、ダイヤモンドの接客に革新をもたらすテクノロジーは確実に、そして皆様の想像より早いスピードで既に浸透し始めています。テクノロジーの進歩スピードはときに想像をはるかに超えます。テクノロジーによって今後、特にブライダル市場でダイヤモンドの接客は大きく、そして確実に変化が起こると確信しています。
■連載コラム No 33
許していません。

 そのイスラエルで今年6月、IDE(イスラエルダイヤモンド取引所)が“ダイヤモンド・テック”の開設を発表しました。これはダイヤモンド関連技術の革新センターで、スタートアップへの拠点提供と資金援助を行うというものです。このダイヤモンド・テックはSarine -Technologies社と、国際的原石ブローカーのHenning(ヘニング)グループと連携しており、今後ダイヤモンド関連ハイテク技術をさらに発展させることを目的としています。

 具体的には、鑑定鑑別技術はもちろん、企業間取引のプラットフォームや、消費者に対してのセールスツール、マーケティング関連技術など、ダイヤモンドに関連するあらゆる技術開発が対象となっており、今後ダイヤモンド業界で劇的な変化が起こることが予想されます。

 ダイヤモンドを含む身飾品は最も古典的なビジネスの一つですが、そのダイヤモンドであっても、技術的な進歩の必要性に迫られているのです。ダイヤモンドの取引や販売の方法は今後もずっと変わらないと思われている方がほとんどだと思いますが、間違いなく今後数年で劇的に変化します。ダイヤモンドビジネスもIT業界の領域に入りつつあり、IT同様短いスパンで大きく変わる市場に対応する必要があるでしょう。

 Sarine Technologiesは今年、最先端のセールスツールを日本市場に導入し、ダイヤモンド購買体験の質を根底から変えました。今までしっかり説明できなかった個々のダイヤモンドの特徴やストーリーをデジタル技術によってクリアに示すこの技術は、今後さらに洗練され、ダイヤモンドの販売になくてはならないものになるでしょう。

 一方で、ダイヤモンドそのものは基本的には天然鉱物ですので、商品そのものの質がテクノロジーによって劇的に変化するわけではありません。実際、「商品そのものの価値ではない、ツールにコストをかけるのは、最終的にお客様に負担が行くだけで不誠実だ」とのご意見を頂戴したこともあります。しかし、高額な買い物であるダイヤモンドの接客において、個々のダイヤモンドの特徴をしっかり説明せず4Cと価格だけで素人である消費者に販売する方が不誠実ではないでしょうか。ダイヤモンドの個々の価値をしっかり示すことは誠実な販売には必要であり、それを実現できるのはテクノロジーを置いてありません。事実、導入以降このツールは大きな成果を上げているのです。

 今後ますます、ダイヤモンドへの技術介入は加速していきます。まさにその分水嶺に立っている我々は、いかに柔軟に変化できるかが今後の分かれ目になります。

 そのための最新情報は、今後もぜひお伝えできればと思います。
■連載 No32

市場を成長させる唯一の方法は、宝飾業界が本来得意とすること

 「IPA」という言葉をご存知でしょうか。

 IT用語ではありません。もちろん、ダイヤモンドやジュエリーに関係する言葉でもありません。お酒好きの方はピンときたかもしれませんが、実はこれはビールのスタイルを表す言葉です。“インディア・ペールエール”と言って、比較的高いアルコール度数、強いホップの香りと苦味を持つ独特の味わいのビールのスタイルです。元々は18世紀にイギリスからインドへ送るビールが痛まないよう防腐剤の役割を持つホップを大量に投入したのが由来と言われています。最近では日本でも非常に人気のあるスタイルのひとつで、決して珍しいものではありません。

 少し前まで大半の日本のビールはラガータイプという一種類のみで、どのメーカーのものも一律に同じ味のものでしたが、最近では様々なスタイルのビールを店頭で見かけることが多くなっています。

 ビール業界は非常に厳しい業界の一つです。バブル期に比べると現在のビール消費量は7割程度と言われています。かつてビールは飲んで当たり前、「飲まない」という選択肢がないような時代もありました。現在ではビールを飲まない若者も多く、ビール離れは深刻な問題になっています。

 また一方で非常に激しい低価格競争が繰り広げられてきたのもビール業界の特徴です。1990年代の後半から発泡酒の普及、2000年代に入ってからは第三のビールという新しいジャンルで低価格化が広がっており、場合によっては過度な値引きによって清涼飲料水よりも安く販売されているほどです。元々ラガースタイルのみだった日本では商品の差別化が難しく、業界全体がイメージ・低価格戦略に傾倒していたのです。

 そのような中、冒頭に書いたようにビール業界では新しい波が起きつつあります。小売店でビールの棚を見る機会があると思いますが、以前と比べていわゆるプレミアムビールと呼ばれる高価格帯ビールの販売面積が増えていることにお気づきになると思います。プレミアムビールは素材や製法にこだわったもので、価格も場合によっては第三のビールの3倍以上するものもあります。

 各社が熾烈な低価格競争を繰り広げていた状況の中、その3倍以上もの高額なプライスのビールが売れると誰が想像できたでしょうか?しかし現在では様々なスタイルの、異なる味わいのプレミアムビールが普通に販売されています。実際、国内ビール市場において2003年には3.5%だったプレミアムビールのシェアも2016年には15.3%まで伸びているのです。

 飲食店においては、通常の居酒屋スタイルだった店がビールにこだわったビアホール業態にリニューアルし、スタッフがそれぞれのビールの特徴や味わいをお客様にしっかり説明するように変えたところ、ビールの価格は以前より高くなったにも関わらず、客単価、売上共に増加、またリピート客も増加したというケースも増えてきています。

 加えて、そのような商品、店が増えることによって消費者の意識も変化し、「とりあえず」だったビールの常識が、好みのスタイルのものを選択し楽しむという新たなビール文化へ変わりつつあります。ますます消費者動向が多様化する時代に、各社が新たな価値を顧客に示せるかどうかに今後のビール業界の発展がかかっているのではないでしょうか。

 と、ここまで読まれて宝飾業界紙でなぜビールの話を?と疑問に思われていると思います。しかし、上記のビールをダイヤモンドに置き換えてみると共通点があることにお気づきになると思います。ポイントは「若者の◯◯離れ」「常識の消失」「品質の同一化による差別化の難しさ」「極端な低価格競争」です。

 ダイヤモンドはかつて、婚約指輪として贈って当たり前のもので、ほとんどの方が購入されていました。しかし若者の意識の変化により現在では婚約指輪を買わないという選択も当たり前のものになっています。

 加えて、3EX・H&Cの一般化によりどの商品も差別化が難しく、結果いかに安く商品を提供できるかの競争に完全に突入しています。一部の方は恐らく、他社や他店より低い価格で商品を提供できないとダイヤモンドは売れないと信じているのではないでしょうか。このような状況の中、今より高い金額でダイヤモンドを販売することはなかなか想像し難いかもしれません。

 しかし、ダイヤモンドも素材にしっかりとしたこだわりを持ち、店頭でその説明をしっかりとすることによって、たとえ他店より高いプライスであったとしても販売することは可能です。ビールとダイヤモンドでは単価が違うので関係ないと思うかもしれませんが、本質は同じです。少なくとも私は、素材へのこだわりと丁寧な接客で販売単価を上げている宝飾店を幾つも知っています。

 本当に価値のある商品をお客様にお伝えし、適正な利益を得て販売していくこと、これが新たなダイヤモンドの消費者文化を創造し、市場を成長させる唯一の方法ではないでしょうか。でなければ、低価格競争で疲弊し消耗していくしかありません。ビール業界同様、お客様が多様化する時代に各社がいかに本質的なダイヤモンドの価値をお客様に示していけるのかが今後の市場の活性化に関わっているのです。ビールですら、素材のこだわりと価値の説明によって売上を増やしているのですから、その販売方法を本来得意とするジュエリー業界ができないわけがありません。

 ダイヤモンドへのこだわりと価値の説明。それには『素材』と『ツール』という二つの要素が必要不可欠です。それが接客としっかり組み合わさることによって、初めて大きなパフォーマンスを発揮することが可能です。素材の差別化、そしてテクノロジー・ツールによる丁寧で魅了的な接客は、現在ではどちらも可能なのです。

 次回以降、素材とツールについてご説明させていただきたいと思います。
■連載 No31

目を瞑る時間が長いほど、目を開けた時の眩しさは大きい

 前回、A(I 人工知能)に関して少し触れましたので今回はもう少し詳しく今後の可能性に関して話したいと思います。

 AIというと、SF映画に出てくるロボットのようなものを想像されると思いますが、実は本コラムを読んでおられる方の多くは既にAIを所有、利用されています。現在ほとんどのスマートフォンにはパーソナルアシスタント機能が搭載されていますが、それがまさにAIです。日本国内でも1億を超えるAIが日々働いていることになります。

 最近ではGoogleやAmazon等の大手各社がAIスピーカーの開発に力を入れていますが、これは画面を排除した完全な音声認識によるアシスタントで、ニュースの検索からタクシーの手配、ピザの配達依頼まで話しかけるだけでアシスタントが行うことが可能です。

 朝の目覚ましも言うだけでセットできますし、買い忘れた日用品もスピーカーに言えばすぐに配達されます。
 最新の音声認識技術は誤認率5.5%と人と近いレベルにまで達しており(人間の誤認率は約5.1%)、近い将来ほぼストレスなくAIと会話をすることが可能になります。

 AIの特徴は膨大なサンプルを得ることによって機械学習を行い、精度を高めていくというものです。多くのデータが集約されればされるほど、情報処理及び認識技術が向上していきます。AI業界には「生命は10億の例から産まれる」という標語がありますが、データが蓄積されればされるほど、人間よりも精度が高く早い判断が可能になってきます。

 ダイヤモンドの世界にも、今後AIは大きな影響をもたらします。ダイヤモンドの世界で反復学習と経験値が重要な主な分野は、鑑別鑑定でしょう。現在ダイヤモンド鑑定のオートメーション化が様々な機関で研究されており、実際いくつかの機関では既にマシンによる鑑定がセカンドオピニオン的に採用されています。

 今後AIがダイヤモンド鑑定システムに採用されると、段階的ではありますが鑑定は全て機械化され、最終的には人間の判断が必要なくなる可能性があります。

 熟練のダイヤモンド鑑定士は、例えばクラリティであれば自分が過去に検査した何千何万というダイヤモンドの内包物と、目の前のダイヤモンドを脳内で比較し、最も適切と思われるグレードを感覚的に決定します。

 AIによるクラリティグレードも基本的には人間の鑑定士と同じような仕組みになると考えられます。膨大なダイヤモンドの画像とクラリティグレードのデータをAIにインプットしておきます。新しいダイヤモンドを画像認識した際にどのパターンに最も近いかを瞬時に判断し、適正なグレードを決定します。そして、日々鑑定するダイヤモンドそのもの自体も新たなデータサンプルとして蓄積し、比較サンプルが日々増加していくことにより日進的に精度が向上していきます。

 AIの利点は、「一度学習したことは正確かつ高速に疲れずに反復できる」ことと「複数のマシンがインターネットを介してナレッジを瞬時に共有できる」ことです。

 夕方で目が疲れることも、寝不足で調子が悪くなることもなく、常に最高の精度で安定した結果を出し続けます。また、世界中全てのマシンがナレッジを共有することにより、マシンによる個体差や地域による誤差もなく、場所がどこであれ常に最大の熟練度での鑑定が可能になります。例えばある日1台マシンを新たに投入したとしても、その瞬間から最高の熟練度を持つグレーダーとして機能することになります。

 例えば人間のグレーダーであれば1日に一人が検査できるのは200pcsほどかもしれません。その場合人間のグレーダーが蓄積できる経験値は1日200パターンということになりますが、1日200pcsを検査するマシンが世界に100台存在した場合、1日あたり2万パターンのサンプルを蓄積できるということになり、人間には到底真似できない蓄積量になります。

 AIが発達することによって、様々な分野で人間よりも精度の高い処理が可能になっていきます。しかしこれは決して人間の領域が侵されているわけではありません。駅に自動改札が導入されたことによって駅員の業務効率化と乗客の利便性向上が進んだのと同様、大局的に見れば全体的に業界全体の健全化に大きく貢献するはずです。

 問題は、その大きな時流の中で自分が今どこに位置しているのかを正確に把握することです。抗おうとも技術は必ず進歩します。目をつぶっている時間が長ければ長いほど、目を開ける必要が生じた際には眩しさを大きく感じるでしょうし、目が慣れるのにも時間がかかります。

 上記はダイヤモンド鑑定の限られた一分野を例にしましたが、ダイヤモンドの販売においても新技術は日々投入され、大きな成果を上げています。ここ日本においても、です。今後、情報技術の採用を抜きにして戦略を考えることは難しくなってきます。人間の感性が活きる部分とテクノロジーの精度が必要な部分の見極めを日々行い、最適な形でビジネスに取り入れることが今後の大きな分かれ目になっていくでしょう。
■連載 No30

消費者から見た我々は、100年前の宝石店に見える

つい先日、Webプロモーション会社と打ち合わせをした時のことです。担当者は3月末まで官公庁関連の仕事で忙しく、やっと落ち着いてきたところとのこと。期末の予算消化のためにだいぶ先の計画の企画書と見積もりを提出するのだそうです。「ARを使った企画を東京オリンピックの2020年に実施するので企画書出すように言われていたんですが、2020年にARがどんな状況かわかりませんよね。」と笑っていたのが印象的でした。

来年のことを言うと鬼が笑うと言いますが、さすがに2020年のことは予測が難しいでしょう。ところで、2020年とは何年後でしょうか?当然みなさん3年後と答えると思います。ですが、2020年は実は14年後なのです。

 テクノロジーの進歩スピードは加速度的に進んでおり、私たちが予想するスピードを遥かに超えています。テクノロジーの成長は指数関数的に上昇すると言われていますが、現在パラダイムシフトの起こる率は10年毎に2倍、IT能力の増加は毎年2倍の速度となっています。ですので、パラダイムシフトは過去の6年分、IT能力は過去14年分に相当する進化が2020年までに起こるということになります。

 なので、2020年を予測するとは14年後を予測するのと同じことです。

 ちなみに初代iPhoneが発売されたのが10年前の2007年ですが、それまではスマートフォンという名前も概念も存在していませんでした。その当時に今の2017年の姿を想像できたでしょうか?それ以前の10年間(1998年〜2007年)と比較しても、この10年間(2008年〜2017年)は劇的な進歩を遂げていると思いませんか。

 もっとも初期の道具である石斧は、100万年以上もほとんど発達がなかったと言います。また江戸時代の農耕具が10年に一度劇的にバージョンアップすることもありませんでした。一方でスマートフォンが世に出てからの10年間に我々が体験して来た技術革新は10や20ではないはずです。そして、この数年で誕生したその革新的な技術のほとんどが、今や誰にとってもごく当たり前のものとなっています。

 この進歩率で発展すると、21世紀中には2万年に相当する進化をするということになります。

 現在、どれほど技術は進歩しているかご存知でしょうか?
 2011年にはIBMの人工知能『ワトソン』が、アメリカのクイズ番組で人間のチャンピオンに圧勝していますし、2 0 1 5 年にはG o o g l eDeepMindによって開発されたコンピュータ『AlphaGo』が囲碁でプロ棋士に勝利しています。

 また医療の分野では、『3Dバイオプリンティング』という技術によって移植用内臓を3Dプリンタで作り出して移植するという技術があり、霊長類のテストでは既に成功しています。今後、ドナーを待たずして必要な臓器を一度に複数製造することが可能になるでしょう。

 上記のような例を見ると、テクノロジー業界の2020年の予測は難しいと感じる反面、我々のような、金属と鉱物を組み合わせた固体を扱う業界ではあまり関係のないことだと思う方もいらっしゃると思います。しかし、ここで間違いなく言えることは、たとえ我々は変化しなくても、消費者は常に進化する、ということです。

 我々が変化を拒み、旧態依然とした方法に留まり続けるなら、10年後の消費者から見た我々は100年前の宝石店に見える可能性があるということです。

 前回のコラムでも触れましたが、テクノロジーは業界の競争ルールを劇的に変化させます。

 ジュエリー業界は最も古く、そして最も変化の緩やかな業界の一つですので、ほとんど変化していないように見えるかもしれません。しかしこの業界も10年前と比較すると技術関連の話題が圧倒的に増えています。最近では海外で、カスタムデザインしたジュエリーの仕上がりイメージを3Dホログラムとして空中に表示させるディスプレイが開発されたとのニュースも目にしました。また、今年中にはダイヤモンドのグレーディングが技術的には完全オートメーション可能と言われています。

 そして、ダイヤモンドの販売にも革新的なテクノロジーが投入されています。欧米、オーストラリア、アジア各国ではダイヤモンド個々の詳細な情報をデジタルレポートとしてお客様に見せる接客が増えつつあります。クラウド上にあるデジタルデータにはどこからでもアクセスでき、タブレットなどでお客様にダイヤモンドの情報を詳細に見せることができます。3Dスキャンされたダイヤモンドはまるで空中に浮かんでいるように表示され、どの方向からでも内包物の状態や形状を自由に観察することができます。また、拡大して隅々までお客様が見ることが可能です。

 日本でも、この革新的な、ダイヤモンド販売を一変させる技術が先月から導入スタートしました。Sarine Technologiesは全国展開しているあるジュエリーチェーンをパートナーとして、この4月より全店導入を開始しました。店頭で既にその革新的なツール「Sarine-Profile™」を使って接客が行われております。

 完全にブランドとしてカスタマイズされたデザインのデジタルレポートは、ブランドに対するお客様の信用度を一層高め、美しくデジタル表示される個々のダイヤモンドの忠実な外観や詳細は、お客様の購入意思決定を後押しするものになります。

 先月の日本スタート以降既に多くの消費者が、この革新的な技術と、新しい接客に触れています。現代の消費者は新しい技術へすぐに慣れ、そしてそれはすぐに当たり前のものとなっていきます。宝飾業界において今後この傾向は更に進んでいくでしょう。

 加速度的に進むテクノロジーに対して、2020年を正しく予測することは誰にとっても簡単なことではありません。しかし、現在目の前にあるテクノロジーに触れ、そして理解することは誰にでもきます。そして、そのテクノロジーの延長線上に2020年も2025年も存在しています。今や、全ての業界にとってテクノロジーは無関係ではありません。2020年に向けて、ジュエリー業界も変化を求められているのです。
■連載 No29

世界で変わる競争ルールから、次世代ビジネスをイメージできるはず

2月末から3月頭にかけて、恒例の香港ジュエリーショーが開催されましたが、皆様の中で訪れた方も多かったのではないかと思います。特に今回は顕著でしたが、ジュエリー業界も、静かではありますが大きな変化が始まっているのにお気づきでしょうか。

香港ショーの話の前に、先月は非常に興味深いニュースがあったのでご紹介します。自動車業界の話です。ですが、登場人物は自動車メーカーでも部品メーカーでもありません。半導体メーカー最大手のインテル社が、イスラエルの運転支援システム開発会社であるモービルアイを150億ドル(約1兆7205億円)で買収するというものです。この金額はイスラエル企業の買収額としては過去最高額です。モービルアイの提供するテクノロジーは先進運転システムと呼ばれる種類のもので、事故回避や自動運転に活用されます。

今まで、自動車メーカーにとってブランドのバリューを高めるものは運動性能、乗り心地などの快適性、燃費性能の追求でした。それがデザインとマッチしていれば市場に受け入れられ、売り上げが期待できます。そしてそれはメーカーの内部努力によって可能でした。しかし技術は成熟し、現在ではどこのメーカーでも一定以上の、消費者を満足させる高品質な自動車を製造することができます。結果、高品質(に見える)自動車を他社より安く販売することに各社注力してきたのです。

しかし、近年ではテクノロジーの進化と技術革新によって競争ルールは変化し、戦略方向性は一気に変化しました。車載エレクトロニクスの発展はここ数年めざましく、技術開発という本来の自動車メーカーの得意領域から外れる部分もカバーしなくてはなりません。そのためエレクトロニクス・IT企業の参入が自動車業界には相次いでおり、今回の買収劇もインテルがこの市場の今後の拡大を見込んだものと言われています。インテルは今後、自動運転技術では世界最高レベルを持つと言われるモービルアイの技術を使い、この分野での覇権を取ろうとしています。

この構造、ジュエリー業界に共通するものがあると思いませんか?かつては、品質や着け心地、そしてデザインに優位性があれば売り上げは見込めたかもしれません。
しかし、現在では製品のクオリティは総じて高く、ダイヤモンドに関して言えば、かつては希少な最高品質であったトリプル・エクセレント、H&Cが市場には溢れています。結果、自社製品の優位性を示すことが非常に難しく、価格によって差別化するしかない状況を生み出しています。

しかし、自動車業界同様、ジュエリー業界にもテクノロジーによる競争ルールの変化が生じています。香港ショーではそのコントラストが浮き彫りになりました。ルースをブース一面に並べて価格交渉をしている業者が軒を連ねる中で、注目を集めていたのは数々のテクノロジー系の企業でした。例えばそれは最先端のダイヤモンド検査システムであり、例えばB2Bのオンライントレードを運営するサイトでした。そしてダイヤモンドの企業間取引のみならず消費者への販売方法を一変させるシステムを紹介するブースでした。自動車業界同様、この分野は既存ジュエリー企業の得意領域ではありません。しかし、成熟した産業を次のステージに引き上げるものはテクノロジーを置いて他にはありません。

ある日突然、インテルのような今まで全くジュエリー業界に関係のなかったIT企業が参入し、価格競争をしている大多数の既存企業の横で市場の大半を持っていく。その可能性を否定できるでしょうか。否定できないのであれば、新しいテクノロジーについて真剣に考え始める時期に来ているのかもしれません。そしてそれは決して未来の話ではありません。それは実際に始まっています。日本でも、販売を劇的に変化させるテクノロジーの導入がスタートします。

また次期iPhoneにはAR機能が搭載されるという噂が出ています。これがジュエリーと組み合わさると何が可能になるでしょうか。高度に発達したARはインターネットと現実世界の境界線を一気に消し去ります。気になる方は「iPhone8AR」や「Google Tango」で検索してみてください。想像力が働く方は、次世代のビジネスがイメージできるかもしれません。

次回は、テクノロジーによってダイヤモンドビジネスの競争ルールはどう変わるの
か、ご説明させていただきます。
■連載 No28

残り10%の情報に大きな価値
意識の違いが対応への格差生む

前回少し触れましたが、東京ビッグサイトで開催された1月のIJT期間中にHRD Antwerpによる合成ダイヤモンドセミナーを実施させていただきました。ちょうど一年ぶりのセミナーでしたが、今回も非常に大勢の方々にご出席いただき、ほぼ満席での開催となりました。ご来場いただきました皆様には、この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。 昨年2016年1月のHRD Antwerpセミナーを皮切りに日本国内で合成ダイヤモンドの情報が飛び交い始めたことで、問題意識を煽ったのではないかと昨年はご批判いただくこともありましたが、結果的に正しい情報を伝えることによって業界貢献となったのではないかと今回はご評価を多くの方に頂きました。

昨年は日本における合成ダイヤモンド元年と言えたと思いますが、昨年一年を通して様々な組織や団体で合成ダイヤモンドをテーマにしたセミナーが開催されました。皆様もおそらく、いくつかのセミナーにご参加されたことと思います。合成ダイヤモンドのセミナーですから、どの組織や団体が開催していても、大筋の内容は似通っていたはずです。合成ダイヤモンドの定義、ダイヤモンドの合成方法の種類、及び説明と判別の仕組みなど、どのセミナーであっても共通して語られていた内容です。以前にも同様のセミナーをお聞きになった方であれば、他のセミナーは場合によっては9割以上の内容はすでに知っている内容だったことと思います。そのため、新しいセミナーには興味を示さない方も多いと思います。
しかし、残りの1割の情報にこそ大きな価値があるのが、合成ダイヤモンドです。なぜなら、合成ダイヤモンドは天然ダイヤモンドとは異なり、人間のテクノロジーによって作られるものだからです。テクノロジーは短い時間で大きく発展、変化します。ダイヤモンド合成技術は発展途上の技術ですから尚更です。残りの1割の情報の多くは、この部分の情報なのです。

今回のセミナーにご参加された方も、その1割を求めて出席された方が多かったように見受けられました。そして実際の問題として認識しておられる方が多かったのも、一年経って大きく変化した部分だったように思います。一年前のセミナーでは、内容として面白かったというような感想を頂戴することが多かったですが、今回セミナーを終えて色々お話を伺ったところ、具体的な対策方法のご相談や、また現在すでに実施されている対応方法が適切かどうかの相談をいただくことが非常に多かったのです。これは一年前のセミナーの際には全くなかったことで、いかに多くの方が身近な問題として認識されているかを実感する結果となりました。

今回のセミナーで技術的な部分で興味を引いたのは、HPHT合成されたダイヤモンドの形状に関しての情報です。HPHTであってもCVDであっても合成ダイヤモンドの結晶は非常に特徴的なフォルムを持っており、研磨前の状態では容易に判別できるというのが今までの認識でした。しかし、最近では天然ダイヤモンドと同じ正八面体の結晶のHPHT合成ダイヤモンドを成長させることに成功しています。つまり、原石の状態で見分けることが困難ということです。現状ではごく小さなサイズのもので、しかも宝飾用ではなく工業用として利用されるとのことですが、近い将来に大きいサイズが実現するのか、それが宝飾用として流通するのか、その可能性は否定できないと思います。

またマーケットの情報としては、昨年5月にアメリカで実施されたGoogleの検索分析が興味深いものでした。インターネット検索エンジン最大手Googleで最も検索されたジュエリーは何だったのか、という調査です。結果は、1位はカルティエ、2位はティファニーでした。そして3位にランクインしていたのはスワロフスキーです。カルティエは自社のダイヤモンドに非常に厳しい検査基準を設けていることで知られており、当然ながら同社のダイヤモンドは全て天然ダイヤモンドです。一方で、スワロフスキーに使用されているのはキュービックジルコニアやクリスタルです。同じジュエリーでありながら、1位と3位の間には大きな違いがあると言っていいでしょう。その一方で、特に最近アメリカ国内では合成ダイヤモンドを扱うブランド各社が大きなプロモーション費用を投じて合成ダイヤモンドの販促活動を進めています。その結果近い将来、検索の1位と3位の間に合成ダイヤモンドブランドが入るのか、わかりませんがそれも可能性がないとは言えないでしょう。事実、2015年1月から2016年1月までの間にアメリカ国内のマーケットで合成ダイヤモンドは230%増加しているとの結果が出ています。

テクノロジーもマーケットも、短い期間で大きな変化をしていることがお分かりいただける一例だと思います。今後も日々状況は変わって行きます。昨年一年間は合成ダイヤモンドの基本的な知識を得る年だったと思いますが、今年以降は最新の情報をキャッチして常に対応することが求められるのではないでしょうか。本コラムでも最新の情報は随時ご提供させていただきますので、皆様の参考になれば幸いです。

次回は、先月末から開催されていた香港ジュエリーショーでの最新情報などを書かせていただきたいと思います。
■連載 No27

全く異なる価値観に注目し、その「ビジネス」の方向性を考える

先月末には第28回となる国際宝飾展が東京ビッグサイトで開催されましたが、その際に世界的ダイヤモンド研究の権威であるHRD Antwerpによる合成ダイヤモンドセミナーを開催させて頂きました。

昨年一年間も数多くの合成ダイヤモンドの説明会が開催されておりましたが、本セミナーもほぼ満席となり関心度の高さを伺わせした。ちょうど一年前にもHRD Antwerpのセミナーを開催しましたが、この一年間で状況はより現実感を伴って我々のビジネスに関係して来ていると言えるでしょう。

ところで話は少し逸れますが、アメリカの食品業界でここ最近研究が進んでいる「人工肉」と言うものをご存知でしょうか。何やらSFっぽい響きですが、この人工肉はいまアメリカで様々な企業が研究を開始している新たな食料です。

サンフランシスコにあるレストラン「コックスコーム」では、2016年10月から人工肉を使用したハンバーガー、「インポッシブル・バーガー」を販売開始、大人気となっています。見た目も食感も味も、本物そっくりのハンバーガーですが、100%植物由来の人工肉でできています。

人工肉には大きく分けて2種類あり、小麦や大豆から抽出したタンパク質を使用する「植物由来人工肉」と、牛の細胞から肉を培養する「培養人工肉」です。現在前者はアメリカ国内のレストランやスーパーマーケットで販売されています。後者に関しては研究中で、培養に成功しているもののコストの関係で製品化していませんが、数年以内の販売を目指しているようです。

こうした人工肉の開発の目的は、地球環境への負担を減らすことです。食肉業界は以前より、持続可能なシステムではないと懸念を持たれていました。飼育時に乱用される抗生物質から耐性菌が生じる問題や、また牛を飼育する過程で大量の資料や水が必要になり自動車よりも二酸化炭素を排出するとも言われています。人工肉の場合、水は畜産の85%減、二酸化炭素は89%減と言われています。

また、人工肉は家畜を殺すことを反対している一部のベジタリアンからも、倫理的な理由で支持されています。今後コストがより下がれば人工肉の需要は拡大しますし、普及していく可能性は非常に大きいでしょう。

「インポッシブル・バーガー」のパテを開発したのは、シリコンバレーのベンチャー企業です。この企業にはGoogleが巨額の投資をしようとしたことでも話題になり、現在はビル・ゲイツが100億円以上も投資、他にも数々の投資家がこのベンチャー企業に投資しています。現在、多くの投資家がこの新たな食料開発に大きな関心を持っています。

単純に、「本物の熟成牛肉」と「人工培養された肉」であれば前者を食べたがるのが普通でしょう。食肉業者は、その牛がいかに丹精込めて飼育された上質な肉かを語るでしょう。しかし、一部の消費者は全く異なる価値観を持っていることに注目する必要があります。投資家と研究者が目指すように、世界中の肉が全て人工肉に切り替わることは極めて難しいでしょう。しかし、一部の人は普通の牛肉を食べますし、他の人は人工肉も食べる可能性があると言うことです。それは決して、普通の牛肉の美味しさや畜産農家の努力を否定するものではありません。

合成ダイヤモンドについても同様のことが言えるのではないでしょうか。天然ダイヤモンドは地球が育んだ奇跡の結晶であり、比類なき美しさを持つものです。一方で、別の価値観を持つ消費者は合成ダイヤモンドに魅力を感じる可能性もあると言うことです。天然ダイヤモンドの価値を追求するのであれば、合成ダイヤモンドに対しても理解を深め、その上で天然ダイヤモンドのビジネスの方向性を考える必要に迫られているのではないでしょうか。

HRD Antwerpによるセミナーでは世界的なトレンドを含め、興味深い最新の情報が提供されました。また次回以降お伝えできればと思います。
■連載 No26

Webと実店舗の境界線は、極めて曖昧

新年あけましておめでとうございます。
本年が皆様にとって希望と幸せに満ち溢れたものになりますように、心から祈念しております。

2017年のダイヤモンドビジネスのポイントは、「信頼性」そして「革新」になると予想しています。
信頼性に関しては言わずもがなですが、全てのダイヤモンドを取り扱う人間がプロフェッショナルになるということ、自社の扱う商品に対して責任を持つということです。2016年は日本での合成ダイヤモンド元年となりました。しかし、その対応が鑑別機関任せ、またはメーカーに責任を押し付けているだけでは今後消費者からの信頼を得ることは難しいでしょう。ダイヤモンドは情緒価値商品といいますが、その本質は鉱物であり、情緒価値を支えるのは間違いない品質への保証です。そこが揺るぐことは決してあってはならないはずです。値引きやイメージだけでの販売から脱却して、2017年は業界全体が本来の誇り高いダイヤモンドビジネスに立ち返る年でありたいと願っております。

革新に関しては、本コラムのテーマにもなっているテクノロジーに注目していく必要があると思います。特に流通分野のテクノロジーは近年目覚ましい発展を見せています。消費者は非常にフレキシブルで利便性があればどのようなテクノロジーでも受け入れる準備があります。

昨年は定額制の音楽配信サービスが続々スタート、日本での音楽配信サービスは一気に一般的になりました。頑なに音楽CDの販売を続けていた人たちはもちろんですが、音楽ダウンロード業界ですら半分以下に落ち込むと予想されています。流通の仕組みはテクノロジーによっていとも簡単に変化するという証拠です。

通販最大手のAmazonは2017年にレジのない店舗、Amazon Goを開始すると発表しました。コンビニほどの店舗で、消費者は棚から自由に商品を手に取り、そのまま店を後にできます。どの商品を持ち帰ったのかは全て正確に把握され、瞬時にAmazonアカウントにチャージされる仕組みになっています。AmazonはECの最大手ですが、実店舗販売にもテクノロジーを投入して拡大を図ろうとしているのです。

一方、同じくアメリカのダイヤモンドWeb販売最大手のBlue NileはWebroomという面白い取り組みを始めています。最初にニューヨークにテストとして設置し、現在では5つ目のWebroomをスタートさせています。これは非常に面白い取り組みで、Webroomという名前の通りWeb販売のサポート的な役割を担っています。Webroomではプロフェショナルのアドバイザーにダイヤモンドについて、そしてジュエリーについて納得いくまで説明を受けることができます。また、サンプルも手にとって見ることができます。しかし、そのWebroomではダイヤモンドは販売しておりません。Webroomの端末でインターネットを使用してオーダーするか、家に帰って自分の端末でゆっくりオーダーすることができます。お客様はジュエリーショップにありがちな、押し売りのようなプレッシャーを一切感じず、なおかつ商品の説明をしっかり受け、そして膨大なWeb上のストックから自由に心ゆくまでダイヤモンドを選ぶことができます。

2017年以降、Webと実店舗の境界線は極めて曖昧になってきます。実は消費者の中では既にあまり境界線が存在していません。ネット、実店舗と線を引きたがるのはどちらかと言うと売り手側の都合です。それに気づいた企業は、上記のような取り組みをすでに始めていると言うことです。Amazonでなくても、Blue Nileでなくても、そこに向けて取り組み始めることは可能です。テクノロジーは望む人には常にオープンです。

2017年の皆様のビジネスに、少しでも本コラムの情報が参考になることを願って、新年の挨拶とさせていただきます。本年もよろしくお願い致します。
■連載 No25

ダイヤモンドの4Cは、人の目ではなく、すべて自動で鑑定するシステムが登場

ダイヤモンドの4Cは人の目ではなく、全てテクノロジーによる正確なグレーディングができる時代が訪れようとしています。

世界のダイヤモンド鑑定システムの世界的企業であるSarine Technologies社が、先の11月に新しいシステムの情報を正式リリースしました。それは、研磨済みダイヤモンドのカラーとクラリティを自動で鑑定するというものです。

Sarine Technologies社は約25年前にダイヤモンドプロポーション全自動測定器“DiaMension™”を世界に向けて送り出しました。ご存知の方も多いと思いますが、それ以前のダイヤモンドのカット評価はプロポーションスコープと呼ばれる器具を用い、ダイヤモンドの影を目盛りのついた板に投影するという方式で行われていました。鑑定士は目盛りを読んで、それを紙に書き留めていました。DiaMension™がリリースされた当時、導入に関しては慎重な意見もあったようですが、現在ではカット鑑定は機械計測が標準になっており、全てのラボに導入されています。現在のシステムではハイエンド機では計測誤差が±10ミクロンという精度で、人間の限界を遥かに凌いだ精度を実現しています。特に日本では2006年のGIA方式カットグレード導入以来、このシステムはカット評価に必要不可欠となっています。

現在のダイヤモンド4C鑑定は、カラットは電子秤による計測、カットのプロポーションは全自動測定器による機械計測となっていますが、カラーとクラリティは鑑定士の目によって決定されることになっています。カラーはマスターストーンと呼ばれる基準石との慎重な比較によって、そしてクラリティは顕微鏡を使用した観察によって判断されます。専門的な知識と熟練した経験を持つ鑑定士は、非常に高い精度でそれぞれのダイヤモンドの評価を行うことが可能で、常に安定したグレーディングを行うことが可能です。しかし、グレーディングは主観的な要素が含まれているため鑑定士によるわずかな判定の誤差、及び鑑別機関によるグレード差異は依然として存在しています。

一方で、消費者及び一部の業者は鑑定結果に対して絶対的な評価だと信じていますので、グレード誤差が生じた時に大きな誤解と問題を生んできたのも事実です。

そのため、プロポーションと同様、常に安定して一貫した判定が可能なカラーとクラリティの全自動評価システムが長い間求められていました。しかし、カラーとクラリティは個々のダイヤモンドの特性を考慮して判断する必要があるため、機械による自動計測には高いハードルがありました。

しかし、S a r i n e T -echnologiesはこの高いハードルを越える革新を実現し、先月に遂にカラー及びクラリティの全自動計測器を発表しました。現在、大量のダイヤモンドを用いての試験を実施しており、2017年中旬には製品ベースでの実用の開始を見込んでいます。カラーはほぼ正確な一貫性のある評価を提供し、クラリティは研磨済みダイヤモンドの内包物の正確なマッピング、そして等級を決定するアルゴリズムにより、それぞれの基準に従って最終グレードを決定するというものです。現段階では、クラリティに関しては0.02ctから10ctまでのダイヤモンドに対応しており、カラーは0.20ct以上となっていますがそれ以下のサイズにも今後対応させるようです。

これによって、ラボにとっては非常に高い業務効率をもたらすと同時に、常に一貫した鑑定結果を実現する可能性があります。これはグレード誤差の大幅な減少となり、ダイヤモンド及び業界に対する消費者信頼に大きく寄与するものになるでしょう。

また別の側面としては、超高級時計メーカーや高級ジュエラーが製品に使用するメレダイヤモンドで、ハイクオリティラインの製作が容易になるかもしれません。メーカーにとっては自社の製品の品質の管理、よりこだわった商品の開発を可能にするかもしれませんし、そうであれば小売店にとっても製品のアピールポイントの増加につながる可能性があります。

最近ではどの業界でも、AIや機械化による職業の消失が懸念されています。しかし、テクノロジーの開発や導入は本質的には業界を発展させるためにあります。精度や運用コストなど新しい技術に関して検討することは多いかもしれませんが、いずれはプロポーション測定システム同様に標準化するでしょう。その技術の流れを見極め、自社にとってどんなメリットを見出すのか、またどのように新たな価値を創造できるか、25年振りの変革期に思いを向けてみてはいかがでしょうか。

この情報に関しては、随時アップデートさせていただきます。
■連載 No24

スクリーニングのみならず、知識及びソースにも関心を

前回は、9月に開催された香港ジュエリーフェアのトピックとしてクラウドを使用した新たなサービスについて説明しました。この香港ジュエリーフェアでは、もう一つ注目を集めていたトピックがありました。それは、メレ石を含む合成ダイヤモンドへの対応についてです。

先月、10月25日にJJAが一般消費者向けWebサイトで『高温高圧法合成ダイヤモンドについて』というニュースを掲載しましたが、特にメレサイズの合成ダイヤモンド問題は、ダイヤモンドを取り扱う全ての人にとって無視できない状況となりました。実際、大手だけではなくどこの鑑別機関でも毎週のように合成ダイヤモンド、もしくは合成ダイヤモンドと思われるダイヤモンドが発見されているのが現状です。

香港フェアではベルギーのH R DAntwerpのブースでメレ石のスクリーニングシステム「M-Screen」を展示していましたが、日本を含む多くの国から訪れた人々が導入の検討や注文をしているのが目立ちました。
また今回新たに会場でお披露目され、注目されていたのは、デビアスグループの鑑別機関であるIIDGRから発表された“PhosView”です。これは少し前に中国で開発されたGLIS-3000と似たシステムで、どちらも燐光によって疑いのあるダイヤモンドを特定するというものです。HPHT合成された無色のダイヤモンドは蓄光素材のような燐光を持つものがほとんどで、その特徴を用いて判別するシステムとなっています。CVD合成ダイヤモンド及び模造石を見分けることはできませんが、現在市場に出回っているメレサイズの合成ダイヤモンドはそのほとんどがHPHT合成と言われており、その判別にフォーカスしたシステムとなっているようです。どちらのシステムも資料室にダイヤモンドが入りさえすれば検査可能なので、製品のスクリーニングとしても活用できる点が大きなメリットです。

現在様々な合成ダイヤモンドのスクリーニングマシンが存在しておりますが、日本国内でのシステム導入状況はどうなっているのでしょうか。
これらのシステムより前に、同じくIIDGRからメレ石のスクリーニングシステム(AMS)が発売されていたので、同システムはサイトホルダーと、大手企業の一部には既に導入されています。またHRDAntwerpのM-Screenに関しても、今年1月の発売以来順調に日本国内の企業への導入が進められているので、大手企業は何かしらの対応が既にできているところが多いように見えます。

しかし冒頭の説明通り、現在日本国内では相当数の合成ダイヤモンドが既に混入されていると考えられますので、その状況に照らし合わせるとまだ業界として対応できていると言えるレベルではありません。

またシステムの導入はもちろん重要ですが、より重要なことはダイヤモンドに携わる全ての人間が合成ダイヤモンドを含むダイヤモンドの特性について、プロとしてしっかり理解することだと思います。よく「機械に入れさえすれば何でも判断できるシステム」が欲しいと問い合わせを頂くことがあります。実際、ボタン1つで全て判別できるようなシステムは存在しません。どのシステムにもメリットがある反面、測定の限界というものが存在しますし、使い方を間違えれば合成ダイヤモンドを見逃すこともあり得ます。燐光を利用したシステムに関して言えばCVD合成ダイヤモンドと模造石の判別は不可能ですし、HPHT合成ダイヤモンドでもカラーダイヤモンドには燐光が見られません。M-Screenに関して言えば、CVDを含む全ての合成ダイヤモンドと模造石にも対応する現在世界最速のスクリーニングシステムですが、対象がラウンドブリリアントカットに限定されています。

それぞれの特性を見極めた上で、システムの導入はもちろんですが、扱う人間の知識が、流通の全てのステージの人間に求められる時代になっていると思います。

また、検査と同時にソース(仕入先)にも関心を持つことにより合成ダイヤモンド問題への対応と、消費者への安心の提供となると思います。現在の消費者は、特に近年「産地」というものに非常にシビアです。
食品でもアパレルでも家電製品でも生産地をチェクして購入するというのは普通のことです。一方でより高額な商品であるダイヤモンドの産地(輸出地)に関しては、今までほとんど説明されてきませんでした。今後情報開示がより求められる時代に、我々はどのような対応が可能でしょうか。

次回は、そのヒントとなる新しいプログラムを含め、今後のダイヤモンドビジネスの方向性について説明します。
■連載 No23
れからの消費者目線は、リアル在庫 or バーチャル在庫??

先月(9月)、香港ジュエリーフェア(HongKong Jewellery & Gem Fair)が13日より開催されました。
今回の個人的な印象としては、以前に比べて商材そのもの以外、つまり商材に関連したサービスや製品が増えていると感じました。ダイヤモンドを含む宝飾業は歴史的にも最も古く、古典的なビジネスと言われていますが、その宝飾業にとってもサービスや技術による差別化、信頼性の確立は時代の流れとして避けて通れないということでしょう。

ご存知の通り、香港ジュエリーフェアは2つの会場で開催されています。主にルース等の素材を扱うアジアワールドエキスポ、そして主に製品を扱う香港コンベンションセンターです。前者は製造業者やメーカー等を対象としており、後者はどちらかというと小売業者が対象となっています。

ダイヤモンドプロポーション測定器を主な製品とするSarine社は基本的には製造業社を対象とするアジアワールドエキスポへ毎回出展していますが、今回は9月の展示会としては初めて、香港コンベンションセンター側へも出展しました。ブースへはマシン関係を一切設置せず、iPad等のタブレットを使用してのプレゼンテーションでした。

ダイヤモンドの製造過程でテクノロジーがいかに大きな重要性を持っているかは以前お話ししましたが、今後小売サイドへも最先端のテクノロジーによって大きな変化が起こることを象徴する一つの光景であったように思います。

Sarine社は今後小売業向けに様々なサービスを展開していきます。ダイヤモンドの輝きを科学的に分析、評価するSarine Light™は既にアメリカ、中国などの市場で大きな広がりを見せており、大手チェーンが採用することで売り上げを大きく伸ばすなど、ダイヤモンドの評価方法として認知されてきています。日本国内においては今年2016年後半で輝きの評価を持つダイヤモンドの取扱いディーラーが飛躍的に増えており、全国各地に広がっているなど順調に認知されてきました。

新たなサービスとして、Sarine社は今回の香港ジュエリーフェアで、Sarine Connect™というサービスをリリースしました。これはクラウドを活用したPOSシステムを含む、最先端の流通ソリューションです。

元々ダイヤモンド小売はプロダクト・アウトの発想が基本でした。ダイヤモンドを含む宝飾品はほとんど経年劣化せず、仕入れ後何年経っても新品として販売できます。置いておけばいずれは定価で販売できる可能性があるので鮮度管理はあまり必要ではなく、また、回転率が悪くなれば利益を大きく乗せて売ろうとするという不思議な業界です。

バブル期、またそれ以降婚約指輪が売れていた時期であればそれでも、ある程度の回転は維持できたでしょうし、商品もいずれは売れたので問題はなかったかもしれません。
しかしこの体質が、現在の宝飾業の歪な商売形態を生み出していることは間違いありません。

現在では、市場の成熟と飽和、そして婚約指輪取得率の低下に伴い、消費者ニーズを正確に理解し効率的に販売することが重要になってきました。ダイヤモンドの適正在庫に関して言えば、石目とグレードの組み合わせで100以上のコンビネーションが存在しますし、デザインを加味すると適正在庫を把握することは容易ではないでしょう。

また、在庫効率化の問題もあります。顧客のニーズは多様化するのに在庫はそれに合わせて闇雲に増やすわけにもいきません。ここに小売業のジレンマが存在すると思います。Sarine Connect™はこの問題に対する一つの回答を提供していきます。在庫管理システムと連動し、リアルタイムでの在庫分析、売上と傾向分析などのPOS機能は全てクラウドで管理されますが、加えて在庫管理と連動する販売ツールも提供されることが特徴です。
 iPad等のタブレットでの在庫サーチ、各商品の詳細な情報がクラウド上で一括管理されており、その商品情報にはダイヤモンドの詳細なインフォメーションはもちろん、ジュエリーデザインの360°イメージを追加することも可能です。そのイメージは特殊な機器がなくとも、簡単に撮影しアップロードすることができます。店頭では現物がなくても、ダイヤモンドそのものの詳細な画像と3Dデータ、輝きの評価はもちろん、デザインの詳細までもお客様に説明し、販売することができるようになります。

これにより、最適な在庫の分析、回転率のアップ、在庫の圧倒的な効率化と店頭での機会損失の減少を可能にします。在庫の効率化が実現すれば、前述したような長期在庫に起因する問題も軽減するでしょう。

将来的には、AR(仮想現実)を組み合わせることで、より商品紹介の精度が高まり店頭在庫ゼロを実現できるかもしれません。また、もしかしたらネット販売を超えたバーチャル店舗の実現も可能になるかもしれません。

このようなシステムは他業界では珍しいものではありません。タブレットを使用した在庫サーチ、3D写真等を活用した商品説明は今や当たり前になりつつあります。消費者目線から考えれば、店頭の限られた在庫から選ぶことを強要される店舗、奥行きのあるバーチャル在庫から選べる店舗、どちらで購入したいでしょうか。
■連載 No22

価格競争を超えたパフォーマンスは、誰が生み出すのか?

IoT(アイ・オー・ティー)という言葉が注目され始めてしばらく経ちます。簡単に説明すると、「ありとあらゆるモノがインターネットに繋がる」ということです。ありとあらゆるモノですから、今まで以上にインタ-ネットの活用が想像以上に広がることになります。古典的な装飾品であるダイヤモンドジュエリーに関してもそれは当てはまるのでしょうか?

ここ最近で私が最も惹かれたIoTの事例は、米Amazon.comが展開している『ダッシュボタン』です。日本ではまだ発売されていませんが、どこにでも貼れる小さなボタンで、Wi-Fi経由でインターネットに接続します。ボタンには洗剤など日常消耗品のブランドロゴが印刷されており、そのボタンがどの商品に対応しているのか一目でわかるようになっています。例えば洗濯機の横に洗剤のダッシュボタンを貼っておきます。洗剤の残りが少なくなったらそのボタンをプッシュ。すると翌日には新しい洗剤が配達されてきます。冷蔵庫にミネラルウォーターのダッシュボタンを貼っておけば、ミネラルウォーターがなくなりそうなタミングで補充が簡単にできるというわけです。

しかしよく考えると、購買のプロセスを短縮化しただけでそこまで画期的なシステムではない気もします。日常消耗品に関してAmazonには元々Amazon定期便と言う、指定した数量、頻度で、しかもディスカウントして商品を自動的に配達してくれるサービスが存在します。また、そうではなくてもスマホでもPCでも簡単にその場で商品を注文できます。ネットで探せばその時点で最安値の商品も探せるかもしれません。

ダッシュボタンを使用する場合、ボタンを押すだけで注文が完了しますが、その時点で消費者は価格を正確に認識できません。インターネット販売の普及により価格競争が激化してきたと言われておりますが、この場合ネット販売であるにもかかわらず安さ以外の理由で商品が選ばれているということです。ブランド力、サービス、そして利便性です。

ダイヤモンドジュエリーの販売において価格は当然重要なファクターです。しかし、消費者が価格を大きく意識する日常消耗品ですら、IoTによるマーケティングは価格競争を超えたパフォーマンスを発揮します。ここにはIoTの大きなヒントがあると考えます。

また、流通でIoTがもたらす大きなメリットの一つは、顧客のコントロールです。
ダッシュボタンに関して言えば、一度そのブランドのボタンを購入し貼ってしまえば、基本的にはずっとその製品を買い続けることになります。そしてそのボタンが押されるタイミング、頻度は実際にその商品が使用されるタイミングに非常に近いと推測されるため、Amazonまたはメーカーは、消費者の使用環境や行動をデータとして把握することが可能になります。このシステムが普及することでメーカーは適切な生産ラインの管理、新商品開発やブランド力の強化に役立てることができます。

家庭用洗剤、ミネラルウォーターなどのメーカーは今まで自分たちの商品がIoTによって画期的な変化を遂げるなど、おそらく想像もしていなかったでしょう。それを実現したのはAmazonですが、「あらゆるモノ」がIoTによって変化する可能性を示唆しています。あらゆるモノですから、ダイヤモンドジュエリーももちろん例外ではありません。

この事例を見てピンときた方もいらっしゃると思いますが、ネット技術の普及はメーカーサイドに消費者の情報をもたらすとともに、メーカーサイドから直接的な価値の提供が可能になることを意味しています。今までは消費者に最も近い小売店などの販売チャネルが接点として重要視されており、小売店は自分たちが一番消費者を理解していると思っていました。今後は、IoTを始めとする技術の進歩により、直接的な販売コントロール及びお客様からのフィードバックの取得にメーカーが介入できるようになります。

宝飾業界では、近年様々なメーカーや鑑別機関でデジタルレポートを検討、導入しています。ダイヤモンドの鑑定書をオンライン上で提供するという試みです。イスラエルのSarine社ではより進んだ技術として、ダイヤモンドの全情報をクラウド上にアップするSarineProfile™の提供を試験的にスタートしました。このシステムはダイヤモンドの業者間流通から消費者まで全てに機能し、また消費者が商品を購入した後でもインフォメーションを更新できるという特徴があります。そのブランドを販売するメーカーは、商品が消費者の手に渡った後でも行動データを把握でき、また新しい情報を追加してお客様の関心を惹くことができます。

今後技術が進むにつれ、今まで想像もしなかったものがインターネットとコミュニケーションするようになるでしょう。その発展は流通の仕組みを一転させるポテンシャルを持っています。

今月は香港ジュエリーショーが開催されます。次回は新しい情報を是非お伝えできればと思います。
■連載 No21

スマホユーザー目線を持って見る!

本コラムのタイトルにもなっておりますスマートフォンですが、過去数年で最も技術発達が早く、そして最も人々のライフスタイルに影響を及ぼしてきたデバイスであるということに異論を唱える人は恐らくいないでしょう。

本コラムがスタートしたのが2015年1月でした。当時はスマホを持っていない方もいましたが、今は持っていない方は少ないのではないでしょうか。博報堂系のリサーチ会社でも2016年6月現在の東京地区でのスマホ所有率は70%を超えているというデータが出ています。若者はテレビの視聴時間よりもスマホに触れている時間の方が長いとも言われていますが、消費者の使用メディアが変化しているのであれば、基本的には売る側もそれに対応する必要があります。いかにスマートフォンコンテンツの影響力が大きいかですが、先月末にPokémonGOがリリースされ、今まで誰もいなかったような公園が人で埋め尽くされた映像をご覧になった方もいらっしゃると思います。消費者に対するスマートフォンコンテンツの影響力は他媒体の比ではなくなっています。

とはいえスマホに対応した戦略と言っても、ネット広告をすればいいとか、またはアプリを作ればいいと言った単純なものではありません。ネット広告一つとっても、リスティング広告から行動ターゲティング広告、リターゲティング広告など様々な種類があり、それぞれ効果も異なってきます。また前述のPokémon GOのような人気のある他社のサービスも、それをマーケティングに活用しようと様々な企業が戦略を練っています。余談ですが、アメリカ、ミシガン州のあるバーでは「青チームの人は10%引き」という広告を出した途端人で溢れかえったというエピソードもあります。いかにしてベストな手段をターゲットに対して使えるかが明暗を分けると言えます。

広告戦略の仕組みが複雑化しており企業には非常に分かりづらくなっていると感じるかもしれませんが、実はその逆だと私は考えています。スマートフォンは極めてパーソナルなデバイス(基本的に他人と共有することはない)ですので、それぞれのスマートフォンには使用者の特性が蓄積されていきます。性別と年齢、趣味趣向や興味関心から住んでいる地域、家族構成、ライフイベント、GPSによる位置情報までもが様々な方法で記録されています。企業としては適切なツールを選択することによって、最短距離で最もポテンシャルの高いカスタマーへ直接リーチすることが可能になっているのです。

そしてその延長線上で、自社メディアによる顧客囲い込み、そして消費者自身による情報拡散という理想的なフローがスマートフォン上だけで実現できるのです。

しかし大切なのは中身です。スマートフォンによるマーケティングは手段であって目的ではないからです。多くの場合、サイトを作ることやアプリを作ること自体が目的化してしまう傾向にあります。サイトもアプリも手段ですので、アプリを作らないといけないわけではありませんし、既存のアプリを活用する方法もあります。

そこがブレていると、アクセス数が増えても結果的に効果が出ないということになってしまいます。最近ではテクノロジーによるダイヤモンドの個別情報をクラウドによって活用している企業も増えてきています。宝飾という伝統的なビジネスにもスマホ・マーケティングが活用され始めているのです。自分自身が消費者としてスマホユーザー目線を持って見れば、これが特別なことではなく「標準」であると感じると思います。スマホ世代目線は今後確実に必要不可欠になります。

現在ダイヤモンド業界にも大きなテクノロジーによる大きな変化が起こっています。そして実際にそれを導入している国内外の企業では成果を上げ始めています。そのテクノロジーと、その具体的なPR方法について次回ご説明させていただきます。
■連載コラム No20

「このダイヤモンドは天然ですか?」と聞かれた時の準備はしてますか?

先月初旬、ベルギー・アントワープのHRD AntwerpとAWDC(AntwerpWorld Diamond Centre)に訪れ、最先端のダイヤモンド鑑別機器や合成ダイヤモンドの世界的な状況についての情報を得る機会を得ました。
以前の記事でもご説明しましたが、HRD Antwerpはダイヤモンドに特化した研究・鑑定鑑別・教育機関で、ヨーロッパにおいては絶大な信頼を誇っております。

現在、世界的に合成ダイヤモンドが大きな話題となっておりますが、それはもちろんベルギーにおいても例外ではありません。ヨーロッパでは大手をはじめ合成ダイヤモンドの対応に各社取り組み始めております。近年最も問題視されているのはメレサイズの合成ダイヤモンドです。天然ダイヤモンドに混入されるプロセスの実態は正確に把握されてはいないものの、流通のかなり早い段階で混入、もしくはすり替えられるのがほとんどのケースと言われております。中には、海外生産されたジュエリーに使用されているメレダイヤモンドの2割は合成ダイヤモンドが混入されていると考えている人間もいるくらい、切迫した状況です。

一方で、幾つかの大手のブランドは別の意味で合成ダイヤモンド対応に乗り出しています。クリスタルのジュエリーで知られるオーストリアのスワロフスキー社は合成ダイヤモンド市場に参入することを決定しました。DIAMAJewelry - made with SWAROVSKIcreated diamondという名称で既に海外で展開を開始しています。アメリカをはじめ合成ダイヤモンドを専門に展開する企業は既に何社も存在しますが、スワロフスキーの参入は一般消費者に大きなインパクトを与えることが予想されます。まだ日本での展開は発表されていませんが、それも時間の問題と言えるでしょう。合成ダイヤモンドを取り扱う企業、ブランドが訴求する価値は「天然ダイヤモンドと全て同じ特徴、美しさ、輝き、鉱物特性を持ち、環境を破壊しないエコロジカルで完全にコンフリクトフリーなダイヤモンド」という倫理的な価値です。まだ正式にリリースはされていませんが、大手海外ジュエラーが合成ダイヤモンドの取り扱いを開始するという話もあります。

この一連の流れは、消費者に新たな選択肢を提示すると共に、新たなマーケットの創出という可能性を持っています。しかし、消費者に合成ダイヤモンドの価値を啓蒙するということは、市場に天然ダイヤモンドと合成ダイヤモンドの二種類が存在することを開示することに他なりません。
現在、ほとんどの一般消費者はダイヤモンド=天然ダイヤモンドだと認識しています。合成ダイヤモンドが存在していることを知らないのです。ですから、通常店頭で「このダイヤモンドは天然ですか?」と質問されることはまずありません。しかし、消費者が合成ダイヤモンドの存在を認識した場合、必ずそのことを店頭で問われることになります。

一方で市場に二種類のダイヤモンドが存在するということは、天然ダイヤモンドは天然ダイヤモンドとしての価値を打ち出せることになります。また、天然ダイヤモンドであることを証明して販売できるダイヤモンドは市場の需要が増えてくることも予想されるでしょう。
現在、HRD Antwerpが製造しているメレダイヤモンドのスクリーニングシステム、M-Screenは生産数を大幅に上回る注文が殺到しており、製造ラインがフル稼働している状況です。M-Screenを使用してメレをスクリーニングしているメレダイヤモンド取り扱い業者においては、メレダイヤモンドの注文が急増しているとの報告も入ってきております。日本でも既に先月からM-Screenの導入、稼働がスタートしました。

日本でも大手ブランドで合成ダイヤモンドの展開がスタートするXデーはそう遠くないと思います。それまでに、各社が合成ダイヤモンドに対するスタンスと対応を早急に検討する必要があるのではないでしょうか。
Sarine Profileは以下より詳細ご確認いただけます。また、お問い合わせは日本代理店、株式会社AP(03-5818-0361)で承っております。
http://sarine.com/products/sarine-profile/
■連載コラム No19

ダイヤモンド販売は、大きく変革

アメリカで取り組みがスタート

スマホの急速な普及と共に普及したものの一つに、QRコードがあります。二次元コードとも言われる、スマホのカメラで読み取る模様のことです。特に最近は、注意して見てみると実に様々なものにQRコードが付いていることに気付かれると思います。
カナダのバンクーバーを拠点とする「エシカルビーンコーヒー」というコーヒー豆を販売する会社があります。エシカル(倫理的)との名前の通り、同社はフェアトレードとオーガニックにこだわったコーヒー豆を展開しています。そして、フェアトレードとオーガニックの透明性を確実にするために、同社のひとつひとつの製品にはQRコードが付いています。これをスキャンすると、原産地だけでなく、生産者の情報、ローストした日、オーガニック認証プロセス、そしてコーヒー豆が製品になるまでの過程を全て見ることができます。コーヒー豆が収穫されてからカップに注がれるまでの過程を全て開示しているのは、同社の製品への自信、そして生産に関わった人々への信頼の表れです。

フェアトレード、オーガニックと謳っていても、消費者にとってはその内容がイメージできなければ「ただのコーヒー」でしかありません。しかし、QRコードからそのコーヒーのバックにある色鮮やかなストーリーに触れた瞬間、それは「特別なコーヒー」へと突如変化します。おそらくそれは、隣に置いてあったその他多くのコーヒーではなく、エシカルビーンコーヒーを購入する十分な動機付けとなることでしょう。
これはほんの一例ですが、スマホが普及するにつれ消費者は手にする商品に関して実に多くの情報を得るようになりました。しかし消費者が大きく変化する一方で、ダイヤモンドジュエリー販売は過去何十年も基本的には変化していません。

しかし、皆さんもご存知のように全てのダイヤモンドは個性的で、実に興味深いストーリーを持っています。店頭ではデザインとプライス、そしてブランドの説明をしていますが、ダイヤモンドに関しては4Cを簡単に説明する程度ではないでしょうか。言うまでもなく、ダイヤモンドジュエリーの価値はダイヤモンド自体にあります。しかしダイヤモンドについての説明が4Cに留まっているため、そのダイヤモンドの個性と価値を明確に伝えられていないのではないでしょうか。

今年、アメリカのある大手ジュエリーチェーンはSarine-Profile™(サリネ・プロファイル)の導入をスタートしました。全てのダイヤモンド製品のタグにはQRコードが付けられています。お客様が商品をご覧になる際、QRコードを読み込むことでSarine-Profile™のクラウドへとアクセスします。すると、そのダイヤモンドの4C情報はもちろん、輝きの評価、そしてルーペで自由にダイヤモンドを見ているような3D画像、H&Cの画像や、動画のブランドストーリーが展開されます。その瞬間、その商品は「数多くあるダイヤモンド製品」から「特別なダイヤモンドを使用したジュエリー」へと変化します。その結果、お客様は心から納得してダイヤモンドを購入されるようになり、同社では満足度の向上、そして購買体験の圧倒的な差別化(しかも現代の顧客に対応した差別化)によって好調なセールスを続けています。

Sarine-Profile™とは、Sarine Technologies社が提供するダイヤモンドの情報プラットフォームです。輝きの評価やSarine-Loupe™というダイヤモンドの3D画像をはじめ、あらゆるダイヤモンドの情報を統合し、一つのクラウド上のデータとして利用することが可能です。プラットフォームなので、情報は自由にカスタマイズしてデザインすることができます。

ダイヤモンドの購買体験をデジタルツールによって劇的にエキサイティングなものにデザインできるのです。そしてそのダイヤモンドの詳しい情報を知ることによって納得して購入を決定することができるようになります。
しかし実際、今の若い世代のお客様にとってこれはそれほど驚くべきテクノロジーではありません。冒頭のコーヒー豆の例のように、他業種では既に同様の体験が提供されています。
そして、ダイヤモンド販売においてはアメリカで取り組みがスタートしています。日本でも近い将来導入がスタートするでしょう。
Sarine-Profile™はあくまで現代の消費者に対応するソリューションの一例ですが、消費者の価値観は急速に大きく変化しております。特にスマホの普及によって消費者自身が商品の情報を能動的に調べることは当たり前になっています。ダイヤモンドも決して例外ではなく、いかに販売側がイニシアチブを持ちながら、消費者のリサーチをコントロールしていくかが今後のキーになってくるでしょう。それが現在の、そして今後の『標準』になる中、ダイヤモンド販売も大きな変革を迫られているのです。
6月頭、ベルギー・アントワープへ行きAWDC(アントワープ・ワールドダイヤモンドセンター)とHRDアントワープを訪れます。次回は現地から最新情報をお届けする予定です。
■連載コラム No18

自分自身の問題と考えるべきこと 
当たり前の「天然」を、どう活用するかで明暗

先月、山梨県水晶宝飾協同組合青年部の勉強会にお招きいただき、合成ダイヤモンドについてお話しさせて頂きました(関連記事1面)。1月のHRDアントワープとの共同セミナーにおいても、130名定員の会場が完全満員。今年に入ってから合成ダイヤモンドへの関心が高まっていると感じました。

しかし相変わらず、どこか他人事のように感じている方も少なく無いと思います。どこか遠くの国で起こっている内戦のように、自分のビジネスには無関係だと思っているかのようです。しかし、合成ダイヤモンドの問題は確実に日本のジュエリー業界に入り込んできています。2012年当時は「皆様の在庫にも混ざっている可能性もあります」とお話ししていましたが、今年に入ってからは「皆様お持ちの合成ダイヤモンド」と、あえて多少オーバーと思いながらもお話ししています。これは、日本でジュエリーに携わる方一人一人が、これを自分自身の問題だと考えていただきたいと思っているからです。

この機会に今一度、合成ダイヤモンド問題について振り返ってみたいと思います。
なぜ、「皆様お持ち」なのかもご理解いただけると思います。

既に記憶にない方も多いと思いますが、実はこの合成ダイヤモンド問題が最初に話題になったのは、10年以上前のことです。2005年3月の「ニューズウィーク」誌で、“あなたのダイヤ「本物」ですか?”という刺激的なタイトルで合成ダイヤモンド問題が取り上げられました。ニューズウィークと言えばアメリカを中心に世界中で発行されている週刊誌です。この記事では米国Apollo Diamond社のCVD合成ダイヤモンドに関して鑑別が非常に困難であること、そして近く市場に供給を開始するといった内容が掲載されました。当時一瞬話題になったものの、海外の記事であったことと、今後市場に流通するという段階だったため、文字どおり面白い『話題』として流れ去りました。これが、その後続く合成ダイヤモンド問題の「プロローグ」だったと言えるでしょう。

問題が急展開を見せたのは、2012年5月。アントワープのIGIに持ち込まれたダイヤモンドから大量にCVD合成されたダイヤモンドが発見され、宝飾用ダイヤモンドとして合成ダイヤモンドが市場に混入されているという事実が、白日のもとに晒されました。その後世界中で同様の発見事例が相次ぎ、問題視されたのです。これが、合成ダイヤモンド問題の「第1ステージ」です。日本国内では2013年以降、いたるところで様々な団体や人による合成ダイヤモンドセミナーが開催され、合成ダイヤモンドは看破不可能といった間違った噂も流れ、情報が錯綜する事態となりました。今でも、合成ダイヤモンドは看破不可能と思っている方や、ルーペやダイヤモンドチェッカーで判断可能と思ってらっしゃる方が少なくないのは、この時代の悪影響でしょう。

しかし、あれだけ騒がれた合成ダイヤモンドも、2014年後半頃から急に話題が出なくなりました。国内で合成ダイヤモンドに対しての警戒心が薄れたこの時期にも、海外での合成ダイヤモンド技術はずっと発達し続け、静かに、しかし確実に日本を含む世界のダイヤモンド業界を侵食してきたのです。

日本でやっと再び合成ダイヤモンドが問題視されたのは、2015年末になってからでした。しかし、それまでとは異なり2015年末以降大きく問題視されているのは、メレサイズの合成ダイヤモンドです。それ以前は主に大粒の合成ダイヤモンドに注目が集まっていました。実際、サイズと品質は年々向上しており、現在ではHPHT合成ダイヤモンドでは10.02ct、CVD合成ダイヤモンドでは3ct以上のものが報告されています。しかし、大粒のダイヤモンドであれば、ほとんどのダイヤモンドは鑑定鑑別機関でチェックされるので、合成ダイヤモンドが混入されていたとしてもラボで発見されます。(必要な機材と知識、経験を持った鑑定鑑別機関に持ち込まれた場合)

しかし、今問題になっているのはメレサイズのダイヤモンドです。多くの場合メレサイズのダイヤモンドは鑑別などのチェックを経ずに製品化され販売されます。そして、そのメレダイヤモンドのロットに混入されているという事例が相次いでいるのです。関連記事とも重複しますが、国内の鑑定機関においても、製品化されたメレサイズのダイヤモンドでの発見事例が昨年9月以降相次いでおり、今でも毎週のように発見されているのです。

「発見事例といっても、海外生産ジュエリーでしょう?」「うちは国内工場で生産しているから大丈夫!」と言う方もいらっしゃいますが、海外生産品が危険で国内生産品が安全という根拠は何でしょうか?そもそも日本ではダイヤモンドは産出されませんし、メレダイヤモンドのカット工場もありません。ということは、製品、ルースに限らず、全てのメレサイズダイヤモンドは海外から輸入されていることになります。メレサイズのダイヤモンドをカットする工場がある国は限られていますが、合成ダイヤモンドはその生産地でMIXされているのです。川上で混ぜられているのであれば、それがどこへ流通しようと混入リスクは変わらないというのは想像に難くないと思います。

特に中国は、HPHT合成ダイヤモンドの技術が大きく発達、大容量のキュービック型マルチアンビル装置により合成ダイヤモンドの大量生産が可能になりました。合成ダイヤモンドの大量生産と低コスト化の実現です。中国では世界中の工業用合成ダイヤモンドの9割を生産し、同市場は飽和状態にあり、いくつもの製造業者が宝飾用合成ダイヤモンドの製造へと方向転換しているようです。そのような理由から、メレサイズの混入リスクは、今後増加はしても減少することはないと考えられています。

海外でも国内でも、メレサイズの全量検査など行われていませんから、上記のような状況を考えれば、国内でも混入リスクが高いということは理解していただけると思います。

この状況で、今またニューズウィークや、最近話題の週刊文春のような週刊誌でこの問題が取り上げられたら、今度は単なる面白い『話題』では済まないでしょう。全ての企業、個人経営の小売店までもが対策に追われることになるのは目に見えています。

しかし、発想の転換をすれば今まで天然で当然であったダイヤモンドに、合成ダイヤモンドという新たな商品が発生することによって新たな価値が生じる可能性があるということです。海外の鑑定機関、HRDアントワープやIGIなど幾つかの機関では合成ダイヤモンド用のグレーディングレポートが発行されております。合成ダイヤモンドであることをはっきりと明記した上で、4Cのグレードが記載されているのです。これは今後、合成ダイヤモンドが新たなカテゴリーの商品として市場に出てくることを意味しています。

今までは天然で当たり前であったダイヤモンドですが、今後は天然であることをしっかり保証、証明することによって、天然ダイヤモンドであるということが新たな価値になる可能性もあります。メレも同様ですが、例えば全量スクリーニングや検査を行い天然ダイヤモンドであるということがしっかり言える、そしてそのための商品管理体制を整えているということが、価値の向上につながると言えるのではないでしょうか。何れにしても、ダイヤモンドを扱う全ての人は、この問題に目をつぶることはできないで
しょう。この問題が世間に露呈した時に初めて対応を考えるか、今から取り組むか、今後の明暗を分けるといえます。

幸い鑑別機関では合成ダイヤモンドの検出は可能ですし、自社で担保する方法としてはスクリーニングシステムの利用によって天然ダイヤモンドの粗選別を行うことが可能です。年明け以降、何社かの企業はすでに真剣に対応を検討開始しており、スクリーニングシステムの導入を既に決定、社内で天然ダイヤモンドの確認を可能にしているメーカーもあります。天然ダイヤモンドの担保と価値を打ち出すことにより、消費者信頼を守り、むしろブランド価値をより高める。そのような意識の企業、団体が今後さらに増えることを心から期待したいと思います。

今回書く予定だったSarine-Profile™の詳しいコンテンツについては次回説明したいと思います。
■連載コラム No17

「新たな街の創造」と「既存の価値の啓蒙」がアツい

近年、「所有」を前提としたビジネスは終わりつつあると言われています。所有しないビジネスとはどのようなものでしょうか。重要なキーワードは「サブスクリプションサービス」です。サブスクリプションサービスとは、簡単に言うと「定額制」のビジネスです。年額や月額の支払いでサービスを提供するもので、新聞や雑誌の定期購読、ケーブルテレビなどと同じと言えばイメージしやすいでしょうか。昔からある販売方法ですが、今一番アツいのはこのビジネスです。
なぜ昔からある形態のビジネスが今アツいのでしょうか。個人的な意見ですが、サブスクリプションのポイントは『新たな価値の創造』と『既存の価値の啓蒙』だと思います。

最近話題のairClose(t エアークローゼット)というサービスがあります。定額制ファッションレンタルサービスで、服の好みとサイズを登録すればプロのスタイリストが選んだ洋服を月額6,800円で借り放題というもの。しかもクリーニング代も送料も不要です。20代30代の女性に圧倒的な人気で、サービス開始後わずか1年で会員数は65,000人に達しました。
airClosetが提供するのは洋服ではなく、プロのスタイリストによる新しいファッションとワクワク感の出会いです。まさに新たな価値の創造です。ユーザーは服を所有することなく、クローゼットが着ない服でいっぱいになることもなく、新鮮な洋服を毎月無限に着続けることができます。

別のサブスクリプションで成功を収めているのはAdobe(アドビ)です。AdobeはDTPやWebデザイン、映像デザインに欠かせないPhotoshopやIllustratorなどのプロ向けの高額ソフトウェアを開発、販売している会社です。先のソフトはそれぞれ単体で10万円以上という高額で販売されていた高級ソフトです。
Adobeは2012年の夏から、ソフトの販売をサブスクリプションベースに変更しました。月間、年間での支払いが選択でき、月額980円から使用できるパッケージもあります。この改革で20%を超える新規顧客の獲得と230万件以上の契約顧客数を獲得しています。
この成功の理由は、もともと存在する高い品質の商品の導入のハードルを下げたことによる顧客拡大です。つまり、既存の価値の啓蒙です。Adobeのソフトウェアはもともと圧倒的な品質を誇っており、高いけど使った誰もが納得するバリューを持つものでした。サブスクリプションにより価値を体験したユーザーは強固なファンになり、より上位のサービス契約を結ぶようになり、Adobeは継続的な売上を得ることになります。

サブスクリプションから見えてくる今後のポイントは、既存の方法や固定概念にとらわれずに視点を広く持つことによって新しいサービスが生まれてくるということです。おそらく今後、すべての業態は限りなくサービス業に近くなっていくでしょう。製品が良ければ売れる、安ければ売れるという時代はもう終わっています。イメージが良ければ売れるという時代もまもなく終わるでしょう。今後は「差別化されたサービスを価値として提供できる商品」だけが残っていく時代へと突入します。

前回ご紹介したSarine-Profile™も、既存のジュエリーショップとは明らかに異なる差別化されたサービスの提供を実現しています。それを可能にしている技術のひとつが、クラウドベースのシステムです。ダイヤモンドの個々のデータには個別のURLが割り振られており、世界中どこからでも瞬時にアクセスできます。店頭のPCやタブレットからでも、そしてお客様がお持ちのスマホからでも、です。
Webサイトに載せることもできますし、メールで送ることもできます。QRコード化してしまえば、店頭タグ、ルースケース、DMどこからでも読み取ってアクセスできます。アクセスできるデータは次回以降で詳しく解説しますが、リアルなダイヤモンドそのもの、それ以上のダイヤモンドの全てを見ることができます。

現在、20代のスマホ普及率は95%以上と言われています。(50代では50%未満)
スマホは「物」であって「物」ではありません。スマホは、インターネットサービスにアクセスするための「手段」です。つまり、ほぼ全ての20代はインターネットを携帯しているのです。スマホの形は変わるかもしれませんが、インターネットを携帯するという状態が変わることはないでしょう。他業種のほとんどのイノベーションはその前提の上に発生しています。つまり今後のサービスは、多少極端に言うとスマホをベースに考える必要があると言えるでしょう。その意味でもSarine-Profile™は強力なツールになり得ます。
次回は、Sarine-Profile™のコンテンツについてさらに説明したいと思います。

Sarine Profileは以下より詳細ご確認いただけます。また、お問い合わせは日本代理店、株式会社AP(03-5818-0361)で承っております。
http://sarine.com/products/sarine-profile/
■連載コラム No16

新しい消費行動の対応は、シームレスな購買体験が鍵

「オムニチャネル」という言葉をご存知でしょうか。アメリカでは既に始まっているマーケティング戦略で、日本では昨年11月にセブン&アイ・ホールディングスが「オムニ7(セブン)」というサービスを開始しています。今後Web戦略が避けて通れない状況の中で、オムニチャネル戦略は重要な意味を持つと考えられます。なぜなら、スマホ時代のユーザーのマインドは既に変わっており、企業側がまだ対応できていないのが現状だからです。

「オムニチャネル」とは何でしょうか。販売チャネルを増やすことをマルチチャネルと言いますが、オムニチャネルは、それぞれのチャネルを連携させ顧客にアプローチすることを言います。リアル店舗はリアル店舗、ネットはネットと切り分けずに連携させていくことです。重要なのは売り手の論理ではなく、顧客側の論理に従ってチャネルを構築する。お客様が買いやすい状況を整えるということです。

現代のお客様は、店舗とネットを別々に切り離して考えてはいません。PCだけでネットをしていた時代は、店舗とネットの購買体験が異なることが当たり前でしたが、現在の消費者は店舗で商品を見ながらその場でネット検索し、店舗で商品を見てから後でネット購入するケースが非常に増えています。消費者の購買活動がとっくにシームレスになっているのに、企業側は未だに店舗とネットを切り離して考えている。例えば店舗とネットで価格が違う、受けられるサービスが異なる、店舗にあるのにネットで買えない、またはその逆など消費者にとって親切とは言えないサービスが多いのです。

一部の家電量販店は早くからこの問題に取り組み、配達時間の大幅な短縮化、ポイントの共有化、在庫の共有、店頭からWebへの誘導などで大きな成果を上げています。店舗とネットのサービス水準を可能な限り近づけることに注力し、結果を出しているのです。

しかし、通常の商品とは販売方法が異なるジュエリーでこのような取り組みは難しいように思えます。Web戦略とは大手チェーン店や量販店だけの課題なのでしょうか?

答えはNOです。スマホやSNSの普及により今後消費の中心となる新しい世代の新しい消費行動に、すべての業種が対応に迫られるはずです。店舗や広告で商品検討せずに口コミ情報を調べたり、発信したりすることが当たり前の時代になっています。最近の若いユーザーは知りたい情報がある場合は検索せずにTwitterなどでつぶやき、知っている人に教えてもらう方が早いという。そのような時代に既に突入していることを考えると、必要なことは顧客の購買活動に合わせて各情報を連携させていくということではないでしょうか。

前回の記事で少し触れたSarine Profile™は、イスラエル、Sarine Technologies社の提供するセールスプラットフォームです。個々のダイヤモンドのすべての情報がクラウド上に保管され、場所を選ばずアクセスすることが可能になっています。では、その一例を見てみましょう。

会社員Aさんは、半年後に結婚を控えた婚約者がいる。そろそろ婚約指輪をと思っていた時、Facebookのフィードに職場近くのジュエリーショップの広告が表示された。Webサイトでは他のジュエリーショップと異なる輝きのグレードが表示されたダイヤモンドがあった。仕事を終え、そのショップに下見へ。今まで訪れた他のショップでは販売員がオススメのデザインを勧めるばかりで、ダイヤモンド自体の説明を聞けず、心配があった。販売員が「本日は婚約指輪の下見ですか?」と接客ブースに案内。販売員はタブレットを使用し、ビジュアルでわかりやすく4Cを説明。そしてダイヤモンドの魅力である輝きについて丁寧に説明し、現物のダイヤモンドを見せながら、そのダイヤモンドの3D画像をタブレットで見せた。自分で自由に回転させたり拡大させたりして納得いくまで品質を確認できた。VS2というグレードで、内包物が目立つ場所ではなかったので安心して購入できると安心した。また店頭にはない他店舗の在庫も同じようにタブレットから見ることができ、まるで手元にあるようにすべてのダイヤモンドを自由に見ることができた。帰宅後Aさんはソファでスマホからメールをチェック、先ほどのショップからメールが届いていた。店頭で自分が見たダイヤモンドと、価格帯が近い他のダイヤモンドのデータが幾つか送付されていた。リングデザインも接客中に話した婚約者の好みに合いそうな幾つかのデータが添付されており、ダイヤモンドの3D画像や4Cデータ、輝きの評価を自宅でゆっくり見比べられ、緊張する店頭より安心して納得いくまで比較できた。翌日、ショップから新しいダイヤモンドが入荷したとデータが送られてきた。価格は昨夜見たものとほとんど変わらないが、見た目が綺麗だったので非常に気に入った。このダイヤモンドの3D画像などのデータをLINEで婚約者に送り、意見を聞いた。彼女はすっかりそのダイヤモンドを気に入ったようだ。自分の親にもデータを見せ、家族で盛り上がったと教えてくれた。早速ショップに連絡を入れ、次の週末に彼女と一緒に伺いこのダイヤモンドを購入する予定だと告げた。彼女はF a c e b o o kや
Twitterにダイヤモンドのデータをアップして友達に自慢しているようだ。__

いかがでしょうか、これがSarine Profile™が提供するシームレスな購買体験の一例です。幾つかのポイントがあったことにお気づきでしょうか。ターゲットへのダイレクトな広告、店舗への誘導、タブレットを使ったわかりやすい商品説明、小さくて見辛いダイヤモンドをしっかりと説明するツール、店頭にない在庫も提案できる在庫効率化の実現、自宅での詳細な商品検討、来店されなくても追加提案が可能な顧客コントロール、SNSによる情報拡散など、正にシームレスな購買体験を実現しています。

ジュエリー販売例としてイメージすると、どこか近未来的でSFのような気がしますが、他業種では既に当たり前のように実現していることの一つです。そして何より、新しい世代の消費者は既にこの体験に慣れているのです。今後様々な業種でこのようなシームレスな購買体験が当たり前となっていく中で、ジュエリー販売にも同様の体験が必ず求められてくるのではないでしょうか。

次回はSarine-Profile™の一つ一つの機能について掘り下げてご説明いたします。
■連載 No15

2016年に明暗を分けるのは、責任ある取引先、保証できる販売

先月は東京ビッグサイトにて国際宝飾展「IJT2016」が開催されました。弊社は例年通りAPとSarine Technologiesという2つのブースにて出展させていただきましたが、今回はAPブース内にHRDアントワープのブースを併設し、メレサイズのダイヤモンドスクリーニングシステムのご紹介をさせていただきました。実はこの機器は昨年9月の香港ジュエリーショーでHRDアントワープが初めて発表した最新のもので、当時の香港ジュエリーショーでは機器のデモンストレーションの予約が毎日フルに埋まっており、アポイントなしでは見ることができなかったほどの注目を集めていたものです。IJTにおいても数々の企業様がブースに訪れ、お問合せやご質問をいただくなど、国内においても合成ダイヤモンド問題への高い意識を持っている会社が確実に増えてきたのではないかと感じました。

昨年も何度かこのコラムにて書かせていただいておりましたが、海外では合成ダイヤモンド問題への意識が非常に高く、このようなデモンストレーションがあると必ず高い注目を集めております。そして各企業が合成ダイヤモンドに対する自社のスタンスをしっかりと決めているように見受けられます。その証拠の一つが、合成ダイヤモンドの鑑定書の存在です。現在、HRDアントワープ、GIA、IGI等の鑑定機関では合成ダイヤモンド用の鑑定書を発行しております。合成ダイヤモンドを明示した上で取り扱うことは問題ではないので、企業によっては合成ダイヤモンドをビジネスとして活用し始めているということです。
各企業が合成ダイヤモンドに対してどのようなスタンスを取るにせよ、前提としてダイヤモンドの正しい知識を持っているということがまず必要になると思います。天然ダイヤモンドだけを取り扱うとしても、知識は必要になります。

その意味合いも含めて、今回IJT会期中に日本初となるHRDアントワープ「合成ダイヤモンドセミナー」を開催させていただきました。鑑定機関はもちろん、特に大手小売りチェーンや百貨店、メーカーの方のご出席が非常に多く、130の座席が完全満席となりました。そのため、当日ご参加希望をいただいた方々についてはお断りさせていただく結果となり、申し訳なく思っております。

近年は特にメレサイズの合成ダイヤモンドの混入が問題視されており、今回のセミナーも特にメレサイズダイヤモンドへフォーカスを当てた内容となりました。
今まで合成ダイヤモンド問題というと、比較的大きい石にばかり目が行きがちでした。しかも海外の鑑定機関で発見されたという話題が多く、日本のダイヤモンド業界関係者としては、どちらかというと対岸の火事のような気分で見ていた方も多かったのではないでしょうか。しかし、現在問題になっているのはメレサイズです。鑑定機関でソーティングすることが一般的なポインターサイズとは異なり、メレサイズはそのまま製品化するので多くの場合は合成ダイヤモンドが混入されていたとしても表面化しません。そのためメレサイズの天然ダイヤモンドへの合成ダイヤモンドの混入の実態がなかなかつかめないという問題がありました。しかし昨年末以降急激に、製品化されたメレダイヤモンドからHPHT合成ダイヤモンドが発見されるという事例が相次いでおります。既に合成ダイヤモンドは対岸の火事ではなく、我々の火種となっているのです。

背景には、合成ダイヤモンドの技術革新と、それに伴う生産コストの低下があります。また、工業用合成ダイヤモンドの供給過多による市場飽和によって、工業合成ダイヤモンド工場がどんどん宝飾用合成ダイヤモンドの生産へシフトしているという状況があります。今後この、供給量増加とコスト低下という状況はますます加速していくでしょう。

そのような中、ダイヤモンド業界では当然ですが過去とは異なる対応が必要となってくるでしょう。テクノロジーによるメレダイヤモンドのスクリーニングもその答えの一つかもしれません。また、本当に信頼出来るサプライヤーからのみ仕入れるという選択肢も当然ながらあるでしょう。何れにしても各社がこの状況にそれぞれ対応し、責任を持って取引先や消費者に説明できる知識を得ること、そしてどのようにダイヤモンドを保証するのか、その方法が各社の信頼において今後は不可欠であると思いますし、また2016年の明暗を分ける結果になるのかもしれません。

また今後はダイヤモンドの購買体験も今までとは変わっていくべきかもしれません。
ご存知の通り、ダイヤモンドは店頭では全て鍵のかかったショーケースに収められており、お客様は自由に手にとって商品を見ることができません。販売員にお願いして初めて手に取れますが、それでもプレッシャーなく商品を見るのは困難です。その意味で、ダイヤモンドジュエリーというのは特殊な購買スタイルを持っています。

しかし一方で、いわゆるスマホ世代、つまり今後のターゲットとなる世代のお客様は根本的に買い物における商品選定の基準が異なります。一定以上の世代の人々が(ジュエリーに関わらず)、店頭に出向き、販売員のアドバイスを受けて、そこにある商品を購入するのに対し、スマホ世代のお客様の多くは販売員のアドバイスより、自分自身で納得いくまで商品を調べることを好みます。また可能な限り多くの選択肢から最適なものを吟味したいという欲求を持つ方が非常に多いのです。私の知り合いの10代後半の息子さんは、ヘッドホン1つを買うのに毎晩ひたすらネットで調べ、スペックを比較し、最終的に店頭で現物を確認して購入したそうです。その期間は実に1週間かかったといいます。これは若干笑い話で極端な例かもしれませんが、スマホ世代の購買行動を端的に表している例と言えます。

今後はダイヤモンドも、自由にお客様が十分に調べ、比べ、そして納得して購入されるように工夫する必要があるかもしれません。上記の例のように、お客様は事前に自分でかなり下調べをしてからご来店される場合が非常に多いのです。実際私も業界外の友人からダイヤモンドを買いたいと相談されることがありますが、ほとんどの友人は事前に自分でかなり調べており、ダイヤモンドのグレードはもとより、セッティング方法まで希望として言ってきたりするのです。

小さい、そして高価なダイヤモンドを、お客様に納得いくまで調べて購入していただくのは困難だと思われるかもしれません。しかし、バーチャルだったらいかがでしょうか。セキュリティの問題も紛失の危険性もありません。お客様は店頭のタブレットで自由にそれぞれのダイヤモンドを心ゆくまで隅々まで調べ、比べ、そして遊ぶことができます。また、幾つか気になったダイヤモンドがあったらお客様のメールアドレスに、クラウドのデータへアクセスするリンクを送ることもできます。お客様は家に帰ってシャワーを浴びて、ソファでゆっくりコーヒーを飲みながまた自分が気になったダイヤモンドを吟味することもできますし、恋人や友達に見せながら意見を聞いて選ぶこともできるでしょう。お店側も、また新しいダイヤモンドが入荷したらお客様に追加の選択肢としてメールで送ることもできます。

これは全く新しいダイヤモンドの購買体験ですが、他業種ではそんなに珍しいことではないのかもしれません。しかし、スマホ世代のお客様にとっては「購入しやすい」宝石店になるのは間違いないでしょう。

そのツールは、Sarine Technologiesが提供するSarine-Profile™です。次回、このツールの詳しい説明をさせていただきたいと思います。

Sarine Profileの詳細は以下URLをご参照下さい。また、お問い合わせは日本代理店、晦P(03-5818-0361)で承っております。
http://www.hrdantwerp.com/en/product/m-screen
■連載コラム No14

中途半端なプロが淘汰される

新年明けましておめでとうございます。

昨年末、10年ぶりの新作となる「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」が公開となり、年を跨いで大ブームとなっています。皆さんご存知の通りスター・ウォーズシリーズの舞台は未来ではなく大昔という設定ですが、非常に高度な文明を持っており、医療や操縦、通訳、修理といった作業をドロイドと呼ばれるロボットが人間に代わって行っています。
以前、近い将来なくなる職業(人工知能やロボットに取って代わられる)ランキングというショッキングなニュースが発表され、記憶にある方もいらっしゃると思いますが、まさにそのような世界です。

しかし、人工知能やロボットがまともに仕事できるようになる時代なんてまだまだ先の話だと思っている方もきっと多いことでしょう。我々の業界で言えば、ダイヤモンドの買い付けをするロボット、ジュエリーの接客販売をするロボット、まるでSF映画のようでリアリティがありませんね。しかし、テクノロジーによって中途半端なプロが淘汰される時代と考えたらどうでしょうか。

数年前まで、DTPデザインなど画像処理技術を必要とする仕事は専門性が高く、その類のソフトウェアを扱えるだけでプロとして仕事ができた時代がありました。しかしPCスペックの向上やソフトウェアの発達により、少し勉強すれば誰でもある程度ソフトウェアを扱える時代となった為、本当に高度な技術や感性を持つプロフェッショナル以外は現在では淘汰されてしまっています。

Wix.com(ウィックスドットコム)というサービスをご存知でしょうか。イスラエルのテルアビブで設立された会社で、クラウドベースのホームページ作成ツールを世界190カ国以上で提供しています。少し前まで、いや今でもほとんどの人がホームページ作成は専門的な知識と技術がないとできないものだと思っているのではないでしょうか。確かに高度なシステムや徹底的にカスタマイズされたウェブサイトは高度なプログラミング技術が必要ですし、ウェブ制作会社に莫大な費用を払って作ってもらう必要があります。

しかし、このWix.comのサービスを使えば誰でも、主婦でも学生でも簡単に、しかも無料でホームページを作成することができるのです。もちろん、ある程度のセンスは必要ですが。無数に用意されたテンプレートから気に入ったものを選び、テキストを入れ替え、写真を差し替え、カスタマイズすれば出来上がり。すぐにプロが作ったようなホームページが公開できます。オリジナリティを出したければ、デザインも自由に変更して全くオリジナルのページも作成できますし、様々なアプリを追加できるので、問い合わせフォームや予約画面、スライドショーなども自由に設置できます。またクラウド上で制作しているので、アップロードなども必要ありません。「公開」ボタンを押せば即時に公開されますし、データはすべてクラウド上に保存されているのでIDとパスワードさえあれば、オフィスでもネットカフェでもどこからでも編集が可能です。

実は、APのウェブサイトや各ブランドサイトは全てこのWix.comで制作されています。私が仕事の傍ら片手間で制作したものですが、一つのサイトを作るのに要した時間は約2日ほどだったと思います。以前同じボリュームのサイト制作をweb制作会社で見積もりを取ったことがありますが、納期は3ヶ月、提示費用は200万円以上でした。

テクノロジーが普及して専門領域が侵されていくということは、必ずしもロボットが仕事を行うことだけを意味しているのではなく、「プロでなくてはできなかった仕事」が「誰にでもできる仕事」に変化していくということを表しています。そうなると、今後は素人が数クリックでできるような仕事を、お金を払ってまで中途半端なプロに任せようとは誰も思わないでしょう。

つまり、中途半端なプロは今後どんどん淘汰されていくということです。テクノロジーの進歩は素人のできることを飛躍的に増やしますし、大抵の情報はすぐ簡単に入手することができます。今後、全ての職業には圧倒的な専門性が求められてくるでしょう。
ダイヤモンド販売に関してはどうでしょうか、4Cを説明してブランドストーリーをただ語るのがプロフェッショナルでしょうか。ほとんどのお客様は事前にインターネットで4Cもブランドストーリーもある程度調べて来店されています。既にお客様が知っている情報を、もしかしたらお客様の方が詳しいかもしれない情報を説明するのがプロフェッショナルとは言えないでしょう。マニュアルに書かれたストーリーを復唱するだけなら、POPでも設置しておけば十分です。

また、今年からはSarine社が提供するクラウドサービスSarine Profile™も国内運用がスタートする予定です。お客様はタブレットなどで販売員よりも詳しくダイヤモンドについて吟味することができるかもしれません。

プロフェッショナルとして、販売員がダイヤモンドの知識を顧客よりも深く身につけ、プロとして商品の価値をしっかりと伝えることで、販売員は意味のある仕事といえるのではないでしょうか。そして、そのようなプロフェッショナルがしっかりと商品の価値をお客様に説明し提案出来る店、会社、そして業界は無くなることはないでしょう。

今、ダイヤモンドの鑑定業界ではどのようなことが起こっているかご存知でしょうか。ダイヤモンドのカットグレードは近い将来ポリッシュ以外は完全に自動化されるかもしれません。また、それがどのような基準で行われるのでしょうか。合成ダイヤモンドが問題となっていますが、合成ダイヤモンドとは具体的なものでどのような特性があるのでしょうか。天然ダイヤモンドとの違いは何でしょうか。どのように判別できるのでしょうか。テクノロジーが普及することによってプロフェッショナルへの要求度は上がってきますが、テクノロジーをより深く熟知し、その技術を取り入れることによってプロフェッショナルはより高いレベルの接客を手に入れることも可能です。

合成ダイヤモンドの判別も技術は進化し続けています。今月のIJTで日本では初めてHRDアントワープの合成ダイヤモンドセミナーが開催されます。このセミナーはダイヤモンドセミナーとしては異例ですが、「ベルギー王国大使館」が後援しております。これはベルギー王国の産業の大きな部分であるダイヤモンドに対し、関係者がいかにプロフェッショナルとして正しい知識を得、消費者への信頼を築くことが重要な時代になっているかを表しています。

2016年は、テクノロジーを取り入れる知識を深め、一人一人がプロフェッショナルとなることでダイヤモンド業界がより活性化することを願っております。

Sarine Profileの詳細は以下URLをご参照下さい。また、お問い合わせは日本代理店、晦P(03-5818-0361)で承っております。
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■連載コラム No13

フイットしたツールの使用が、今後の大きなポイント

「スマホ時代のダイヤモンドビジネス」というタイトルでコラムを書かせていただき、既に1年ほど経過しました。このタイトルは、今後のメインターゲットである世代の象徴である「スマホ」というキーワードを軸に、装飾品という古典的なアイテムへどう活用するか書かせていただきたいと思ってつけたものでした。

実際に書き始めた一年前に比べてテクノロジーは大きく進化しており、その中心にあるものは常にスマホでした。後述しますが、Sarine社の最新ツールもスマホ利用をメインにデザインされており、今後世の中のサービスのほとんどはスマホに集約されていくでしょう。

多くの人がスマホで利用しているものはSNSだと思います。つまり、FacebookやTwitterなどのコミュニケーションサービスです。私も大手のSNSは殆ど試していますが、それぞれのSNSで楽しみ方が異なり、それぞれに異なるユーザー、または異なる使い方をしているユーザーが存在しています。例えばFacebookでは面識のある実際の人間関係を中心として自分自身の情報発信、Twitterでは共通の趣味を持つオンライン上の繋がりを中心に思ったことを発信、Instagramではアカウントを自分のギャラリーとして興味を持つ人と交流、Pinterestでは同じくギャラリーですがネットで集めた情報の共有、といった感じです。

SNSで注目すべき点は、それぞれのユーザーがそれぞれのサービスに膨大な個人情報を提供しているという点です。ここで言う個人情報とは、個人を特定する情報だけでなく、趣味趣向、行動履歴、仕事、消費傾向などを含む情報です。

行動ターゲティング広告というものをご存知でしょうか?インターネットを見ている時に広告が表示されて、それがちょうど自分が欲しかったもので「なんでわかったの?」とドキッとされたことがあると思いますが、それが行動ターゲティング広告です。ユーザーが今まで訪れたウェブサイト、クリックしたコンテンツ、ネットショップの購入履歴などをもとに興味のあるジャンルを絞り、広告が表示されるというものです。

SNSの場合は前述の通り情報精度が非常に高いですので、さらにターゲットを絞り込んで広告を見込み客にリーチさせることができます。自分が広告したい商品のターゲット、職業、居住地域、年代、性別、結婚歴、子供の有無、所得、引越履歴、出身地、出身校、生活スタイル、興味のある商品ジャンル、スポーツ、映画、音楽まで絞り込んで、そのユーザーのSNSにダイレクトに表示させることができるのです。
加えて、スマホ世代は新聞も読まなければテレビCMもあまり見ない人が多いですので、SNSサービスは今後の広告を考える上で必ず外せない媒体となるはずです。

事実、この一年間のFacebookの広告収入は162億9000万ドルという数字を記録しました。Facebook傘下のInstagramも今年10月からフィード広告を開始しました。Facebook自体もFB内で繋がりのある友人の購入履歴からリコメンドをするような機能を追加するなど、SNSでの広告は今後一層発展していくでしょう。
一方で、TVCMや雑誌掲載などは消費者信頼(企業イメージ)には非常に有効なツールと言えます。しかし実際私もよくあることですが、TVCMをSNSで初めて見るということも珍しくありません。
個人的に使うかどうかは別としても、今後ますますSNSというある種の世界でのマーケティングというものは避けて通れない時代に突入していきます。その中でそれぞれのSNSへの理解を深めることはもちろんですが、それぞれのSNSにフィットしたツールを使うということは大きなポイントになるでしょう。すでに異業種では様々なアプリやスマホ用の動画広告を配信するなどSNSに注力しています。

冒頭に名前を出したSarine Profileは特にスマホ世代に特化したダイヤモンド販売ツールです。もしくは、ダイヤモンド広告、集客ツールとも言えるものです。スマホで使用するのに最適なデザインが施されており、ダイヤモンドのすべての情報が魅力的に集約されています。もちろんカスタマイズも可能なので目的に合わせて最適な情報を組み合わせることができます。データはクラウド管理されていますので、お客様はリンク先にアクセスするだけで、簡単にスマホでダイヤモンドの情報を見ることができます。

例えばこれをSNS広告と組み合わせて最適な見込み客に情報を届けることができ、そして魅力的なコンテンツを表示させることができたらどうでしょうか。
今まで莫大な広告料をかけ、不特定多数に情報発信していたものが、ピンポイントで最も効果的に情報発信できる、しかも瞬時に、そして安価でできるようになる時代がもう到来しています。
次回は2016年のテクノロジーの展望について書かせていただきます。

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■連載コラム No12

天然ダイヤモンドの価値を下げるかは、取り扱い企業次第

今回はSarine Technologiesの最新販促ツールについて書かせていただくつもりでしたが、前回のM-Screenの記事に多くの反響とお問い合わせをいただきましたので、今回も引き続き合成ダイヤモンドについて書かせていただこうと思います。
前回のコラムをご覧になった方には重複しての説明になりますが、『M-Screen』はHRD Antwerpが開発した合成ダイヤモンド、及びHPHT処理ダイヤモンドに対する自動スクリーニングシステムです。メレサイズ(0.01ct ‒ 0.20ct)のダイヤモンドを自動的にかつ大量に判別するためのシステムです。(毎時7,200-18,000pcs.)

前回記事を書かせていただいた直後より、多くの企業から当システムに関するお問い合わせをいただいております。背景にあるのは、天然メレサイズダイヤモンドへの人工ダイヤモンド混入リスクです。この現象は日本だけに限られているわけではありません。事実この『M-Screen』は2016年1月の発売予定にもかかわらず、初回生産ロットは既に予約で完売しております。世界中でメレサイズの合成ダイヤモンドに対する懸念がどれだけ大きいか想像に難くないと思います。

しかし、皆さんが懸念しているのはあくまで「天然への混入」です。前回も少し書かせていただきましたが、CVDをCVDとして販売するかどうかは各企業に選択の余地があります。
そもそも消費者は「天然」ダイヤモンドにどれだけの価値を見出しているのでしょうか。現在皆様のお店で主に買い物をしておられるお客様は40代50代の女性が中心で、もちろんダイヤモンドに特別な憧れを持たれている方も多いと思います。
しかし一方で、将来メインターゲットになる現在20代30代の女性についてはどうでしょうか。

エンゲージリングの取得率の低下を見ても明らかなように、20代30代女性のダイヤモンドに対する欲求は急速に失われています。これは天然ダイヤモンドの価値について我々がしっかり啓蒙してこなかったことの結果とも言えますが、別の要因もあります。
現在若い世代の女性はそもそもダイヤモンドを「キレイ」だと思っていないことが多いのです。ダイヤモンドを欲しいと思わない理由として「汚いから」という理由を、アンケートで挙げる女性も少なくないようです。恐らく、彼女たちがダイヤモンドに抱いているイメージが、主に親世代が持っている大きくてクオリティが低いダイヤモンドだからでしょう。そのような状況を作り出したのは、過去に大きさと値段だけでダイヤモンドを大量に売ってきた、このダイヤモンド業界そのものです。
そして彼女たちが現在欲しいと思っているのは、「キレイ」なスワロフスキーやキュービックジルコニアです。そのような価値観の女性に対して、「キレイ」で「クリーン」なCVDダイヤモンドを天然ダイヤモンドの半額で売るショップが登場したらどうなるかは容易に想像できると思います。

しかし、それが天然ダイヤモンドの価値を下げるかどうかは、天然ダイヤモンドを取り扱う企業次第ではないでしょうか。むしろ天然ダイヤモンドの価値を再認識させ、天然ダイヤモンドへの憧れを創り出す戦略も十分に可能だと思います。天然、人工という概念がなかった消費者に対して選択肢を提示し、それぞれの戦略を組み立てることによって新たな市場が開ける可能性があるのです。

現在、東京モーターショーが開催中ですが、若者の車離れが加速する中で各メーカーが消費者への新たな価値提案として力を入れているのが「自動運転技術」です。価値観が変動する中、新たな価値を提案することで消費者の関心を獲得し、同時に別の魅力を持つ既存の自動車への関心や価値も同時に高めることができるのではないでしょうか。しかし、VWのように消費者を欺くことだけは避けなくてはなりません。

人工ダイヤモンドの技術革新が進む中、その流れを完全にせき止めることは不可能です。であれば、まずは各社の取り組みとして天然ダイヤモンドとの混入を避けること。そして、人工ダイヤモンドが市場に出る前提で、自社の将来の戦略を組み立てていくことが重要になるのではないでしょうか。
次回は、Sarine Technologiesの最新販促ツールサービスについて書かせていただきます。

Sarine Profileの詳細は以下URLをご参照下さい。また、お問い合わせは日本代理店、晦P(03-5818-0361)で承っております。
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■連載コラム No11

海外でCVDの勢い増すダイヤモンドを取り巻く環境は変化している

先月、9月16日から香港ジュエリーフェアが開催され、訪れた方も多かったと思いますが、例
年に比べると若干盛り上がりに欠ける感があり、中国経済の影響を感じさせるものでした。そのような中で、今回は特徴的だった二つの傾向があります。

 ひとつは、CVD(合成)ダイヤモンド取扱業者の増加です。日本国内ではここ最近は話題としてだいぶ下火になっている感のあるCVDですが、香港等海外ではむしろ勢いを増している感があります。昨年までは比較的少数だったCVD取扱業者が今年は非常に目立つ形で出展しており、会場内外にポスターや大きなバナーなどを出している光景は、今後のダイヤモンド業界を象徴して
いるような気にもさせました。価格的にも1/4サイズのアスキングプライスは、ラパポートの6割ダウン程と以前に比べコストダウンしているように見えます。
 また、幾つかの鑑定機関では合成ダイヤモンドに対して「LABORATORYGROWN DIAMOND(研究室で造られたダイヤモンド)」として4C鑑定書を付与しているなど、合成ダイヤモンドを取り巻く環境は確実に変化していると言えるでしょう。

そしてもう一つの傾向は、会場で特に注目を集めていた一つのブースの存在です。そのブースは予約制になっており、会期中毎日数十分間隔でセッションが組まれていましたが、事前の予約でほとんど全てが埋まってしまっており、当日デモンストレーションを希望する業者が全て門前払いをされるほどの人気でした。

そのブースの名前は『HRD Antwerp』、そして人々が目当てにしていたのはHRD Antwerpが発表した『M-Screen』というマシンでした。

HRD Antwerpはベルギー・アントワープに位置する鑑定機関で、AWDC(アントワープワールドダイヤモンドセンター)によって運営されている世界最大のダイヤモンド研究機関です。世界的にも最も高い信頼性を持つ鑑定機関の一つで、ダイヤモンド鑑別・鑑定機材の開発にも注力しています。
今回H R D A n t w e r pが発表した『M-Screen』というマシンは、大量のメレサイズのダイヤモンドを自動的に天然ダイヤモンドと、そうではない可能性のあるもの(合成ダイヤ又は処理ダイヤの可能性があるもの)に振り分けることが可能です。超高速処理を可能としており、毎秒2
ピース、最大で毎秒5ピースのスピードでダイヤモンドが振り分けられていきます。
実際私も会場で実機のデモンストレーションを見ましたが、150ピースほどのダイヤモンドが1分に満たないほどの時間で完全に区別されていきました。

元々、HRD Antwerpは天然ダイヤモンドの判別デバイスとして『D-Screen』という機器を開発、販売していました。これは0.20ct以上のダイヤモンドを一点一点検査するデバイスで、高い精度と検査スピード、そして小型で携帯性に優れているものです。
私自身『D-Screen』についてお問い合わせをいただくことも非常に多いのですが、お問い合わせいただく方が決まって最初に質問されることは「メレサイズ測定の可否」です。どれだけ小さいダイヤモンドの判別が可能か、ということですが、これは市場においてメレサイズ合成ダイ
ヤモンド混入の懸念が大きいということを表しているのではないでしょうか。
実際私がお話ししたある会社では、市場のメレサイズダイヤモンドは信用できないので、10年以上前の製品を買取りしたものからメレを外して使っているという方もいらしたほどです。
■連載コラム No10

最高のお客様へのサービスは、自信をもって「本物」を説明できること

前回、お客様は自由にネットとリアルを行き来しており、魅力的で上質なものをケースバイケースで選択していると書かせていただきました。
これは逆の言い方をすれば、実はお客様はネットとリアルを区別していない、ということになります。一昔前は、ネットを使うためには固定されたPCの前に座ってマウスを握る必要がありました。「ネットサーフィン」という言葉は現在ほぼ死語となっていますが、これもかつては「ネットをする」こと自体が特別であったことを象徴しています。今では常にネットに繋がっていることがもはや「普通のこと」なのです。

この、ネットに繋がることが「普通のこと」である現代のキーワードが『I o T( I n t e r n e t o fThings)』というものです。日本語では「モノのインターネット」というピンとこない言葉に訳されていますが、今まではインターネットと無縁だった様々な“モノ”がネットに繋がることにより、情報をやりとりするということです。身近な例ですと、外から操作できるエアコン、私も使用していますが測定するたびに自動でデータをスマホに送って分析してくれるヘルスメーター、運動量を測定するシューズ、GPSで紛失してもすぐ見つかる財布など、今まではネットと無縁だったものが続々とネットと繋がりだしています。スーパーで買い物中に中身を確認できる冷蔵庫、なんていうものもあるのです。

これは消費者にとっては単純に「世の中が便利になった」という話しですが、我々企業サイドから見ると、顧客へのアプローチを考える際にネットとリアルを融合させなくてはならない、という話になります。消費者自身は、自分が今「ネットを使っている」ということを意識していない場合が非常に多いからです。
この議論をすると、「ダイヤモンドは現物を見ないと分からない。まして写真で魅力は伝わらない。」という話が必ず出ます。しかし、触らなければ質感のわからない洋服、座ってみなければ心地良さのわからないソファ、目で見なくては鮮度の不安な食品など、今では普通にネットで購入されているのではないでしょうか。

これはもちろん消費者意識の変化も大きいと思います。しかし一方で、アパレル業界が上質で丁寧な情報発信をしてきたことの結果とも言えます。アパレルとジュエリーでは価格帯も異なるので、同じ形態での販売が即可能かどうかはわかりませんが、他業種と同じ上質なコンテンツの発信をしていくことで、お客様にダイヤモンドへの魅力をコンテンツ上で感じていただけることは間違いないでしょう。
逆説的に言うと、他業種で様々な情報発信をしている現代、魅力的なアプローチがない商品への興味を消費者が急速に失う可能性があるということです。

消費者への魅力的なアプローチは様々なものが考えられますが、そのひとつの答えが、Sarine-Profile(サリネ・プロファイル)です。Sarine-Profile(サリネ・プロファイル)はダイヤモンドの個々の詳細な情報を、店内であってもオンラインであってもシームレスにお客様に提供します。お客様は最先端でインタラクティブな体験を通して正確で詳細なダイヤモンドのすべての情報を得ることができます。

そのSarine-Profile(サリネ・プロファイル)を構成する機能の一つがSarine-Light(サリネ・ライト)、つまり輝きの評価です。

消費者がダイヤモンドを購入しようとするときに最初にぶち当たる壁が、4Cではないでしょうか。4Cは希少性の目安ですから、必ずしもダイヤモンドの美しさを正確に表現したものではなく、一方で輝きが価値であるダイヤモンドを選ぼうとするときに4Cだけでは販売側もダイヤモンドの輝きという価値を十分に説明ができません。これが、定価の存在しないダイヤモンドという商品特性と組み合わさり、今まで消費者に不信感を与えてきた一因ではないでしょうか。

Sarine-Ligh(t サリネ・ライト)は今まで主観でしか判断のできなかったダイヤモンドの輝きに、再現性のある一定の評価を客観的に与えるという意味で消費者信頼に大きな意義を持ちます。

現在主流となっているダイヤモンド(特にブライダルジュエリー)販売方法は、『ストーリー型販売』です。商品そのものではなく、イメージや雰囲気、付加されたストーリーで販売をするというものです。
確かに、商品の価値は実態のある“モノ”だけではなく、それに対するサービス(ストーリー)によって生み出されますが、それはその“モノ”(素材)がしっかりとした価値があるという大前提の上に成り立ちます。神話や幸運やモチーフの意味を説明しても、素材そのものが自信を持ってお勧めできるもの、そしてその根拠を説明できるものでなければ、それは価値のある商品とは言えません。本来、『本物』でなければストーリー自体が成り立たないのです。

そうであれば、我々はダイヤモンドのプロフェッショナルとして、自信を持ってお客様にご提案できる『本物』のダイヤモンドを持ち、そしてその価値をしっかりとお客様に説明することこそが、最高のお客様へのサービスと言えるのではないでしょうか。
自店には、自信を持ってお客様に説明できるダイヤモンドはありますか?そのダイヤモンドは、どこでどのように生産され、研磨されたかご存知ですか?そのダイヤモンドがどのくらい輝くのかご存知ですか?そして、それをお客様にしっかりと説明できるでしょうか。

我々は誇りあるプロフェッショナルとして、自信を持って提案できる『本物』のダイヤモンドをしっかりと取り扱う必要があると思います。そして、それが『本物』のダイヤモンドであれば、輝きをお客様にしっかりと説明することは、差別化されたサービスの部分に該当します。

『本物』の価値を持つダイヤモンド、そしてダイヤモンドの輝きについて明確で説得力のあるプレゼンテーションが可能な唯一のツールであるSarine-Ligh(t サリネ・ライト)を含んだSarine-Profile(サリネ・プロファイル)は、お客様にとって本当に魅力を感じていただける商品となるはずです。
次回は、Sarine-Profile(サリネ・プロファイル)のその他の機能と活用法についてご説明します。

Sarine Profileの詳細は以下URLをご参照下さい。
http://sarine.com/products/sarine-profile/
■連載コラム No9

Online to Offlineの考え方から複合的に判断する購買客の獲得へ

オンラインから消費者を自店に誘導するという話を前回も書かせていただきましたが、これはマーケティングとしてはOtoO(Online to Offlineオートゥーオー)と言われている考え方です。2011年ごろからよく言われるようになっており、オンラインからオフライン、オフラインからオンラインに送信する事を意味しています。
私は普段ヨドバシカメラでよく電気製品を購入しますが、他の家電量販店と比べてWeb戦略と顧客囲い込み戦略が抜きん出ていると感じることが多々あります。ヨドバシカメラはもちろん実店舗も好条件で集客を見込める場所にあり、web戦略に力を入れる必要もなさそうですが、実際にはwebでの売り上げが1,000億円を超える勢いです。しっかりとユーザー視点でシステムが作られているので私もよく利用しますが、豊富な品揃えはもちろん、都内であれば基本は翌日、商品によっては当日配送可能と、Amazon.co.jp以上とも思えるサービスを展開しています。
また、実店舗を構えるからこその戦略として、web上で購入、店頭で受け取り可能なサービスも提供しており、店舗によっては24時間対応、つまり夜中であっても商品が受け取れる仕組みを作っています。店頭はショールームとして活用されており、店頭で実商品を十分吟味したお客様が帰宅してからゆっくりwebで買い物、というケースもかなり多いとのことです。店頭購入の場合は送料がかかるのに対して、web購入の場合送料が無料ですし、店頭の商品バーコードをスマホアプリで読み込むと(店舗にいるのに!)web上で購入可能になるなど、しっかりした戦略が組み立てられています。

ヨドバシカメラの事例は、いかにweb上で商品を販売するか、という単純な話ではありません。実店舗を持つ小売業がweb戦略によっていかにお客様に魅力を感じていただけるか、そしてそのポテンシャルがあるかどうかが問われているということです。

実際はユーザーはネットとリアルを明確に区別して行動しているわけではありません。これには急速に発展してきたスマホに代表されるデバイスの進歩が関係しています。常に自分に有益な情報を得られるユーザーは、その場その場でネットとリアルを自由に行き来して購買活動を行っています。まさに、ヨドバシカメラで実店舗とwebをケースバイケースで使い分ける現代のユーザーによって象徴される通りです。企業側やコンサル会社がネットユーザー、それ以外と単純化している客層はほとんど存在していないということになります。ユーザーは企業やブランド、店舗や販売員に価値を見出して買い物をしているのです。ユーザーはオンラインからオフラインにというような単純一方通行のアクションではなく、オンラインとオフラインを行ったり来たりしながら、複合的に判断して買い物をる時代になってきているのです。
今後は、顧客とどれだけ上質な接点を持てるかにポイントを置いて、テクノロジーを活用することが大切になってきています。つまり、オンラインであってもオフラインであっても、どれだけ『魅力的』で『上質』なコンテンツや情報を提供できるかということが顧客獲得のキーになっているのです。

Sarine Profileの詳細は以下URLをご参照下さい。
http://sarine.com/products/sarine-profile/
■連載コラム No8

オンラインから、いかに店舗に誘導するかがキーポイント

アメリカはオンライン販売先進国としても知られています。実際、アメリカ市場では結婚する男性の9%がインターネットでダイヤモンドを購入しています。
中でも最も成功しているのがご存知のBlue Nile(ブルーナイル)で、アメリカのダイヤモンド市場でティファニーに続く第2位のシェアを占めています。ここにも「スマホ世代」に対応するための大きなヒントが存在します。Blue Nileが掲げるキーワードは「Education(教育)」と「Guidance(ガイダンス)」というジュエリーとは一見かけ離れたものです。実際にBlue NileのECサイトを訪れた経験のある方であれば、サイト内でダイヤモンドの説明(教育と案内)に割かれている分量が突出して多い事に気づかれたと思います。実はこれはBlue Nileの創業者の経験がきっかけになっています。

Blue Nile創業者のマーク・バードン氏は、もともとダイヤモンド業界とは無縁の経営コンサルタントでした。当時28歳のバードン氏はエンゲージメントリングを購入するため、ある有名宝石店を訪れました。購入候補として考えていた17,000ドルと12,000ドルの指輪の価格差の根拠を販売員に尋ねた彼は、信じられない返答を耳にしました。「どちらのダイヤモンドがお客様に語りかけてきますか?」これだけ高額の買い物をしようとしている顧客に対して、何の役にも立たない馬鹿にした返事だと感じたバードン氏は手ぶらで店を去り、そして自分でインターネットで調べることによって、この問題を解決しました。そして後に自分が感じたニーズを満たすためにBlue Nileを設立、ECサイト内で消費者に正しい宝石の知識と情報を与えることで大きな成功を納めました。

男性は女性と異なり、本質的にテクニカル的なことを気にするので、男性がリングを用意してプロポーズする文化のあるアメリカでは、この手法が効果的だったのかもしれません。しかし、男性であっても女性であっても品質の根拠をしっかりと納得したい、客観的な根拠が欲しいという事は共通しています。特に近年の「スマホ時代」において
は、特にその傾向が強いと感じます。実際、似たようなサイトがある場合、商品だけではなく消費者に有益な教育的情報が多く掲載されたサイトの方がユーザーの滞在時間が長く、リピート率も高いというデータがあります。

日本ではまだオンライン販売がそこまで一般的ではありませんし、裏を返せばアメリカでも9割以上の人が実店舗でダイヤモンドを購入している事になります。しかし間違いなく言える事は、そのほぼ全ての消費者がオンラインでリサーチをしてから来店しているという事実です。ですから今後数年間の「スマホ時代のダイヤモンドビジネス」でキーになる戦略は、いかにしてオンラインから実店舗に消費者を誘導できるかにかかっています。サイト上で消費者に有益な情報、知りたいと思う事を説明し、その上で自社の優位性を示すという事です。また、自社のダイヤモンドを消費者の「選択肢」のトップに入れてもらうよう、ネット上で自社のダイヤモンドの特徴と品質の根拠をしっかりと示す必要があります。

前回ご紹介したSarine Profile(サリネ・プロファイル)は、この分野に特化したシステムです。教育、品質の客観的な根拠、ダイヤモンドの外観、そして信頼性を消費者に提案することが可能です。それも、お客様の手に収まるデバイスの中で。今後「スマホ時代」の傾向がますます強まる中、オンラインから消費者を自店に誘導するこれ以上ない強力なツールとなるでしょう。
次回、皆様のビジネスに具体的にどう組み込めるのか詳しくご説明します。

Sarine Profileの詳細は以下URLをご参照下さい。
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■連載コラム No7

もしかしたら経験の浅い販売員よりユーザーの方が詳しい

今までのコラムでは、テクノロジーのポテンシャルを中心に書いてきましたので、おそらく皆様の中にはテクノロジーが既存のビジネスを単に破壊すると考えておられる方も多いかと思います。実際に、長いスパンで考えれば、その可能性は大きくあるでしょう。しかし現実的には年初にも書かせていただいた通り、数年タームでのマーケット変化に現状のビジネスを対応させていく必要があると思います。

5月号のRAPAPORT誌を読まれた方もいらっしゃると思いますが、アメリカのジュエリー、特にブライダル市場は変化しています。各市場に特異性があるので、今の日本に完全に当てはまる訳ではありませんが、今後のマーケットを予測する指標として非常に重要です。特筆すべき点としては、(日本市場でも同じ現象が起こっていますが)消費者自身が完全な素人ではなくなっているという事です。以前はエンゲージメントリングを購入する消費者は「ダイヤモンドファーストユーザー」で、ダイヤモンドに対する知識を持たず、小売店がコンサルティング的なセールスをする事によって、お客様の意思決定をある程度左右できると考えられていました。その意味でかつて宝石店は、消費者の意思決定に大きな役割を果たしていましたが、もはや今はそうではありません。

消費者は、実際に店に足を運ぶ前に多くの時間をインターネットでのリサーチに費やしています。インターネットでブライダルジュエリーを探すと言うと「ゼクシーネットでしょ。」と言う方もいらっしゃいますが、実際のネットリサーチは想像以上に複雑化しています。もちろんブライダル情報サイトも重要な情報源の一つですが、現在のブライダル層はもっとフレキシブルです。FacebookやPinterest等のSNSを活用して情報を共有し合い、気になる商品はさらに掘り下げて、様々なサイトから情報収集をしています。彼らは常にスマホを携帯しており、いつでもオンラインで情報を入手できるのです。出勤中、昼休み、そして就寝前にベッドの中でと、時と場所を選ばず幅広くリサーチします。結果として、ショップに足を運ぶお客様は、私たちの想像以上に多くの知識と情報を得ており、お客様自身が自分をある程度スペシャリストだと感じるほどまでに達しているのです。もしかしたら、お客様は経験の浅い販売員よりダイヤモンドに詳しく、マンネリ販売を続けている中堅販売員よりも他店の商品や流行のブランドに詳しいかもしれません。まさに今世の中で起こっているのが、「スマホ時代」の世代による市場の変革と言えるでしょう。
お客様自身が確かな知識を得ている現在、近年のスタイルであるイメージ先行型のストーリー販売も厳しい時代に直面していると言えるでしょう。

この時代の変化に対応するためには同じツールを使い、お客様が何をどうやってリサーチしているのか販売店側も知る必要があります。もし、個人用・ビジネス用含めてまだガラケーしか持っていない方がいらっしゃいましたら、読み終えたらすぐ携帯ショップに行ってスマホを購入される事をお勧めします。何れにしても、近年のムーブメントは彼らの手のひらに収まる画面の中で起きているのです。

この続きは長くなるので、今回特別に7月15日号に続きを掲載しますのでご覧ください。次回はオンラインの成功事例から見る戦略に続きます。

Sarine Profileの詳細は以下URLをご参照下さい。
http://sarine.com/products/sarine-profile/

■連載コラム No6

既存のビジネスがテクノロジーに取って代わる可能性

少し前になりますが、英オックスフォード大学准教授が発表した論文『雇用の未来』が世界で話題になりました。記憶に新しい方もいらっしゃると思います。内容は「テクノロジーによって今後10年間に消滅する仕事」を702業種徹底的に調査し、それぞれの業種ごとにパーセントで分類したものでした。例えば「Google Car」などの無人、自動運転技術によりドライバーという職種は消滅するでしょう。また単純作業の機械化ばかりに目が向きがちですが、ビッグデータの活用によって非ルーチン作業をルーチン化することが可能になります。

私たちの業界ではどうでしょう。前述の通り、すでにダイヤモンドのカット技術は高度に機械化が発達しています。流通は正確なデータ管理によって効率化され、以前のように買付けをする必要は急激に減少してきました。肝心の販売に至ってはオンラインの脅威をまさに感じておられると思います。
先日、イスラエルのSarine本社へ出向き、今後の方向性や戦略についての会合を行ってきました。既存の技術はより深く、精度を高めていくことで企業優位性をますます確立していきます。例えば、ダイヤモンド原石の内包物をスキャンする機械では、VVS1としても認識されないレベルの微細なクラウド状の特徴をスキャンすることが可能になりました。

一方で、Sarineは、エンドユーザーへの販売ツールへと舵を大きく切り始めています。Sarine Profile(サリネ・プロファイル)という新しいサービスを今後進めて行く計画ですが、これは研磨済ダイヤモンドのほぼすべての情報をクラウド上で管理することになります。『通常光での見た目・4C情報・輝きのグレード・3Dルーペ・H&C画像・プロポーションデータ・鑑定書PDF・各項目の解説』が一つのデータにまとめられ、世界中どこでも瞬時に閲覧可能になります。
まさに、「流通・販売」までがオートメーション化され、既存の仕事は取って代わられる可能性があると、目の当たりにして感じた瞬間でした。
テクノロジーは止まることを知らず、この瞬間にもより高い技術が誕生していることでしょう。さて、本当に私たちの仕事は機械に取って代わられてしまうのでしょうか。私の個人的な見解では『NO』です。しかし、既存のビジネスは近い将来終焉を迎えるでしょう。では生き残るビジネスとは何か、それは「テクノロジーを最大限に活用し、クリエイティブな人間の感性を用いたジュエリー販売」です。お客様の潜在ニーズを探り出し、スタイルに合わせた商品提案とコーディネートを行い、価値観に合わせた品質の説明、場合によってはワンランク上の商品提案を行い成約する。これは機械化されることはないでしょう。その上で、テクノロジーを取り入れアドバンテージとしてフル活用するショップが今後の勝ち組になると考えられます。

オックスフォード大学准教授の弁を借りれば、「人類にとってこれは歓迎すべきこと」です。テクノロジーが可能なことはすべて任せ、我々はより高次元でクリエイティブなことに集中できるようになります。これはお客様にとって、より良い商品と、質の高い接客・サービスを提供できるようになることを意味しています。先ほどのSarineProfileでは、お客様により詳細な情報と多くの選択肢を提供することになりますし、その技術を武器に販売店はワンランク上のサービスを実現できます。
次回はより具体的なビジネス導入方法についてご説明します。

Sarine Profileの詳細は以下URLをご参照下さい。
http://sarine.com/products/sarine-profile/
■連載コラム No5

当たり前のテクノロジーの活用で、商品価値を正しく、わかりやすく伝達

現代のテクノロジーを当たり前のように日常的に使用している「スマホ世代」の感覚は、百年以上も昔から変わらないビジネスを続けてきている私たちの業界にとってはかなりのギャップがあると感じます。しかし私たちの多くの人々も一度仕事を離れてプライベートになれば途端に「スマホ世代」です。LINEで家族や友人と連絡を取り、Facebookで近況を共有したり、A m a z o n で買い物をしたり、YouTubeで動画を見たりしているのではないでしょうか。

タイトルにもなっている「スマホ時代のダイヤモンドビジネス」ですが、私たちが日常的に体験しているテクノロジーを、どのように私たちのビジネスに活用することができるのかということを、このダイヤモンド業界でも真剣に考えなくてはいけないのではないかという思いでつけさせていただきました。

現在他業種では店頭でのタブレット導入が進んできており、商品説明、見積もりなどをすべてタブレット上で完結する業種も少なくありません。お客様はそのような環境に慣れており、また普段からパワーポイントなどを使用したプレゼンテーションに慣れています。ダイヤモンドはとても小さい商品ですので、その価値を、また違いを肉眼と言葉だけで理解していただくのには限界があります。

過去の記事でお伝えさせていただいた通り、現在ダイヤモンドのテクノロジーは大きな進化を遂げています。S a r i n e 社に関して言っても、DiaMension によるダイヤモンドの極めて正確なプロポーション測定、Sarine Light による輝きの評価、Sarine Loupeによるダイヤモンドの3D化と様々な革新的技術を作り出してきました。私たちはこの技術、そしてインフォメーションを営業現場で、そして店頭で活用することでアドバンテージを持てるのではないでしょうか。

Sarine社ではiPadを活用した統合ツールの開発を進めています。今後このツールによって上記すべてのテクノロジーを活用した個々のダイヤモンドのインフォメーションをタブレット上でプレゼンテーションすることが可能になります。また、ダイヤモンドそのものの説明、4Cからプロポーション、輝きの仕組みや評価、そのダイヤモンドの見た目までわかりやすく説明することができます。

どのような業種でもこのような接客は今後当たり前になっていくでしょう。どの店でもこのような購買体験を提供している中で、我々の業界だけが旧態然とした販売方法を続けています。
世の中では宝飾業界を不透明な業界と感じている人々が多くいますが、これも我々が商品の価値をしっかり店頭で説明してこなかったことが理由かもしれません。

今後このようなテクノロジーを積極的に活用することによって、スマホ世代がまたダイヤモンドをはじめとした宝飾品に関心を持ち、価値を見出すことになるのではないでしょうか。また、逆に言うと世の中がこのような方向性で動いている以上、消費者目線での販売方法を取り入れないことは大きなデメリットになっていくと考えられます。

次回はいま最も新しいダイヤモンドテクノロジーの情報について説明させていただきます。

Sarine社のテクノロジーは下記URLからご覧いただくことができます。
http://sarin.listedcompany.com/video.html
■連載コラム No4

全てのカット工程がオートメーション化 職人技術はどうなる?

前回までの記事で、ダイヤモンドの流通と販売に関わる技術革新について説明させていただきました。しかし、製造現場(ダイヤモンドのカット工場)では何年も前から技術によるパラダイムシフトが起こっていたことをご存知でしょうか。

『この素晴らしいダイヤモンドは、熟練した職人の手によって丁寧にカットされています。』ダイヤモンドの接客をされた方なら、皆さんこのセリフを何度か言ったことがあるでしょう。しかし、それが本当かどうか疑問に思われたことはありませんか?巷にはトリプルエクセレント・H&Cが溢れているのに、熟練した職人も巷に溢れているのでしょうか。

数年前までであれば、その説明は真実でした。ダイヤモンドを研磨するためには長年の経験とそれによって培われた勘が必要で、職人の熟練度によってダイヤモンドの研磨精度には大きな違いが存在したのです。
現在では、ほとんどの工程がオートメーション化されつつあります。大きな転換点となったのは、原石の内包物を完璧にスキャン可能な「Galaxy」というシステムの登場です。以前であれば原石の内包物を確認するためには『窓』と呼ばれる小さな研磨面を原石につくり、ルーペでそこから覗き込む必要がありました。そして内包物の位置を推定するには長年の経験が必要な職人技術だったのです。
「Galaxy」という革命的なマシンは『窓』を開ける必要もなく、VVSクラスの内包物を完璧に3Dプロットすることを可能にしました。どんなに熟練した職人よりも早く、そして圧倒的に正確です。そのデータを「Advisor」という原石プランニングソフトと組み合わせることで、研磨後の重量、プロポーションはもちろん、クラリティまでも極めて正確にシミュレーションすることができます。内包物の位置により、研磨後にどう反射して見えるかまでも事前に知ることができます。そのデータをレーザーカッター、自動研磨機に転送すればある程度の工程まで機械がダイヤモンドをカットします。あとはシミュレーションに沿って職人が研磨をすればトリプルエクセレントが出来上がります。現在ではこのシステムは世界中の研磨工場に普及しています。近い将来、全ての工程が機械化され、職人技術の入り込む余地はなくなるでしょう。独自性と芸術性により差別化されたカッター以外は、生き残ることができなくなるのではないでしょうか。

実はこの話は製造現場だけに影響を与えるものではありません。

「コンフィギュレーター」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。自動車やパソコンなど、仕様の組み合わせが多い製品で活用されており、PCやタブレット上で顧客の要求に応じて仕様や価格などを瞬時に表示するシステムのことです。自動車であれば、モデルや色、ホイールやオプションパーツまでもが画面上で自由に組み合わせでき、それを3Dで見ることができます。最適な商品をレコメンドしたり顧客からの受注生産に対応したりするなど、顧客との関係性強化に効果的なシステムです。

この「コンフィギュレーター」が上記の「Galaxy」や「Advisor」のようなシステムと連動するとしたらどうでしょう。お客様は画面上で原石を選び、研磨オプションを選択し、出来上がりまで3Dで確認してからオーダーすることが可能になるかもしれません。

現在ではコンフィギュレーターのようなシステムは異業種では当たり前になりつつあります。「スマホ世代」のお客様はスマホやタブレットで当たり前のようにそのようなシステムを使っています。店頭で活用するにしても、ネットでサービス提供するにしても、消費者目線で見ればこれ以上説得力のあるものはないでしょう。今後技術が進むにつれ、導入するかしないかは別としても、このような可能性を視野に入れてビジネスを考えられるかが明暗を分ける時代になるでしょう。それが当たり前の「スマホ世代」がメインターゲットの時代だからです。
次回は具体的なテクノロジーの活用方法について説明させていただきたいと思います。

Sarine社のテクノロジーは下記URLからご覧いただくことができます。
http://sarin.listedcompany.com/video.html
■連載コラム No3

ネット上で消費者がダイヤモンドを見比べる時代

今までのコラムの中で、技術革新に対応していく必要があることを説明してきました。テクノロジーの進化により、世の中のビジネスや流通は大きく変わってきています。これは極めてアナログなダイヤモンド業界も決して例外ではありません。かつて世の中に溢れていた製品やサービスの多くは今ではスマホ「アイコン化」してしまっています。ミュージックプレーヤーやデジカメはスマホに統合され、レンタルビデオは動画配信サービスに取って代わりました。今年の春には米アップル社がApple Watchを発売しますが、人々のデジタルデバイスへの依存は今後ますます高まっていきます。ダイヤモンド業界においても、いかにデジタルデバイスを事業に活用するかが今後の明暗を分けると言えるでしょう。何故なら、消費者はそれが当たり前の『スマホ時代』に生きているからです。

今後、テクノロジーによってダイヤモンド流通はどう変化するでしょうか。ダイヤモンドは実物を見なければ美しさがわからない、写真や画面では詳細がわからない。ダイヤモンドやジュエリーがネットで売れないのはこのような理由からだと思われていました。しかし、それが実現可能だとしたらどうでしょうか?
Sarine Loupe(サリネ・ルーペ)は、コンピュータ上で完全にダイヤモンドそのものを3D化することを可能にしました。ルーペという名前の通り、実物のダイヤモンドをまるでルーペで覗いているかのようにモニター上で自由に検査することができます。ガードルの形状、刻印、内包物の形状や位置までもがはっきりと判別できるのです。実際のルーペに不慣れな方にはモニターの方が見易いはずです。
このシステムの利用により、例えば東京にいながらアントワープをはじめ世界中の業者からダイヤモンドを買付することが可能になります。データはクラウド上に保存されているので、自社の在庫を同時に世界中の人々に見せることも可能です。

また、このシステムをチェーン店の在庫管理に利用するとどうなるでしょうか。店頭では本部や他店のダイヤモンドをお客様に詳細に見せて販売することが可能になり、在庫リスクと販売効率に圧倒的に貢献するでしょう。そして、ダイヤモンドのネット販売に活用することにより、消費者がネット上でダイヤモンドをひとつひとつ見比べることも可能になるのです。

『スマホ世代』の消費者にとってネットで商品の詳細を見られるということはもはや当たり前です。アパレルでも家具でも車でも、ネットで詳細な情報を入手し、興味を持った商品に対して購入アクションを行うというのが現代の一般的な購買行動プロセスです。ダイヤモンドは肉眼での印象が大事だという意見もありますし、それは正しいです。しかし、全ての消費者が肉眼でダイヤモンドを評価することは難しいでしょう。また、感覚的な説明で高価なダイヤモンドを販売している事自体が、消費者からの業界不信を招いている一因でもあります。一方で、テクノロジーによる正確な客観的評価や説明は『スマホ世代』の消費者にとって信頼を得るツールとなります。消費者目線での信頼性の提供は今後必ず求められるでしょう。

前回と今回はダイヤモンドの流通と販売に関わる技術と可能性について説明しましたが、次回は熟練した職人の聖域であった製造現場をテクノロジーがどう変えたのか、それによって今度何が予想されるのかについて書かせていただきます。
■連載コラム No2

ダイヤモンドの価値基準と流通を大きく変える可能性

先月、東京ビッグサイトで開催された「国際宝飾展2015」では、私が代理店を務めるイスラエルの“サリネ社”がブースを構え、今後のダイヤモンドビジネスに関わる最先端技術の一端を紹介させていただきました。その中で大きな関心を集めたのが、ダイヤモンドの輝きを計測する“Sarine-Light”(サリネ・ライト)と、ダイヤモンドそのものをコンピュータ上で3D再現する“Sarine-Loupe”(サリネ・ルーペ)でした。
この新しい二つのシスムは、ダイヤモンドの価値基準と流通を大きく変化させる可能性を持っています。

サリネ・ライトは、ダイヤモンドの美しさ(輝き)をテクノロジーによって評価するというものです。ダイヤモンドの評価基準としては4Cが一般的ですが、4Cは希少性の目安ですから、必ずしも美しさを表しているとは限りません。実際、EXより輝くVGも存在しますし、同じSI1であっても美しさには差があります。サリネ・ライトではダイヤモンドそのものを直接的に計測することで、実際の輝きを評価しています。

ダイヤモンドが好きな方の中には「ダイヤモンドは肉眼で見て美しいものに価値がある」と、テクノロジーでの輝きの評価に懐疑的な方もいるでしょう。理論としては正しいと思いますが、すべてのお客様が正しくダイヤモンドを肉眼で評価できるわけではありません。現実的に難しいのであれば、テクノロジーによって評価を均一化することはダイヤモンド業界の信頼性のために必要ではないでしょうか。

また、この評価によってダイヤモンドの流通と販売方法が変わってくる可能性が大いにあります。D・VS というだけでダイヤモンドが売れる時代は終わり、お客様が輝きを求めてダイヤモンドを選択される時代になるかもしれません。また、輝くダイヤモンドであれば4Cグレードの良し悪しに関わらずお客様に受け入れられ、販売の幅が広がることも想定されます。何れにしても、販売においてユーザー目線での「確かなダイヤモンドの美しさを示す」ということは、今後求められてきます。売り手の目線だけで販売を続けるショップは、情報に敏感なお客様から見放されてしまうかもしれません。

我々ダイヤモンド業界の人間が見て驚くような最先端技術であっても、実は一般消費者から見ると当たり前のことも少なくありません。ダイヤモンド業界という枠を外れた観点から見て、消費者からどう映るかということを考えることも、『スマホ時代』には必要であると考えます。

サリネ・ルーペは更に進んだ技術とクラウドを組み合わせ、ダイヤモンド流通の概念を根底から覆すものになります。次回はテクノロジーによってダイヤモンド流通がどう変化するのかについて書かせていただきます。
■連載コラム No1

『スマホ時代のダイヤモンドビジネス』

新年あけましておめでとうございます。本年が皆様にとって幸せと希望に満ち溢れたものになりますことを、心より祈念しております。

今回より月1回のペースで本紙にコラムを執筆させていただくことになりました。私は10年以上にわたり、イスラエルのダイヤモンド専門ハイテク機材メーカー、サリネ・テクノロジー社日本総代理店マネージャーを務めてまいりました。その間、日本のみならず海外を含めたダイヤモンド業界の変動を、テクノロジーを通して見てまいりました。ダイヤモンドに特化したハイテクノロジーという、ある種特殊な視点からダイヤモンド業界を見てきた、私なりの見解や感じたことなどを『スマホ時代のダイヤモンドビジネス』と位置づけ書かせていただき、多少なりとも皆様の今後の参考になればと願っております。

皆様もご存知の通り、世の中のテクノロジーはこの数年で劇的に変化してきました。今や普通に地球の裏側とノンストレスでテレビ電話ができる時代です。このテクノロジーの波は、古典的でテクノロジーの入り込む隙がないと言われているダイヤモンドビジネスにとっても例外ではありません。情報テクノロジーの発達は必ず我々の業界にも、近い将来大きな波となって押し寄せるでしょう。私は当コラムで、ダイヤモンド業界の未来について書かせていただこうと思っております。業界の展望について2年以内の期間しか考えない方は、この先を読む必要はないかもしれません。しかし、今後3年、5年、10年と継続的にダイヤモンドビジネスに携わろうと思われている方々には、この劇的に変化するビジネスの現場にどのように対応するかのヒントを得ていただける事と確信しております。

さて突然ですが、ダイヤモンド鑑定士はルーペだけでダイヤモンドの鑑定ができると思っておられる方も多いのではないでしょうか。現代の鑑定、特にカットグレードは高度に機械化されており、鑑定士といえどもテクノロジーなしに鑑定をすることは不可能です。逆に言えば、テクノロジーを導入すればカットグレードの鑑定はほぼ可能だということです。
そのハイテク機器の世界トップメーカーが、イスラエルに本社を置くダイヤモンド関連テクノロジーのリーディング企業、サリネ社です。サリネ社はGIA、IGIを始め世界中の主要鑑定機関で正式採用されております。現在ダイヤモンドのカットグレードはプロポーション測定器と呼ばれるマシンを使用しないと鑑定することができず、鑑定士の資格を取得していても、マシンなしにはグレーディングすることはできません。同様に、ダイヤモンドのカット工場も完全なオートメーション化が進んでおり、原石の状態で内包物の大きさ、形状、位置の完全な特定、それを反映させた完全なカットシミュレーション、そしてレーザーカットまで一連の技術を使用して連携させることが可能です。つまり、原石を入手した段階で、研磨後の4Cが極めて正確に予測することができるのです。現在のカット工場ではすでにテクノロジーが必要不可欠となっております。

実はイスラエルはテクノロジー大国として世界トップクラスの技術を誇っています。皆様が日常的に使用しているUSBメモリやファイル圧縮技術などもイスラエルで開発されたものです。テクノロジーの発達はユーザーにとって莫大な恩恵をもたらしますが、同時に既存のビジネスを根底から覆すパワーになることがあります。
数年前、イスラエルではある画期的なスマートフォン用アプリがリリースされ、これによって最も安泰な既得権益産業といわれていたタクシー業界が一瞬にして危機に陥りました。そのアプリとは、スマートフォンのGPS(位置情報)システムを利用し、お客様とドライバーをダイレクトに結びつけるというものです。お客様はアプリを立ち上げ、現在地にタクシーを呼ぶだけで、周囲にいるドライバーがその情報を受信、すぐにタクシーが正確な位置にお客様を迎えに行きます。このシンプルなアプリは、イスラエルのタクシー業界の構図を一変させました。長い間、全ての配車業務はタクシー会社が行っており、利用者はタクシーの必要が生じるとタクシー会社に配車を要請していました。ドライバーはお客様を獲得する為にタクシー会社に有料で登録する必要があり、これが一般的なビジネスモデルとなっていました。タクシー会社は、この世にタクシーとそれを必要とするお客様がいる限り、自分たちのビジネスは未来永劫安泰だと思っていたことでしょう。しかし、この一つのアプリの出現によって、一瞬にしてタクシー会社は最大の危機を迎えたのです。
現在、同様のサービスは世界150都市以上に拡大し、世界中のタクシー業界の脅威となっています。幾つかの国では導入を阻止しようとするタクシー業界の動きもあるようですが、テクノロジーの波をせき止めることは不可能です。であれば、このテクノロジーを自社のビジネスにどのように活用するかを考える事でしかタクシー会社の生き残る道はないでしょう。

昨年9月、香港で開催されたジュエリーフェアで、サリネ社は自社ブースにて最新テクノロジーの発表を行いました。クラウドベースでダイヤモンドの情報を共有し、世界中どこでも売買が可能になるテクノロジーを紹介するブースの横で、インド系の業者が声をあげて口頭でダイヤモンドルースの価格交渉をしている。この、最先端のテクノロジーを活用したビジネスと、極めて対照的な古典的ビジネスの混在を目の当たりにしました。今後この古典的なビジネスがテクノロジーによって大変革を迎える日は遠くないでしょう。

20年前にダイヤモンドがインターネットで売れる時代が来ると信じていた人はほとんどいなかったでしょう。しかし、ダイヤモンドのネット販売は現在では世界中で当たり前になっており、米国大手のB社は年商が500億円に迫ろうとしています。
今後テクノロジーの発達は、よりダイレクトにサプライヤーとユーザーを結びつけることを意味するでしょう。BtoCの既存のビジネス、つまり小売店においても未来永劫同じスタイルが続く保証はどこにもありません。永きに渡って最も古典的なビジネスとして、テクノロジーとは無縁と思われていたダイヤモンド業界にも、いま変革の大きな波が迫ろうとしているのです。
次回は具体的な事例を挙げ、その変貌について書かせていただきます。

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