佐藤英昭の「特許の哲学」

2024/08/30
『特許の哲学』 其の98

外国出願の権利化に要する 費用を補助

特許庁は「外国出願・審査請求・中 間応答支援(海外権利化支援事業)」 について発表した。  

外国出願費用をはじめとする海外での知的財産活動費は高額であり、資力に乏しい中小企業にとっては大きな負 担となっている。  

特許庁では、中小企業の戦略的な 外国出願を促進するため、外国への事業展開等を計画している中小企業等に対して、外国出願にかかる費用の半額を助成している。  

外国での特許、実用新案、意匠または商標の出願・権利化を予定している中小企業、中小スタートアップ企業、小規模企業、大学等に対し、一般社団法人発明推進協会を通じて、海外知財庁における権利化(@出願、A審査請求、B中間応答)に要する費用の1/2を助成する。

一般社団法人発明推進協会のみならず、毎年各都道府県等中小企業支援センター等が窓口となり、全国の中小企業の皆様が支援を受けることができる。詳細な要件・公募期間などは、 各中小企業支援センター等のウェブサイトを参照されたい。(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2024/08/07
『特許の哲学』 其の97

生成AIの特許出願件数  中国が世界の70%を占める

 2022年頃よりChatGPTなどによる「生成AI(人工知能)ブーム」が巻き起こっている。AI技術の進化・発展を経て実用化に至った生成AIは、自然言語などによる指示を通じて多様な形式のアウトプットを出力することを可能とし、様々な産業の業務のあり方を変化させるとともに、我々の日常生活にも影響を与えている。

 特許などを扱う国連の専門機関、世界知的所有権機関(WIPO、本部スイス・ジュネーブ)は、生成AIに関する特許についての報告書を公表した。それによると、2014〜23年の10年間で公開された約54,000件の特許のうち、70%ほどが中国に所在地がある企業などからの出願であった。これは、2位の米国の約6倍に上る件数であり、中国の突出ぶりが明らかになった。

 中国と米国に次ぐ3位は韓国で、出願件数は4,155件。この後、日本とイ ンドがそれぞれ、3,409件と1,350 件で続いた。企業別では、中国の騰訊控股(テンセント)が世界1位となった。

(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2024/05/28
特許の哲学 其の94

特許庁がステータスレポートを公表

 特許庁より、最新の統計情報や知財の動向などをまとめた「ステータスレポート2024」が発行された。

 以下に記載の通り、2023年における特許出願件数は、2022年から約1万件増加し、2019年以来の30万件台となった。
 商標登録出願の件数は、2017年をピークとして減少傾向が続いている。特に、日本の中小企業による商標登録出願の件数が2019年以降減少している。


法域\年
2021年
2022年
2023年
特許
289,200
289,530
300,133
商標
164,537
150,506
146,664
 

また、2023年度の特許に対する一次審査通知期間は平均10.0か月となり、前年度(2022年)の10.1か月より若干早くなったものの、2019年の9.5か月よりは依然遅い結果となった。
 特許の権利化までの期間は14.7ヶ月となり、前年度(2022年)の15.2ヶ月から短縮され、感染症拡前の基準(2019年の14.3ヶ月)に戻りつつある。
2024/04/01
特許の哲学 其の93

商標コンセント制度の導入

商標法では、他人の登録商標又はこれに類似する場合には、商標登録を受けることができない旨が規定されている(商標法第4条第1項第11号)。  

諸外国において、先行登録商標と同 一又は類似する商標であっても、先行登録商標権者の同意(コンセント)があれば後行の商標の併存登録を認める「コンセント制度」が導入されているが、日本においては、単に当事者間で合意がなされただけでは需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれが排除できない等の理由から、導入が見送られてきた。  

しかしながら、中小企業等による知的財産を活用した新規事業でのブランド選択の幅を広げる必要性や、国際的な制度調和の観点から、コンセント制度の導入ニーズが高まっていた。  

そこで、不正競争防止法等の一部を改正する法律により令和6年4月1日にコンセント制度が導入・施行されることとなった。本改正により、先行登録商標権者の承諾を得ており、先行登録商標と出願商標との間で混同を生ずるおそれがないものについては、登録が認められることとなる。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2024/02/26
特許の哲学 其の 88

他人の氏名を含む商標の登録要件が緩和

現在の商標法では、商標登録出願に係る商標の構成中に他人の氏名を含むものは、当該他人の承諾がない限り、商標登録を受けることができない旨を規定している(商標法第4条第1項第8号、以下「同号」という)。

 そのため、出願に係る商標や他人の氏名の知名度等にかかわらず、「他人の氏名」を含む商標は、同姓同名の他人全員の承諾が得られなければ商標登録を受けることができなかった。

 しかしながら、新興のブランドのみならず、広く一般に知られたブランドまで同姓同名の他人が存在すれば一律に出願を拒絶せざるを得ないことから、従来の制度に対して、創業者やデザイナー等の氏名をブランド名に用いることの多いファッション業界を中心に、同号の要件緩和の要望があった。

 2024年4月1日に商標法が改正され、同号における「他人の氏名」に一定の知名度の要件と、出願人側の事情を考慮する要件を課し、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和する。
2024/01/25
特許の哲学 其の87

特許出願非公開制度 2024年5月1日施行

特許制度は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを目的としている。このため、特許権の付与とともに、特許出願された発明を一律に公開することで更なる技術の改良の促進や重複する研究開発の排除等を図っている。

しかしながら、日本の特許制度は、特許出願がされれば「安全保障上拡散すべきでない発明」であっても、1年6か月経過後には出願内容が公開される制度となっている。この点、諸外国の制度ではこのような発明に関する特許出願を非公開とする制度が設けられているのが一般的である。

このため、日本においても一定の場合には出願公開等の手続を留保し、拡散防止措置をとることとする「特許出願非公開制度」が設けられ、2024年5月1日に施行される。

これにより、特許手続を通じた機微な技術の公開や手続留保中の情報流出を防止することが可能になるとともに、これまで安全保障上の観点から特許出願を諦めざるを得なかった発明者に特許法上の権利を受ける途を開くことが期待される。
2023/09/01
特許の哲学 其の86

知財収入に税優遇案

経済産業省は、知的財産から生じる 収入に対し、優遇税率を適用する「イノベーションボックス税制」の導入を目指す。知的財産から生じるライセンス料などの所得を優遇することで、国内での研究開発投資を促す狙いがある。

対象となる所得は、ライセンス料や特許などの知的財産の譲渡、知財を組み込んだ製品の売却益で、条件を満たした所得に優遇税率をかける。 2023年末にかけて対象となる所得の 範囲や税率、分野などを絞り込む。
現在、日本では「研究開発税制」と呼ばれる法人税控除の仕組みがあるが、もともと製造業を想定しており、知財関連の収入には使いづらいとされる。企業が開発を開始した時点での支援であり、実際の成果に結びつくとは言えなかった。

こうした課題を解決するため、開発が実を結んだ後の支援として「イノベーションボックス税制」の導入を推し進める。経団連が2013年から税制改正を要望しているが、開発初期の支援が縮小されるという懸念からこれまで検討が進まなかった。税優遇が導入されれば、企業の競争力が高まることが期待できる。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/06/26
特許の哲学 其の84

AI創作物の知的財産権

 近年、「チャットGPT」に代表されるAI活用が話題だが、AIが生成した創作物に法律の保護(著作権・特許権等)が与えらえるのか否かという点が問題となっている。
 AIには思想や感情がないとの観点からいえば、AI創作物は、現行の著作権法にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」には該当せず「著作物」とはいえない。しかし、政府の「知的財産推進計画2019」では、AI利用者が自分の意図するものが生成されるまで何度も試行錯誤したり、AI創作物に加筆・修正を加えるような創作的寄与をしていれば、著作物性が認められ得るとしている。
 同じく、AI創作物は、現行の特許法にいう「技術的思想の創作」にも該当しないため「発明」に該当せず、特許権は与えられない。特許法上の「発明者」は、自然人に限られるので、願書の発明者の欄に、現行法では、法人名やAIプログラム名を記載した場合には補正指令がなされ、補正されなければ出願が却下される。
 AI技術の急速な進歩に、法の整備が追い付いていない部分もあり、今後の動向を注視したい。(特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/06/01
特許の哲学 其の83

AI創作物の知的財産権

近年、「チャットGPT」に代表されるAI活用が話題だが、AIが生成した創作物に法律の保護(著作権・特許権等)が与えらえるのか否かという点が問題となっている。
 AIには思想や感情がないとの観点からいえば、AI創作物は、現行の著作権法にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」には該当せず 「著作物」とはいえない。しかし、政府の「知的財産推進計画2019」では、AI利用者が自分の意図するものが生成されるまで何度も試行錯誤したり、AI創作物に加筆・修正を加えるような創作的寄与をしていれば、著作物性が認められ得るとしている。
 同じく、AI創作物は、現行の特許法にいう「技術的思想の創作」にも該当しないため「発明」に該当せず、特許権は与えられない。特許法上の「発明者」は、自然人に限られるので、願書の発明者の欄に、現行法では、法人名やAIプログラム名を記載した場合には補正指令がなされ、補正されなければ出願が却下される。
 AI技術の急速な進歩に、法の整備が追い付いていない部分もあり、今後の動向を注視したい。 (特許業務法人共生国際特許事務所所長)
2023/05/01
『特許の哲学』其の82

国際特許出願件数、 中国が4年連続世界1位

世界知的所有権機関(WIPO)は、 特許協力条約(PCT)に基づく2022年の国際特許出願件数を発表した。  
それによると、2022年はPCT国 際特許出願件数が過去最高を更新したと明らかにした。国際特許出願件数 の増加率は+0、3%と微増ながらも、 過去最高の278,100件となった。
国別では、中国の出願件数が70,0 15件となり、初めて7万件を突破し、4年連続で世界1位となった。上位5ヶ国は、前年と変わらず下表の通りとなった。  
企業別では、中国通信機器大手の 華為技術(Huawei)が7,689件と 6年連続で首位の座を守り、中国企業の出願件数増加が目立つ結果となった。
日本企業では三菱電機が2, 320件で4位となり、2014年以降9年連続で上位5位以内を維持している。
2022年 前年比
1位:中国 70,015 (+0.6%)
2位:米国 59,056 (-0.6%)
3位:日本 50,345 (+0.14%)
4位:韓国 22,012 (+6.2%)
5位:ドイツ17,530 (+1.5%)
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